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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
二章 ~ルークと迫りくる帝国の闇と実直の騎士~

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7話

王都の路地裏を全速力、プロトがギリギリ着いてこられる速度で逃げていく。真っすぐでは流石に離れてしまう、だから兎に角たくさん曲がりながら自分達とは反対の方に痕跡を残す。

王都の裏路地は雑多としていて、ここを住処にする者たちは自分たちを厄介を運んできたと見てか、端に寄ってジッと、嵐が過ぎ去るのを待つように身を寄せていた。お陰で走るのに負担はない。最悪だったのは妨害されることだけだ。それにゴミを散らしても彼らは何も反応しない。そのお陰で囮は十分、後はあのガタイでは抜けにくい場所を選ぶだけだ。

「わ、わ、あわわわわ」

少しだけ強引に引っ張ってしまっているせいかプロトの口からは慌てたような声が断続的に漏れている。それでも必死に足を動かしてくれているお陰で何とか逃げが成立していた。


「よし、ここだ。ちょっと待っててくれ」

プロトの手を離し、息を整えながら懐を探る。そして一本の棒を出してから下の石畳を叩きながら探る。

「何をしてるの?」

慌ててはいたが自分の様に息を一つも乱してはいないプロトが覗き込んで来る。今になって思えば確かに不自然な事だったが彼の正体に推測がついてからは納得もあった。彼はそもそも呼吸はしていない。

「確か、この辺にだなぁ・・・お、あった」

一際軽い音、慎重に捲れば近くにあった箱から何かが外れたような音がする。

「よし、秘密通路、ってな」

そう言いながらゴミ箱にも見える長方形の箱の蓋を外す。

「よっと」

ゴミ箱には見えるが中にゴミはない。そもそもスラムのような此処できちんとゴミ箱に捨てる人間などいない。それに彼らにとってはゴミは宝の山でもある。必然的にスラムにあるにしては綺麗なまま残っていた。

「これで・・・よしよし開いた。来いよプロト」

箱の底の取っ手を引っ張れば地下への道が現れる。これは王都の地下に張り巡らされた秘密通路であり、ボスから教えられたものだ。今にして思えばフォード公爵からボスが教えられていたのだと理解できる。恐らく国防の要でもあるはずだが、そこは信頼の証とでも言うべきだろう。

箱の中は梯子が暗い闇の中へと伸びており、錆の匂いと地下特有の湿った匂いが充満しているのか鼻をつく。正直自分も使うのは初めてで不安があるがそれでもウィリアムと相対することを思えば我慢できる。


暫く、鉄を踏む甲高い音を聞きながら目の前の闇を見ていると空気の流れが変わったのか、頬に当たる風の向きが吹き上げるようなものから横に変わる。

「プロト、多分そろそろ地面だ。気をつけろよ」

「う、うん」

どうしても蓋を閉める必要があっただけに彼を先に行かせる事になってしまった。とはいえ危険は無いはずだ。必要なのは慎重さだけで、後は彼が地面に驚いてこけないことを祈るばかり、そう思った直後、プロトの驚く様な声と共に地面に何かが倒れ込むような音が響く。予感が的中してしまったようだ。

「おいおい大丈夫か?ちょっと待ってろ」

懐から一つ、結晶を出してから指で握りこむ。すると徐々に罅が入っていき、蜘蛛の巣のような罅が全体に入ると同時に火が着いたように輝いた。

「うぅ・・なんとか」

立ち上がったプロトがずれた帽子を直し、服を叩く。動きに淀みはなく、こけただけで済んだようだ。

「大丈夫なら急ぐぜ。こいつもあんまり保たないんだ」

そう言いながら光結晶を掲げる。持っているのは小さな木のみ程度の大きさで握りこめば完全に隠れてしまう。これより大きな物は街灯にも使われていて、入れた罅は陽と魔力を流し込むことで消える。但し永久には使えず、いくら陽に当てても罅が戻らないならそれは寿命だ。

「あ、うん。でも此処は・・・?」

プロトが顔をキョロキョロと観察するように動かす。と言っても光結晶の範囲は左程広くなく、直ぐに闇で遠くまでは見えない。

「此処は俺たちもあんまり使わないけど秘密通路さ。全員がいくつかの別々の道を覚えてる。だから此処からアジトまでの道は俺しか知らない。まぁ、きっとフォード公爵が俺たちのボスに教えたんだろうな。さ、本当に急ごう。流石に真っ暗じゃ、俺もどうしようもないからな」

