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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
二章 ~ルークと迫りくる帝国の闇と実直の騎士~

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2話

「次!」

アスケラの城門前に来れば、いくらかの商隊とその護衛と思わしき者たちがいる程度で、大国の入口としては閑散としていた。尤も、帝国と違ってアスケラの多くは国の飛空艇にお金を払って国を出ていく。それも一般庶民は国を出ることも無く、大半は商人になる。商人たちは遠くに行くならアスケラではこれ以外手立てがないと言っても良い位な為、仮に城門から出るなら目的地は王国近辺の村々になる。だからか城門は人が少ない。

「珍しいな。旅人か?」

爬虫種の門番に呼ばれて彼らの前に立てばギョロギョロと縦に割れた瞳孔がこちらを観察するように動き、当然の疑問が掛けられる。周囲を大森林が囲んでおり、陸地で来るための通路もあるが歩きで此処までやってくる他国の者はほぼいない。ここを通るのもおおよそ似たような者が何度も通るからか、見慣れない自分達は浮いて見えただろう。

「あぁ。つっても俺はアスケラから出たさ。ほら、これでどうだ?」

胸元、大事なものを仕舞っている内ポケットから手形を出す。これはずっと前に初めてアジトに入れて貰えた後にボスから手渡されたものだ。これがあればアスケラの住人としても認められるもので、出入りした際に極めて役立つ。

「ふむ、ちょっと待っていろ」

渡した手形を門番の一人が持って近くの検査機へと持っていく。手形の内部に特殊な道具が埋め込まれているようで、合致する反応を示せば本物、という風に認識すると聞いたことがある。この仕組みからこの手形は聞くところによれば高価なもので、アスケラの内部でも一部しかもっていないらしい。尤もどうせ庶民は生まれた国から出ることはないのだから問題はない。それは城壁に覆われていない郊外の農民も同様だ。彼らは農地から離れることなどなく、農作物も時期になれば国が取りに行くために、この手形は必要がない。

「後ろの二人はお前の連れか?」

一人の門番が確認している間に当然後ろの二人について問われる。

「あぁ、そうさ。本当なら飛空艇で来る予定だったんだけど、運悪く途中で降ろされちゃってね。仕方なく歩きで来たんだ」

周囲を大森林で囲まれているアスケラだが、徒歩で外に行けない訳ではない。正規の道で来るなら切り開かれた道がある。当然関所も存在するし、農地の事もあるのだから村だってある。だからこそ自分たちの様に、何らかの事情で徒歩になってしまう者もいる。そして疑われる前に自分達からある程度情報を渡して疑いを薄れさせておきたかった。

「なるほどな。そっちのフード被ってんのは取れるか?」

門番はフードを深く被っているミラの方へ顔を向ける。当然だろう、顔を隠して国に入れる訳がない。しかし彼女の顔をそのまま見せる訳にも行かない。

「あぁ、怪我してんだよ。だから包帯を巻いてるんだけど・・・」

そう言いながらミラを呼べばプロトに手を引かれながら彼女は近寄ってきて、フードを門番に見えるように浅くする。

「解けるか?」

門番は手で包帯を取る様にジェスチャーをする。これもまだ想定内だ。何せ今のミラの顔にはグルグルと巻いた包帯があって素顔が見えない。酷い状態だろうが門番は見ない訳には行かないし、もしそれが疫病の類と見なされれば入れては貰えない。

「あぁ・・・半分でもいい?全部解くのは面倒だぜ?それに女の子の顔だよ?あ、これ通行料」

そう言いながら隠すようにして相手の門番に通行料を多めに手渡す。船が安く済んだのもあり、手には結構な額が余っていた。

「・・・・まぁ、良いだろう。下半分出せ」

神妙な声になった門番がチラッと渡された金を見ながらそう言う。それを待っていた。

「ま、しょうがないな!ミラ、解くぜ」

そう言いながら門番に背を向けてミラとの間に立つ。そして怪我を気にして慎重に解いているように見せかけながら最初から簡単に解けるようにしていた包帯を半分取る。

「これでいいだろ?」

そして彼女の顔にした細工が崩れていない事を確認してから門番に見せる。当然、他の者には見えないように自分の体も使って隠すように立ち位置を替える。

「・・・・ふむ、良いだろう」

ミラの下半分の顔と片目を見た門番は眉を顰めてから頷いて姿勢を戻す。今、ミラの顔には蚯蚓腫れのような傷跡が引かれており、場所によっては焼けただれたような跡がついていた。どうやら上手く門番の目は誤魔化せたようだった。

