099 ポーションモンスターと魔法剣士令嬢
朝の用事であったギルドでのあれこれを済ませ、残り少なくなった教育期間を少しでも実りあるものにと思い、ウェイトリーとマリーはアーシアの小屋までやってきた。
すると、そこにはなぜか小屋の前で頭を抱え込んでリーネリア嬢がうずくまっていた。
不審に思い駆け寄った二人は、すぐにリーネリア嬢に何があったのか、どうしたのかと聞いた。
「リーネちゃん、どうしたんですか? 何かありましたか?」
「マリー先生、ウェイトリーさん」
「体調が悪かったりするのか? ……にしては顔色はよさそうだし健康そうではあるな」
「あ、アーシアちゃんが……」
「アーシアちゃんがどうかしたんですか?」
「アーシアちゃんが、悪魔に取り憑かれました」
「は?」「ん?」
それを聞いた二人は一瞬にして思考に空白が生まれ、そして思い出されるのはいつぞやのモンスター。
「そ、そうか。なるほど……」
「ウェイトリーさん、悪魔払いの魔術や奇跡は使えないんですか?」
「あー、俺聖職者じゃないからなぁ。悪魔祓いは専門外だな。普通に殴り倒す以外したことない」
「普通に殴り倒す……?」
「リーネちゃん。もしかしてアーシアちゃんは高笑いしながらポーションを作ってたりしましたか?」
「そ、そうです! 気の狂ったかのような笑い声をあげて、『魔力ぐるぐる、二重にぐるぐる』と不審なことを呟きながら錬金鍋を一心不乱にかき回していて」
「あーはいはい。その悪魔なら前にも一度取り憑かれてますし、害はないので大丈夫ですよ」
「害のない悪魔なんですか?」
「ええ。というかただ単に錬金術がうまくいってテンション上がってるだけのただのアーシアちゃんですからね、それ」
「前は、……あぁそうか。ちょうどリーネ嬢が一家団欒の為にこっちに来てなかった頃だな。
しかし、マリー博士。ポーションモンスターが現れたということはいよいようまくいったのでは?」
「そのようだね助手くん。見に行ってみましょう」
そうして、アーシアの小屋の戸を開けて中へと入ると、案の定見覚えのあるハイテンションな笑い声を上げて目を爛々と輝かせ鍋を混ぜるアーシアが目に入った。
「わははははははっ、きゃっほー! 二重にぐるぐるー!!」
鍋の中を渦巻く魔力は凄まじい速度で渦巻き、しかもそれがアーシアの言うように二つの渦を作っていた。
「あー先に相克流動渦を覚えましたか。二重渦や三重渦が先かと思ってましてけど」
「あれ、速すぎてよくわからんかったけど上と下で時計回りと反時計回りの渦が出てきてんのか?」
「ですねー。過濃縮をするだけなら渦を二つ作る二重渦や三つ作る三重渦の方が楽で手っ取り早いんですけど、相克流動渦は濃縮率を上げるのに加えて、品質や効能を大きく昇華させることもできるんです。
まぁその分、重渦よりも制御が果てしなく難しいんですけどね。アレ、いつ鍋が壊れてもおかしくないですよ」
「大丈夫なのか、それ」
「普通なら大丈夫じゃないはずですし、そもそもできるわけないんですけど、アーシアちゃんは頭三つくらい抜けてますね。
問題なく出来ているようですし、見たところ安定もしています」
「ケガとかの心配がないなら、まぁいいか」
「にしても本当にすごい。錬金術だけなら将来的に私を超えますねアレ」
「そりゃ末恐ろしい話だ。マリーさんが二人になるってわけだ」
「なんと失礼な」
「それで博士。あれはどうするんです?」
「完成までは待ちましょう。今は安定していますが集中が切れて制御が乱れるということも考えられますから」
そうしてその光景を眺めること五分ほど。
作っていたポーションは無事完成し、それをうっとりとした顔でポーション瓶に詰めるアーシアが、その作業を終えて、鍋に指を一振りして水を張って次の薬草を鍋に投入しようとしたところで、マリーが声を掛けた。
「ずいぶんといきなり成長しましたねアーシアちゃん」
「はえ? あぁ、マリー先生! 来てたんですか?」
「五分ほど前から見てましたよ。相克流動渦を覚えたんですね。それはもっと先に自分で覚えてもらうつもりだったんですけどね」
「そーこくりゅーどーかって何ですか?」
「上と下で互い違いに魔力渦を作ることですよ」
「あぁ! 二重にぐるぐるですね! いやー私も何が何だかって感じだったんですけど、ポーション作りながらどうやったらいいのかなぁって考えてたら、間違えて魔力操作とは逆に鍋をかき混ぜてたんですよね。
そしたら、それがなんだかいい感じになってきて、これってちゃんとやったらどうなるんだろうってやったらすごいことになっちゃって!!
