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閉鎖病棟より、愛をこめて。  作者: 雨季日向
閉鎖病棟二ヶ月目
22/26

——空前の麻雀ブーム

 病棟の紹介で「いろんなボードゲーム類で遊べる」と書いたが、その1つに麻雀があった。

 最初は熟年の看護師が、私含め暇そうにしている若い患者に声をかけて『上海』などの簡単な遊びを教えて楽しんでいたのだが、それを見かけたお父様方の患者が目を光らせた。


「へえ!ここ麻雀もあるんだ!」

「なんだ、打ってるわけじゃないのか」

「久しぶりに打ちたいな〜」

「この牌がぶつかる音を聞くだけで幸せだもんな」


 なんだかかわいそうになってきて、《《ギャラリー》》を振り返って

「あ、私、ちょっとだけなら打てますよ……」

と声をかけてみた。すると、


「本当か姉ちゃん! じゃあ今日の夜にでもやろう!」

と大喜び。

と言っても、私が打てるのは ”鳴かず上がらず振り込まず” の()()麻雀なのだが……




 しかし、いざ打とうとして発覚した問題が2つ。


 1つはメンツが揃わない。

 麻雀のルールを把握している患者が私を含めて3人しかいない。

 3人でも一応はできるのだが、やはり4人でやらなければ楽しくない。


 もうすでに麻雀熱が燃え上がっているおじいちゃんは、

「こうなったら誰でもいいから1人誘って教えながら打つしかない」

と、牌の積み方も分からない患者さんを引っ張ってきて無理やりメンツを揃えた。


 そして、問題その2。

 いざ燃え上がったおじいちゃんだが、はるか昔に遊んだ記憶に認知症も相まってルールをあんまり覚えていない。

 というか、やってみるとほぼ忘れておられた。


「姉ちゃん教えてくれや」

と言われてしまい、「えぇ〜!私も接待レベルで打ってたから細かいルールちゃんと知らないのに〜(泣)」という状態で、結局私が残りの3人に教えて回りながら打つ、という個人麻雀スクールみたくなってしまった。


 それなのに、お父様方ときたら、

「やるなら本格的にやりたいから」

と、点数の付け方などの細かなルールにまでこだわるものだから、その度に私がスマホで検索して「うーん……こうらしいッス」と確認していく。


 そして、完全ど素人もいるから

「これはどういう状態ですか?」

と聞かれるたびにその人の手牌と捨て牌を見に行って、

「あー、これだと上がれなくなるので、ここを捨てた方が……」

と説明しつつ、

(この人が上がるための牌、私が持ってるんだけど捨ててロンさせてあげた方がいいのか……?)

と要らぬ気を使い始める。


 ただでさえ頭を使うゲームなのに、とんでもなく疲れた。




 その翌朝、私は例の如く早朝からホールで本を読んでいると麻雀おじいちゃんがやってきて、

「おい姉ちゃん、今日の昼から(麻雀)打つからよろしくな」

と宣告されてしまった。

 確かに、あの状態じゃ私がいないとゲームにならないのは分かるけど……


 いつものようにアフタヌーンティーと読書を楽しむつもりでいた私は心の中で「めんどくせぇ〜!」と叫びながら

 「……はい喜んでぇ!」

とアポを承諾した。


 昼過ぎにホールでしれっと本を読んでいれば流せるかなーと淡い期待を抱いていたが、遠くで牌を並べながら「おい!」とちゃんと呼ばれたので「へい」と本を閉じて向かうしかなかった。




 こうして私+うろ覚え2人+ど素人のメンツで、素人枠にはその時々で近くにいた患者さんや少しでも興味を示した患者さんを「しめしめ」と捕まえて打っていたら、何人かはそのまま麻雀にハマっていった。

 (このご時世に性差別的な発言になりそうだが、ハマるのは漏れなく男性の患者さんで、私はやはり男の子はガンプラとか()()()のが好きなのかな、と思っていた。)


 こうなれば私抜きでもメンツが揃うようになってくるので、私も少し打ったら

「今日はこの辺にしときます〜」

なんて言って逃げていたのだが、最近ハマったお兄様方に

「雨季プロ〜!(ずっと指南役をしていたらそう呼ばれるようになった)」

とヘルプが出ては読んでる本を閉じて向かわなければならなかった。


 そのうち、打ってる人の後方に座って打ち方をアドバイスする、『ヒカルの碁』のサイみたいな存在になっていた。




 しかし麻雀の魅力というのは凄まじいもので、打ち始めると牌の音に吸い寄せられるのか、他の患者さんも記憶の奥底に眠っていた熱を刺激されて集まってくる。


 そうして、打ってるそばで「ああでもない、こうでもない」と茶々が入るのだが、その内容は残念ながら支離滅裂なものばかりで、惑わされないようにするのにも神経を使う不気味な雀荘『閉鎖病棟』ができあがっていた。


 


 そんな空前の大ブームを巻き起こした麻雀だが、打てる患者さんがポツポツと退院されていくにつれて、その熱も収束していった。

 

 時には朝っぱらから広げられていたマット状の卓は、ブーム前のようにホールの隅に畳んで置かれ、患者の入れ替わりと共にまた忘れ去られていった。

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