19話
洞窟を探し始めるとは言うものの、手分けして探すことはしない。土地勘が無いところで別れて行動するのはあまりに危険だ。おまけに平地よりも遥かに魔物の数が多くなるのだから尚の事だ。
「お、道っぽいのがあるな」
山に少し入った辺りで何か手がかりのようなものが無いか見まわしていると雑草が僅かにではあるが禿げて、土が見えるような状態になっている場所があった。勿論只の獣道という可能性もあるが何かが通るならその先に何かしらある可能性は高い。
「?・・・道?」
指を差しながら振り向いてみれば、自分の指先を見たプロトが首を傾げる。それはミラも同じなのかあまりピンと来ていない雰囲気だ。
「ほら、見てくれ。此処まで来た所と違って雑草の間に土が一本出来てるだろ?」
「あ、ほんとだ!ルークは凄いなぁ!」
後ろから覗き込んだプロトが軽く飛び跳ねる。プロトは素直に感情が出やすいのか良く体ごと動く。表情だけでは全然分からないが全身と言葉を含めて見ればかなり分かりやすい。おまけに何処か兄を褒める幼い弟のような雰囲気があってこそばゆい。しかし悪い気はしない。
「ま、これが正解かは分からないけどな!行ってみようぜ」
そして進路を獣道に替えて山の奥へと向かう。同時に手に持つ双刃剣を握り直した。もう此処から先は完全に森の中と同じだ。何時敵襲があっても変ではないし、この道を使っている奴が居るはずだ。油断は出来ない。
双刃剣を鉈代わりに振りながら邪魔な草を掻き分ける。どうやらこの道を使うのは背が低い、或いは四つ足のような相手らしく、目線の高さには時々邪魔になる草や木の枝が伸びてきていた。面倒だが後ろの二人がスムーズに歩けるように最低限は刈りっていく。
「ん・・・ちょっと止まってくれ」
暫く進むと林の様にある程度隙間が確保された場所に出た。どうやら入口の方が陽を浴びやすいからか背のある草が茂っていたがある程度奥に踏み入ると背が高い木が増えて逆に草が減った。こうなるとこちらからも警戒しやすくもなるがそれは魔物も同様だ。もし見つかれば十中八九襲ってくるだろう。
「どうかしたのですか?」
周囲をじっくりと見ながら森の時の様な罠型の魔物が潜んでいないかじっくりと探していると息を整えたミラが寄ってくる。
「あぁ、あの時みたいに奇襲してくる奴が居ないか見てたんだ」
「・・・成程、これは只の興味なのですがどうやって探しているのですか?」
ミラは自分と同じように周囲を警戒する様に顔を左右に動かす。
「ん~そうだなぁ・・・俺は違和感を探してるかなぁ・・・」
「違和感、ですか?」
「あぁ、例えば・・・この木に引っ搔いたような傷が有ったら変だろ?そんな感じに何かが行動した結果、出来たものを探してるんだ。それこそ枝の折れ方一つとっても風で折れたのと魔物が通って折れたのじゃあ、大きな違いがあるんだ」
「そうなのですね・・・それは、私でも分かる物なのでしょうか?」
「あぁ、出来ると思うよ。俺でも出来るしな。正確に、ってなると難しいかも知れないけど、違和感を掴む程度ならそんな難しく無いからさ。休憩がてら教えようか?」
そう聞けばミラは頷く。
「ボクも聞きたい!」
ミラの反対から今の話を聞いていたプロトが続き、それに二つ返事で答えてやる。やっぱり弟が出来た様な気分で中々に悪くない。
そうして簡単に意識する場所を教えながら休憩した後、再び洞窟を探す為に歩き出す。流石にある程度開けてしまうと道らしきものは消えてしまい、辿った道を使っている存在の行く先もバラけてしまっているようだった。それでも視界が開けている方が大事で気にはならない。
「来たか」
順調に進んでいた足を止めて荷物を直ぐに下ろす。耳には低いうなり声、間違いなく警戒、或いは威嚇と思える声が聞こえた。
「プロト、魔法の準備だ。俺が合図したら撃ってくれ。基本は俺が対処するけどな」
「う、うん。任せて!」
あまりにも数が居ればプロトの魔法を頼るがそうでないなら自分が処理する方が手っ取り早い。特に魔法は発動まで多少時間が掛かる。今のプロトの反応から戦闘には不慣れなのが良く分かるだけに最初から頼りにするのは良くないだろう。
「ラミィはプロトの近くから離れないでくれ。そうすれば最悪プロトの魔法が何とか出来るはずだからさ」
「・・・はい」
ミラが深く頷く。しかしどこか躊躇う様な感じがしたのは気のせいだろうか。しかしそんな疑問は直ぐに頭から消えた。魔物の足音がこちらへ猛スピードで迫ってくる音がした。
現れたのは長い茶色の毛に覆われた四本足の魔物だった。獣種の中で忠毛族等に良く似た魔物だ。最も彼らにそう言うとやや不機嫌そうな顔になるので直接言いはしない。顔からやや突き出した形をした口からは鋭利な牙が何本も見える。手足は太く、山を根城にする魔物らしい。今は隠されているようだが爪もあるだろう。
魔物は何度も鋭角に曲がりながらこちらを揺さぶり、狙いを付けていく。動きを追う限りは自分を狙ってくれているように見えるが下手を打つと後方の二人へ狙いを付けるだろう。それは避けたいところだった。
「・・・・」
立ち位置を細かく替えながら魔物と目を合わせ続ける。そしていつでも飛び出せるように腰は落として双刃剣は体の後ろへ振りかぶる。次の瞬間、一気に速度を上げた魔物が飛び掛かってきた。
