25話
「へぇ、思ったより、しっかりしてるな」
「そうなの?」
「あぁ、この手の辺境の村ってもっと寂れた感じがあるからな。正直立派な柵があったから予想はしてたけどここまでとは思わなかったって感じかな」
ミラの疑問に答える。魔物の襲撃を退けた後、見えていた村には夕方になる頃に辿り着き、門番に船に乗ることを告げればあっさりと中に入ることが出来た。どうやら上手く船が来る前に辿り着けたようで、あまり疑われる事もなかった。正直言えばそれが理由であっさりと入れてしまうのは奇妙なうえ、気になることはあったが都合は良い為に口を噤む。
「確かに二人と会った村と比べると結構裕福に見えるね」
プロトが周囲をキョロキョロと見ながら肯定する。それにミラも確かにと頷く。
「ま、まずは宿に行こうぜ。ここは宿屋もあるみたいだからさ」
これは門番に教えてもらった事だ。村に宿、というのは変な話だがあるのなら使いたい。料金も聞く限りではまともだ。恐らくは空き家を貸出出来る、という意味だとは思うがそれでも屋根があるところで寝られるのなら多少の怪しさは無視できる。
それから村の住人に宿の位置を聞きながら村の奥へと進んでいく。見た限り、この村は他種族で構成されているようで、帝国らしく獣種に精霊種を基本にしながらも爬虫種や蟲種も僅かながら住んでいた。ここまで他種族で暮らしている村というのも珍しい。それこそ食べるものや生活リズムに趣味嗜好の違いから大国の中心とかでないならば基本は単一種の村が基本だ。そう言った意味でもここは変な村だ。
「・・・なんか見られてる?」
プロトが周囲をクルクルと見ながら不思議そうに呟く。それは彼でなくともなんとなく感じられる違和感だ。
「そうみたいだな・・・何かあんのか?」
しかしその原因が分からない。確かにプロトは珍しい種族に見える。しかしここまで色々な種族が住んでいてジロジロと見られる、というのはあまりない。勿論、自分にもその視線はぶつけられるのだが、そこから流れるようにプロトへ行ってしまう。そして自分にも時折戻りながら何処か納得したような感じも見受けられた。これは門番も同じだった。最初は険しい顔つきだったのに、プロトを見ると眉間の皺が和らいだ。
「・・・・」
横に並ぶミラが考え込むように黙り込む。彼女は村に入る前にフードを被り直したのでそこまで視線は向けられない。最も視線の大半は自分達二人なので、もともと彼女はあまり感じていないかもしれない。兎に角、不思議なことだらけだがその原因が一切分からず、態々問いただす程とも思えず、居心地の悪さを感じながら石畳を歩く。
「やっぱり、ちょっと変な村だな」
辿り着いた宿の部屋で輪になる。当然話題はここに来るまでの事だ。
「う、うん。何だろうね?何もしてない、とは思うんだけど・・・ボクの恰好って変?」
プロトは自信なさげに自分の体を見渡す。
「いや、まぁ、そもそも珍しい見た目だからなぁ・・・俺もそうだけどプロトがやっぱ一番か。でもそんな気にする程じゃ無いけどなぁ・・・」
考え込むが答えは出ない。村人たちも何かしてくるような事はなく、「あれ?」みたいな顔をしてプロトを見て、自分達の方へ視線が動くと「あぁ、成程」みたいな顔を浮かべるのだ。
「・・・それに辺境にしてはやっぱり裕福すぎる、よね?私が皇女として勉強した限りでもここまで裕福な辺境の村は記憶にないよ。それこそ飛空艇は数があるものじゃないから、一時的にでも留まる場所なら地理の授業とかで出てきても良いはずなんだけど・・」
ミラがそう零す。
「ミラがそう言うならやっぱり変だよな。他国と比べてもやっぱり変だ。補給にしたってなぁ・・・大きな農村、って感じでもないし、それならもっと帝都に近いところに作るはずだ」
三人で額を突き合わせて首を傾げるが答えは出ず、変な部分だけが浮かぶだけだ。かと言って村人に態々問いに行く理由もない。それが原因で何か起こっても面倒なうえ、これだけの村ならそのうち帝国軍が来ることだろう。なら少しでも悪印象は減らしたい。最もプロトが異常に関心を惹いてしまった以上、記憶を薄れさせるのは難しいかもしれない。
「ま、考えても仕方ない、か。とりあえず飯でも食いに行くか。プロト、お前はどうする?」
解が出てこない状態で悩んでも仕方ない。手を叩いて空気を替える。どっちにしろ長く此処にいるわけではないし、下手に踏み込んで魔を引き寄せる事はない。
「あ、ボクは此処で待ってるよ。誰かが荷物は見てた方がいいでしょ?」
「そっか、なら頼むよ。出来るだけ早く戻ってくるからさ」
「ありがとう、プロト」
「うん、行ってらっしゃい」
そうしてミラと連れだって階下に降りていく。この宿は当初の予想を裏切る形だった。宿として大きな建物があって、その中に飯屋が併設されていた。つまり村の酒場のような形としても機能しており、追加で金を払う必要こそあるが温かい食事が出来る。正直このスタイルは珍しい。理由は単純、種族ごとに食べられる物に差があるからだ。それらに全対応する努力をするぐらいなら食事は各自用意させる方がトラブルと手間が少ない。客もいざ食堂に行ったら食べれない、或いは大した物が出てこないなんていうショックを受けずに済む。それ故に単一種族に絞った宿屋でも無い限り食事は用意されない。但し、竈の貸出などは有ったりする。
