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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
二章 ~ルークと迫りくる帝国の闇と実直の騎士~

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9話

「お、いたいた。後は、何処から仕掛けるかだなぁ・・・」

王都の街並みを見ながらぼやく様に口を開く。胸の奥はザワザワと風に揺られる林よりも浮きたってはいたが、のぼせる様な高揚感が頭の中を占め、リズムに乗る様に体が揺れていた。

「流石に此処からなら気が付かねぇだろ・・・てか、本当に良く見えるなぁ」

手に持つのは一本の筒、公爵が貸してくれた望遠鏡だ。使うのは初めてだが覗くだけで遠くが見えるのは凄いもんだと感心してしまう。そして望遠鏡の先は目的の相手、ウィリアムだ。

「てか、また大通りにいるのか。・・・いや、それ以外は難しいか?」

公爵の密偵が教えてくれた情報を基に彼の姿を探していたが、彼の目立つ風貌と併せ、彼のいる通りさえ分かってしまえば見つけるのは酷く簡単だった。

ウィリアムはキョロキョロと、本人的には不自然の無い程度に顔を動かしているのだろうが、平均よりも遥かに大きな体格がそれを許さない。明らかに悪目立ちをしている。しかし、本人は注目される事に慣れ切っているのもあるせいか、その事に気が付いて無さそうだ。そりゃ、この王都で、公爵の手下とはいえ直ぐに密偵に見つかる訳だと呆れてしまう。

「ん・・・このまま真っすぐこっちに来てくれそうだな。なら、後は・・・うん、あの辺りだな」

ウィリアムは大通りを真っすぐに進んでいた。特に路地の方に向かう素振りもなく、人波を注意深く見つめている様だ。きっと初めて自分と遭遇した時と似たような構図を期待しているに違いない。それに王都で市民が買い物をするなら大通りの市場がベストだ。となれば危険を冒してでも、目標が来る事に掛けるのはそんなに悪くない。

「そんじゃ、ま・・・始めるか」

望遠鏡をしまう。それから軽く足の筋を伸ばすようにしてストレッチを始める。これから人生史上一番の逃げ足を出さなければならないのだ。準備はいくらでもしたい所、頭の中で逃走経路を整理しながらウィリアムがいるだろう人波を見つめた。



「む・・・」

ウィリアムは今日も今日とて、馬鹿の一つ覚えのように王都の街並みを歩いていた。とはいえ、それには彼なりの理由があった。王都を散策するにも彼には伝手が無い。これが帝国の使者として正式に来たのならばいくらでも有っただろうが、今回は身分が剥奪されていることもあってその手は取れなかった。その中で王都の路地をグルグルと回るのは難しく、最悪憲兵を呼ばれる様な事になれば、普段と違って自分を助けてくれる相手はいない。それ故に誰もが使うだろう一番の市場を毎日歩いているのだ。ここ以外にも買い物をする場所は有るだろうが、大半の商人だって一番人が来るところで商売がしたいと思うだけに、この大通りが一番栄えているし、便利だ。大量に買い入れる事も出来るし、周囲には貸倉庫だって有るのだ。商人にとっても、買い手にとっても此処で生活の基盤を整えざるを得ない。そして彼の追っている相手はそこそこの規模だった事も記憶にあり、人を替えて買い物に来る可能性に掛けたのである。勿論、ウィリアムはアガパンサス団、全員の顔を覚えている。それ故に見つければ逃がさんと内心息まいてもいた。ルークを見つけた時も一瞬で頭の中で合致した。そして後から知った演目の内容から彼の速度や身軽さを推測し、彼を基準点にアガパンサス団員の逃走能力を測り終えていた。結果、タイミング次第だが次は見つけたら逃さない、という自信が有った。

そんな折、念願というにはあまりに早すぎるが、再びあの時の少年、ルークを目の端で捉えた。

ウィリアムから見てルークはまだ、こちらに気が付いていないように見え、無防備にも背中を向けていた。此処で焦れば先日の巻き直しになってしまう。ウィリアムは息をひそめながら焦る気持ちを抑えつつ、早足に人波を掻き分ける。流石に無辜の民を傷付ける事は彼のポリシーに反していた。

そして人ごみの中から、ルークが逃げたとしても追いつけそうな位置にまで来た瞬間、目標だったルークがウィリアムの方に振り返る。勿論、それと同時に足に力を入れ、いつでも駆けだせるようにはしていたが、そんなウィリアムを揶揄うように、ルークは不敵な笑みを浮かべながら真っすぐにウィリアムを見ていた。

(謀られたか!?)

