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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
二章 ~ルークと迫りくる帝国の闇と実直の騎士~

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13話

「んあ?」

パチリ、目が覚める。周囲は薄暗く、ぼやけた視界は罅の入ったガラス窓の様だ。瞼を擦ろうとしたが不自然な程に腕が重く、無理矢理引っ張られているような痛みが体に走っている。

「あ?何なんだよ・・・?」

仕方なしに力強く目を何度も瞬かす。そうしていると次第に意識と視界がハッキリとしだした。

見慣れない天井、肌に擦れる嫌に柔らかな布、そして戦いで傷ついた体の重み。全てが津波の様に情報が叩きつけられる。

「そうだ!ミラ!プロト!」

そうだ、自分はあのウィリアムと戦って、戦いと呼ぶにはあまりにも実力差があったが、戦っていた。しかし最後の辺りの記憶が大分怪しい。兎に角、分かるのは自分が死んでいないという事だけだ。

飛び跳ねるように起き上がろうとして、枕から頭を離した直後、押し返されるようにしてベッドに倒れ込む。まるで背中から根が生えてしまったように、自分の意思に反して体が動かない。

「な、なんだ・・・ていうか、滅茶苦茶痛ってぇ!」

ハッキリとした意識に、体を動かそうとしたからか、首から下、全部が悲鳴を上げている。指の一本も動かしたくはない、それ位痛い。原因はハッキリとしている。ウィリアムにボコボコにされたからだ。

「って、ちげぇ。ミラとプロトはどうなったなんだ!?おーい、誰かいないのか!?」

軋むような痛みを発する喉を無視して大声を出す。すると扉がノックされ、やや戸惑いながらも返事をする。

「失礼します」

入ってきたのは意外な相手、アルノーだ。ということは此処はフォード公爵の屋敷の何処かなのだろうか。直前に居たのが彼の領地だった事を思えば不思議ではないが、それでも自分に対する扱いとしては上等すぎる。しかし、彼の立場は今最も欲しい情報の事を思えば最適だった。

「あんたか。良かった、それで」

「お待ちください。事情は分かりますが、それは皆、揃った後にしましょう。お体の方は如何でしょうか?」

こちらの言葉を遮る様にしてアルノーが口を開き、手で静止してくる。彼に焦った様な、或いは何かが差し迫った様な雰囲気は無く、以前見たまんまの雰囲気がこっちの焦りを咎めているように感じられ、口を噤む。

「か、体か・・・体は・・・最悪、だな。全然動かねぇ」

正直にそう答えればアルノーは少し頷き、指を鳴らす。すると閉じられた扉から、フォード公爵のメイドたちが入ってきた。

「左様ですか。では、少々、お待ちを。今、メイドたちがルーク様用の椅子を用意しております。それと、ルーク様がお聞きになりたいことは、その先でお聞きになれます」

どうやらメイドが持ってきたのは椅子のようで、やや仰々しい見た目をしていた。形を見るにほぼ寝たまま移動できる様に見えた。

「そ、そうか・・・でも、先に聞かせてくれ。ミラとプロトは無事なのか?」

これでミラが既に此処には居なくて、プロトも何かあったとしたら、そう考えるだけで先が暗くなってしまいそうだ。

「ご安心ください。お二人とも、怪我一つなく、この屋敷に居られます。今、別の者が呼びに行っておりますので、この先でお会い出来ますよ」

アルノーの言葉に安堵が湧いて、力が抜ける。今度こそ、首も上げられない。そう思うほどに安心感のある言葉だった。

「良かった・・・でもなんでだ?」

自分の記憶にあるウィリアムの様子では彼が首を縦に振る様には思えなかった。しかしアルノーの言う通りなら、彼はミラを連れて行かなかったと見るべきだ。というより、この先でまた会う可能性も高い。

