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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
一章 〜ルークと帝国の姫君〜

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22話

「さてと・・・あれはもしかして出口か?」

掘り進められた通路から自然に出来た様なドーム状の場所に出る。高いところからは自然な光が差し込んできており、出口らしき場所も高台に位置する。出るためには目の前にある崖を登る必要がありそうだが言うまでもなく階段のようなものがご丁寧に掘られており、進むのに問題はなさそうだ。

「他には・・・何も無さそうですね」

「うん、特にはないんじゃない?」

自分と同じように顔を出して周囲を見渡した二人が同じ感想を零す。ならば後は外に出るだけ、何もなければとつけるならば、そう思えた。

「とりあえず、俺が行こう。まだ何かあるかもしれないから」

傍目には何もなく、さっきまでの事があっただけに拍子抜けしてしまう。とはいえ何があるかは分からない。なにせ何処からかは分からないが外から差し込む光にキラキラとした細かい氷の粒が舞っている。氷の粒はそのまま通ってきた方に流れ込んでいて、頬に当たる風は相変わらず冷たい。冬でも無いのにこれは異常だ。そして目に映らず、耳にも環境音以外が聞こえることはないのに胸の奥はざわざわと危険と不信を予感していた。


偵察の為に荷物と二人をおいて、入口から少しだけ下った空間の中央にまで踏み込む。胸を突く違和感は一歩進むたびに増す。先に一人で来たのも結局これが原因だ。そしてひんやりとした風が一瞬だけ止んだ様な気がした瞬間、頭の中へ直接語り掛ける様に空間全体に声が響く。

「―――アノママ、ネムッテオケバイイモノヲ」

「誰だ!?」

酷く片言だ。共通語ではあるのだが何というか、言葉を習い始めたばかりの怪しい発音にも似て聞こえた。もしくは本来そんな機能が無いのに無理矢理出来るようにした、そんな違和感のある声だ。

「―――コレヨリサキ、アカシノナイモノ、トオルコトカナワズ」

地面が、壁が揺れる。大きな物が這っているような細かい振動が自分の周囲を取り囲む。右手の双刃剣を肩に乗せて腰を低く構えながら視線を動かす。

(何処だ、何処からくる?)

狙いは自分だろう。言葉で聞いた訳ではないが間違いなく相手は自分へと狙いを定めている。胸を叩く心臓の音が否応なしに緊張を高めていく。踵は地面から離れ、何か起こればいつでも動き出せる。

「―――ココデ、ネムルガイイ、シンニュウシャヨ」

その言葉と共に出口のある方、光が地面にまで唯一到達していた場所へ冷気と宙を舞っていた微細な氷が吸い集められた様に一か所に固まって形を作る。

ガラスが砕けるような音が空間に響く。同時に押し出されたような冷たい突風が体に突き刺さり、服がはためく。視界を確保するために空いていた左手で目を覆うようにしながら現れた敵を中心に捉える。

現れたのは見上げるほどに大きな蛇のような見た目をした魔物だった。全身が氷で作られており、透けてはいないが鏡のような感じで光を乱反射していた。全体的に棘が生えていて、敵が身じろぎするたびに硬い岩盤に引っ掻いたような傷が出来ている。あれが自分なら一瞬で体を削り取られてしまうだろう。顔に当たる部分は細長く、口が突き出したような見た目で乱杭歯の牙がキラキラと宝石の様に生えていた。

「――――!!」

現れた敵は威嚇するようにその巨体をくねらせ、とぐろを巻くと顔を上に持ち上げて吼える。それに呼応するように何処からともなく吹雪が生まれて空間を白く染めていく。間違いなく、これが居たから洞窟に魔物が居なかったのだと確信できた。外とまるで違う環境、明らかな強者、魔物たちが避けるのも良くわかる。

「どうすっかなぁ・・・」

思わず愚痴の様なものが漏れる。一人で倒せるような敵には見えない。かと言って時間を掛けて戦うのも難しそうだ。何せ体当たり一つで死にかねない。加えて周囲の温度がさっきよりも低くなってきた。これで長時間戦うのは体力が持たないだろう。

「爆ぜて!」

思考を回した瞬間のことだった。後方からプロトの声が聞こえ、それを追いかけるように火球が自分の上を通って現れた魔物へとぶつかる。

「―――ガァァァ!?」

首をもたげ、狙いを定めようとしていた魔物は顔に当たった火球に驚いたのか呻くような声を出しながらのけ反る。そして火球がぶつかった部分は焼け石に水をかけたように濛々と蒸気が噴き出していた。

