20話
「という訳なのです。今まで隠していて申し訳ありません」
ミラは此処に来るまでの経緯と自分の本来の立場含めて全てを口にして、更にはフードを取ってプロトに頭を下げた。自分も所属や、やった事を話すことになり、ミラと同じようにプロトへ頭を下げた。
「あ、あの・・・頭を上げてください!それにボクは別に怒ってはないよ!?」
酷く慌てた様なプロトの声、そして言われた通りに頭を上げれば手が取れてしまうのではないかと思うほどに両手をブンブンと振っており、彼の目も珍しくパタパタと瞬いていた。
「許して、くれるのですか?」
頭を上げたミラがやや困惑しながらそう聞き返せばプロトは縦に大きく、何度も頷く。
「う、うん。お姫様だったのはびっくりしたけど、ボクは怒ってないよ。勿論ルークもね。やっぱりあの時の剣劇の人だったんだ!ボクはあんな風には動けないから、見ててすっごく楽しかったよ!」
ズレてしまった帽子を直し、こちらに向き直るとプロトはそう言ってくれる。申し訳ない気持ちも有るが、そう言ってくれるのは純粋に嬉しさもある。やっぱり良い奴だと思わされる。
「悪い。だけどありがとうな、プロト。それで、どうする?此処まで来て言うことじゃ無いのかもしれないけど、俺たちと来てくれるか?勿論、戻って別の方に行きたいなら最低限、一人でも行ける道まで俺たちも戻るよ」
未だに飛び跳ねる様にして喜びを露わにするプロトに問いかける。理由は有れども不誠実なのはこっち、彼が別れたいと言うならそれを助ける義務がある。特に彼は悪人ではなく、本当に最初から巻き込まれただけだ。
「?いや、ボクは二人と行くよ。どうせ行く場所も無いし・・・それに帝都に家が有るわけでもないから、戻ってもスラムに戻るだけだしね」
夢から醒めてしまったかのように肩を落とす。そんな彼にどう答えたモノかと考えているとミラが前に一歩出て、プロトに視線を合わせる。
「プロトさん、私がルークにあなたの同行を頼んだ理由は・・・申し訳ありません。まだ、まだ、誰にも話すわけには行かない事で、私の存在を秘密にしていた事を謝罪しておきながらまだ、隠し事が有ります。それはこの逃亡の理由で、確証はありませんが貴方の生まれについてのことでもあります」
ミラがプロトの手を取れば彼も下へ落としていた目でしっかりと見つめ返す。彼女が口にした事は自分も知らない事で、生まれ、というのは自分も酷く引っかかった。しかし口を挟むわけにもいかず、どこか疎外感を感じながらも固唾を飲むようにしてグッと堪える。
「もしかしたら、貴方にとって、酷く悲しい結末かも知れません。それを隠しながら自分の目的を達成しようとする私もまた、悪辣でしょう。しかし、必ず、私はこの世界をあの母の思い通りにはさせたくないのです」
「姫様・・・」
ミラは何処か泣き出しそうな、それでも確固たる決意が秘められた声でプロトへ語り掛ける。プロトもそれに思うところが有るのかジッと動きを止めたままだ。
「どうか、私と共に、来てはいただけませんか?」
そしてミラは最後に、ただ真っすぐにプロトへ懇願した。
「あ、あの・・・ボクは、さっきも言ったけど、どうせ行く場所は無いし・・・二人に怒ってもないよ・・・だからそんな頭を下げなくていいよ。うん、気になる事はあるけど・・・今は話さない方が良いんでしょう?ならそれでいいよ」
プロトは迷子のような声音で困惑しつつも、なんの負の感情も感じられない声で返事をする。彼の純粋な優しさがそこにはあった。
「・・・良いのですか?」
「うん。帝都から出ちゃったのはボクの不運だしね。それにこれも何かの縁だよ!それに着いていけばボクの事を教えてくれるんでしょ?」
ミラが恐る恐るという感じで顔を上げるがそこにはやっぱりなんの衒いもないプロトの顔が有るだけだった。
