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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
5章 ハンガーベイル渓谷の異変
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098 事後報告会

 鉱石採掘を行った日から四日後。ギルドの混雑が落ち着いた朝頃。

 ウェイトリーが昨日冒険者ギルドに顔を出した時、ハンガーベイル渓谷に行っていたルドルファス氏が戻ったという話を受け、もろもろの話し合いのために一度ギルドの会議室に集まることとなった。

 ハンガーベイル渓谷まで馬車で片道一日半から二日程度かかることを考えれば、またしてもなかなかな強行スケジュールだな、とウェイトリーはルドルファス氏の苦労に想いを馳せた。

 

 集合時間が以前ギルドで行われた事前会議と同じ時間であったため、ウェイトリーとマリーは前回と変わらない時間にやってきて、会議室の席について適当な話で時間を潰していた。

 とはいえ、今度もそう遅れることなく全員がそろい、事後報告の会が始まった。

 

 最初に話を切り出したのはベンゲル辺境伯であった。

 

「ウェイトリー殿、マリー殿。ルドルフから報告は受けている。

 よく、巨大地竜を討伐してくれた。ベンゲル辺境伯家として貴殿らに最大の感謝を」

「いえ、お構いなく。たまたま素材が必要で、たまたま倒すだけの力を持ち合わせていただけのことですので。

 ですが、然したる被害もなくことが全て片付いたことは私もうれしく思います」


 深く頭を下げるベンゲル辺境伯とルドルファス氏にウェイトリーはそう気にするなと謙遜するが、謙遜しすぎてもそれはそれでやりづらかろうとほどほどの着地点で話をまとめた。

 

「そんでよぉ、符術師。俺はお前がデケェ地竜を無事に倒したってくれぇしか聞いてねぇんだが、詳しく話を聞かせてもらえるか?」

「あー、いや、詳しくって言われても、何を話せばいいんすかね? デケェ地竜を倒した以上のことは何もないんすけど。

 あ、いや、ハンガーベイル渓谷の現状と詳細な空撮地図くらいは提供できますけど」

「地図は改めてまた頼む。お前が描いた地図には凄まじい情報価値があるからな。現状ってのは?」

 

 そう聞かれたウェイトリーは、魔物の生息状況や今後の魔物の行動などの予測を簡潔にまとめて報告した。

 その報告には、別途騎士たちが調査した結果とも符合するとしてルドルファス氏も賛成を示した。

 魔物がいなくなったわけではないが、現状のハンガーベイル渓谷の危険度は相応に下がっている状態と言えた。

 

 その報告を受けて一安心だな、と胸をなでおろすグラッツギルドマスターはついでに気になっていたことを聞いた。

 

「しかしお前、どうやって三十メートル越えのバケモンの首を叩き落としたんだ? ここから出る前は今は無理みたいなこと言ってなかったか?」

「見ますか? 映像の録画ありますよ」

「なに!? お前、それを早く言えよ!」

「まぁ俯瞰映像なんでちょっと臨場感には欠けるかもしれませんが」

 

 そういって、レイブンレイスの上空警戒と共に撮影させていた録画の魔道具をグラッツギルドマスターに提出した。

 

「エリナ、コレ、スクリーンに頼む」

「かしこまりました」

 

 そうしてテキパキと準備を進めるエリナ職員が、プロジェクターのようなものにその魔道具をセットして、カーテンを降ろし、鉤のついた細長い棒で天井に吊るされているスクリーンを下げて、視聴準備を整えた。

 

 そして、再生された映像は巨大な地竜が谷を進み、不自然に停止して、逃げていた魔物たちがリグレットに切り捨てられ、ウェイトリーが槍を投げ、タゲを取って誘導し、アッパーカットを喰らわせ、ボーンタイラントが渾身の突撃をかまし、そしてリグレットが切り捨てた。

 

 一連の映像は、上空から撮影されていたがゆえに臨場感こそ同じ目線のものより劣るものの、それぞれがどう動いていたかが如実にわかり、全ての行動がウェイトリーの手のひらの上であることを理解するに十分な映像であった。

 

 その戦闘を始めて目の当たりにしたグラッツギルドマスター、エリナ職員、そしてベンゲル辺境伯は内容のすごさに言葉を失っていた。

 改めて見たルドルファス氏にしてもそれは同様であった。

 