「巻き直してもいい?」

そう聞けば門番は頷き、それに併せて顔へ包帯を巻き直す。

「・・・ジッとしててな。そのまま俯いた感じで頼む。プロト、手、離すなよ」

「うん、任せて」

小声でミラに声を掛けた後、門番の前では自分がリーダーで、プロトが小使いの様に振る舞う。そっちの方が癖がないし、プロトがミラの介護役に見せかけたほうがリアリティがある。賄賂も範囲を出ないもので、顔全体の包帯は面倒、という風に見せかけたかった。

それから手形を確認してきた門番が戻ってくると共に通行許可が出る。上手くいったと内心で息を吐く。

「ありがとう。それじゃ、頑張ってくれ」

門番に労いの言葉を掛けてから、怪我で顔に包帯を巻いているミラの設定を守る様にゆっくりとした足取りでアスケラの城門を潜る。


「・・・もういいかな?お疲れ、ミラ、プロト。もう大丈夫だと思うぜ」

正面からはずれ、人通りが少ない横道に入る。入口の近くだからかそれでも人はいるが中央通りよりは遥かにマシだ。出来るならアジトまでミラの顔を隠した方が良いのだが細工をしたままだとミラの移動に大きな弊害が出てしまう。それなら深くフードを被っているだけにした方が良い。

「ふぅ・・・緊張した」

ミラがそう言いながら壁に顔を向けながら包帯を外す。そんな彼女に水で濡らしてから細工を外すための薬を染み込ませた布を渡してやる。

「これで拭けば直ぐに落ちるよ」

「ありがとう、ルーク」

ミラはそれを後ろ手に受け取り、自分の顔を丁寧に拭き始める。暫く時間は掛かるだろう。

「それにしてもルークってああいうのも出来るんだね!」

「あぁ、舞台に立つ時に必要ならメイクはするからな・・・ほら、劇とかだと特にな」

リアリティを出すならメイクは非常に有効だ。それこそ怪我をした人を演じるなら赤の塗料を肌に塗る。それだけでなく、その方が音が上手く届かない場所にいる観客も一目で状況がわかる。だからメイクの技術は必要だ。そしてその手のものはそこいらにある草花から作り出せることも教わっていた。買うと高くつくが、その辺りで入手できればコストを抑えやすい。兎に角、人に見られる仕事には必須の技術でもあった。

「へぇ、そうなんだ」

プロトは感心したように首を振る。その姿を見ているとやっぱり彼の仲間、後継機と比べると明らかに人っぽい。そのまま口に出せば彼の気がへこむ可能性もあって口にはしないがやっぱりプロトは人形には思えなかった。

「ふぅ・・・ルーク、どう?」

ひとしきり拭き終わったミラがこちらを振り向く。

「大丈夫、只の美人さんだな」

「なら良かった」

言われ慣れた感じのミラが汚れた布を丸めて自分の荷の中に入れる。そしてフードを確かめるように引っ張ってから頷く。

「うん、これで大丈夫。行こう、ルーク、プロト」

それに頷き、アジトのある場所へと足を向けた。アスケラ王国の城塞都市はのんびり歩いていては一日掛かっても反対どころか半分も行けない。帝国より小さくとも大国は伊達ではない。


「さ、こっちだ」

王都の地面は綺麗に均されており、中央の王宮から蜘蛛の巣の様に張り巡らされた道が四方に伸びている。主要通路と呼ばれるこの四本の道が王都を分断するように十字にあり、それから枝を伸ばすように細かい道が無数にあった。この主要通路は石畳で、幅もあって馬車専用の轍もあった。馬車は国が市内の移動用のものも出しており、このおかげで広い王都を住民や商人たちは速い速度で移動することが出来る。勿論、有事の際にもこれを使うことで軍の移動を容易くする、という意味もあった。城塞都市は壁さえ越えられなければ負けることはない。

そんなアスケラ王国内の専用乗合馬車に揺られながら暫く、アジトの近くで馬車から降りて裏道へと潜り込む。大まかには入った城門から一度中央の方へ行って、其処から東の方へとずっと行った所、平民が多く住むエリアよりは貧民寄りの境界線辺り、微妙に人気の無い場所だ。ここは土地の代金が安いとは言い難く、かと言って値段に治安と利便性が伴わない場所だ。ただ、それだけに人目に晒されにくいという利点はあった。