「よし、なら話は此処までにしようぜ!」
沈黙を破る様に少しだけ声を張る。これ以上は時間が勿体ない。何せまだ安全な場所に居るのではなく、洞窟の前で休憩しているだけだ。大事な話をしていたとはいえ、それに夢中になって周囲の警戒すら疎かにしていたのは迂闊としか言いようがない。
「あ、そうだね!もう中に入っちゃうの?」
「あぁ、そんで抜けるまでは洞窟暮らしだな。ま、あんまり時間は掛からないと思うけどなぁ・・・なにせ逃走通路だからな」
「えぇ、貴族が通る、というのであればそこまで難解なモノではないと思います」
ミラが同意する。とはいえ普段使われているわけでもなければ、忘れられていても変ではなさそうに見えてしまうこの洞窟は個人的には不安要素の塊だった。手入れされていない道は当然だが危険が蔓延っている。
「そっか、なら兎に角入ってみない?・・・そうだ、ボクもこれからは姫様って呼んだ方が良い?」
プロトがミラの方を見ながら小首を傾げた。
「いえ、ミラで結構ですよ。ルークもこれを機に、私の事はミラ、と呼び捨てにしてくださって結構です」
「そう?じゃぁミラって呼ぶね」
「ま、確かにどっか行くたびに名前替える位ならそっちの方がいいか。じゃ、改めてよろしくなミラ、プロト!」
彼女の提案をそのまま受けて呼び捨てにする。自分切っ掛けでミラの話が始まった時はどうなるかと思ったが結果として仲間の空気が良い形に固まったのは嬉しいことだった。もし、これで相手が悪党よりの思考をしていたら、それこそスラムで長く生活していてプロトが擦れていたら厄介なことになっていた。本当に運がいい。
「よし、早速中に入ってみるか!隊列は・・・プロト、悪いんだけど最後尾でも良いか?」
「うん、大丈夫だよ!」
流石に前には自分が行かなければならない。そして自分たちは今、仲間だが同時にミラを守り切ってアスケラに行く必要がある。なら彼女を真ん中にせざるを得ない。
「じゃぁ、後は姫さ・・ミラが真ん中だ」
「はい」
思わず姫さんと言いかけて直す。なんとなくこそばゆさが有るのは不思議だが振り払って続ける。
「ミラは基本的には俺の背を追ってくれれば良い。プロトは時々でいいから振り返って音を聞いてくれ。もし不自然な音がすれば教えてほしい」
「うん、わかったよ」
「はい。それと・・・言っていなかったのですが、私は聖魔法が使えます。なので怪我をしたら言ってください。そう何度もは出来ないのですが・・・」
「聖魔法!?初めて見たぜ!?」
「・・・?凄いの?」
ミラの言葉に驚く。同時に良く口にしたもんだとも思ってしまう。
「凄いなんてもんじゃないぜ!ほとんどおとぎ話みたいなもんさ。もし使えるなんてバレたら国に引き取られて一生、外に出られない、なんて話だ!希少だし、怪我や病気を回復させられるんだ!凄いだろう?」
「へぇ~そうなんだぁ・・・」
自分の興奮にプロトが気圧されたような声を出す。
「はい、なので私に母も執着するのだと思います・・・」
ミラが顔を曇らせる。どうやら何かあったらしく、スッと興奮が冷めていく。
「悪い、なんか声が大きくなっちまった」
「あ、別に気にはしていないのです。兎に角、これからは私も、少しでも足を引っ張らないようにと思いまして・・・なので気にしないでください。喜んで貰えるなら何よりです」
助かった、そう思って息を吐く。同時に彼女の申し出はかなり有難い。欠点もあるが緊急時に命を長らえさせる手段が有るのはかなり嬉しい。それも一番守るべきと認識している相手なら態々考え方を変える必要もない。
「そっか。なら、今度こそ行こう」
背の荷物を背負い直し、何が有っても良い様に双刃剣を握りしめて、洞窟へと踏み入った。
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