 余韻をたっぷりと過ごした後にグラッツギルドマスターは口を開いた。

 

「お前、今何等級だ?」

「今六等級っすね」

「ハッキリ言っておく。お前の実力はどれだけ少なく見積もっても十分に三等級以上だ。六等級ってのは詐欺だな」

「詐欺って心外な。真面目に日々不人気依頼をこなしてきた成果っすよ」

「つかお前、あんだけ戦えんのに普段、土ウサギ狩りだの薬草採取だの倉庫整理だのやってたのか?」

「そっちの方が得意なんすよ」

「それ本気で言ってんのか?」

「っすよ。というか情熱の問題っすかね? 採取とか調査とかの方がやってて充実感があるって感じっすね。

 今回も地竜を倒した翌日にハンガーベイル渓谷で魔鉄をしこたま掘ってきたりしたんで。

 でも、採取とか調査のが得意なだけで、別に戦闘が不得意なわけではないっすよ」

「見りゃわかるわ」


 心底呆れたと言わんばかりの視線をウェイトリーに向けるグラッツギルドマスター。

 当然、気にした風でもなくウェイトリーは話を続けた。


「んでギルマス、お願いがあるんすけど」

「なんだ?」

「辺境伯閣下とどういう話になってるのかは知らないんすけど、とりあえず売りさばきたいんで、地竜バラしてもらってもいいっすか?」

「馬鹿も休み休み言えよ……。どんだけの作業量だと思ってんだ。解体場の職員総出で解体に当たっても一、二週間はかかるぞ。その間ギルドの解体場がほったらかしになっちまうよ」

「できれば肉と内臓と牙一本はこっちにもどしてもらって、あとは閣下かギルドに五千万で買い取ってほしいんすけど」

「マジめちゃくちゃ言ってんなお前……」

「ウェイトリー殿、地竜の素材は、先ほど言ったもの以外は本当に当家で五千万ドラグで買い取っていいのか?」

「もちろんです閣下。こちらは五千万ドラグ現金でいただければ、その後一切の用途に関知いたしませんし、仮に討伐の名誉やそれによって得られる名声なんかがあるとしても、我々には一切不要ですのでどうぞご自由に」

「いや、買い上げるだけの当家がそれを誇ることはないが、名声一切も不要とは何故だ?」

「その名声で強力な魔物の討伐依頼などが舞い込んでくるとなると、本来の目的が遠ざかる恐れがありますので」

「あくまで修正点、であったか、それの修復が目的であるためにその妨げになる可能性があることは不要であるというのだな」

「その通りでございます。無論、今回のケースのように修正点の近くに強力な魔物が陣取っているというような場合であれば討伐するのもやぶさかではありませんが」

「では巨大地竜の討伐は流れの凄腕冒険者が成し遂げたという程度に留めることにしよう」

「あー、はい。凄腕は不要ではありますが、そのようにしていただきたく存じます」

「あいわかった。グラッツ」

「なんだ?」

「解体の手と警備も必要であろう。領兵から人手を貸し出すので早々に解体の手はずを整えてくれ」

「お前も無茶言うなぁ。まぁいい。それなら何とかナンだろうよ」


 話は大筋でまとまり、買い取りの報酬とは別に辺境伯家から白金貨一枚を特別討伐報酬として受け取った。

 また、今回の討伐は特別依頼という扱いで処理され、全く等級にあう仕事ではなかったが、五等級依頼達成十回として扱われ、ギルドからも大金貨三枚の報酬を受け取った。


 話が終わったかというところで、グラッツギルドマスターは忘れず聞いて置かねばならないことを聞くことにした。

 

「そういや符術師。お前、目的の修正点? は片付いたんだろ?」

「そっすね」

「お前いつまで領都にいるんだ? 俺らもできるだけ急ぐつもりでいるが、今日明日に解体が終わるってことはねぇぞ?」

「それなら九月いっぱいはこちらにいるつもりです。予定では十月の頭にこの国の王都の方へと向かおうと思ってます。まぁ解体のこともありますしちらほらとやることもあるので十月の中頃にずれ込みそうっすけど」

