097 採掘日和
翌日。
夜の天辺を超える時間まで血液採取作業に当たっていたウェイトリーは、少しばかりゆっくりと起きて、ハンガーベイル渓谷を望む入り口の陣地にて背伸びをしながら身だしなみを整えた。
既に起きて、手慣れた様子で入れたいつものハーブティーを飲んでいたマリーに挨拶しながら、そのお茶を受け取った。
「領都に戻ったら大量の地竜の血を入れるボトルを作らないといけないですね」
「あれ何リットルくらいあったんだろうな。下手したら二十五メートルプールぐらいあったんじゃないか?」
「流石にそれは大げさでは? そもそもの地竜が三十メートルほどだったんですから」
「それくらいの気分ではあったよ。保管するってどうするつもりだ? まさか大量のボトルを用意するわけでもないだろ?」
「相性のよさそうな魔法金属製で魔法瓶の水筒みたいなボトルを作って、それに刻印しようかと思ってます。『内容物保護』『容量増加』『内容量確認』『不純物仕分け』『不壊』あたりですかね」
「それって例のミスリルで昨日の内に作れなかったのか?」
「保存容器の相性問題は結構重要ですからね。しっかり調べてからではないとせっかくの竜血の効果が落ちますから。
魔法ガラスはそういう意味ではなんでも問題なく入れておける万能容器なんですが、刻印が多く乗せられないですし、やはり相性のいい魔法金属製のボトルが一番です。
それに仮に相性が良かったとしても昨晩あの場で作ってそれで汲むというわけには行きませんよ。ボトルの口を大きくすると後で使いにくいですし。
結局は大きな鍋や桶で汲んでおいて後から漏斗なんかで流し込む方が安定です。ただの木桶であっても主さまが資材カードにしてしまえば劣化はしませんし」
「まぁそれはそうか。というか、それらな今のままでもいいんじゃないか?」
「使う時に桶を出すんですか? 単純に使いにくいですし、作業をしている間桶を出したままにすると残ってる血が劣化しますよ」
「ぐぅの音も出ないほど正しい」
そんな話をしている二人の元にルドルファス氏がやってきた。
昨日のこともあって、疲れているし、若干異常者を見るような眼をしているような気がしないでもないが、それを務めて表には出さず二人に話しかけた。
「昨日は大変助かった。ベンゲル辺境伯領を代表してお礼申し上げる」
「お気になさらずに。私どももあの地竜の素材を欲していたまでのことです。
ですが、それがベンゲル辺境伯領の為になったというのであれば、そのお礼はありがたく頂戴致します」
「しかし、あのサイズの地竜を、仕舞い込める術まで持ち合わせているのだな、貴殿は」
「あー、そう、ですね。正直、あれほどのサイズをまとめて収納したのは初めてだったので、自分も驚いています」
資材カードにするというのは、ウェイトリーがこちらの世界に来てから得た能力であった。
EWOでは、倒したモンスターは解体スキルなどを所持していない場合、だいたいが光の粒子となって消えて、素材やドロップアイテムなどは直接プレイヤーのインベントリなどに格納されるため、大きなものをそのまま仕舞い込んだりするようなことはほぼほぼなかったのだ。
大きいものをインベントリに出し入れすると言っても、最大でも普通乗用車程度のサイズであった。
そのため、頭は切り分けたとはいえ、全長三十メートルクラスの地竜をそのまま資材カードへと収納できたのにはウェイトリーも素直に驚いていた。
そしてそのうち、どれだけのものが一気にしまえるのか、或いはしまえないのかを調べておく必要がありそうだなとも考えていた。
ルドルファス氏は話を続ける。
「欲しい素材、とはどういったものが必要だったのだ?」
「マリーが錬金術に使うために血液と内臓を。それから地竜の肉は大変美味なので、この機会に大量の地竜肉を抱えておこうかと思いまして」
「武器や防具に使う皮や鱗、牙に骨といった部位に、魔石などは必要ではないのか?」
「討伐記念に見目の良い牙を一本ほどいただければそれ以外は自分たちには不要ですね。
それらは全て冒険者ギルドか、或いは辺境伯閣下に全てお譲りしようと考えております」
「……あれだけの素材、当家としても是非とも欲しいところだが、流石に払いきれんだろうな」
「例えばあの地竜の私どもの必要とする部分以外を白金貨五枚、五千万ドラグで全てお譲りするといえば、それではいかがでしょうか?」
「五千万!? いや、それはおそらく破格の安さであろう。その値段で買い取って王都にてオークションにでも掛ければその倍、いや三倍は優に超えるぞ。四倍ということもあり得る」
「長々とオークションに付き合うのは面倒だなと思っているので、冒険者ギルドか辺境伯閣下に現金一括で白金貨を五枚いただければ後のことはこちらでは一切関知いたしません。
もちろん、辺境伯家とギルド合同で五千万ドラグいただけるのであれば、その支払い形態も問いません」
「解かった。今ここで確約は出来ないが、父上もおそらく否とは言わないはずだ。領都に戻ってから今一度話を進めたいと思うが、いかがか?」
「もちろんです」
ウェイトリーが力強く頷くのを見て、ルドルファス氏も頷き、話は次の内容に移った。
「ではそのように頼む。それで、貴殿らはこれからどうするのだ? 今日中に領都へ戻るというのであれば、こちらの馬車を使ってもらっても構わないが」
「いえ、自分たちは今日一日は鉱石採掘に当たろうと思っています。
あの地竜が眠っていた洞窟には多くの露出した鉱物が見受けられましたので、取れるだけ取ってこようと考えておりまして」