そして頭の中にある地図を思い返しながらアジト近くの出口を目指す。通路は広くは無く、二人が横に並べば道を塞いでしまう程だ。しかし道自体は綺麗に整えられ、壁もしっかりと埋め込まれた石が通路の崩壊を支えていた。きっとこの王都が出来た頃には、この通路の構図があったのだろうと想像がつく。後から地下を掘り進めるのは危険だし、船のコアである魔水晶を掘り出す技術を応用しながら作った事は想像に容易い。後は自分が道を間違いさえしなければ問題は無いだろう。闇の中には二人分の足音だけが、淡々と響いていた。




「何処に行った・・・?」

場所は移り、王都のスラム、ルークたちが入っていった横路地の浅瀬でウィリアムは足を止めて周囲を見渡していた。彼は、ルークが目が合ったと確信したように見つけた、と確信していた。ウィリアムは上に立ち、見えない物を想像しながら指示は出せずとも、現場で、己の目で物を見て、行動するのは誰よりも得意であった。その優れた身体能力は遠くから一度しか見ていないにも関わらず、帝都でショーをしていたアガパンサス団全員の顔を覚えているのは彼にとって当然の事だった。そして皇后に追放されるようにして出てきた先で遂に見つけた手がかりを必死に追うのもまた必然だったが、ルークも直ぐに行動したことと、馴染みの街だっただけに上手く逃げおおせたのだった。

(周囲はスラムの者のみ、か・・・流石に吾輩の言葉に耳は貸さぬだろうな)

目に映るのはウィリアムに怯える裏の者たちの姿だ。嵐が過ぎ去るのを待つようにして身を寄せ合い、ウィリアムを拒絶するような目で見ていた。これが帝都であれば多少強引な手を使ったり、他の部署にはなるがこの手の専門部隊に口を聞いて貰えば良いが此処は王都、強引な手も援助も期待は出来ない。それにスラムの人間は外から来る者に一等冷たい。ウィリアムに襲い掛かって来ないのはウィリアムが明らかな強者だからだ。彼らは身を守るために強い者には一切関与しようとはしない。手助けしても、敵対しても全てが相手の機嫌次第で命を散らすことになるのをよく知っているからだ。強者の敵は強者、仲間もまた強者、というわけだった。

「仕方あるまい・・・」

溜息を一つ吐き、表の方へ足を向ける。此処に来るまでにも多少なりとも時間を使ってしまったし、ルークが仕掛けた小細工がこの先にもあることは想像に容易かった。せめて大通りで遭遇したのでなければ追いつけただろうが、流石のウィリアムでも、いやウィリアムの様な騎士だからこそ、無辜の民を、それも他国の者を傷つける様な事は容易でなかった。ウィリアムもまた、平民の出であるからこそ、上から理不尽に傷つけられる怖さと悔しさをよく知っていた。

こうしてルークとウィリアムの第一回目の遭遇はルークに軍配が上がった。しかし後日に第二回目があることをまだ、両者は知らなかった。



「ふぅ、何とか帰って来られたな」

アジトに戻り、安堵の息と共に歓喜を口にする。思わなかった遭遇は疲労感で以て事の重さを伝えてきていた。

「う、うん。なんとか、だね」

ホッとした気持ちは一緒なのか、プロトも胸に手を当てながら溜息をするような挙動をした。彼が呼吸していないのは分かっていても挙動があまりに人間臭く、それっぽい。勿論そんな事は口にはしないが。

「あぁ、でも結局まともに買い物が出来なかったなぁ・・・いや、あれと追いかけっこなんてもうしたくないぞ」

思い出すだけでも彼のあの、鋭い眼光に身震いが起こる。流石は、というべきか、彼は思ったよりも優秀な相手だった。きっとあそこの人通りが少なければ捕まっていただろうという確信があった。

