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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
一章 〜ルークと帝国の姫君〜

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21話

踏み入った洞窟は異世界に迷い込んだかのように景色と空気を一変させた。

「うぅ・・・思ったより寒いなぁ」

思わず身震いしてしまう。奥から冷たい空気が流れてきているようで、息が白くなるほどでは無いがそれでもジッとしていれば凍えてしまいそうだった。周りが剥き出しの岩そのものなのもあって、冷たい印象が増している。

「二人は大丈夫か?」

「はい、私はローブがありますから」

「ボクも大丈夫だよ」

どうやら寒いのは自分だけの様だ。確かに一番軽装で袖のない服を着ているのだから然もありなん。肩を竦める。

「ならまぁ、いいか」

どうせ歩いていれば体は問題ない程度の温度だ。息を一つ、鋭く吐いて視線を前に戻す。

「それにしてもなんでこの洞窟は見えるんだろうなぁ・・・」

周囲を見渡しながら疑問が口をつく。入った所から直ぐに思ったことだが最低限、というにはあまりにも洞窟の中が明るいのだ。太陽の明かりとはまた違う、それこそ月明かりにも似たような色彩で洞窟の中が見渡せる。かと言って分かりやすく街中の様な街灯が有るわけではない。かなり違和感のある光景だった。

「えぇ・・・それに遠くが見える訳ではないですし」

ミラが自分の声に反応する。彼女の言う通り、一定の距離を離れると電源が切れたように真っ暗になっているのが見える。既に入口は暗闇の中に潜って見えない。それは行く先も同じで線が引かれたように境界線があり、一歩進めば一歩分、見える場所が増える。

「ん・・・でも逃走用なんでしょ?」

「まぁ、な」

本当に一部の者しか知らないような通路だ。ましてや此処は帝国領の辺境、此処まで這う這うの体で逃げて来ることを思えばこの位の細工があっても良いのかもしれない。

「ま、今はラッキーくらいに思っとくか。あ、滑らない様に気を付けろよ」

洞窟はそこそこ湿っており、剥き出しの岩は氷を思わせる位に滑る事がある。もし、魔物が出てくれば外と比べて狭い空間な事も交えて戦い方を考える必要があるだろう。


暫く洞窟を進んでみたがここまでは完全な一本道だ。明かりの事といい、天然の物を調整したのではなく、最初から掘り作ったように思える。いくらか上下する際には階段のような物がきっちりとあり、それこそ気を付ければ誰でも通れてしまう。高さや幅もほぼ一定で、あまりにも綺麗すぎた。

「一回、休憩・・・というか交代で仮眠しようか」

「仮眠、ですか?」

少しだけスペースがあるところで立ち止まり、提案したことにミラが聞き返してくる。

「あぁ、多分そろそろ良い時間だと思う。飯食って、交代で寝よう。先がどの位あるかは正確には分かんないから、余裕があるうちに休んでおきたい」

背負った荷物から道具を出していく。まだ魔物の類は出会ってはいないがこの先に居ない保証もない。限界まで動いて休んでいる時に襲われれば一大事だ。だから余裕を感じられる内に休む必要がある。

「ほら、ミラは食べたら横になりな。プロト、悪いんだけど俺とお前の見張りの時間をちょっと長くしよう」

「うん、ボクはそれで良いよ」

「待ってください。私も」

「いや、間違いなくミラが一番疲れてるからしっかり休んでくれないと困るんだ。それにキミを無事にアスケラに連れていくのが俺の役目だ。だから今は休んでくれ。ミラが頼りない、って話とかでもない。最悪、ミラが一人でもアスケラに行かなきゃならなくなるかもしれないんだ。だから今は休んで」

「・・・わかりました」

ミラは不服そうな声音だがこれは仕方が無いことだ。それに一番体力が無いのも事実なのだから呑んでもらう以外ない。

「まぁ、ミラがもっと旅に慣れたら、お願いするからさ。プロト、悪いんだけど俺が食い終わるまで警戒してもらっても良いか?」

「うん、任せて!」

プロトの返事を聞いてから自分も腰を下ろして、取り出した外套を体に纏ってから、簡単に食事をする。別に警戒出来ない訳ではないが思ったよりも食事中などは音が聞こえにくくなるうえ、警戒が緩む。そう言う意味ではプロトの存在は唯一無二だ。睡眠以外で休憩が必要ないという種族特性はこういう時に無類の強さを誇る。勿論、彼の善意でしかない事は頭に置いておく。道具じゃない、彼は仲間だ。