「ッ!よくやった!」

プロトが作ってくれた大きな隙、此処を逃すわけには行かない。思考を打ち切って一気に前へと走って敵に接近する。

近づいた魔物の体に足を掛けて駆けあがる。体には無数の棘がある為に足場には困らない。そして最後に飛び上がると火球の当たった辺りに向けて双刃剣を斜めに振り抜く。

「固いなぁ!」

鉱物を殴った様な手ごたえ、じんわりとした痺れが手のひらを超えて肘にまで伝わる。しかし怯む様な真似はせず、直ぐに魔物の体を蹴りつけてその場から逃げ出す。

「う~ん、困った」

地面を蹴って更に後方に逃げる。先程まで居た場所は荒い鑢を掛けた時の様にえぐれている。やっぱり巻き込まれたら助かりそうにない傷跡を見て眉を顰める。

「プロト!何発位行けるんだぁ!?」

魔物の方を向きながら大声で問いかける。今は爆弾も無く、自分が効果的な攻撃が出来ない以上、彼に頼る他ない。

「あと、10回は余裕だと思うよ!」

プロトからは何とも有難い回数が返ってきた。通常、魔法なんてのはそう何度も使えるものではない。魔法は世界の理を捻じ曲げる行為だ。空気の無い場所で風を、溶岩の中に氷を生み出すようなもので本人の資質に寄りはするが不都合なものを自分に都合よく替えてしまう。当然、その分別の場所に皺寄せが行くらしいがそれでも強大な力は回数という制限がついてしまう。それが小規模とはいえ10という数字は異常だった。ただそれが味方なら何とも頼もしい。

「なら合図した時に撃ってくれ!弱点があればそこを突きたい!」

そう声を掛けると同時に右に避け、真っすぐに走り出す。それに合わせて伸びた魔物の尾が追いかけるようにしなる。

「よっ、ほっ、はっ!」

魔物の攻撃をひたすらに避けながら接近を試みながら双刃剣を振るっていく。しかし顔の前に現れたハエを追い払うように尾を動かされてすっかりと攻めあぐねてしまっていた。勿論尾を受け止めるなんて事は出来ない。そんなことをすれば軽い自分はあっという間に吹き飛ばされて終わりだろう。魔物もそれが分かっているのか自分を近づけさせない程度に留めてプロトの魔法を一番に警戒しているように見えた。

(う~ん・・・案外弱点はないかなぁ・・・やっぱり溶かす方向がいいかぁ?)

先程プロトの魔法が当たった部分を見ながら思考を回す。体が嫌に固い氷で作られたこの魔物は物理にはめっぽう強く、ハンマーのような武器でないければ効果が薄いように思えた。自分の最初の一撃も僅かな切れ込みを作っただけで堪えてはいなさそうだ。それは隙を見ながら相手の胴体に切りかかった攻撃も同様だ。但しプロトの火球だけは今もなお、効果が分かる形で残っており、魔物の顔はケロイドの様に若干溶けていて、一番酷く見えるところは自分の切れ込みも残っている。


「―――ムダダ、オマエタチノネライハミエテイル。アキラメルガイイ」

諭すように魔物が口を開く。実際、火球の奇襲から時間が少し経ってしまい、冷静を取り戻すには十分だ。攻撃も中断され、にらみ合う様な形になる。

「ハッ!火にビビッて閉じ籠ってる奴が良く言えたな!」

相手が動くのを止めてくれたのを利用して休憩と脳内作戦会議の為に時間を引き延ばす。とはいえ大まかな作戦は決まっている。そのための挑発を口にする。

「―――ミエスイタマネダナ。ムダダトイッタハズダ」

しかし、ここまで自分から有効打は作れていない事もあってか魔物は簡単には挑発に乗ってはこない。それでも余裕そうな雰囲気は崩さない。元より一回でどうにかなるとは思っていない。

「良く言うぜ。お前だって馬鹿みてぇに尻尾振ってるだけじゃないか。嬉しいのか?もっと遊んでやるぞ」

左手の人差し指をクイクイと動かしてやる。そうすれば少しだけ苛立ったように尾の先が動く。賢しげに喋るがやっぱり所詮は魔物、挑発も繰り返せば効果はありそうだ。

「こいよ、のろまの引き籠り野郎!最初に眠らせてきたのも戦うのが怖かったからだろ!」

そう言いながら後ろを向いて尻を叩いてやる。そしてこっそりと逃げ出せる姿勢を作って、奴が挑発に乗ればそのまま駆けだす予定だ。

「―――ズニノルナヨ、ムシケラガ」

その言葉が聞こえると同時に口角を上げてほくそ笑む。やっぱり挑発に乗った。その証拠に今度は尾ではなく、顔から自分を飲み込もうと迫ってくるのが見える。勿論、プロトの火球への意識はあるだろうがそれよりも速くに自分を殺してしまおうという算段をつけたに違いなかった。

