5話
「ふぅむ・・・やっぱり厄介な事に成っとるようじゃの。そのαとかいう奴が複数いるようなら王国も信じられん打撃を受ける。いや、相手が民の事を考えないなら滅亡まっしぐらじゃ。そもそも空を飛べて中級以上の魔法を何度も放てる魔法使いだけの部隊など、どの国も持っては居らん」
話を聞いたフォード公爵は腕を組み、眉を顰めながらうなる。体の端から湯気の様に蠢く煙も不安げに揺れて彼の心情を表している様だった。
「そうなの。だから何とか母様を止めたくて・・・私は世界が火に包まれるのは見たくはないの」
ミラが悲痛な表情を浮かべる。正直言えば危機は感じるがあまりにもスケールが大きく、頭の中で想像しきれてはいない。それでも自分にも決して無関係ではない話だ。どうにかならないかとフォード公爵へと目を向ける。
「うむ、勿論吾輩も協力は惜しまんよ。ミラちゃんが手紙を送ってくれた時からそれは決めておった。国王様も必ず耳を傾けてくれるじゃろう。あのお方もお優しく、賢いお方じゃ。それにミラちゃんの母はもともとこの国の出じゃ。ならこの国も最初から無関係ではない。それに聞く限り、アスケラの生まれだからと言って矛を向けないとは思えぬ。その飛空艇に乗せていた物がそれの証拠じゃろう」
「あぁ、あれか・・・ま、どっかに隠してるんだろうなぁ」
船の中に積み込まれていた人形たちを思い返す。あれらがどの程度戦力を持ち合わせているかは分からないが、それでも間違いなく他国を侵略するための用意であったことは想像に容易い。場所を取らず、必要になったら直ぐに起動できるのであれば、正面から吹っ掛けた後でも前でも完全な奇襲として使えてしまう。それも何国も同時に侵略出来てしまう。それで頭を殺されようものなら小国はこれだけで終わりだ。
「うむ。それも探させなければな・・・かと言って大々的には難しい。帝国にバレれば直ぐに攻めて来るやもしれん。いや、もう来ても可笑しくない、か」
「そんな・・」
ミラが一瞬、公爵の言葉を否定しようとしたが口を噤んでしまう。自分が聞いた事がある皇后の性格を思えばありえそうなのも事実だ。それを思えば時間が明らかに足りない。
「まぁ、安心するがいい。そこを何とかするのが立場有る者の仕事じゃ。ミラちゃんたちがこの情報を此処に持ってきてくれたお陰で最悪は避けられたんじゃ。それだけで仕事としては十分じゃよ。さて、次はプロト、キミに聞きたい事があるんじゃがいいかの?」
「ボ、ボク?」
突然話を向けられてプロトがワタワタとする。しかしフォード公爵はそれを見て微笑むだけだ。
「うむ、お前さんには色々聞きたい事があるんじゃ。勿論、答えにくい事もあるじゃろうが出来れば素直に口にしてくれると嬉しい」
「ボ、ボクで答えられる事ならなんでも、どうぞ」
プロトの言葉を聞いてフォード公爵は深く頷き、一度紅茶を口に含んでから再び口を開く。
それからフォード公爵が聞き出そうとしたのはプロトの生態とでも呼べる事柄だった。確かにプロトはαの言葉が正しければ彼らの前身とも言える存在だ。であればアップデートはされているだろうが似通った場所だって多いだろう。そこから紐解いていけば帝国の魔道人形に対しても対策が出来る。そして分かった事は自分が既に知っていた事を基盤に、戦争で上の人間が今までよりも圧倒的に楽に、それでいて効率的に相手を攻め立てるための機能が山の様に組みこまれている、という事実と予測だった。
「ふぅむ・・・やはり厄介じゃのう・・・」
普通の物より重い溜め息をフォード公爵が吐く。それも無理は無いだろう。プロトでさえ、食事がいらず、水も必要としない。そして多数の属性、プロトは下級ではあるが火に水、雷に土を扱うことがでる。それも同レベル体での基準点を上回ったレベルで、だ。更に定期的な睡眠さえ取れれば活動に支障が無いのはあまりにも管理しやすい。病気の心配と兵站がごっそりと無視できるのだ、これは戦争が変わるという言葉ですら足りない。まさに革命だった。そんな知識がない自分でもプロトを兵器に置き換えるならこの程度簡単に想像できるのだから、フォード公爵のように学がある人が想像する帝国の魔道部隊はそれは恐ろしい物に見えるだろう。
「あ、あの・・・」
沈黙してしまった公爵にプロトが何処か落ち込んだような雰囲気を纏ったまま声をかけようとする。
「ん?・・・あぁ、お前さんに何かしようと思わぬよ。ミラちゃんのお友達に無体な事をするほど落ちぶれてはおらぬし、王国も弱くはない。希望は絶望の中にある。案ずるでない」
そう言うと組んでいた腕を解き、カップに残った紅茶を飲み干して、公爵はミラの方へ顔を向ける。
「さて、ミラちゃんよ。吾輩は今の話を一刻も早く国王様に伝えねばならぬ。そこで悪いんじゃがミラちゃんも一緒に来てくれるかの?その方が事態をより重く受け止めてくれる筈じゃ。国王様は賢いが周囲の者も一息に纏め上げたい。その協力をしてほしいのじゃ」
「はい、勿論です。この身が役に立つのならいくらでもお使いください」
ミラは胸に手を当てながら公爵へと言葉を返す。その目は責任のある立場の者の目で、強い力が籠っていた。
