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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
一章 〜ルークと帝国の姫君〜

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13話

「走れ走れ!追いつかれるぞ!」

聞いたことが無いくらい必死な声でアッシュが叫ぶ。いつもなら飄々とした雰囲気の兄貴分も今はその面影もない。そしてアッシュの言葉通りに自分たちの後ろからは死が迫っていた。

均されていない森の道は今にも自分たちの足を絡めとろうとしているかのように入り組み、主を殺した不届き者を次代の栄養にしようと脱出を阻んでいた。一度は通った道だが逆から見るとその景色も様変わりしてしまう。

激しい戦闘の後の全力疾走、何方かだけでも息が荒くなることは間違いないのに突然に両方やることになってしまった。お陰で心臓が今にも胸を突き破ってしまいそうだ。それに加えて今は背中にミラを乗せていることもあって足が重い。しかし他の二人に彼女を背負わせるわけにはいかなかった。

アッシュは先導、オリヴァーは自分より力があるが鈍足、必然的に自分が背負ってしまうのが一番バランスがいい。武器だけはオリヴァーに持ってもらい、3人で元来た道を必死の形相で走る。

「魔物も追ってきやがった!」

最後尾のオリヴァーが叫ぶ。走るのに夢中だったが魔物が来ているならその動きにも目を配らなければ危ない。周囲へ視線を向ければ確かに草木が不自然に揺れ、津波のようになって自分たちを追いかけてきていた。彼らに絡まれれば生き残るのは絶対に無理だ。彼らは森と共に生まれ、森に従い、森と死ぬ。そういう存在が自分たちを追っている。久方ぶりに感じる死の恐怖に喉が引き攣りそうになり、唾をグッと飲み込んで抑え込む。


額からは汗が滝のように流れ落ちる。もう後ろは振り返らない。オリヴァーに背中を完全に任せ、前を走るアッシュの背中を見据えて走り続けているとようやく森の入口に近づいて来たのか徐々に木々の間から明かりが差し込むようになった。道も幾分走りやすくなりクッションの利いた地面を推進力に替えて走る。

「船の音だ!」

前を走っていたアッシュが本人の耳に聞こえた吉報を大声で口にする。どうやら待っていた家族たちも森の死を悟り、出発の準備をしていてくれたようだった。森の死は既に自分たちを捕まえる寸前と言ってもいいほどに迫っているにも関わらず、待つ判断をしてくれたボスと指示に従って耐えてくれている家族に恐怖で引き攣っていた口角が歓喜に変わる。そして最後のひと踏ん張りと気合いの入った心は棒の様になってしまった足に活力を戻す。

「オオォォォイ!!!急げぇ!!!」

墜落で切り開かれた森の入口、そして遂に見えた船の全身、その甲板ではボスが手を大きくこっちに振る姿が見えた。その表情は遠目にも焦りと歓喜が混じった表情で随分と心配させてしまったと感じる。船は既に離陸を始めており、側面には兎に角掴まる為の布やロープが幾つもぶら下げてあり、その上では家族たちがどれを掴んでも大丈夫なように待っていてくれていた。

「気合い入れろぉ!」

アッシュの激励が飛び、その言葉通りに全員が足の回転を速める。そして完全に浮き切った船の側面に回り込み、勢いをつけて地面を力強く蹴り抜いて、目の前のロープを右手で握りこむ。

「お前ら、しっかり握ってろよぉ!アンガスは速く飛び上がれぇ!巻き込まれるぞ!」

背中にいるミラと自分の体を支えるために急いで右手へロープを腕にぐるぐると巻いていく。ミラの分、重さは増えているのに片手で掴まなければならない。その為の苦肉の策だ。当然腕にロープが食い込み、上昇する船の勢いで腕に負担が増えていく。顔を顰めるほどに痛むが死ぬよりはマシと奥歯が砕けるほどに噛んで耐える。

「堪えろ!」

アッシュの声が横から聞こえる。そして両側からアッシュとオリヴァーが片手でミラの背中を支えるように押してくれる。お陰で痛みが大分マシになった。甲板からは自分たちの紐を引っ張る声と激励が雨のように降ってくる。その声を頼りに痛みに耐えながら船の側面に足を着けて上昇に合わせながら歩く。

