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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
二章 ~ルークと迫りくる帝国の闇と実直の騎士~

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10話

入った部屋はこじんまりとしてはいたがフォード公爵が用意しただけあって、あばら家ではなく、ある程度整った内装になっていた。机がぽつんと置いてあり、それを囲むように人数分の椅子が並んでいる。

「あ、おかえり、ルーク」

一つには既にプロトが腰かけていて手を振ってきた。さっきまでの緊迫した雰囲気とは真逆に、気が抜けるような雰囲気を漂わせていた。

「おう、何とかなったぜ」

用意していたタオルで顔を拭きながら彼の横に倒れ込むように座る。ウィリアムとの追いかけっこはかなりの重労働で、今も全身が熱湯を浴びせられたかのように熱い。

「・・・・」

部屋に入ってから立ち止まっていたウィリアムは、そんな自分たちを見て警戒するような視線を向けていたが気にすることなく力を抜く。どうせ此処で彼が暴れるなら自分達にはどうしようもないのだ、気を張るだけ無駄、弱者の特権だった。

「ウィリアム、貴方も座りなさい」

ミラは自分も座りながらウィリアムにそう声を掛けるが、その言葉にやや躊躇う様な感情を見せる。

「いえ、自分は」

「いいから、座りなさい。此処は帝都でもなければ、城でもありません」

拒否するような言葉を出したウィリアムを遮る様にミラが言葉を発する。自分達だけだと表に出てくることのないミラの皇女らしさが感じられる。

「しかし・・・」

「いいから座りなよ、おっさん。そんな短い話でもないぜ。罠もねぇよ。ま、あってもどうせ勝てないしな」

机の足を自分の足で押しながら椅子を傾ける。そして頭の後ろに手をやって「自分は何もしませんよ」とアピールする。

「・・・・失礼します」

別に自分の言葉に従った訳では無いが、座らなければミラが口を開かない、と判断したのだろうウィリアムが椅子へ静かに腰かける。その際に大剣も降ろして壁へと立てかける。


「まずは、ウィリアム、貴方に謝罪します。建国祭では、貴方に悪い事をしました」

全員が座ったのを見てからミラがそう口にする。それに慌てた様な雰囲気を出したのはウィリアムだ。

「いえ、皇女さまのせいではありません。全ては私の力が及ばなかっただけです。頭を上げてください」

どちらが裏切られたかと言うなら間違いなく、ウィリアムの方だとは思うが、彼にとってミラは天上の相手でもあるからか、頭を下げられる事に忌避感がありありと見えた。しかし騎士団長と言うからには別に咎める言葉があっても良い様に思うが、そんな感じでもないらしい。まぁ、自分たちにとっては都合が良いので口を噤む。

「いえ、事は私がアガパンサス団にフォード公爵を通して誘拐を依頼したのですから、貴方に非はありません。守るべき存在が敵の想定は帝国にありませんし、貴方は自分の仕事きっちり全うしました。故に、重ねて謝罪を」

そう言ってミラは座った儘、頭を下げる。これに困ったのはウィリアムだった。

「いえ・・・しかし・・・と、兎に角、頭を上げてください。私は皇女様に頭を下げられる様な相手ではありません」

「いいえ、貴方が許すと言わない限り私は頭をあげません」

ミラの意思は固い。もはや謝罪の押し売り状態になってしまっている。ミラの皇女っぽさと言うべきか、傅かれて生きてきたからか、自分の意がまず通ると無意識に彼女は思っているのだろう。まぁこれも指摘するほどでもない。むしろこれでウィリアムが下がってくれるなら自分たちにとっては都合がいい。よく状況が分かっていないプロトと一緒に口を噤み続ける。

「・・・わかりました。謝罪を受けます。ですから頭をお上げください。貴方は頭を下げていい人ではありません」

ミラの押しに負けたウィリアムがそう言えばミラは待っていたかのようにスムーズに頭を上げた。これで何故か謝罪をした側であるミラが完全に場の主導権を握ってしまった。というよりもウィリアムがこの手の会話に慣れていない様な雰囲気がした。

