14話
それから体が完全に治るまで、数日を要した。幸いと言うべきか、フォード公爵が気を回してくれたのか、常にメイドたちに世話を焼かれる日々はどこかむず痒くもありながら快適だった。また、その間にウィリアムと話す機会が少ないながらもあって、二人きりというのは無かったが良い感触があった。そして完治と言える段階に来た日、改めて全員で集まってから彼の最終決断を聞く事になった。
「ウム、全員問題なく、集まったの。ルーク君も回復しきった様で何よりじゃ」
「あぁ、お陰でバッチリだぜ!」
頷くフォード公爵に両手の親指を立ててアピールする。実際、彼が助けを出してくれなければ全部上手く行かなかった。彼が雇い主で良かったと心底思う。
「さて、引き延ばす意味も無いしの。ウィリアム、お主はどうする?」
公爵の言葉に全員の視線がウィリアムへと向かう。彼は腕を組み、目を瞑って全員の視線を遮る様にする。しかしそれが逃げたようには見えず、自分と向き合うためのルーティンに見えた。
「・・・一度、見逃そう。吾輩にも確かに疑わしき物が思い当たる。それが分からぬ内に皇女様を連れていく事はしない」
ウィリアムが口にしたのは休戦の申し出だ。まぁ、休戦と呼ぶにはあまりにも彼の損が多いが彼なりに何かあったのだろうとは思う。同時にこの数日の間にミラが彼と良く喋っていたのは知っている。きっと上手くやったのだろうとは思う。
「しかし、吾輩もこのまま国には帰ることは叶わぬ。故に、吾輩も皇女様に同行しよう。それが条件でもある」
「エッ」
彼が続けて口にしたことに驚きの声が漏れる。自分と同様に聞いていなかったのか公爵は眉を上げたに収めたものの、ミラやプロトの顔にも驚きが出ている。
「何か不満でもあるのか?」
ウィリアムが自分の方に向く。そう言われてしまうと難しい、と自分は思ってもしまう。
「いやぁ・・・不満、っていうか・・・着いてこれる、のか?」
「この身は旅程度で揺らぐことはない」
「いや、そうじゃなくてな」
ややズレた事を口にしたウィリアムに頬を掻く。違う、そうじゃない。お前の体が強いのは見ただけで分かるし、そもそも旅が出来ない奴が騎士団など出来る訳がないだろう。
「いや立場とかさぁ・・・」
「問題ない。吾輩は今、全ての地位を剥奪されている。ゆえに今はお前と何ら変わりない」
「え、」
彼が口にした事にまた驚きが漏れる。地位を剥奪されたとはどういうことだろうと思いもするが本人は何一つとして気にしていないように見えた。というかそれはあくまで動きやすくする為の方便、或いは囮とか、そう言う意味があって、言われただけの表向きの奴じゃないのか?お前みたいな力技一本で頂点に登り詰める様な奴を帝国が敵になる可能性を無視して放逐するわけがないだろう。
「ウ、ウィリアム?それって、別の何か意味があるんじゃないの?」
ミラも流石に口を横から出す。そうだよな、まさか本当に剥奪されて投げ出される訳が無いよな、と胸を撫でおろす。
「私は皇后様に身分の全ての剥奪と、公爵以上を中心に皇女様を追え、と言われはしましたがそれだけです。ならば一旦、皇女様に着いて回っても問題はありません」
ウィリアムは堂々と言い切る。それでいいのか?まぁ、間違ってはいないか、と首を捻る。どう考えてもミラを強引にでも連れ戻せ、最悪暴れても帝国は関係ないと言い張るけどね。にしか聞こえないが。絶対にこちらに説得されるような形で着いて回ってみるか、なんて答えを出して良いようには思えない。というかそれなら本当に監視がいても変ではないし、追っ手が厚くなるだけにしか思えなかった。そもそもこんな目立つ奴、連れたくはない。
「で、でもウィリアム?貴方、それだと間違いなく帝国に背いた、と見られると思われるだけだと思うのだけど」
ミラが返事をする。出来れば彼には半分協力者位の立ち位置が望ましい。帝都にいてくれて、何かあれば公爵伝手で良いから情報を流す、とかそう言うのが嬉しいのだ。戦力としても過剰、目立つ上、完全に仲間とは言い難いのを連れ回す勇気はない。
「いえ、問題ありません。何かあっても「騎士団長では無く、ウィリアムとして行動した」と言えば何とでもなります」
彼の堂々とした態度は覆らない。絶対にそれで通らないだろうと叫びたかった。しかし、彼が意見を翻すようには思えなかった。というか何処までも本気だと彼の目が語る。
「皇女様。ご安心ください。如何なる難事も私の武が踏破いたしましょう。私自身、愛する帝国に闇が迫っているのならば、座して待つわけには行きません。そして守るべき相手がその最前線に立つというのなら、尚のこと。真偽と裁きはその後でも遅くありません」
忠に厚いのか、はたまた考えなしか、分からない。分からないが圧が強い事は分かった。
「そ、そう・・・どうしましょう?」
ミラが折れかけている。もう頷かないと勝手に着いてきそうな雰囲気があるのは確かだ。
「フォッフォ・・・まぁまぁ、二人ともそう慌てるでない」