「甘く見られたもんだ。だからそれがお前の敗因さ」

プロトたちが待っている場所へと走り出す。火球も近いほうが当たりやすいし、威力も高くなる。仮に駄目だったとしても最後の詰めは自分がすればいい。兎に角、あの固すぎる外皮、そう呼んでいいかは分からないが氷が脆くなってくれればそれでよかった。

背後から今までで一番の音が響く。結構な速度が出ているのか地面のえぐれる音と破片が飛び散っている音が耳に痛い。当然、自分の足よりも速く、逃げ切ろうとしてしまえば轢かれてしまうだろう。プロトへの合図は彼の魔法の起動から到達までを計算して、上手くやらなければならない。

(3・・・2・・・1、今だな)

走りながら壁までの距離を計算しつつ左手を前に、相手からは見えないようにしてからプロトへ合図を出す。事前に決めた事では無いだけに賭けではあるがプロトはしっかりと自分に応えてくれた。

プロトの魔法が完成して放たれる。その頃には自分を一飲みしようと敵が大きく口を開けており、その目と鼻の先に自分がいた。計算通りと言えば計算通りだが思ったよりも背筋が寒くなる距離だ。だが追撃を掛けるなら近くに居なければならない都合上、仕方がない。加えて魔法を警戒されて退かれても困る事もあって目の前からは離れられなかった。しかしそのかいもあってか火球は吸い込まれるようにして相手の飛び出した鼻面に直撃する。

「―――ガァァ!??」

二度目の顔への直撃は怒った相手の突進も止める衝撃をおこした。そして白い蒸気に覆われた先でその痛みに悶えるようにその巨体を相手はくねらせる。

「プロト!後三回は撃ってくれ!」

此処が決めどころだ。プロトからも近く、十分な威力を持ったまま魔法が当てられる場所で止まった相手に遠慮することはない。そのまま追撃の指示を飛ばす。

少しばかり高い場所ではプロトが両手で持った杖を大なべを掻きまわすようにして振りながらその先端へ赤紫色の魔力を収束させていた。以前に見たアンガスがやる様な魔法とは大きく違い、花火のような煌めきが杖の周りに集い、それが時間と共に強くなる。そして用意が出来たのかプロトが杖を前に振ると人一人分の大きさをした火球がのたうちまわる魔物に飛んでいく。

「―――!?!?!?」

魔物の声にならない叫びがより濃くなった蒸気の先から空気を裂くように響く。やっぱり弱点なのか自分の一撃ではピクリともしなかった巨体が荒れ狂い、その影響で地面すら揺れる。

「さぁって、どうなったかな?」

それから予定通りに三発の火球を受けて今だに暴れる魔物へと近づく。蒸気は暴れる魔物に着いていくようにして白線を引いており、追いかけるのは難しくない。

「お、罅が入ったな」

少しだけ見えた魔物の顔には蜘蛛の巣のような罅が当たった場所からびっしりと首の方まで伸びていた。傍目には少し小突いてしまえば割れるように見えた。

「こっちも見えてないな」

顔付近に集中して攻撃を受けた影響か魔物の顔は潰れ、痛みも感じるのか視線が合うことはない。なら後は自分が決めるだけだ。

暴れる魔物の体を蹴りつけて上を目指す。危険ではあるがこちらに意識を向けていないならこの程度、登るのは難しくない。ちょっと動く階段上りのようなものだ。それに何も魔物も自分の体を傷つけるようには動かないのだから身軽な自分にはアトラクションのような物にしか感じられない。

「よっと。それじゃ、早いがフィナーレだ」

罅割れの激しい場所に登り、狙いを着ける。一番酷いのは額の辺りだろうか、そこに向けて両手で握った双刃剣を反らした体の反動も使って思い切り突き立てた。

「―――」

ガラスの割れるような音が響く。これだけ罅が入っていても堅かった体ではあったが罅は罅、出来てしまった隙間を抉じ開けるようにして突き刺さった双刃剣を受け止めることは出来ず、再度力を籠めてやれば剣先は深々と突き抜けた。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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