「ご安心ください。それも全て、お会いして見れば分かるかと」

アルノーが自分の呟きに答える。同時にメイドたちの準備が整ったのか、彼女たちが自分を囲み、特製の椅子、移動式ベッドとでも呼ぶべきそれに乗せた。

「それでは参りましょう」

アルノーのその言葉に頷き、彼の背を追った。


アルノーに連れてこられた部屋は以前とは違う場所だった。入口は広く、周りの雰囲気もどこか厳かに見えた。恐らくは自分が寝たまんまだからだろう事は分かった。

「こちらで皆さまがお待ちです」

アルノーは自分に向けてそう言うとドアをノックし、内に声を掛けてからその扉を開いた。

「「ルーク!」」

部屋の中に入ると直ぐにミラとプロトの声が聞こえ、足音が続く。体が動かないからまだ顔は見えないがそれでも声を聞いて酷く安心した。

「おぉ、無事だった?」

いつも通りに声を掛ければ両サイドから覗き込むようにした二人の顔が見えた。まるで赤子にでも戻った気分だ。

「えぇ、勿論よ。そんな事より、ルークは大丈夫?一応、魔法は掛けたんだけど・・・」

ミラが大きく頷く。よかった、彼女に傷はない。何とか、本当に何とかだが守れたのだと、そう思えた。

「疲れてるだけさ。直ぐに動けるようになるよ。プロトも、大丈夫か?」

「うん、ボクは全然」

プロトも目立った傷はない。これで本当に一安心だった。

「フォッフォ、二人とも、嬉しいのは分るがまずは事の顛末を聞かせてやりなさい。ルーク君も気になるじゃろ?」

フォード公爵の宥める様な声が聞こえる。確かに、自分が意識を失った後、どんな経緯を辿ったのかは非常に気になる所だ。

「あぁ、俺も気になるや。そう言えば・・・アイツはどうしたんだ?」

アイツ、ウィリアムがどうしたか気になる。しかしその答えは直ぐに返ってきた。

「吾輩なら此処にいる」

フォード公爵の声が聞こえてきた方から低い、重みのある声が聞こえて目を瞬かせる。

「え、そこにいるのか?」

ミラが此処にいる以上、帝国に向かっていないのは分かるが本当にこの部屋にいるとは思わなかっただけに驚きが漏れる。そして部屋の中央の方に移動し、ベッドの上半身が持ち上げられてその姿を見て、改めて驚く。

「・・・本当にいるや」

黄金の鬣に見るもの全てを威圧しているのではないかと思うほどの重厚感のある風貌が目の前、フォード公爵の横に腰かけていた。今は大剣も鎧も身に着けていないが、彼の肉体そのものが鎧の様に隆起しているのが服の上からでも良く分かる、というか服を押し上げすぎている。きっと、この家にある服の中に彼に合うものが無かったのだろうと思えた。実際、彼は背が高く、厚みも凄まじい。獣種は大柄な者が多く、彼の種族自体が大きいが、その中でも彼は平均を軽く越えているはずだ。

「当たり前だ。吾輩は約束を違える事はしない。少なくとも、お前は吾輩に示した。ならば話を改めて聞き、判断する」

「ってことは納得できなきゃ、振り出しか?」

「そうなる。吾輩にも立場と役目、というものがある。それを越える物を出され、誇りと持っている物全てを天秤に掛け、判断する。だが全てを武力で解決することはしないと誓おう」

無性に頭を掻きたくなったが体が上手く動かず、首を傾げるに済ます。まぁ、戦ったからって全てをそこで終わらせてはくれないか、と納得出来なくもない。何より、強引に動くことはない、と言ってくれただけマシだ。それにフォード公爵が屋敷に入れた以上、自分には分からない取引か、信頼でもあるのだろうと思考を切った。

「まぁ、いっか。じゃぁ、改めて聞かせてくれよ」


それからミラが代表して自分の意識が無くなった辺りからの説明をしてくれた。端的に言えば、ウィリアムが勝手に納得した、という感じではあるが、努力したかいがあったのも事実だ。

「へぇ・・・ミラもやるじゃないか」

「必死だっただけ。それよりも2人の頑張りでしょ」

ミラを囃すように言えば少しばかり照れくさそうに彼女は顔を背ける。どうやら、ミラが貴族街に入る時に使った、自分の身分を示したペンダント、あれをウィリアムの額に投げてぶつけたらしい。つまり、自分たちの中で唯一、彼に通った攻撃だ。