「ありがとう、ウィリアム。それじゃ、私が何故、彼らと共に行動しているか話しましょう」

そう言って一度、椅子に座り直したミラが神妙な顔つきで言葉を発すればウィリアムも背を正す。まるで教師と子供のような図だ。何と無く自分もしっかりと椅子に座り直してミラへ顔を向ける。

それからミラは帝国から逃亡した経緯を話し始めた。皇后の企みに、その後ろにいるであろう協力者の影、そしてプロトという存在とその兄弟、および持っている力の危機と実際に襲われた件について、大まかでは有ったがしっかりと理解してもらえるように、端的にウィリアムへ伝えた。その間、ウィリアムはミラをジッと見つめたまま、微動だにすることなく話を聞いていた。どこかで口を挟んだり、何か知っていて動揺したりするかもとも思っていたがそんな姿は一切見せなかった。そしてミラがウィリアムを此処まで連れてきた事まで一気に話し終えると共に、彼は深く息を吐き、腕を組んで疲れたように姿勢を緩める。

「成程・・・皇女様の言いたいことは分かりました。真偽は兎も角、私の目に貴方が嘘をついておられる様にも見えません」

「では」

「しかし、それを只信じる、と言うことも出来かねます」

やや身を乗り出したミラを咎めるようにウィリアムは言葉を続ける。その姿は謝罪するミラに慌てていた様な雰囲気はなく、一人の騎士として、相対されているような出で立ちだ。

「私自身、以前と比べて皇室、特に皇后様の雰囲気がお変りになった様な感覚を受けました。しかし、元より少しばかり感情が高ぶりやすいお方でもありましたし、皇女様の言われるような怪しい人物は見かけておりません。それに魔道部隊、だったでしょうか・・・それについても私の方では一切聞き及んでおりません」

固く、拒絶するような温度を感じさせる声だ。しかしこれが嘘をついて誤魔化そうとしているような雰囲気は感じられない。ただ、真っすぐに知らないから知らない、そんな感情が見える。これでも劇を演じたり、客の顔をよく見てきた経験がある。恐らくウィリアムは嘘をついていない。そう見えたし、そうでないなら最初のミラとのやり取りも随分と堂に入った嘘だ。

「・・・知らない?」

しかし、ミラはそれよりもウィリアムが魔道部隊について知らない、と言い切った方に気が向いたようだった。彼女自身、ウィリアムとの付き合いは長い訳で、自分から見ても嘘をついていないと思えるのだから彼女の中ではより精度の高い判別がついている事だろう。だからか、騎士団長という武のトップが知らないと言った事の方が気になった様だった。

「はい、私はその様な部隊が有ることは勿論、その様な者たちを見かけたこともありません。そこのプロト、と言いましたか。その者にしても只の精霊種の一角なのでは無いのでしょうか」

「うん?見たこともない、のか?」

思わず疑問が口をつく。部隊は百歩譲ってもプロトに似た彼らを一切見たことがない、と言うのは、あまりに奇妙だ。しかしウィリアムは自分の言葉には一切反応してくれない。

「ウィリアム、貴方は一度も帝都で彼の様な存在を見たことが無いのですか?」

「はい。私は見たことがありません」

ミラが自分の言葉をウィリアムへ聞き返してくれるが彼の答えは変わらない。そして嘘をついているようにもやはり見えなかった。

これは逆に困ったぞ、そう思った。少なからず彼が不信感の様なものを皇后に対して持っていて、プロトの兄弟達も見たことがあったなら、いくらでも切り口はありそうだが何も知らない、となると当然証明が求められてしまう。それを自分たちは持っていない。それこそプロトがそうだと言っても、彼自身が他の人々と見分けがつかないだけに説得の材料足りえない。それはフォード公爵であっても同じで、ウィリアムからすれば最大の仮想敵の頂点の一角だ。信じるには時間がいる。となれば一番頼りにするべきはミラの言葉だが、ウィリアム自身、彼女を敬う気持ちはあれど、盲目に信じる様な性格をしているようには思えなかった。