「お、丁度空いてるみたいだな」
酒場の様な空間は夕方にも関わらず閑散としており、自分達の他には誰も居なかった。しかし調理場らしき場所からはいい匂いが漂ってきており、最初に説明された通りに食事が出来そうだった。
「ん?あぁ、客か?」
階段を降りた音に気が付いたのか一人の六腕族の男がニュッと調理場の方から顔を出す。顔には六つのガラス玉のような小さくて丸い黄色の目が縦に並び、キラリと光った様に見えた。それ以外は細かい毛に覆われており、口の有る辺りからは小さな牙が見え隠れしていた。声の感じは結構気さくな雰囲気で、背中から伸びる三対の腕には調理器具が握られている。恐らくこの宿の食事担当なのだろう。降りてきた自分たちをスッと受け入れた辺り、ここに客が来るのは珍しくないと想像できた。
「よっ、お腹が空いたんだけど、何か食べられる物はある?」
彼が居る場所へ近づいて問いかける。今はプロトが居ないからかジロジロと見られる事はない。最も彼の種族の目はこちらから見ると何処を見ているかは良く分からない。瞳孔でも有れば話は別なのだが蟲種は目が全種族ガラス玉の様になっていて、おまけに複眼も多い。更に言えば視界も広いのでなんとなくでしかこっちは判断できない。
「あぁ、出来るぞ。食えないもんはあるか?」
「俺はないな。ミラは?」
「私は・・・肉類に香辛料が駄目です」
「へぇ、何も無いのは珍しいな。で、そっちの嬢ちゃんは肉に香辛料な。ならサラダとパンに豆スープで良いか。で坊主は・・・何が良いんだ?腹が膨れりゃ良いのか?」
「あぁ・・・そうだなぁ・・・うん、腹が膨れたらいいや。おススメで」
好みはこれと言って無い。ましてやどんな料理が出来るかも分からないからおススメだ。これで外すようならそもそも国が合わないまである。特に他種族が居て、ある程度対応できるなら問題は無いだろうという判断だ。
「あいよ。好きな場所座って待ってな」
そう言って六腕族の男は奥に引っ込んでいった。
「へぇ。結構おいしいや」
「そうですね。作り慣れてる感じがします」
運ばれてきた食事に口をつけながらミラと感想を言い合う。自分の前にあるのはぶつ切りになった魔物の肉が入ったスープで、国の中央の方ではゲテモノ扱い必死のスープだ。裕福そうに見えたと言っても所詮は辺境の村、肉類は魔物を使わざるを得ないらしい。香りの強い草で臭み消しを丹念にされた雰囲気がある。それでも噛むごとに出てしまう野性味は愛嬌だろう。そんな自分とは対照的に野菜が溶け込み、具としては成していないようなスープをミラは食べていた。
精霊種は特に肉類や匂いのきついものは口にしない種族だ。魚の類も同じで、ほとんど野菜や穀物だけで生活をする。帝国自体は他種族国家故に下町は色々な物が溢れるが上に行くほどにミラの様に野菜と穀物だけを摂取する様になっていく。事実ここまでの彼女の食事は大半が穀物や豆を煮固めた簡易食糧、或いは干した果物だ。それもあってか今、自分が食べているスープが来たときは匂いが厳しかったのか鼻をつまんでいたし、席も大テーブルの逆にまで移動した。とはいえ他種族が一緒に食事をするとなればよくある話だ。一緒に食事をしないパーティも珍しくない。そのため特に気にすることなく食事を終えた。
「さて、後はチケットだけだな」
借りた部屋へ戻り、作戦会議を始める。今の所怪しい部分こそあっても問題にまではいかなさそう、というのが見立てだ。となれば予定通りに飛空艇に乗ってこのままアスケラの方へと移動することになるが問題はチケットだ。
「確か発着場で買うことが出来るって言ってたよね?」
「あぁ、村の奥に大きな広場が有るらしいな。まぁその為の金もボスに貰ってるから問題は無い。ただ・・・プロトの分がわかんないんだよなぁ」
苦笑いを浮かべて腕を組む。そう、当初の旅の予定は二人だった。正確な値段は分からず、それなりの額を渡されているがそれが三人になると足りるか分からないのが実情だ。
「え、ど、どれくらいするのかなぁ・・・ボク、お金なんて持ってないよ」
プロトが不安げな声を出す。そんな彼の肩を軽く叩いてとりあえず落ち着かせる。彼が一文無しなのは良く分かっているし、強引にはなるがいざという時の手段もいくつかある。
「まぁ、安心してくれ。何とかするからさ。だからまずはチケットの値段を聞きに行かないか?」
「そうね。普通に買えるなら、それが一番だもの」
「うぅ・・・ごめんね」
「いいさ。そもそも俺たちが着いて来てくれって言ったんだから。それにプロトの魔法は本当に凄いからむしろ安すぎるぜ」
そう言ってやれば不安げな顔の儘だがプロトは頷き、気を取り直した。そして陽が暮れきってしまう前にチケットの販売所へ向かった。
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