「どうするの?」

「あぁ・・・そうだなぁ・・・悪いけど次は俺だけで行くよ」

プロトも連れ出してやりたいがそれで捕まっては元も子もない。次もまた有利な場所で逃げられるとは決まっていない。なら自分だけの方が良い。

「そっか、でも捕まっちゃったら困るもんね。うん、ボクはまたで良いからさ。ミラからの伝言があるまでは静かにしてるよ」

「ありがとうな、プロト」

プロトは気落ちしたような様子は一切見せず、そう言ってくれる。やはり良い奴だ。

「ま、今日の分は問題ないからよ、もう休もうぜ」

「うん、そうだね」



「うむ、上手くいったのミラちゃん」

「はい、国王様に耳を傾けていただけて、良かったです。これで少しは目標に近付けました」

品の良い王城の一室でフォード公爵とミラが腰を落ち着けていた。彼らはつい先ほど、非公式の形ではあったが国王と宰相という国の2トップと対談する事が出来た。そしてまだ確証は無いながらも、ミラの立場から嘘では無いだろうという場所にまではこぎつけた。後は墜落した帝国の飛行船の調査や、既に運び込まれているだろう場所を手当たり次第に探して、確たる物をどんどん見つけてもらい、真実である事と、協力を正式に得るだけだった。

「なに、国王様も直ぐに調査を行ってくれると言っておった。これならば直ぐに協力を取り付けられる筈じゃ」

「はい。しかし、帝国は私が言うのも変かもしれませんが強大です。アスケラ王国を貶す訳ではありませんが、もっと他国の協力を得る必要があります」

ミラがそう言えばフォード公爵も然りとばかりに頷く。

「うむ。歯がゆいが、帝国と我が国が只、ぶつかっただけでは対して持たぬじゃろう・・・こちらもこれからどんどん手を回さねばな・・・そうじゃ、ミラちゃんはこの後、どう行動するかの?」

フォード公爵の言葉にミラは顎に手をやりながら考え込むようにして下を見る。今の彼女にはいくつかの選択肢があった。このまま王都のフォード公爵の下で帝国に相対する御旗として活動する、というのが一つ、もう一つは直々に他国を巡って協力を取り付けに行く、いわば外交官の様な役目を果たすことだ。それ以外にも王都から帝国も目を外すために囮として逃げ回ることも十分に視野だ。

「吾輩としては王都にいてくれるのが一番じゃがのう・・・そっちのほうが決戦の後、ミラちゃんを帝位に付けるのも簡単じゃからの」

フォード公爵の言うことは間違いではない。むしろ王道だろう。市民受けだって良い。極悪な皇后の企みを防いだ勇敢なる皇女。悪くない響きと言えた。しかしミラの心には既に決めたことがあった。

「私は・・・この騒動の裏、隠れて何か大きな事を起こそうとしている者を探そうと思います」

「それは・・・」

ミラが口にしたのは一番難しい選択肢だった。成程、此処に至るまでの過程で帝国を裏から支援する何者かがいるのは間違いのない事だ。そしてこれを表から捕まえるというのは極めて難しい。なぜならば戦いになるなら表で一番目立つものが大将になるからだ。そして裏付けが取れる頃には暗躍者は消えてしまう事だって珍しくはない。だからこそミラの考えは分かるがその難しさにフォード公爵は口を詰まらせた。

「フォード公爵、私は何も狂ったのではありません。しかし、帝国という世界でも最も強大な国であっても、裏から操れる人物というのは決して見過ごすことは出来ない、そう思うのです。もし、これを逃すことが有れば次はこのアスケラかもしれません。どのような形であれ、戦いの後、世は乱れます。これを暗躍者が見逃すとは到底思えないのです」

「ううむ・・・」

ミラの言葉に公爵も静かにうなる。公爵からすれば彼女の言わんとすることは良く分かる。しかしそれにミラを直接関わらせる事に懸念があった。当然だろう、ミラが捕まったり、死んでしまえば最初の決起の部分で遅れが出かねない。帝国の皇女が直接助けを求めている、という事実は人を集めるにはもってこいの理由だ。しかし公爵から見て、今のミラが言葉で引くようにも見えなかった。

「お願いします。私も・・・何かしたいのです。誰かに言われるまま、旗になるのでは無く、自分の足で立ち、祖国を救いたいのです」

そう言いながら頭を下げるミラにこれは梃でも動かんかと公爵は溜息を着くしかなかった。

「分かった、ミラちゃんの意思はこのフォードが聞き入れた。何とかしてみよう。じゃがその前にしっかりと準備だけはさせてもらうぞ。それと、あのルークといったか、あの子にも手伝わせよう。アガパンサス団なら吾輩の部下も同然じゃからな」

「公爵!」

公爵の言葉にミラは笑顔で顔をあげた。こうしてこの日、公爵の部下がひっそりとルークがいるアジトへ伝言を伝えに行くことになった。

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