S級パーティーの荷物持ちだけど、パーティーメンバーが全員死んで戦利品だけが残ってしまったので、安全のために南の島に避難しました。
突然だがパーティーメンバーが全滅した。
そりゃあ王国中大パニック。歴代の勇者パーティーと引けを取らないS級パーティーが全滅とあっては王国民は穏やかじゃいられないだろう。
僕?僕はただの荷物持ち。これだけ聞くと勘違いする奴が実に多いのだけれど、一応特殊能力は保持している。S級パーティーのメンバーみたいに特殊能力を複数保持している訳じゃないけど、アイテムボックス。
説明は要らないかもだけれど、アイテムを亜空間に保存でき、自由に取り出すことのできる能力でとても稀少なんだ。伝記以外にこの能力を持っている人を見たり聞いたことが無い。まあ御察しの通りこの能力を使って色んなパーティーの荷物持ちとして人脈を作ってS級パーティーの荷物持ちにまで至ったわけだけど、この財宝の山をどうしようか…
冒険者のルールで、所有者のいない戦利品や遺品はパーティーリーダーに帰属するというものがある。S級パーティーであったメンバーは僕一人だから、この財宝の山の所有権は僕にあるけど…
彼らには良くしてもらったんだよなあ…
確かにアイテムボックスというスキルは稀少ではあるんだけど、こと戦闘においては何の役にも立たないから昔から馬鹿にされて生きてきた。そんな中でも幼馴染のパーシーとS級パーティーの面々は能力以外にも人間性などを見てくれた。だから彼らの親族や恋人たちに彼らの財宝を帰属しようと思ったのだが…
どうしてこうなった…
国葬が終わり、彼らの親族の代表と会った。
「彼らが残した装備やアイテムとなります。どうかお納めください」
「まずは喪主を務めて頂き、誠にありがとうございます。また息子たちの遺品となりますが、どうか保持して頂けないでしょうか」
「それは…どうしてですか?」
「すでに我々の中でも意見が割れており、息子たちの死を惜しむ間もなく闘争へと発展しかねない勢いです。おそらく、各々に均等に遺品を分配を行っても争いは止められないでしょう。ですから規則通り所持していただいて結構です。貴方様のその心意気だけで十分です」
泣けるぜ、というか実際泣きながらその場を後にした。
そうして現在複数の盗賊に狙われている。
もはやお決まりの展開だが数が尋常じゃない。中にはかつてパーティーメンバーだった奴もいる。
「みんなの装備をこの国の民に使うことになるとは…」
現在僕が装備しているワールドアイズは直径5km圏内の敵を感知し動向を教えてくれるのだが
「まさか敵判定とみなされる人間が100、1000、10000!?」
うん、国を出よう、それがいい。
これ国民のほぼ敵ってことでしょ、初代国王を殺したと言われる初代勇者より追われる立場だよね。
明け方を待てないと判断した僕はテレポーテーションを使いパーシーの所にワープした。
「パーシー!」
「えっホワイト?」
彼女の部屋へと突然現れたことに戸惑いが隠せないようだったが、多分追い打ちをかけることになる。
「君に別れの挨拶を告げに来たんだ、この国を出る。それもこの後すぐだ」
「待って、どういうこと?だってさっきあなたは国葬を執り行ったばかりじゃない」
「パーティーメンバーの親族を代表するモーセさんと会ってきたんだ。簡単に言うと彼らの遺品は僕が持っていていいという事と、火種になるから気を付けてくれと言われたんだけど、既に10000人以上に追われる立場らしい。正直自分でも何を言ってるか分からないけど、もう南の島にでも逃げようと思っている」
「もう会えないの?」
「すまない、最後にこうして会ったのも僕の我儘なんだ。だからこれから言うこともその延長戦だと思って聞いて欲しいんだけど、パーシー。僕の内面をいつもまっすぐ見つめてくれた君のことが好きだ。どうか幸せに、どうか長生きしてくれ。それじゃあ…」
とカッコつけて去ろうとしたところ服の裾をぎゅっと掴まれた。
「私もホワイトの事が好き…だから私も連れて行って!」
ということで二人で愛の逃避行をすることが決まりました。
さて適当に最終目標地点を南の島に定めたわけだけど、現在の国から4つ渡ったところにある南の島にどう向かったものか。幸いS級相当の装備には恵まれているから追っ手はある程度振り切れそうだが、目の前の元パーティーメンバーが通してくれないよなあ。
僕たちの国のパーティー制度について軽く説明をしよう。主に5段階でくらいで階級は分けられているのだがその頂点に君臨するのがS級パーティー。一つのパーティーで王国軍の5倍と言われている。その下に位置するのがA級パーティー。S級には劣るが、正直このレベルまできたら天井と思っていい。つまり強いってことなんだけど、そんな滅多にお目に係れないA級パーティーが僕たちのことを歓迎してくれるらしい。
「やあ、みんな久しぶりだね。国葬の際に挨拶できればよかったんだけど、色々と忙しくてね」
「ようホワイト!覚えてくれているみたいで嬉しいぜ!いいってことよ、感動したぜお前さんのスピーチには」
「相変わらず嬉しい事を言ってくれるなケインは。それでみんなしてどうしたんだい。ちょっと僕たち急ぎの用があって出来れば通して欲しいんだけど」
「まあ待ちたまえ、久しぶりに会ったんだ積もる話もあるだろう。ちょうど予約している酒場もある、付き合ってくれるよな?」
クエル怖っ、とりあえず、レーダーに引っかかってるという事は敵なんだけど手荒な真似はまだするつもりはないらしい。パーシーに何かあったらと思うと下手な事は出来ない。手持ちの装備、武器、アイテムは把握している。とりあえず
「パーシー、これを使って隠れてくれ」
渡したのはS級アイテムの一つ、シークレットリング。装備者は同じS級レベルのアイテムじゃない限り探知には引っかからない。これでパーシーの認知を遮断できたし酒場に行きますか。
へえ最近の酒場ってすごいね!なんていうのかなこのギザギザの椅子。少なくともお客さんに座らせるようには見えないし、手を挟むこのプレート、温度計の設定があるんだけどこれはアッチッチってなっちゃう感じかな。首に付けるであろうブレスレットは天井にぶら下がってるし、立ってても座ってても幸せ空間ってやつかな。
「ユニークな酒場だね!他のお客さんは見当たらないけど僕のために貸切ってくれたのかな?」
「うぬぼれんじゃねぇよと言いたいところだがその通りだ。まずはホワイトお前の帰還を歓迎するぜ」
「ありがとう、とりあえずこの椅子に僕は座ればいいのかな?」
「そうだな、自分から座るって言うなら話は早くて助かる」
激痛が下半身に走るが、あくまで気丈をふるまった。愛する女性の前ではカッコつけたいのが男って生き物らしい。
「単刀直入に言おう、君の持っている資産を全て出せ」
「いやだと言ったらどうなるのかな?」
うわっいきなり殺す気かな?ギロチン耐える方法ってあったっけ?