見てくださいこれ、こんなのできました!」
「ほうほう、見せてください」
アーシアが手渡したのは美しい空色のポーションであった。
それを見たマリーはこれはまたやっちゃいましたねー、と思った。
「アーシアちゃん。青いポーションですね」
「あっ!? 私またやっちゃいましたね。いや楽しくなっちゃってつい」
「楽しくなっちゃいましたか。まだ出力を調整するまでは行ってないんですね。相克流動渦は出力を抑えるのは難しいですからね。そもそも抑えるときに使う技法じゃないですし。
主さま、このポーションちょっとすごいので鑑定してもらえますか?」
「はいよ」
そうしてウェイトリーはポーション瓶を受け取ってそれをじっくり見ると、あぁ確かにこりゃすごい、と感心した。
その内容を書き記すべくバックパックから紙を取り出してテーブルで内容をしたためた。
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アーシア特製 中級濃縮100倍リジェネレートポーション改+10
品質10 レアリティSR
[HP回復:中+10][継続回復:中+10][MP回復:微小][品質低下無効]
詳細
中級効果のリジェネレートポーションが製作過程の結果
微小な魔力回復効果を持った非常に高品質なポーション
当該ポーションの100倍の濃度を持つポーション
これを綺麗な水で100倍で薄めることにより
濃縮状態ではない上記効果を持つポーションに変化する。
また魔力水で薄める場合、同じ効果のまま150倍まで薄めることが可能。
さらに綺麗な水で150倍、魔力水で200倍に薄めることで、
付属効果は同じで回復効果を+5まで落とすことができる。
これ以上に薄める場合、付属効果は失われ回復効果が大幅に低下する。
補足として
薄めずに飲んでも当該ポーションの100倍の効果はなく
回復量は薄めた一本と同量である。
薬草に対する思いが正しく昇華されたポーションであり
低品質の薬草から生まれたとは思えないほどの効力を持ち
その味は口当たりがよく 優しい味がする
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HPやMPの表記こそ体力や魔力と置き換えているが、それ以外は鑑定にて知りえた情報をそのまま紙へと書き記した。
濃縮ポーションの文章を書き写すのが一番面倒だな、と思っていたウェイトリーではあったが、今回ばかりはお祝いの意味も込めてしっかりと一言一句違えず書いた。
それを、何がどうだったのか、どうなったらああなったのか、などと興奮冷めやらぬままやや支離滅裂な質問と返答を繰り返しているアーシアにウェイトリーは写した紙を渡した。
「ほれ、いよいよ普通の錬金術と縁遠くなってきたな」
「そうなんですかね? 最近結構錬成盤で錬成炭とか作ってますし、ミスリル粘土も頑張ってますよ? というか、あのウサギが一杯出てきたときにポーションと瓶を一緒に作らされたり、鍋二つでポーション作らされたせいですよ! だってそうでもなきゃポーションを片手間で作りながら考え事なんてしませんし!」
「テンション高いな。まぁまぁいいから一回その鑑定結果に目を通しておけ」
「はい! ……って、なんですかこれぇ!!」
想像していたよりもすごいポーションが出来ていたことにとんでもなく驚いて、そしてそれがうれしかったのかニヤニヤして、また紙を眺めてほっほっほと笑い、きゃっほー! と喜んだりを一通り繰り返していた。
「マリー博士。あと頼んでいいか」
「はいはい。薄情な助手くんの代わりに私が何とかしましょう」
「いやいや、マリー博士が生み出したモンスターなんだから責任はマリー博士にあるでしょ」
「生み出したのではなく、生まれちゃったが正しいですね」
「無自覚な方がなお悪い気がするよ」
「まぁお任せを。下級ではありませんでしたが百倍濃縮もうまくいったところで、ちゃんと教えないと危ないこともありますからね」
「よろしく」
そういってウェイトリーは扉から顔だけ出してこちらを伺っていたリーネリア嬢に声を掛けてから、訓練をしている原っぱの方へと歩いて行った。
「アーシアちゃんはすごいですね」