緩急のある動きは目で追ってから体を動かすまでに僅かに遅れが出てしまう。しかしそれ自体は織り込み済みだ。体の向きを敵へ合わせながら武器を振り上げる。そうすれば固いもの同士がぶつかる音と確かな重みが手に伝わる。但し払いのけられない様な重みではない。直ぐに全身をバネの様に動かして払いのける。
「くらえ!」
払いのけると同時に体を回しながら前へと進んで、右の踵を魔物の頭へ蹴りぬく。魔物は自分の爪とぶつかった双刃剣の方へと集中していたのか踵は吸い込まれる様にこめかみの辺りに突き刺さり、敵の体勢を崩した。
回転の勢いを殺して半身、最初の体勢に戻ると同時に体勢を崩した魔物を仕留めるために駆ける。運よく急所に刺さった事もあって魔物は頭の中が揺れている様に見えた。その絶好の機会を逃すわけには行かない。
左足で踏み込む。そして手の中で回した双刃剣を首に目掛けて振り切れば魔物は抵抗することも無く、首が離れた。
「ま、こんなもんだな」
肩に双刃剣を乗せて息を吐く。首を落とされた魔物は地を赤黒く染めながら横たわっている。直に血の匂いに釣られた魔物たちが寄ってきて死体を処理するだろう。
「わぁ、ルークは強いんだね!・・・あれ?でもやっぱり似てるような・・・」
プロトの興奮したような声が聞こえて振り向けば、その場で幼子の様に飛びはねる彼の姿があった。そして同時に一度はぐらかした彼の記憶が蘇ってしまったらしく、小首を傾げられてしまう。確かにショーの時と同じように双刃剣というやや珍しい武器なことも有って誤魔化しきるには難しかったかもしれない。ましてやそこに格闘技も混ぜているのだからダブって見えるのは当たり前だ。違いが有るとしても実戦の方が華やかさは少なく、アドリブが多いことぐらいだろう。
「まぁな。さて、早く洞窟を探そうぜ。流石に此処じゃ寝られないしな」
とはいえプロトの疑問にはまだ答えてやるわけにはいかない。最低限、ミラの了承とプロトへの信用が必要だ。それに条件が整ったとしてもこんな場所で話始めるのはただ危険なだけだ。大きな音がしただろうし、死体迄ある。そんな所で無暗にうろつき続ける訳にはいかない。早く洞窟を見つけ、最低限襲撃の方向を絞って休めるようにはしておきたい。
「ラミィも行けるか?」
「はい、問題ありません」
彼女が頷く。なら問題は無い。まだ小首を傾げるプロトの頭を軽く叩いて現実に戻してやると荷物を担ぎ直して再び山の方に向けて歩き始めた。
それから山肌に沿うようにして歩きながら洞窟らしき穴を探していると突然に大きな横穴が姿を現した。
「お、これじゃないか?」
洞窟の前にまで駆け寄り、二人にそう声を掛ければ洞窟の中からも反響した声が聞こえた。かなり深さもありそうで直ぐに行き止まり、或いは何かの巣という可能性は引くそうに思えた。
「わぁ・・・ほんとに洞窟があった」
「そうですね・・・」
追いついた二人も洞窟を興味深そうに眺める。とはいえ先は暗く、見えはしない。
「おーい、二人とも、一回休憩ついでに作戦会議しようぜ」
背の荷物を下ろし、洞窟の入口からやや離れた所に陣取る。可能なら山肌を背にしたりしたいのだが万が一落石の類が起こった時に逃げられなくなってしまう。それなら全員で円を描いて座った方がよっぽど警戒しやすい。そして三人で荷物を中心に置き、背凭れにして座り込む。
「さて、此処からは地図がない。まぁ、逃走通路ってことを思えば難しくは無いと思うけどな」
「?逃走通路、ってどうゆうことなの?」
プロトが自分の言葉に首を傾げた。まぁ、それも無理はない。彼にはそもそも洞窟を抜けてアスケラに行く、としか言っていないのだ。ここまでルートに一切のツッコミが無かったのも彼が帝都から出たのが初めてだからだ。徒歩で他国に行くなどまず無いことだとしても本来こんな道なき道を通るわけがない。要するに言葉選びを間違った。
「あぁ・・・そうだなぁ・・・ちょっと待ってくれるか?」
「?・・・う、うん」
歯切れ悪くそう言ってミラの袖を引いてプロトと少しだけ距離をとった。
「・・・姫さん、すまん。どうする?誤魔化すのは多分出来るけど」
プロトは純朴と言えば聞こえは良いだろうが言い換えれば世間知らずだ。ここまでの歩みに何一つ疑問に思わなかったのだからここも誤魔化すのは簡単だろう。ただ、何かの拍子に疑問と不審の芽が芽生えればそれが不和を作る可能性がある。何よりアスケラまではまだまだ距離が有る上に危ない橋を渡らないとは言えない。であれば誤魔化し続けるのは不義理なうえ、時間が掛かるごとに当然難しさを増してしまう。
「あの・・・私は、プロトさんに話してしまっても良いと思っています。勿論、リスクは有るのでしょうが・・・それでも、彼が悪いモノには思えませんから」
そう口にするミラの顔は見えなかったが、たどたどしくも芯を感じられる口調は既に事情を彼に話す方向で決まっている様に感じられた。
「そっか・・・なら早くに言っちまうか。どうする?俺が喋っていい?」
「・・・いいえ、私の方から伝えようと思います。それが既に巻き込んでしまった彼に対する私にとっての謝罪です」
そうハッキリと口にしたミラは顔を上げてプロトが待っている方へと振り返った。
「プロトさん」
「あ、どうしたの?」
「お話したい事があります」
近くに戻ってきたミラはプロトと向き合い、自分の本当の名前と、真実の経緯を口にした。
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