「この人形みたいになるが、どうだ実演するか?」
「わかったけど、君たちも僕を通じてアイテムボックスの能力は知っているはずだ。この能力はあくまで保持者が生存状態でないと使えない。仮にここで僕のことを殺しても君たちはS級パーティーの生き残りを殺した極悪人として国から指名手配を受けることになるよって熱っ!!!!」
「今更そんな脅しきくと思うか?むしろこれでも温情をかけてるんだぜ。他の奴らならお前の精神を破壊してむりやりアイテムボックスを使わせ財宝を盗る、そう言う奴もいるかもな」
事前にアイテムを使っておいてよかった。正直追われる立場である以上、いつどのような危機が訪れるかわからない。策を練るに越したことはない。なんでこんな回りくどい拷問を受けているかというと、彼らには申し訳ないが一旦ここで死んだ実績を作りたいから。それとさっきから一言も喋らないミューゼとゼインはレーダーに引っかかっていない。それどころかケインとクエルに反旗を翻そうとしているらしい。うん、彼女らは仲間にしよう!とりあえず死にますか。
「君たちは甘いね。元パーティーメンバーだからって油断しすぎだよ。僕が自死しないと思ったのかい?」
「は?待てお前まさか、おいやめろ!」
と舌を噛み切って、よしうまいこと死体を作れた。と精神を本体へと戻した。今のが何だったのか説明をするとマジックドール。魔力を注ぐことによってその魔力の持ち主と寸分たがわぬ傀儡を作り出す。これも当然S級アイテムの一つ。で気配を遮断しているパーシーが上手い煙幕を焚いてくれているらしい。
二人が分断されてくれたのでこれでコンタクトが取れる。
「やあミューゼ、ゼイン!」
「ホワイト!無事だったのね!ごめんなさい、って謝って済む問題では無いないわよね…」
「ホワイトにゃん…」
「ああさっきの死体は他の追っ手を引かせるためのアイテムさ、ところで時間が無いからいきなりになるんだけど僕のパーティーメンバーにならないかい?」
「え?」
「にゃ?」
「ええええええええ!?にゃああああ!?」
ということで四人パーティーを組みました。ちなみに今の叫び声をかき消すために防音弾を床に撃ってくれたパーシーには感謝です。
そうして僕が死亡し、その実行犯であるケインとクエルが王国軍に追われているニュースが王国で轟いている頃、僕たちは南の島にいます。
「ホワイトにゃーん!」
「やったな〜これならどうだ〜」
ゼインと水の掛け合いっこをしながら南の島を満喫しているのですが、これで良いのでしょうか。
「あなた、今晩は空いてるかしら////」
「大丈夫だよパーシー、僕の方から訪れるよ」
おそらくパーシーは今夜、寝かせてはくれ無さそうです。
とあるクエストの帰り道、
「ホワイトは主人公にならなくていいの?」
「いきなりどうしたんだいミューゼ?」
神妙な面持ちでミューゼは聞いてきた。
「だって、こうやってS級の魔物を討伐してもホワイトは自分の手柄にしようとしないじゃない」
「ああ、これは罪滅ぼしみたいなもんだよ。そういえば言ってなかったね。どうしてS級パーティーのみんなが全滅したのに僕だけが生き残ったと思う?」
「それは貴方は前線で戦うタイプではないから、しょうがない事よ」
「違うんだよミューゼ、僕に覚悟が無かったからだ。あの日みんながいつでもアイテムを取り出せるように構えていた。実際最適なタイミングでアイテムを渡してはいた。だが結果は相打ちだ。変数に自分を入れていないこと、自分を入れていたら勝っていたであろうその事実が僕は許せなかった…」
「ホワイト…」
「でも僕を信じてついてきてくれたみんなには幸せになって欲しいって思う」
「いいえ、貴方は私が幸せにするわ。そんな優しい貴方だから私は惹かれたの。ねえホワイト、自分を許してあげて…」
そうしてミューゼと僕は一つになった。
正直、一夫多妻制について思うところがないわけではないが、ただの荷物持ちだと思っていた僕がこんな風に誰かの幸せになれるなら、それは嬉しいことかな。
因みにS級パーティーが相打ちになってまで倒した相手が僕のパパだということはまた別の話。