表に驚愕は出さない。しかし明らかな狙いが無ければこのタイミングで振り返る等出来ない。間違いなく、ウィリアムを先に認識してから、やってきたのだと分かる。

(いや、関係ない。罠は砕き、捕まえるのみ)

本当に小さく、首を振って、ルークの方へと目を固定する。全身に力と熱が籠る。ウィリアムは自分の力に自信があった。それは帝都で指示を出していた時とは違い、自らの足で動けるという状況もあった。ウィリアムは戦事で自身が戦場に身を置いている状況で負けたことはない。それは片翼のブライヤが相手の演習でも変わらない。ウィリアムが先頭に立つのなら、負けは一度だって無かった。それが貴族側、持って生まれた側のプライドを酷く傷つけていたのだが、それは彼の知るところではなかった。幸い、ブライヤが気にしなかった事も有ったが、それが今回の出来事を引き起こした要因の一つでもある。


両者が目を併せた後、先に視線を切ったのはルークだった。それは当然の事で、彼の目的は逃亡から、ウィリアムを人目のつかない場所にまで連れていき、何とかミラと会話させる事だ。不安の残るメニューだが熟して見せる必要があった。

ルークが背を向け、横路地に逃げるのを見て、ウィリアムは少しだけ大胆に加速する。まだ僅かに人ごみの中だ。此処で走り出せば間違いなく周囲の民を彼の巨体で転がしてしまう。だから僅かに出足が遅れる。尤も彼の身体スペックからそれはハンデとは言えなかった。

巨体に見合わぬ、蛇のようなしなやかさでウィリアムは人ごみをすり抜ける。彼にとって王都最大市場の人波は、戦場の混乱した状況で駆け抜けるよりも遥かに容易い事だった。自分を殺そうと狙ってくる相手もいない状況、それも一般市民は自然とウィリアムの様な人間はやや避けて通る。故にルークの予想よりも早く、ウィリアムはルークが入った横路地へその身を滑らせる。

「ゲッ!?」

いくらか離れた先、曲がり角にようやくといった場所でルークはもうやってきたウィリアムに声を漏らす。これなら妨害用にゴミ箱の様なものを用意しておくべきだったと思った。しかし賽は投げられた後、頭の中で彼の情報を今一度調整して足を速める。少しでも足を緩めれば一息に捕まる、その確信が強まる。此処が街中で良かったと心底感謝する以外なかった。

始まった追いかけっこは当初の予定と違い、ウィリアムが優勢で始まった。彼は慣れない場所に不利な状況であっても、持ち合わせたポテンシャルでどんどんルークとの距離を縮める。それに焦ったのは当然ルークで、仕方なしに逃げ方を替える。


「ムッ」

ウィリアムはずっと前へと向けていた視線を上へと向ける。理由は単純、追っていたルークが家同士の間が狭いのを利用してどんどん上へと登っていったからだ。帝国の広場で派手に動いたと聞いていた通りに、まるで羽でも生えていたかのようにルークは壁を伝って登り切り、屋根の向こうに消えてしまった。そこで一瞬、ウィリアムの思考に迷いがでた。

「流石に、崩れてしまうか・・・」

王都の庶民の家、それもやや平均以下だろう家の壁を触りながら呟く。追っていたルーク位に軽い体ならば兎も角、自身の巨体では思いっきり踏み込もうものなら天井が抜けてしまいかねない。そうなれば流石に騒ぎが大きくなってしまう。流石にこれが狙いとは思えないが、いずれにせよ、騒ぎが大きくなるのは望まなかった。