「うむ、ミラちゃんが手伝ってくれるのなら百人力じゃの。ではまずは使いを出そう。その間に国王様に会う用意をせねばな」
「はい」
公爵が手を叩く。そうすると間髪入れずに扉が開かれ、アルノーが部屋に入ってきて頭を垂れる。
「国王様に使いを出せ。この国、いや、世界の危機が迫っておると、このフォード公爵の名を使え。あのお方ならこれだけで直ぐに場を用意してくれる筈じゃ」
「御意」
公爵の命令に一言で返したアルノーは直ぐに部屋を出ていく。しかし乱れの一つもないのは彼のプライドだろう。
「さて、お前さんらは、悪いんじゃがアガパンサス団のアジトまで戻ってもらってもいいかの?」
「え?」
思わず素っ頓狂な声が出る。しかしフォード公爵の目は嘘を言ってはいない。
「うむ、お前さんが一緒に来たいと思うのは分かるんじゃが、只の平民を王城へ入れてやるわけにもいかんのじゃ。事情が伝わり切っているなら兎も角、そうでないなら色んな手続きが必要になるしの。他の貴族たちへの通達や警備も難しいんじゃ」
公爵が口にした事情は当たり前のものだった。自分は確かにアスケラの住人だと証明できる物があるが、そんな物は大前提で他の物が必要なのは当たり前だ。フォード公爵があまりにも自然だったが故に頭から抜けていたが、彼自身そもそも会うのも本来なら不可能、それに敬語もなく喋ったなど、普通に打ち首である。そんな状態で王城に自分が行けば間違いなく面倒ごとが起きるに違いない。それ故にフォード公爵が自分とプロトを置いていくのは当たり前のことだった。
「え、えっと・・・ボクも?」
「うむ。吾輩としてはプロトはいずれ呼び出す事もあるだろうが・・・今じゃないのう・・・呼ぶにしても事情を説明して、上層部を納得させてからじゃな。吾輩もこんな急に何の証明も出来ない者は入れられん」
淡々と、告げられるのは現実で、自分たちはそれを呑み込む以外に無かった。
「ごめんなさい。だけど必ずまた、戻ってくるから・・・それまで待っててくれる?」
ミラも申し訳なさそうな顔をしながらそう言うので一杯の様だった。
「・・・ま、確かになぁ・・・わかった!俺たちは適当にアジトで待っているぜ!でも何かあれば呼んでくれ!もうミラは俺たちの仲間、だからな!」
がっかりするものが無かったかと言えばそうではない。突然、メインが取り上げられたような気分だが、それでも駄々を捏ね回すほど子供でも無かった。世界にはこういう事情というものがあるのもよく知っていた。それはプロトも同様でミラに対して頷いて返事をする。
「ふむ、話は纏まった様じゃな。ではお前さんらは我が家の者が平民区域まで送ろう。そうじゃ、ついでに仕事の報酬も渡そう。とはいえ金はまずドープに渡すことになっておる故、小遣いのようなものにはなってしまうがの」
「いや、貰えるのは有難いさ。なんせ金なんか殆ど無くてな」
これは事実だ。アジトに金はあまり置いては居らず、個人のものも蓄えと呼べるほどには持っていない。正直、他の面々もいつ帰って来るか分からない以上、金はいくらあってもいい。
「そうか。ならば遠慮なく受け取ってくれ。これはお前さんらの旅路祝いじゃ。あぁ・・・それとこれは噂のようなものなのじゃが・・・」
「どうしたんだ?」
突然公爵は考え込むように顎に手をやる。しかし直ぐに気を取り直したようにしてこっちを向いた。
「うむ、お前さんはウィリアムという帝国の騎士団長を知っておるか?」
「ウィリアム?それって、確か・・・金鬣族の男か?」
記憶の中では威風堂々とした男の姿と帝国の二枚看板とアッシュが言っていたなと思い出す。
「うむ、それであっておる。実はそのウィリアムが王国に来ている、という報告を数日前に受けた。もし、これが事実なら間違いなくミラちゃんを捕まえに来たんじゃろうな。ただ、どうやら帝国の人間として来たわけでも無いようで、鎧もなく、帝国の目印は何一つもないままに、大きな大剣を背負ったまま街中をうろつく姿を見た、という報告があっただけじゃ。もしこれが事実ならお前さんらも街中を歩く時は気を付けるがいいぞ」
「あの男が、かぁ・・・わかったぜ、ありがとうな」
記憶の中のウィリアムは到底自分では相手出来無さそうな雰囲気があった。もし、向こうがこっちの顔を覚えていて、追ってきたならば、ここがホーム等言っても大分怪しい。だから素直に頷き返せばフォード公爵も頷き、立ち上がる。
「では、また何かあれば使いを出そう。ミラちゃんはメイドに任せる。なに吾輩のメイドは皆、一流、しっかり王城様に飾り付けてくれるじゃろうよ」
「はい、よろしくお願いします。それじゃぁ、ルーク、プロト。また」
「おう、何か有れば直ぐに言えよ」
「気を付けてね?」
そうしてここでそれぞれに別れて行動することになった。心の中に僅かなモヤモヤを抱えたままに。答えは出そうに無かったが不思議とミラの姿が頭にこびり付いていた。
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