「そうか。我々は今日と明日の二日ほどここで変化がないかを確認し、それから領都へ戻る予定だ」
「なるほど。では自分たちは明日の朝に一足先に領都へ戻らせていただきます」
「了解した。馬車の用意は必要か?」
「いえ、ボーンタイラントに乗って帰りますのでお構いなく」
「あー、そうか。……来るときもそれで来たのか?」
「人目は避けておりますので、ご心配なく」
「……問題を起こすのは勘弁してくれよ」
「これ以上心労をおかけすることはおそらく無いと思うのでご安心ください」
「なぜだろうな。根拠はないが全然安心できないな」
「ははは、お戯れを」
とっても疲れた顔をしたルドルファス氏は短く挨拶をして二人の元から去って行った。
「さて。そんじゃまぁ朝飯食って、楽しいツルハシ作業に移りますかね」
「魔鉄の在庫と宝石原石の在庫をたんまり抱えておきましょう」
マリー手製の作り置きサンドイッチを朝食にいただき、朝の準備を終えた二人は颯爽とハンガーベイル渓谷へと向かって行った。
今回は道中での植物採取や魔物調査などは必要なく、目的地も目的もはっきりしているため、道中は召喚したボーンタイラントにひとっ走りしてもらい、巨大地竜が眠っていた大空洞まで一直線にやってきた。
ゴーストキャットに任せていた調査の結果、地竜がいた大空洞の外周部の方が良質な魔鉄の鉱脈が露出しており、宝石の原石も大ぶりなものが多数見つかっていた。
ウェイトリーは今は主のいなくなった大空洞に『野営地』を張って、マリーがそこに光魔石を精製して刻印した半永久使用可能な光源を置いた。
もちろん、その光源では大空洞全てを照らすのは不可能であはあるが、『野営地』の敷地内はもちろん、その周辺までしっかりと明るく照らしていた。
照らす範囲に不足があると言えばそうだが、採掘作業には完全暗視があるためそもそも光源は必要ないのだ。
『山の採取採掘パック』を大量購入して、採掘要因としてパワースケルトンとタンクスケルトンに『最高品質ツルハシ』を持たせて作業に当たらせて、スケルトンに『山の採取ボックス』に掘り出された鉱石や宝石原石の回収、さらに運搬を任せた。
ウェイトリーは、運ばれてきたボックスから鉱石を取り出してインスタントスペル『簡易錬成:鉱物抽出』で不純物を取り除いてから、錬成盤でそれを一本五キロのインゴットへと加工する作業についた。
マリーは宝石の方を担当し、魔力水の満たされた錬成鍋に原石を入れて、不純物の排除と洗浄を行っていた。
そんな作業を一時間、二時間と続けているそんな時に、魔鉄のインゴット化をしていたウェイトリーは、魔鉄ではない鉱石が混じっていることに気が付いた。
「お?」
「なにかありましたか?」
「黄金に輝く金属が」
「またまた。そんな都合よく金脈が出てくるわけないじゃないですか」
「そうだよな。俺の鑑定で『ハンガーベイルオリハルコン』って出てるけど、そんなわけないよな。きっとただの黄鉄鉱だろう。そうに違いない」
「『オリハルコン』出たんですか?」
「出てるんじゃないかコレ」
鉱物抽出を行い、インゴットには満たない量の小さな塊になったそれをマリーへと渡すと、マリーは目を見開いた。
「ちゃんと土属性のオリハルコンじゃないですか。属性オリハルコンとは珍しい」
「絶対リソースが悪さしてるだろこれ」
「悪さでもなんでもいいのでみつけた場所を重点的に掘りましょう!」
「もう指示は出したよ」
続々と掘り返され詰みあがっていく魔化した金であるオリハルコン鉱石。
ウェイトリーはスケルトンを増員し、鉱石の仕分けも行わせた。
魔鉄、ハンガーベイルマナメタルが大多数を占めるのは確かなのだが、その一割ほどが魔金であるハンガーベイルオリハルコンであった。
「ここを掘り返すだけでもウハウハだな」
「超危険地帯なのを除けば最高の鉱山ですよ」
「マジ掘れるだけ掘り返そう。このチャンスを逃す手はない」
「ですね。あっ、そのオリハルコンはおそらく血液保存ボトルとして相性良さそうですね」
「この場所のモンだしな」
「一応ちゃんと調べるので、インゴット一本出来たらこちらにください。よさそうならボトルの作成もここでやっちゃいます」
「金ぴかなボトルになりそうだな」
「ちゃんと外側は魔鉄あたりでコーティングしますよ。オリハルコンであればそれほど心配無いと思いますし『不壊』も刻みますけど、魔鉄の強度は信頼できますからね。傷がついてもそれほど気になりませんし」
「よし。抽出は後でもできるから、俺もちょっとツルハシ振ってくる」
「使えそうな石素材と土素材もあれば一緒にお願いします」
「了解」
そういってウェイトリーはセットに含まれていた『鉱物透視ゴーグル』取り出して装着し、ツルハシを担いで壁に向かって行った。
その後二人は、昼食に朝と同じサンドイッチではあるが、照り焼き地竜のサンドイッチを頬張りつつ、人手二人では到底掘り出せないような大量の鉱石と宝石の原石を掘りだした。
まだまだ残っている鉱脈を惜しみつつ、もうすっかり日も暮れた時間となったため、採掘に使ったもろもろや『野営地』を引き上げて、大洞窟を後にするのであった。
「オリハルコンが取れたことは黙ってよう」
「ですね。魔鉄がそこそこ取れましたくらにしましょう。宝石も結構よかったので」
「いつになるかはわからんけど、いずれまた掘りに来たいもんだ」
「帰りに粘土質な土も探して帰りましょう。それで釜を作るのには問題ない素材が揃いそうですし」
「そうだな。ここなら品質に憂いはないしな」
渓谷入り口の陣地に向かいながらそんなことを話し合う二人であった。