「仕方あるまい」

一つ呟き、即座にルークが向かっただろう方向へと走る。幸い、家の高さはあまりなく、比較的綺麗に建物が並んでいることもあって目的のルークを見失ってはいない。結局、相手もどこかで降りなければならず。離される事が無ければそれでいいとウィリアムは判断した。


「上手く着いて来てくれてるな」

後ろを振り返り、独り言を零す。後ろ斜め下ではウィリアムが仇を見る様な目つきで自身を追って来ていた。まぁ、彼の立場を思えば仇でも間違いはない。

「いや、でも速いなぁ・・・本当に王都で良かった」

自身の身軽さには結構な自信があったがウィリアムを見ていると自分が井の中にいたのだと思わされる。ミラたちから聞いた彼の性格とポテンシャルを思えばかなり制限を掛けている筈なのに、一切振り切れるようには思えない。自分は既に額に汗をかいているし、息も少し上がっているのに、彼にそんな様子は微塵もない。何なら同じ場所から走り出せばあっという間に置いて行かれてしまう確信があった。

「ま、でも今は俺が勝たせて貰うぜ」

そう呟きながらあらかじめ、置いておいた障害物を彼の通る道へ蹴りだす。これは念の為で置いていたがそれが功を成した。


そうして二人は王都の人通りの多い道からどんどんと端の方へと駆けていく。互いに上手く誘い込めた、乗ってやった、と思ってこそはいたがこの先にはミラが待っており、フォード公爵の配下もひっそりと隠れているためにややルークが有利とも言えた。勿論、全てはウィリアムの善性を前提にしているために有利とも呼べぬ薄氷ではあった。そして、遂にルークはミラが待っている小屋、と言うには少し大きな建物へ、転がり込むようにして逃げ込み、それをウィリアムが突貫としか言いようのない勢いでもって追った。

「ふむ、制限したとはいえ、吾輩からここまで逃げたのはお前が始めてだ。誇るといい」

部屋に入ったウィリアムは背から大剣を引き抜き、地面で伏せながら荒く息を吐くルークへと向けた。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・ハハハ、そりゃどうも。でも俺の勝ちだぜ、おっさん」

ルークは笑う。しかしどう見ても虚勢、そうとしか思えぬ有様に頷く。目を細める。

「フム・・・まぁ、お前には聞きたいことがある。だが、その前に一度、その口を閉じさせねばならぬらしい」

そう言うとウィリアムは武器を片手で持ち、警戒を露わにしたままルークを捕まえるべく近付いていく。その瞬間だった。

「待ちなさい、ウィリアム」

その声は彼にとって酷く聞きなれた声だった。だからこそ、金縛りになったかのようにビタリと、その巨体が止まり、鬣が揺れる。

「彼には私がお願いをしたのです」

そう言いながらミラが奥の部屋から出てきて、嫌に役ががかった雰囲気でルークの前に庇うようにして立った。

「まずはごめんなさい。でもどうか、私の話を聞いてほしい、誇り高きウィリアム」

出てきたのは当然、ミラだ。フードの類は一切しておらず、その七色の美しい髪を棚引かせていた。

「姫様・・・」

ウィリアムは呆気に取られたように立ち尽くす。彼にとって此処でミラと会うのは予想外だった様で、戦意を驚愕が上回った。

「はい、ミラです。それでどうしますか?」

ミラはそんな彼を気にする様な雰囲気は少しも見せず、只問いかける。そうすれば流石にウィリアムも我に返った様に頭を振り、深呼吸を挟んでから再び口を開く。

「・・・何が、なんだか私には分かりませんが、貴方がそれを望むのであれば、話を聞きたいと、思います」

ウィリアムはその巨体は慣れたように扱い、ミラに対して跪くとそう言った。どうやら賭けには勝った様だとルークは溜息を吐いた。

「ありがとう、忠実なるウィリアム。さ、こちらへ。ルーク、動ける?」

ミラの声に軽く手を振って答える。それをウィリアムはジッと、その場で跪きながら聞き流す。本来なら声を荒げる場面だが、それは得策ではないと、判断したようだった。そうしてミラに引き連れられたままルークとウィリアムは並んで奥の部屋へと入っていった。

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