混沌としかけた場にフォード公爵が口を挟む。そうすればウィリアムの放つ圧に折れそうだったミラがハッとしたように首を振って公爵の方を見る。
「ウィリアム、そう性急に迫る物ではないぞ。お主の気持ちは分かるがの。ミラちゃん、確かに、ウィリアムを連れるのはリスクがあるじゃろう。しかしそれ以上にメリットがある。ルーク、お主の考えも分かるが恐らく大丈夫じゃろう」
公爵は全体を見渡しながらそう口にする。意外、というと失礼な感じもするがどうやら公爵はウィリアムを連れ歩く事に賛成の様だった。
「少しばかり最近、忙しかったからの、忘れておるかもしれんが帝国の裏事情が既に吾輩たち王国にバレた、という想定が帝国にはある。事実、王国の領内で軍艦が墜落しておるしの」
そう言われてハッとする。同時にミラが王国に辿り着いた事もあって、何処までかは不明だが、皇女が亡命するほどの何かが仮想敵国にバレたと見ても変ではない。
「あの人形がバレたと見ればどんなアクションを起こすか分からぬ。それに実は墜落した軍艦も既に消えておる」
「それはどういうことですか?」
「そのままの意味じゃよ。我々が最初に見つけた翌日には姿かたちも無かったわい。何とか一体、人形を確保出来ただけでそれ以外はもぬけの空じゃ」
墜落した船はかなり大掛かりで、一晩でどうにかなるものじゃない。なのに消えたとあれば相当の何かがあったはずだ。
「恐らく、最悪の所まで帝国が考えたとすれば、その内に大々的に動く事も考えうる。であれば個人で世界最強とも言えるウィリアムが近くに居るのは悪くない。勿論、最終的に帝国に組みするとしても、何かしらの猶予を渡してくれるじゃろ?」
公爵が意味ありげに目くばせすればウィリアムは深く頷く。
「・・・闇討ちの様なマネはしないと誓いましょう」
「だそうじゃ。なら、この先どうなるか分からぬ情勢ゆえな、ウィリアムが一緒に居たほうが生存率は結果的に上がるじゃろうよ」
公爵はそう言いながらカップを口に運んで話を切る。成程、そう言われれば確かにウィリアムが居た方が心強くも聞こえる。そしてウィリアムは嘘をつく奴には思えない。自分は武人でも何でもないが戦った時の経験を思えば彼がつまらない嘘をつく奴とは思えなかった。なら、最終的に決めるのはミラだと思って彼女の方を見る。
「・・・良いでしょう。ウィリアム、貴方を私は歓迎したいと思います。ただ、貴方自身い誓って貰います。何かあれば、その責は私の物。ルークとプロトは見逃すこと。そして最後まで、貴方の正義と誇りに従うこと。これが飲めるなら、是非」
暫くの沈黙の後、ミラが覚悟を決めたように目を開いてウィリアムを見る。決して誤魔化しの様な物は通じない。そんな色があった。
「構いません。我が力、その全ては帝国と共に」
ウィリアムはミラの言葉に直ぐに立ちあがってから跪き、頭を垂れた。それに対してミラも鷹揚に頷き、彼の後頭部に手を翳す。
「良いでしょう。今日から、貴方は我が剣。期待しています」
「勿体なきお言葉」
それはシンプルながらも儀式めいていて、心の何処か、端の方がざわついた。
「さて、話も纏まったの。それでミラちゃん、何処に向かうかは決めたかの?」
静謐な雰囲気になった空間を戻したのは家主のフォード公爵だった。ミラたちが出す雰囲気につられてしまっていた頭を振って元に戻す。そうだ、自分のやることはこれから。むしろ強力な仲間が増えたことを喜ぶべきだ。
「それが恥ずかしながら、まだ決まってはおらず・・・」
ミラが悩むような表情を浮かべる。その傍ではウィリアムが騎士然としながら控えていた。それを見て、切り替えた心が再びざわつく。
「ウム、ならば吾輩から一つ、提案があるのじゃが、『ムニオ』に行ってみてはどうかの」
「ムニオ、ですか・・・」
公爵は一つの国を口にする。ムニオは小国ながらも存在感のある国だ。その要因は『全ての物の生まれた地』、という通り名に由来する。そしてその名の通りに、あらゆるものを生み出した職人の国でもあった。
「ウム・・・プロト君を作り上げた技術は王国から見ても際立って先を進んでおる。それこそ回収した人形を我が国の技師が見ても、「一割も分からない」と言わせた程じゃ。故にまずはあらゆる技術の発展の国に行くのも良かろうぞ」
「それほど、ですか・・・成程、なら確かにムニオは良いかも、ですね」
公爵の言葉にミラが頷く。確定、という雰囲気ではないが、ほぼ確定と言ってもいい。公爵に言葉に自分は名案と思ったし、ミラもかなりの関心を示した。
「ウム。まぁ、直ぐに決めんでも良い。新たな仲間とよく考えよ」
これも公爵の言うとおりだ。たった一人、されど一人、仲間と呼ぶ程の相手ならその変化は大きい。四人で、ウィリアムは彫像の様に控えているので実質三人で公爵の言葉に顔を見合わせた。
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今年一年ありがとうございました。来年もこの作品の続きをよろしくお願いします。善き年を。