「アーシアはすごいよ。ありゃ俺には到底出来ん離れ業だ」
「なんだか置いて行かれてしまいそうです」
「方向性が違うから何とも言えんけど、このままだとそうかもな」
「ウェイトリーさん」
「そんなリーネ嬢に朗報だ」
「朗報、ですか?」
「昔の伝手でな。“王国最強の騎士”を呼んできた」
「“王国最強”? それは以前伺ったレミアクレータ王国の?」
「紹介しよう」
ウェイトリーはメインデッキから一枚のカードを抜いて、それを召喚した。
白と黒の光が集まり、騎士団長リグレットが顕現する。
ナイトスケルトンよりも、ヘビーナイトゾンビよりも凄まじい異様にて闘気を放つリグレットに、護衛騎士が腰を抜かさんばかりに驚愕し、たまらず剣を抜いたが、足は動かず、ただそこに釘付けとなるばかりであった。
しかし、リーネリア嬢は違った。
普段と変わらぬ様子でその異様を眺め、その騎士と目が合うや、貴族令嬢に相応しい一礼をもって応じた。
「初めまして、騎士さま。私はベンゲル辺境伯家の娘、リーネリアにございます。今はウェイトリーさんに訓練をつけてもらっている身にございます」
「……ほう。これはご令嬢に丁寧な挨拶を賜り恐縮でありますな」
リグレットは左手を背の後ろに、握った右手を胸に当てて礼をする“王国式”の礼にてリーネリアに挨拶を返した。
「自分はリグレットと申すものであります。今は亡き国にて騎士団長の任を預かるものであります」
「まぁ、騎士団長さまなのですね。ウェイトリーさんからはその王国にて最強の騎士さまと伺っております」
「そうでありますな」
「リグレットさま。早速で不躾なお願いかと思うのですが、私と一合、試合ってはいただけませんか?」
「もちろんですとも。ウェイトリー殿からも伺っておりますぞ? 有望な新人がいると」
「ご期待に沿えるよう全力を尽くします」
「では、まいられよ」
「はい」
リグレットが静かに剣を抜き、剣をゆっくりと、だが一寸のブレもなく構えた。
後ろに下がったリーネリア嬢がナイトスケルトンの持つ直剣をもはや完全な造形として顕現させた深蒼の剣を抜いて、それを構えた。
その構えは奇しくも、両者同じ構えであった。
それを見たリグレットはニヤリと笑った。
そしてリーネリア嬢もニコリと笑った。
颯爽とかけていくリーネリア嬢を見送りつつ、剣を構えたまま硬直したままになっている護衛二人にウェイトリーは声を掛けた。
「大丈夫。あの人に万一はないですよ。そりゃ見た目はめちゃくちゃ怖いですけどね」
その言葉を受けて、やっと少し緊張の糸をほぐせたのか、やっとのことで剣を下ろすことができた護衛騎士たちに苦笑しつつ、ウェイトリーはその模擬戦の推移を見守った。
無論、この試合でリーネリア嬢の剣が届くことはないのだろうが、その一合一合に、ただ何となく剣が届くこと以上の価値があることを、ウェイトリーは理解している。
だからこそ、アーシアに置いて行かれないように、共に歩んでいけるように。
その一合一合から得る経験を糧にしてほしいとウェイトリーは願っていた。
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同日、辺境伯邸、前門にて。
ベンゲル辺境伯とその子息ルドルファス氏は、一台の馬車を前に話をしていた。
「ルドルフ。今回は無理を言ったな」
「いえ父上。私もいい経験をさせていただけたと思っています」
「学業の遅れは本当に大丈夫なのだな?」
「はい。同じ授業を受ける学友に学園に戻るのが遅れることを伝えて、その間の授業の内容をまとめてもらえるようお願いしましたので、それで追いつきたいと思います」
「そうか。いい友人を持ったな」
「はい。大切な友人です」
「うむ。何か忘れたものなどはないか?」
「しっかりと確認も済ませましたし、特にはありません」
「よろしい。ステラにもよろしく言っておいてくれ」
「母上は私に代わり、また領地へ戻るつもりだと、こちらに来る前に仰っていましたが」
「そうなのか? リーネのこと、だろうな」
「そういえば父上、母上にリーネが今、剣と魔法の手ほどきを受けていることは言ってあるのですか?」
「……いや」
「言ってないのですか!?」
「まぁ、な」
「その……」
