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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
一章 〜ルークと帝国の姫君〜

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11話

跳び込んだ森の中は鬱蒼としており、陽が何とか木々の合間から差し込む程度で視界が悪い。そして問題は視界だけでなく、自分たちの行く先を塞ぐように生い茂る天然の壁も間違いなく自分たちの足を遅らせていた。しかし幸いというべきか、よく見れば足元には獣道のようなものがあり、走ることはそこまで難しくはなく、先頭を駆けるアッシュが手に持った長剣で目の前を塞ぐ草や蔦を最低限切り払うことで奥へと進む。

アッシュの背を追いながらミラを連れ去った檻が抜けていった高さの辺りをジッと睨む。ミラを連れ去った檻は人が入っていることもあって、生い茂った森を抜けるには幅があって大きい。いくら彼らが森自身だとしても異物を持っていくのだから、その痕跡は僅かながらに残っている。

連れ去ったあの魔物はかなりの速度で強引に木々の間を逃げていったのを覚えている。それは自分の視界から外れても同様だったのか、奥へ逃げていく際に木々に着いた傷や折れた枝は森の奥へ向けて真っすぐに、道のようになっている。それどころか落ちた葉や不自然な折れ方をした枝が時折視界のやや上ぐらいの草の上に落ちてもいた。まるでミラを囮に自分たちを誘って一緒に飲み込もうとしているようにも思えた。しかしそれに怯えて足を止めるわけには行かない。


「来るぞ!」

先頭を走っていたアッシュから警告が聞こえた。それに合わせて足を緩めた直後、草木を掻き分けるような音が周囲をぐるりと囲みながら鳴り出す。警戒はしていたつもりだったが地の利は彼ら魔物にある。自分たちはいつの間にか囲まれていたようだった。

「背中は任せるぞ」

アッシュの声を背中越しに聞く。足を止めるのは博打と言えるが無視して走り抜けられる保証もない。少なくとも完全に囲まれていることは分かっている為に全員がその場で武器を抜き、最低限の視界確保のために周囲の草を切り払う。そして死角が無い様に全員で背中を合わせてからいつでも攻撃できるように目を周囲へ向ける。当然ミラが攫われた時のように上からの奇襲にも十分に警戒を払う。


ガサガサと揺れる草木から飛び出したのは葉がサンドウィッチのように向き合いながら幾重にも折り重なったような見た目の魔物だった。おおよそ自分の半分ほどの大きさで、目も耳もなく、木の枝のような細い足が6本生えていて小刻みに足踏みを繰り返す。体の大部分を占める大きな葉の表面には毛のような棘がびっしりと生えそろっていて、堅くは無さそうだが一度刺さろうものなら容易く折れて抜くのは困難だろうなと思った。もしかしたら毒のような物も持っているかもしれない、そう思えばけして侮ることは出来そうにない。そして何よりも数が多く、その姿形から周囲の草と混じってしまい見えづらい。最低限だったが自分たちの周りの草を切り払う時間が有って心底よかったと思える。


周囲を取り囲む魔物たちは暫くの間、互いの範囲外で風に揺れる葉のように揺蕩っていたが動き出さないこちらに痺れを切らしたように一斉に動き出す。それに併せて自分も一歩前に踏み出す。

向かってくる魔物たちは一指の乱れも無く、横並びでそこには個性のようなものが見受けられない。ただ上から伝達される意思を実行するだけの道具にも思えた。

綺麗に一直線に向かってくる魔物に対して双刃剣を横薙ぎに振るう。手に伝わる感触は酷く軽く、本物の葉と大差がない。目の前では引き裂かれた葉が宙に舞う。この葉っぱには触れないように前に出た分の半歩だけ後退する。切られた葉は急速に枯れて土に還っていくが宙にあるうちは何があるかわからず、踏み込み切れないのがもどかしい。

魔物たちは一瞬で切り殺される仲間の姿を一切認識していないと思えるほどに一心不乱に近寄ってくる。これといった攻撃手段を見せず、ただ群れて近寄ってくる姿は生を感じさせず不気味だ。しかし怯めば一瞬で飲み込まれてしまう。気味の悪さも殺すように武器を振るい続ける。


暫く無心で武器を振るっていると彼らも無限ではなかったのか自分たちの周りが元の倍程度に切り開かれた辺りで、全て地に還った。周囲は静けさを戻し、武器を肩に担いで息を吐く。

「全員無事か?」

「あぁ、怪我一つ無いぜ」

「こっちも大丈夫だ」

アッシュの声に軽く返事を返す。それにオリヴァーが続き、全員が無事に戦いを終えた事が分かる。

「強くはねぇが、構ってたら時間と体力が足りねぇ。急いだほうが良いんじゃないか?」

「そうだな。流石に全部は構ってられねぇな」

オリヴァーの言葉にアッシュが頷く。事実、手ごたえは無かったが時間は稼がれた。加えてこの先も奇襲にも気を使い続けなければならないとなれば先に精神が参ってしまうかもしれない。