「・・・結構普通の家なんだね」

プロトが入口から上を見上げる。家の高さは平均的で、外観も外から見ても変な所はない。少なくとも空き巣をしようとは思えない見た目だ。

「まぁな。ここは長く住むって感じでも無いからなぁ・・・ま、ついて来いよ」

懐から鍵を出して差し込む。やや滑りは悪いが問題なく回り、扉を開けば錆びついた音と共に埃が少し舞う。

全員が入った後、しっかりと施錠し直す。そして振り返ればなんの変哲もない部屋が目の前に広がっており、家主が長く使っていないのを証明するように埃が積もっている。

「よし、こっちだ」

物珍しそうに中を見ていた二人に声をかけて壁際に設置された棚に手を伸ばす。傍目には只の棚で、これまた古びた小物が無作為に置かれている。それを正しい場所へ、正しい順番で置き直す。そして最後の小物を設置し終えると少しの揺れの後に部屋の奥に置いてあった暖炉の底が開き、地下への入口が開いた。

「隠し扉!?」

ミラが目を瞬かせながら驚く。プロトも同様に開いた隠し扉へ興味津々といった雰囲気で駆け寄った。

「ハハハ、これが俺たちの本当のアジトの入口さ。さぁ、ようこそ、お客様」

驚く彼らにお道化ながら腰を折って右手で入口を指し示した。


暗い階段を降りて行く。そして階段が終わると共に広い円形の空間に出る。そのまま記憶の通りに周囲を手探りすれば明かりが灯った。

「さ、何処でも良いから座りなよ」

そう言いながら荷物を投げ捨てて正面からやや右側にある古びたソファーに勢いよく腰を降ろす。

「わぁ・・・本当に秘密基地だね!」

興奮したようにプロトが顔をキョロキョロとさせる。

「地下にこんな場所が・・・」

ミラも唖然としたように言葉を零す。しかしそれも仕方が無いことだ。

「ハハハ、凄いだろ?俺は何もしてないけどな」

そんな二人を見ながら過去の自分もきっと彼らと同じような反応をしたのだろうなと頬を緩める。勿論此処なら安心できるという気持ちも混じって、ここ暫くの中では一番気分も軽くなっていた。

アジトは上の家の何倍かのサイズで地下で横に広がっている。勿論バレればとんでもない事になるだろうがその辺りはボスがしっかりと作ったらしく、何か起こったことはない。もしかしたらまだ見ぬスポンサーの影響もあるだろう。兎に角アジトは立派な隠れ家と言って差し支えなかった。そして久しぶりに帰ってきたアジトは上同様にいくらか埃を被ってはいるが定期的に掃除はされていたためにそこまで問題は無い様に見える。

「ほら、明日の話をまずしようぜ。探索したいなら後で案内してやるからさ」

そう言えば未だ周囲を眺めていた二人も部屋に置かれているソファーへと腰かけた。


それから三人で明日の予定を詰め始める。とは言え、まずはミラをスポンサーの所まで連れて行かなければならない。そしてそのスポンサー、或いはミラが頼りたかった人間は彼女しか知らなかった。

「で、誰に会いたいんだ?」

「私は・・・この国の公爵、フォード公爵に助けを求めようと思ってるの」

フォード公爵、その名は自分の様なものでも知っている貴族の名だ。この大森林に囲まれたアスケラ王国において生命線とも言える川の管理を代々任されている家で、その地位に見合った血統、つまり王族の身内の血が濃く流れた家だ。そして王都外の領地にその大きな川が流れていた。それだけでもこの国で如何に大きな権力を持っているか分かるだろう。

「ヒュー、でっかいのが出てきたな」

思わず囃すような声が出てしまう。しかし内心は結構驚いた。とはいえミラの本来の地位を思えば分からない訳ではない。

「はい、私の祖父母はアスケラの人間でフォード公爵の下の侯爵とまた別の公爵の下の伯爵との子だったの。だからアスケラの貴族が帝国に招かれた際、顔を会わせた事があるの。特にフォード公爵には気に入って貰っていたから・・・それで亡命するってなった時に手紙でルークたちの事を呼び寄せてもらったのも公爵なの」

「へぇ・・・なら俺たちのスポンサーもそうなんだなぁ・・・」

初めて知った事実と相手の大きさにため息のような声が出てしまう。成程、そりゃボスも隠すし、アガパンサス団があっちこっちに飛べたのも納得だった。

「ちなみに何だけど・・・俺たちだけで行っても会えるの?」

フォード公爵のタウンハウスなら簡単に見つかる。問題は貴族街への入り方と、本人に取り次いで貰う方法だ。運が悪ければ彼の領地に飛ぶ必要もあるだろう。

「うん。そこは任せて。だから準備とそこまでの道案内をお願いしたいの」

「いいぜ。それくらいなら問題ないさ。なら今日はしっかり休んで貴族様に会える恰好をしなきゃな。そうだ、プロトにミラも着いて来てくれ。アジトを案内するよ」

そう言って席を立つ。ミラの依頼も最後の大詰め、ここで失敗したくない。しかしまずは今も興味深げに周囲を見渡していたプロトの気を宥めてやろうと思った。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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