「戻ってくるのならその時に伝える。当家が武家の家であるとステラもわかっているし、理解してくれるだろう」
「それはそうでしょうが……、それはそれとして母上にどやされるのでは」
「甘んじて受けるしかあるまい……」
「そ、そうですか……」
「旦那様、坊ちゃま。そろそろ」
「あぁ、そうなだ。王都までくれぐれも気を付けていくのだぞ」
「かしこまりました父上」
そうして一礼してから馬車に乗り込もうとしたルドルファス氏に、ベンゲル辺境伯は今思い出したように、伝えておくべきことを伝えた。
「そうだルドルフ。お前も聞いていただろうがウェイトリー殿が十月の中頃から終わり頃には王都には行っていると思われる。当家の恩人だ。何かウェイトリー殿から話があればできる限り聞いてやってくれ」
「それは……。はい、わかりました」
「それと、可能なら釘も刺しておいてくれ」
「それは難しいかと……」
「だろうな……。まぁ、逆に何かお前が困ったことがあってもウェイトリー殿なら話を聞いてくれるだろう。
よい関係を保つように心がけてくれ」
「かしこまりました」
そうして今度こそ馬車に乗り込んだルドルファス氏は王都への旅路へと着いたのであった。
夏の暑さが少しずつだがなりを潜めはじめ、別れの時が近づく領都の晩夏。
去り行く予定のデッドマスターたちは、この領都に思い残すことの無いよう万全を尽くすのであった。
そのお話は、また次の機会に。
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終了時点でのステータス
PLv:101
HP:3936 STR:226 MAG:786
MP:5454 VIT:251 AGI:522
SP:1009 INT:681 DEX:322
探索系
鑑定10 調査10 感知10 気配察知10 追跡10 遠見10 製図10 罠解除10 鍵開け8
植物採取10 伐採9 鉱物採取10 発掘10 解体10 神秘採取8 野営9 環境同化10
知識系
鑑識10 薬草学10 解体術10 解剖学9(10) 医学2 鉱物学9→10
魔生物学10 地質学7→8 考古学6→7(10) 人類学7 天文学6
宮廷儀礼5(7) 術式魔法学(EW)3 魔道力学(EW)2 精霊学1 冥府の戒律10
生産系
土木工事9 建築2 錬金術9 薬草栽培2 罠製作2 木工2 金属加工1 細工1
補助系
投擲10 剣術2 体術7 気配遮断10 行動予測10 水泳6
複合・発展系
オールレンジスキャン 弱点看破 (弱点特効) 天地一心
異世界スキル
異世界適応10 異世界言語理解5 資材カード化5→6 魔力視5 修復者の瞳10
クラス特性:死者への権限10 クラス特性:術理解明5
複合発展覚書
弱点特効(解剖学10)
これで五章は終了です。
次回更新は十日ほどお時間をいただき、24年7月21日/0時を予定しています。
そこから六章終了まで二日に一度の更新、七月の月跨ぎは31日なので、7/31と8/1は連日の更新になります。
本作品での初めての大規模戦闘や大型の魔物との戦闘があった章でした。
自分は戦闘をあまり引っ張らずあっさり書いてしまいがちなので、それが良いのか悪いのかはよくわからないのですが、楽しんでいただけなのであれば幸いです。
今回の話でウェイトリー達が滞在しているベンゲル辺境伯領での初めに決めていた用事がおおよそ終わったということになります。
次章では、やり残したことを片付けていく話になります
この更新を行っている現在が24年6月30日、現状の総PVが8440、ユニークアクセスが2582人という前回のあとがきを書いていた時からまたまたぐんと伸びていて「やべぇぞもう少しで一万の大台が見えてきやがったぜ」という、なぜだかハラハラとした気分になっております。
なにぶん長々と過疎生主をしてきた身でありますので、「一万!」となまじ多くの人に見てもらえているというのが分かると、なんだかビビッてしまっている今日この頃です。
日々ご愛読いただき、本当にありがとうございます。
これからも楽しんで読んでいただき、かつ評価やブックマーク等をいただけるよう、鋭意努力していきたいと思います。