それから交代で休憩を回して体力の回復を図った後、全員で再び隊列を組んで奥へ進む。仮眠の予定ではあったがプロトの必要な休憩時間とミラが眠った時間がほぼ同じだったために思ったよりは上手く休憩を回すことが出来た。お陰でおおむね体の調子は戻ったと言ったもいい。

「ふぅ・・・にしても、変だな」

周囲へ目を凝らしながらぼやく。この洞窟に入った直後なら兎も角、かなり深くまで来たのに予想と違う事が一つあった。

「どうしたの?」

ぼやきのつもりが場所が洞窟だっただけに思ったよりも響いたせいで自分の声を拾ったプロトが首を傾げる。

「あぁ・・・あんまりにも魔物に出会わないから不思議に思ってさ・・・こういう洞窟は寝床にする魔物も多いはずだし、迷い込んでても変じゃない。でも一回も会ってないだろう?勿論争った形跡もない。生物の気配が全くないんだ」

「そうなんだ・・・でもそう言われると、そうかも?」

旅をしたことがないプロトはピンと来てはいないようだが納得はしたようだ。

「であれば・・・何かある、ということでしょうか?」

「そうだな。でもそれが分かんないんだ。勿論、明かりがいらない洞窟、それも天然ではなさそうだし、何かこれも仕掛けがあるのかもしれないけどな」

詳しい事は一切分からない。都合の良い解釈も出来るがそれを信じ込むには材料が足りない。

「兎に角、何か変だな、と思ったら言ってくれ。俺も気を付けるけど視点は多いほうが良いからな」

「うん、分かったよ」

「はい」

二人の返事を背に再び前への意識を強くする。なんとなく、奥から吹いてくる冷たい風が不安を掻き立てた。しかし今から臆病風に吹かれて戻る訳にはいかない。


「・・・寒くありませんか?」

それはミラが呟いた事が切っ掛けだった。地図に描かれた山の規模と歩いた時間から、もう洞窟も終わりが来るだろうと想像が着く程度には歩いた後の事だ。結局魔物の影すら見ることなく歩いて来て、変化が感じられず、警戒も自然と緩んでしまうような時間帯だ。

「言われてみれば、か?」

歩くのに集中しすぎていたのか彼女の言葉にハッとする。目の前には今吐き出された自分の吐息が白くなってゆっくりと消えていく。この洞窟が寒いのは確かだがそこまでではなかった。

「そうなの?」

プロトは温度もあまり感じないのか違和感が無いらしく、首を傾げる。彼には自分の様な口が無いために吐息が白くなる、ということもない。それ故に変化に気が付かなかったようだ。しかしミラはローブを纏ってはいても大体は自分と同じだ、それ故に感じた異変だった。

「あぁ・・・でもなんで、気が付かなかったんだ?」

首を傾げる。一番軽装なのは自分で前を歩くのも自分だ。なら真っ先に気が付かないことが変に思えてならない。しかも頭の奥が風邪を引いた時のようにフワフワとしていることにも気が付いた。何なら少し眠いかもしれない。

「ルーク・・・私、なんだか眠く・・・」

気が付けば歩く速度もかなり遅くなっていた。酔っぱらいの千鳥足だってもっとマシだろう。そして後ろを振り向けばミラが今の自分と同じような状態でフラフラしているのが見える。しかし、不思議と焦りが湧かない。

「あれ、どうしたの、ミラ。それにルークも、なんか変だよ?」

唯一いつもと変わらない様子のプロトがそう言いながら近くに来るのを最後に意識が朦朧とし、足から力が抜ける。

「ルーク!?ミラ!?二人ともどうしちゃったの!?」

酷く驚いたような声を出すプロトの叫びが遠くに聞こえ、意識が闇に消えた。


「・・・ク!」

(なんだ・・・?)

