——QOL向上委員会
入院生活にも慣れてきて、病棟のルールも大体把握した。
入院当初は『入院患者らしく』『奇抜な色合いの服はなるべく避けて』親が服を見繕ってくれていたが、閉鎖病棟の患者はそれらしく地味な服しか着ちゃいけません、なんて誰が言ったんだ。
患者がオシャレして何が悪い! 要は紐がなければいいのだろう!
幸いにも、ルールの穴はいくらでもありそうだ。
というわけで、病棟に持ってこられそうな服でできうる限りのオシャレを楽しんだ。
古着の柄シャツ、レザーのロングスカート、セットアップに、パンプス。
急にそんなイメチェンをしだすものだから、シャワー終わりの私の姿を見た某看護師に
「今日の雨季さんオシャレっすね、その方がいいですよ」
と、ナンパまがいの褒め言葉をもらったり、すれ違った見知りの患者に二度見されたりした。
そして私は何を隠そう、カワイイものが好きだ。
眠る時はお気に入りの黄色いクマさんを抱いていないと落ち着かない。
スリッパもダサいからワニの顔がついたモコモコのやつにした。
ていうか、ワニだった。ある日突然、私の両足がワニになった。
まあ、黄色いクマに関しては、入院初期から病室に入れてもらっていたのだが……
とにかく! カワイイものに囲まれて最高! QOL爆上がり!
極め付けは、フレーバーティーのティーバッグやお湯で溶かすタイプのカフェオレと、お高めのお取り寄せスイーツを買って届けてもらった。
昼下がりにパンプスをカツカツ鳴らして(たまにワニがもふもふ歩いて)、スイーツと紅茶を手に読書を嗜む。気持ちだけは元勤め先の表参道や青山の空気を纏って、ひとりアフタヌーンティーを楽しんでいた。
こうして、入院中の患者とは思えない高飛車女が爆誕した。
“話しかけないでねッ☆” オーラは全放出で、一般社会だったら誰もが関わりたくないと感じる雰囲気(私でもそう思う)のはずだった。のだが、、
精神科の閉鎖病棟で通じるわけがなかった。
通じてるのならもっと秩序だった空間が広がっているに決まってる。
なんなら、「オシャレだね」「かわいいスリッパ」「何読んでるの?」「それ美味しい?」とめちゃくちゃ話しかけられるし、人が集まってくる。
人が寄ってくるのに関しては、自分の体質もあるからどうしようもなかった。(街中でどんなにいかちい服装でしかめ面をしていても道を尋ねられまくる、私も親切心で全力で助けちゃう)
ちなみに、こうしたQOL向上作戦の裏には『優しい親』という太いバックの存在があったのだが、「家族の支えを受けられない人の気持ちに立ってみる」などという考えに及ばなかったわけではない。
でも私が私のQOLを上げたいんだ! そのために使えるものを使って何が悪い!
他の人の気持ちになどなれるものか! こんな地獄まで来て自分をいちばん可愛がるに決まっているだろう!
皮肉なことに、例の保険のおかげでそこそこの給付金もいただいていたし、保険組合や市町村などあらゆる手段を駆使して金銭面は工面していた(親が)。
こうして、私は私でできうる限りの手を尽くして自分の機嫌をとっていた。