「えぇ、私も戦いで明確に攻撃を受けたのは久しぶりでした。お見事です」

「もう、ウィリアムまで!」

目を閉じ、腕を組んで座っていたウィリアムがそう言葉を続ける。それに返すミラは随分と彼に対する固さが取れたようにも見えた。


「兎に角、ウィリアム、お前は俺たちの話を改めて聞く、ってことで良いんだな」

「あぁ、お前の覚悟は見た。それに戦ってみて、確かにプロト殿の力も異常なものとして認識した。話を聞くに値する」

「え、ボクはそんな事してない、と思うけど・・・」

プロトが首を傾げる。しかし、以前も思ったが複数の魔法を自在に操ること、その物が異常だ。プロトもそろそろ自分の異常に気が付いた方がいい。

「いや、プロト殿は確かに、吾輩の知っている一般的な人、そして魔法使いとも大きくずれている。加えて、色々と見せてもらった時に感じた違和感は確かである」

ウィリアムがそう言いながらプロトをジッと見た。その眼には何が映っているのかは定かではない。

「まぁまぁ、その辺で良かろう。でだ、ウィリアムよ。改めてこちらが抱えている情報も併せてお主に全て話そう。それで考えが纏まってから最後の判断を聞かせてくれるかの」

「はい、私はそれで構いません」

フォード公爵の言葉にウィリアムが頷き、再びミラと、公爵の口から事の詳細と、自分たちが色々とやっていた間に進んでいた調査の結果が聞かされた。


「こんなところじゃな。実物は後で見せよう」

「・・・やはり、何度聞いても疑わしく聞こえますね。しかし、無視するのも難しい・・・」

全ての話を終えて尚、ウィリアムの反応は芳しくない。実際に襲われた自分達からすれば帝国が何か起そうとしているのは明白、それに王都側も物が手に入ったのなら本腰を入れるのが分かるだけに彼の態度はもどかしくはあるが、自分の生まれで忠誠を誓った相手が大事を起そうとしていると他人に言われても信じがたいのは事実だ。ましてや軍事のトップに居た人間が知らないことを元護衛対象と他国の重鎮が知っている、というのは奇妙に思えるのは仕方がない。

「でも、事実なの。だから私は、お母さまを止めたい。そして、その裏にいるはずの人と会いたいの。お願い、力を貸して、ウィリアム」

渋る様な姿勢を見せるウィリアムにミラが頭を下げる。それに慌てるのはウィリアムだ。

「い、いえ、皇女様が頭を下げられる事では・・・しかし」

「まぁまぁ、ミラちゃん。焦るではないぞ。ウィリアムも今はまだ混乱しておる。なに、もう少し時間がある。それまでに納得させれば良い」

公爵が上手い具合に二人を止める。事実、これでウィリアムが直ぐに頭を縦に振るのは難しいとは自分も思うだけに、調査物、プロトの後継機を見てからでも良いとは自分も思う。

「そうだぜ。せめて実物を見てからでも遅くないぜ。それより、王国は大丈夫なのか?」

そう聞けばフォード公爵は深く頷く。

「うむ、元より上手く行っていた事が確実に進む様になったからの。問題ないわい。後は帝国が実際にどう動くか、だけじゃの。吾輩としては争いなどごめんじゃがの」

そう言って深い溜息を吐く。詳しく話す気は無さそうだが、難しい状況なのは良く分かった。

「そっか、ならさ。まずは解散でも良いんじゃないか。悪いんだけど・・・まだ体が怠くてさ」

そう言って欠伸をする。体はまだ強烈な疲労感を訴えてきている。今も、横になっているのに、話を聞くだけで疲れてしまった。

「あ、そうだよね。ごめんねルーク」

「いや、いいさ。必要なことだったからな」

ミラにそう返してやる。カッコ悪いところは見せたくはないが嘘も力が無ければつけない。だからそう言うので精一杯だった。


良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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