「真っすぐ、魔物が来ても邪魔な奴だけ倒すぞ。前は俺、何かあればお前たち自身で道を広げて来てくれ」

アッシュの言葉に頷く。今もミラは1人で怖い思いをしているに違いない。ましてや自分のミスでそうなったのだから再び逸りだした心は彼女のところへ早くと叫ぶ。


森の奥深く、光が草木で蓋をされて闇の中を彷徨うような感覚を覚える。人の出入りがまったくない獣道は過酷さが増して犇めく木の根や名もない草が天然の罠として足を狙っていた。視界の高さの草はアッシュが最低限切ってくれるお陰で何とか片手で掻き分けられるが、遠くから奇襲を受ければ間違いなく反応が遅れるほどには茂っていた。湿気も多く、汗と混じり合い肌に服がぴったりとくっついて不快感が強い。

「邪魔だ!」

奇襲してきた魔物を切り払いながら悪態が口をついて出る。走っている間も自分たちの足を止めさせるように最初に戦った魔物や、よく似たタイプの魔物が次々に襲い掛かってくる。幸い、耐久性に難のある魔物ばかりで手こずるような事はないがそれでもストレスを感じないわけがない。

「結構、潜ったがまだか?」

オリヴァーが疲れを吐き出すようなため息を零しながら呟く。森がどの程度の規模なのかは知らないが、かなり深くに潜った実感はある。帝国領、それも帝都に近い森だ、徒歩で来るような距離ではなくとも森が広がってしまわぬように管理はされているはずで、規模も高が知れているはずだ。

「いや、もう目の前のはずだ。森の匂いがキツイ」

先頭のアッシュが鼻を動かしながらそう続ける。自分には分からないが鼻の良いアッシュがそう感じるなら間違いないだろう。

「あっちだ」

そして今まで真っすぐに出来ていた檻の通り道が不自然に曲がったような跡が見つかる。それを指させば他の2人も直ぐに反応して方向を替えた。


それから左程時間を置かずに辿り着いたのは森の中心と思える場所だった。不自然なほどに拓けており、森の中をドーム状にくり抜いた様な形をしている。

「・・・気を付けろ」

いつもより目を細めたアッシュが警告を飛ばす。しかしそんな事を言われずとも、全員が警戒を最大にまで高めていた。ここに入った瞬間から重い空気と見られているという感覚、そして何よりもここに近づくたびに強くなっていった甘ったるい匂いが充満していた。

「あそこだ!おぉーい!」

注意深く周りを見ていると空中にミラを攫った檻が吊るされていた。その中にはグッタリと横倒れになった彼女が見える。しかし声を掛けてみても彼女は身じろぎ一つしない。その瞬間に嫌な予感が頭をよぎるがそれを気にする余裕を消し去る様に足元が揺れ始めた。

「姫さんの下からだ!」

アッシュの言葉そのままに目を向けた瞬間、地面がひっくり返る。咄嗟に顔の前に左手を翳して目を守る。

「魔物か」

晴れた視界の先には巨大な花が咲き誇っていた。まるでホールケーキのような輪郭、大ぶりの花弁が六枚、毒々しい赤を纏い、表面に白い斑点がついている。花ならば中央に雄蕊や雌蕊がついている物だがそのようなものは無く、棘を巨大化したような歯の生えた大きな口がぽっかりと開いていた。そしてその中からは湯気のような物が噴き出している。おそらく匂いの正体もあれだ。

「・・・でけぇな」

眉を顰めたオリヴァーの言葉通りに目の前に現れた花はまるで建物のようなサイズ感だった。どうやって今まで埋まっていたのか疑問に思えるほどの威容はそれだけでこちらを圧倒する。

「まぁ、正面からやることもないぜ」

意気揚々と一歩前に出ながら肩に乗せた双刃剣に力を籠めて握り直す。自分たちは別にこの魔物を倒しに来た訳ではない。あくまでミラを連れて船に戻れば良い。

「違いない。つってもどうするか」

アッシュが肯定してくれるが悩まし気な声を出す。確かにミラが吊るされているのはかなりの高所だ。少なくとも羽でも無ければ届きそうには無かった。周りの木を伝って登れれば簡単に到達できそうだが下には魔物がいて、大きな蔓の腕がうねりをつくりながら自分たちを伺うように待ち構えていた。簡単には無視できそうにない。

「・・・爆弾なら幾つかあるぞ」

オリヴァーが懐から出したのは小さな爆弾だ。小さな樽のような見た目の中には爆結晶と呼ばれる人口結晶が入っており、ここに相方の火石を入れて暫くすると爆発する、という代物だ。この爆結晶は|燐火(サラマンダー)族と呼ばれる全身が火で出来ている者たちが作り上げたもので詳しい作り方は一切公開されておらず、また彼らが住む国の特産品だった。保存も効き、効果も手間の割には高いために人気が高い。輸出も豊富で戦闘に関わった事があれば大抵の人間が見たことがある。特に魔法が使えない戦士や騎士が所持しており、彼らに足りない火力と範囲を担う。

「お、ならあいつの口に落としちまおう」

口笛を一つ、ご機嫌に鳴らす。流石に武器でちまちま攻撃していては埒が空きそうに無かっただけに、最高の一手に見えた。

「ま、それしかねぇか。オリヴァーが爆弾係で俺とルークが囮兼、救出役だな」

アッシュが乗ったことで作戦が完全に決まる。オリヴァーも文句は無いようで頷いた。

「んじゃ、先行くぜ!」

作戦も決まり、背後の2人にそう言い残し、我先にと魔物に向かって一気に駆ける。そうすれば待っていましたと言いたげに魔物が吼え、全身を揺らしながら触手をしならせた。

良ければ評価、ブクマ等して貰えれば幸いです。

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