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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
一章 〜ルークと帝国の姫君〜

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10話

森の中はまだ夜の寒さで冷えており、隙間から差し込む朝日に葉っぱの朝露が光っている。どこか湿気て重みのある空気を漂わせ、土混じりの緑が鼻をくすぐった。足元は人の出入りが無いこともあって道らしきものは見当たらない。コケと剥き出しの土に小枝や葉っぱが所せましに折り重なっていた。

(特に足跡もないか?)

周囲に目をやりながら痕跡を探す。しかしこれといって不自然な窪みや擦れのようなものは無い。上に目を向けるが折れた枝も見当たらない。木々の間を通り抜けるのは風と蟲の歌程度だ。

「・・・」

ふと後ろへ目を向ければミラが興味深げに辺りをキョロキョロと見まわしており、まるで都会に初めて来たお上りさん染みていた。成程、自分も初めての帝都を歩いているときに周囲の住人には同じように見られていたのかもしれないと思う。これが都会なら彼女はスリにでも狙われただろう、そう思うほどには興味津々の注意散漫だった。

「そんなに珍しいか?」

あまりにも熱心に見えたものだから声を掛ければハッとしたように肩を揺らしたミラがこちらへ顔を向ける。

「あ、はい。・・・こんな風に外に出るのも初めてで、森というものは知っていましたが実際に目にするのとは違いますね」

そう語る彼女の声色は少しだけ弾んでいた。

「ふーん、やっぱり帝国の皇女さまとなれば敷物の上しか歩かないとかあるのか?」

「・・・そうですね。思えば私の歩く場所は全て何かしら敷かれていたかもしれません」

ミラは思い返すように小首を傾げる。冗談のつもりだったがどうやらあながち間違いでもないらしい。もしかしたら中庭に降り立ったことすら自分と抜け出したあの時が最初だった、そんな可能性が頭をよぎる。本当に生きてきた場所が違う少女だった。

「へぇ、ならやっぱりよくテントで眠れたなぁ」

「はい、・・・でも外に、ずっと興味が有ったので・・・晴れ晴れとはしているんです。テントも、あぁやって誰かと寝るのも、お話するのも本当に、楽しくて。自室のベッドでは一生、体の痛みも含めて、体験することはなかったと思います」

そう言いながら愉快気に肩を少しだけ揺らしながら微笑を漏らす。相変わらずフードで顔の大半が隠れたままで見えてはいないがそれでも彼女が楽しそうにしている事だけは声色でよく伝って来た。

「なら良かった。さて、一通り見たし、戻ろう。皆起きてくる頃だ」

周囲をぐるりと回って、元の位置に戻ってきた。これといった変化は無い。最低でも森に入らなければ危険はない、そう判断して彼女にそう告げる。視線の先には船が見えるほどに近い場所なだけに散歩どころか準備運動未満に思えるレベルだが自分たちは森に入りたくて此処に来たわけではない。互いに無関心、それが最も望ましい。

「はい」

ミラがそう返事をした瞬間だった。突然森がざわめいた様な気配がして咄嗟に後ろ、森の深部の方へと振り向く。同時に手に持つ双刃剣をグッと掴み直して構えた。ただ風が抜けて草木が擦れたにしては嫌な気配で、何かが自分達へと狙いを定めている、そんな感覚を掻き立てられた。しかし自分に向けられたのは完全なフェイントだった事を直後の悲鳴で悟った。

「ミラ!」

直ぐに振り返り、ミラがいた場所へと目を向けるがそこには既に彼女の姿が無く、大きな丸い影と紐のような細長い影が雨の様に浮かび上がっているだけだ。そのまま視線を上に向ければ、そこには先程まで無かった無数のツタが垂れ下がっており、周囲の枝がいくらか減って、茂っていた木々の間に不自然な隙間が出来ていた。そのお陰で陽が差し込んでおり、相手の姿が良く見えた。どうやら木の枝や葉に擬態していたのか自分の視線が彼女から完全に離れるのを待っていたようだった。どうやってなのかは分からないが確かに嫌な気配に釣られてミラへの意識が外れたその一瞬を相手は逃さなかった。そして肝心のミラは蔦の檻に捕らわれており、自力での脱出は難しそうに見える。檻の中で尻もちを着いた彼女は困惑と驚きを混ぜた瞳で自分に助けを求めていた。

「くそ!今助ける!」

舌打ちを一つ零す。同時に担いだ双刃剣を振り回して遠心力を確保しつつ、垂れ下がる蔦へと振りぬく。しかし蔦は切れてもミラを入れた檻は羽が生えたかのようにどんどん上へと昇り、そのまま森の奥へと逃げて行ってしまう。

「ミラ!!」

自分を邪魔するように降りてきた蔦を切り払いながら彼女の名を呼ぶがそれで相手が止まることなどなく、無情にもその姿は薄暗い森にその姿を消してしまう。最後に見えたのは自分と同じように右手を隙間から伸ばした彼女の姿と絹が裂けるように自分の名を呼ぶ声だけだった。


「どうした!?」

ミラが連れ去られ、姿が見えなくなると同時に船のほうからアッシュの声が聞こえ、足音が続く。

「ミラが森の魔物に連れ攫われた!俺のせいだ!」

近くの木を力一杯に殴る。手に痺れるような痛みがはしるがそれは頭の熱と胸を占める焦燥感を紛らわしてはくれない。今にも胸が張り裂けてしまいそうで、噛みしめた奥歯に力が入る。