それから、幾度もミラはウィリアムを説得するために言葉を並べ立てたが彼を説得するには至らず、時間だけが過ぎてしまう。こうなれば不利になるのはこちらだ。何か出来ないかと考えてはみるが、ウィリアムはあくまでミラからの言葉しか返事をしない。これも厄介だ。しかし、そんな時、彼もこの状況を打開出来ないと思ったのか、それとも問答に飽いたのか、ここに来て、初めてミラの言葉を遮る様にして口を開いた。

「・・・皇女様、此度の話、私が信じるには幾分難しく思います。故に、一つ、私が今から提案する事に耳を傾けてはくれませんか」

ミラは話を遮ってきた彼に嫌な顔一つすることなく、頷く。ミラもこれ以上、言葉での説得は極めて難しい、そう思ったようだ。

「ありがとうございます。まず、皇女様が何か、私では掴めない情報を掴んで、国を出た、という事は一旦理解しました。しかし、それをそのまま通す事は私にも出来ません。なので明日、私自身と、皇女様の選んだ、そこの少年。勿論、横の魔道兵器だったでしょうか。彼らと戦わせてはくれませんか」

「貴方とルークたちが、ですか?」

「はい。自らの恥を晒す様ですが、私はそこまで頭が良いわけではありません。同僚のブライヤであれば何か上手い落としどころを見つけられたかも知れませんが、私には出来ません。しかし、この身でも誇れる事は一つあります。それが戦いです。私はこれなら何者にも負けぬ、そう言い切って見せましょう。そして、一度でも矛を併せれば、言葉よりも多くのモノを理解できると信じております」

彼が提案したのは理解するための一歩。彼に随分と有利ではあるが、この状況に持ち込んで勝てなかったこちらにとっては吞まざるを得ない提案にも聞こえた。心配になってミラの方を見れば彼女もかなり難しい顔をしている。

「あぁ、安心してください。私も、何も本気で戦うとは言いません。しかし、言葉で理解し合えないものを理解出来るまで待って差し上げる余裕は私にもありません。それこそ、皇女様がおっしゃるよう事が正しいなら、帝国は直ぐにでも戦争を起こすでしょうから。付け加えるなら、この戦いで死者は出さぬと、祖国に誓いましょう」

ウィリアムはミラを見ながら真っすぐにそう言い切った。此処迄言われたなら随分良い条件に見える。それはこちら側が懸念していることも併せて、だ。

「ルーク、プロト・・・」

「あぁ、俺は良いぜ。それにコケにされて黙って居られるほど、大人じゃないんだ」

ミラが最後まで言い切る前にそう言い放つ。

「なぁに頭の固いおっさんと喧嘩しろ、ってだけだろ。良いぜ、やってやるよ。プロト、お前も行けるか?」

「えぇ!?ぼ、ボクも?」

「そりゃ、相手が望んでるからな。ま、俺が前に立つからさ」

プロトは話半分に聞いていた様で驚きを露わにする。しかし、ここでプロトが拒否すればウィリアムは決して納得しないだろうと思えた。それこそ、彼は強引にミラを攫ったって良いのだ。それをしないだけ、間違いなく善人だった。

「それで、どうされますか?」

ウィリアムがミラへ問う。

「・・・いいでしょう。ルークたちもやる気の様ですし・・・しかし、もう一つ要望があります」

「え、ぼ、ボクはなにも・・・」

困惑し続けるプロトを除外するようにミラは話を続ける。実際、ここでプロトには流されて貰わなければ困るので手助けはしない。

「私もその戦いに参加します。覚悟と、言葉以外で語ると言うのなら、発端となった私が外れる訳には行きません」

ミラがそう口にすると、流石にウィリアムも目をやや大きくした。

「いや、皇女様が・・・」

「私も参加します。いいですね?」

「・・・・・・・・はい」

先程でのカッコよさが穴の空いた風船の様にしぼむ。どこにあっても、強い言葉を使う女性に男が勝てないのは一緒なのかもしれない。緊張感ある場にいながら、そう思ってしまった。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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