「ははは、何とかなったなぁ!」

横で同じように壁を登るアッシュが嬉しそうに笑う。しかしその顔は雨に降られたのかと思うほどに毛並みがしっとりとして、土ぼこりに塗れていた。

「な、なんとか、な」

腕の痛みを堪え、口端を引き攣らせながら笑い返す。アッシュと同じように額には脂汗、髪の中も酷いことになっている。全身はここまで走った汗でぐっしょりと濡れて服も肌に張り付いて気持ちが悪い。

「・・・なかなかゾッとするな」

アッシュが居る方とは逆、いくらか乱れた息を吐きながらオリヴァーが呟く。その声に釣られて下を見れば森はその姿を一気に様変わりさせている。

「確かに、な」

森はかつての緑を一切残さず、そのすべてが灰のような色へと変わり、というか本当に灰になったかのように見えた。木々は力を失ったように根元から我先にと崩れ落ち、枝の先端からもどんどん葉が枯れ落ちちながら、枝すらも巻き込んで灰に変わっていく。船が居た場所まで追いかけてきていた魔物たちは既に力尽き、周りの灰に埋もれるようにして土塊へとその姿を変えてしまった。火事があったわけでもないのに、まるで燃え尽きた後のような容貌となった森は、言い伝え通りなら暫くの時をおいて再び主と共に元の形に似た森へ戻るはずだ。勿論、そこを寝床にしていた虫や小動物に鳥の類までが戻ってくるかは分からない。それなりに時間がかかるだろう。とは言え、そこを気にしてやる余裕はない。

「おい、下ばかり見てないでサッサと甲板に戻ろうぜ。落ちたくないだろ?」

アッシュの言う通りだ。まだ助かっては居ない。ここで紐が切れたり気力が尽きれば折角の努力が無為に還ってしまう。痛む腕に力を籠め直すとゆっくりと引っ張られるロープに合わせて船の側面を登っていく。


「生きて戻ってこれたぁ!」

甲板へと4人無事に戻る。流石に緊張の糸も切れて倒れ込んでしまい、一歩も動けそうにない。耳には自分たちの帰還を喜んでくれている家族の大歓声がよく聞こえる。

「お前ら、良く戻ってきた。姫さんも無事か?」

「あぁ・・・見ての通りだよボス。ただ、魔力を吸われたのか、ぐったりしてるんだ。まぁ、俺が言えたもんじゃないけどな」

ノシノシと歩いてきたボスに体を甲板に伏したまま、そう伝えるとボスは周囲に居た医療班の人間を呼びつける。

「まぁ、お前らも一緒に診てもらえ。どうせ暫くは空だ。っつてもあまり飛べはしねぇが」

見えはしないがボスが頭を掻いたような音がする。声音的にも参った感じがあり、どうやら船はそこまで無事とは言い難かったらしい。とはいえ墜落してから一晩で飛べただけマシ、むしろ飛べるようにしたアンガスとその仲間を褒めるべきだ。

「わかった。つぅ・・・」

安堵と共に疲れが一気に吹き出した体は、甲板に根を張ってしまった。ミラは羽の様に軽いが自分の体は中に石を詰め込まれたと思えるほどに重く、いくら呼吸しても体に力が戻ってくることはない。なのに最後のロープで痛んでしまった右手が思い出したかのように痛みだし、最悪の心地だ。

「よぉし、お前ら持ち場に着けよ!んで何時落ちてもいい様に構えとけ!」

ボスが不吉な言葉を交えながら解散の指示を出す。しかし冗談とはとても思えないほどに切羽詰まったものがあり、周りの家族も皆、自分たちを置いて行動しだすのが足音で分かる。

「あ~後は、頼む、ぜ」

医療班にミラを渡す、というか引っぺがされて彼女が連れていかれた。そして自身もまた治療と休息の為に両脇にやってきた医療班に担がれて医療室へと連行されるのだった。

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