深い意識の底、水底でその身を横たえて居るような感覚の中にいた。瞼は縫われた様に重く、手足も縛られたように動かない。唯一、耳だけが何かの音を薄っすらと捉えていた。

「・・く!ル・・、・・て!」

(うるさいなぁ・・・)

気持ちが悪いとは言わないが気持ちが良いわけでもない。何方かと言えば何かしようという気にもならない、まるで呑みすぎた翌日の朝だ。嬉しくない朝、想像もしなかったことに起こされる、そんな感覚だ。

「ルーク!」

(俺を呼んでいるのか・・・?)

次第に嫌でもハッキリとしだした意識、その中で自分の名前が呼ばれているのだと気が付いた。その瞬間引っ張り上げられるように意識が浮上する。

「うっ・・・なんだ・・・?」

「ルーク!」

固まり切った体と意識が強引に解かれ、呻いてしまう。しかし最初に覚醒した耳にプロトが嬉しそうに自分を呼ぶ声が聞こえた。

「プロト、か・・・?って、そうだ!?」

プロトを認識した瞬間に意識が完全に覚醒して、慌てて上半身を起こす。辺りは相変わらず薄っすらと明るい洞窟の中で、手に岩ではない感触がして見てみれば雪の様な物が積もっていた。

「良かったぁ!あ、ミラ、ミラも起きて!」

起き上がった自分に記憶通りのプロトが歓声を上げる。直後、思い出したようにミラの方、自分と同じように地面に倒れ込んでいる彼女を揺すり、声を掛け始めた。

「・・・何があったんだ?」

首を傾げて疑問が口から零れる。そうすればプロトが顔をこちらへ向ける。

「何だか分からないけど、このあたりに来たら二人が突然フラフラし出して倒れちゃったんだよ!寒いって言ってたからそこに火は着けたけど・・・起きてくれて良かったよ」

そう言って指さされた方には一応松明として持ってきていた木を薪にしたらしい焚き火があった。

「マジで何なんだ・・・?」

手を地面に着ければ氷が砕けた様な雪擬きが積もっており、先程まで眠っていたらしき自分の形に溶けて固まっている。意識は既にハッキリとして特に不調の様なものもない。精々肌寒いと思うくらいだ

「うぅ・・・あれ、私は・・・一体?」

「よかった、ミラも起きた!」

何があったのか考えているとミラが自分と同じようにして起き上がる。まだ意識がハッキリとしていないのか寝ぼけ眼、といった感じだった。


「そうだったのですね・・・ありがとうございますプロトさん」

「ううん、気にしないで。二人とも無事で良かったよ」

自分と同じような説明を受けたミラが頭を下げる。しかしプロトは謙遜するだけだ。

「いや、プロト、お前がいなかったら多分死んでた。だからありがとう。胸を張れよ」

プロトの背を軽く叩く。彼はそれに少しだけよろめき、その時にずれた帽子を直す。

「わっ!っとと・・・でもルーク、ボクは火を着けて二人を起こしただけだよ?」

「それが助かった、って言ってるんだ。良い事をして、褒められたらしっかり受けとっとけよ。じゃないと良い様にされちまうぜ」

彼の純粋さや謙虚さは好ましいがそれが当たり前に振りまかれるだけなのは良くない。きちんと、やった事に対しての報酬が無ければならない。

「う、うん。分かったよ。どういたしまして」

まだちゃんと理解は出来ていない返事ではあったがプロトは素直に頷き、ミラと一緒に改めて彼に感謝を告げた。


「さて、体も暖まったし先に行くか・・・しっかし、なんで倒れるまで気付かなかったかなぁ・・・」

首を傾げる。今思えばかなり奇妙な事だ。流石にこれ程の温度と環境なら先に気が付かなければ変だ。なのに一切気にすることなく前に前にと進んで倒れてしまったのは何かの作為を感じられる。

「なにか、仕掛けがあるのでしょうか?」

それはミラも同じなのか小首を傾げる。

「そうなの?ボクは良く分からないけど・・・」

プロトはやっぱり気になることは無いのかミラとは別の感情で首を傾げた。

「あぁ・・・まぁ、あるとすればこの先、だな」

そう言って目線を向ければ少しの登り斜面の先、何やら開けた場所へと通じて居そうな形をしている。そこからこの雪擬きが吹き込んでいるように思えた。

「警戒していこう。何か特殊な仕掛けか、魔物が居るかもしれない」

右手に持つ双刃剣に力が入る。そして隊列を組み直して坂の上へ踏み入った。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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