「そうか。ならまぁ十分間に合うな。終わったらさっさと行くのかと思ってたよ」

「こっちに来た当初はその予定でしたけど、アーシアとリーネ嬢の教育もありますし、ちょうどキリもいいのでそうしようということになりました」

「そうか。んで? 今度は王都で大暴れか?」

「失礼っすね。別に大暴れなんてしないっすよ」

「つか、次の目的地はどこなんだ? まだこの国の中にその修正点ってヤツはあるのか?」

「実を言うと、細かいのはぼちぼちあるんですよね」

「それって国中にあるってことか?」

「っすね」

「それは、早急に対処が必要なのか?」

「それに関してはなんとも。自分もわからない事ばっかりで、実際に現地に行かない事には、状況の良し悪しまではわからないですね。王都の道すがらにあるものは修正しようとは思っていますが」

「そう、なのか……」

「ですが、実を言うと、その修正点ってのは大規模、中規模、小規模と三つの大きさに分かれていて、大規模を修復すると、その影響下にある小、中規模修正点は自然と修復するという話なんです」

「では、大規模を修復するのが良いということか」

「そうなります。それで、その大規模修正点があるのが王都の近く、北に大体二キロくらいの場所にあるみたいで」

「王都の北に二キロ?」


 それを聞いたグラッツギルドマスターはもしかしてという顔をして呟いた。

 

「そこはもしかすると、ダンジョンじゃねぇか?」

「ダンジョン?」

「王都最寄りのダンジョンだな。現攻略階層は三十二階で、まだ踏破者のいないダンジョンだ。

 まぁ王都の冒険者の一番の稼ぎ場所だし、王都の金の生る木でもあるからダンジョン破壊は禁止されてるがな」

「それって何階層あるかってわからないんっすか?」

「わからねぇな。少なくとも三十三階まであることは確かだ」

「もし修正点がその最下層だったら爆笑っすね」

「笑えねぇよ。それとも何か? お前、ダンジョン探索も得意ってか?」

「探索の方が得意分野っすよ」

「……お前マジで得意そうだなぁ。踏破しても壊すんじゃねぇぞ」

「壊さずに修復できるなら壊さずにしておきますよ」

「いや壊すなよ」

「大規模に関しては修復しないと世界の破滅っすよ? 一国家の金づるの為に放置はできませんね」

「天秤がデケェんだよ……」

「それに仮に修正点がダンジョンにあるとして、大森林のシカと今回のクソデカ地竜なんかのことを考えると、金づるとはいえ放っておくのはかなりの危険を含むと思うっすけどね」

「道理だな。ダンジョンの魔物は特定の条件を満たさねば外に出ることはほぼないが、その修正点の影響でその条件が無効になるということも考えられる。

 それに魔物が強くなることを思えば、得られる利益も下がりえるし、場合によってはダンジョンの大幅な拡張なども考えられるか?

 エリナ嬢、その辺り何か知らないか?」

「十分にあり得るかと。龍賢者の学院のダンジョンに関する論文に、『高密度魔力によるダンジョンへの影響と拡張』というものがあり、それは極小規模のダンジョンに大量の魔石を運び込んで行われた実験をまとめたものなのですが、魔物の排出率の上昇と個体の強化、それからダンジョンの規模の拡大の加速が認められたと言われています。

 修正点、というものが、魔力にほど近いエネルギーの源泉だというのであれば、その影響は計り知れないかと思われます」

 

 ベンゲル辺境伯の質問に完璧に近い返答を行うエリナ職員。

 その内容にウェイトリーとマリーを除く参加者がやや暗い面持ちをした。 

 

「ほっとくのは論外ってわけだな。しかしあのダンジョンがなくなると国として経済に大打撃だが」

「陛下への奏上も視野に入れるべきか?」

「必要かもしれねぇなぁ……」

「まぁ、まだダンジョンの底にあるって決まったわけじゃないですし、ダンジョンを壊さないと修復できないと決まったわけじゃないんだらから気にしてもしゃーないっすよ」

「そりゃそうだな。最悪、ここはあんまり関係ねぇしな。こちとら黒森で手一杯だ」

「しかしウェイトリー殿、可能な限り穏便に頼みたい」

「心得ております閣下」


 殊勝そうに頭を下げるウェイトリーだったが、本人とマリーを除く全員が内心でお前それホントか? と疑問符を浮かべていたのはいうまでもなかった。


 そうして今回の事後報告会はお開きとなった。

 なお、巨大地竜の討伐映像はギルドが買い取って資料にすることが決定したようであった。

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