「なんだって!?ボス!」

近くに来たアッシュが事態の把握と共にボスを大声で呼ぶ。そうすれば直ぐにボスがオリヴァーやアンガスを連れて走ってきた。

「何があった?」

寝起きだからか、いくらか枯れた声だった。それでもどっしりとしたボスの声は今にも飛び出しそうな自分の足をギリギリで止めてくれる。そして大きく息を吐いてからボスの方へと振り向く。

「ごめん、ボス。さっきまで一緒に歩いてたんだけど、森の奥から嫌な気配がして俺がそっちを見た瞬間にミラが森の魔物に攫われた!今すぐに追わなくちゃ!」

口を開いた瞬間に焦りが心臓から溢れ出し、捲し立てるようになってしまう。しかしボスは閉じた口を曲げて片方の眉を吊り上げると一瞬だけ間を作り、腕を一旦組んで一つため息を吐く。その直後、顔を引き締めて近くに詰め寄っていた自分の頭に拳を振り下ろした。

「落ち着け」

鈍い音と重い衝撃が頭の中で反響しながら視界はチカチカと光る。焦っていた所に痛みが加わって、怒りが吹き出しそうになったが目の前にいるのは自分の父親のような存在で団のボスだ。怒鳴りそうな口を無理矢理に噤み、ボスの言葉を待つ。

「よし、良いか?」

一旦の落ち着きを取り戻した自分を見たボスがいつものテンションとゆっくりとした口調で疑問を投げかけてきた。それに渋々の表情で頷けばそのまま言葉を続ける。

「一旦テメェへの罰は後にする。まずは姫さんの救出だ。つっても大人数は出せねぇ。下手にやれば被害が増える。後、脱出の準備も疎かに出来ねぇからな」

そう言いながらボスが考え込むように頭の後ろをガシガシと掻く。そして再び口をへの字に曲げ、目線を上に向けた。それを見ながらジッと、口を結んで待つ。ほんの僅かに冷静さが戻ってきた頭だがそれでも足は今にも走りだしてしまいそうなままだ。

「ルーク、アッシュ、オリヴァー、お前たち3人で姫さんを追え。姫さんを連れ去ったのは森の魔物だろう。姫さんは精霊種、奴らにとっちゃご馳走みたいなもんだ。つっても人間みたいにバリバリ食うことはねぇ。急げば間に合う。姫さんの血統なら魔力も豊富だろうからな」

成程、あの魔物はミラの魔力に釣られたのか。確かに彼女の生まれを思えば理解出来ることだ。精霊種の頂点、その血筋は魔力を原動力にするようなタイプの魔物にはさぞかし美味しそうなものに見えただろう。

「あぁ、絶対に連れ戻す!」

右拳を左手の平に叩きつけて握りこむ。そうしていないと再び木でも殴ってしまいそうだった。

「それとアンガス。いつでも飛べるように整備班を叩き起こせ。森に喧嘩売るんだ、何があるかわからん。帝国の追っ手のこともある、こいつらが帰ってくるまでに無理矢理に飛ばせるようにしろ」

「人使いが荒いでやんす!」

アンガスは抗議するように両手を上げたが団長の「出来ないのか?」という煽り交じりの口調にプライドが刺激されたのか両手を振り回して力強く「出来るでやんす!」と返してしまう。とは言え、彼は本当に出来ないなら、この状況でも無理だと言ってのける奴だ。何なら「姫さんなんかどうでもいいでやんす!それよりも俺っちの船の方が大事でやんす!」まで言いかねない。だから実際は抗議のポーズに過ぎない。勿論、負担は掛かるが無事に無理矢理やってくれるようだ。

「よし、動け!」

ボスのその言葉と共に体を反転させ、双刃剣を掴み直すとミラが連れ去られた方へと体を向ける。

「ルーク、逸るなよ」

直ぐに飛び出そうとした自分の頭に手をやったアッシュがそう呟き、左肩をオリヴァーが掴んだ。

「良いか、詳しく知らない森だ。迷子で終わりたくないだろ?」

「そうだ、こういう時はゆっくり、だ。焦って俺たちも死ねば何にもならねぇ」

「・・・悪い」

ボスにも焦るなと叩かれたにも関わらず直ぐに焦ってしまった自分を兄貴分たちが宥める。しかし胸を占める焦燥感とやってしまった、という感覚が減ることはない。それでもギリギリで踏みとどまれた。

「ま、安心しな。大体の予測は着く、俺が先頭だ。オリヴァーお前は最後尾。ルーク、お前は奴らの通り道を探せ」

アッシュが自分の鼻を得意げに差しながらそう指示する。つまりアッシュの鼻がミラの匂いを辿り、自分は奴が通った際に出来た傷を探せ、という指示だ。オリヴァーは全体を何となく把握しながら見落としを探る役目になることは容易く想像が着く。そしてそれ以上の策は自分の頭に浮くことはない。

「なぁに、帝国から攫えたんだ、森の化け物から攫えない訳ないぜ。むしろ本当の泥棒ってもんを見せてやろうじゃねぇか」

そう言ってニヒルに笑うアッシュに逸った心が改めて少し落ち着く。そして食いしばっていた歯を緩めていつもよりも深く、深呼吸をする。息を吐くごとに肩に感じるオリヴァーの分厚い手がより感じられ、安心感が湧き出す。冷静、そう呼べはしないだろうが、もう勝手に走り出さない程度には落ち着きが戻ってきた。

「・・・そうだな。ありがとう、もう大丈夫だ」

そう言えばアッシュが口角を上げ、オリヴァーが手を離す。

「よし、行くぜ!」

アッシュの声と共に全員が顔を引き締める。そしてやや早足に森の奥、ミラが攫われた方へと駆けだした。

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