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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
5章 ハンガーベイル渓谷の異変
95/334

095 急変

 端末のショップ購入アイテム用インベントリに服を大量に詰め込み、領都に帰ったら洋服用の収納バッグを作らねば! と意気込むニッコニコのマリーにどれくらい使ったのかと聞いてみれば、もうCPは残っていないと言われて、唖然としたウェイトリーは、呆れつつも『野営地』を片付けてさっさと渓谷入り口の陣地へと引き返した。

 

 特に問題らしい問題もなく戻ってきたウェイトリーたちをルドルファス氏が出迎えた。

 

「無事の帰還何よりだ。早速話を聞きたいのだが、いいか?」

「もちろん。ですが、あまりルドルファス様の知りたいであろう内容については確証を得られませんでした」

「そうなのか?」

「地竜はいまだ洞窟の奥底でまどろみの中にありました。ここに来るまでの事前調査でも外に出ていたのは確認できていないので、もしかしたら長い睡眠期間に入った可能性もありますが、確証はないですね。

 また、仮にすぐに目覚めたとして、渓谷の外に出るかどうかいう点は、何となくまだ大丈夫なのではないかという程度にしかわかりませんでした」

「根拠を聞こう」

「谷の中に生息している、地竜が捕食しやすい場所にいる魔物の数ですね。

 数は減っているみたいですが、まだ渓谷の外に食料を求めるほどに減っているということはないのではないかと考えました。

 件の地竜の眠る洞窟まで、徒歩でおよそ一時間半ほどの時間の位置にありますが、道中でそれなりの魔物を見ることができたのでそう判断しました」

「そうか。ああ、なにかその地竜の姿を確認できるものは持っていないか?」

「一回録画のみの魔道具を用いて姿を撮影してきましたのでお納めください」

「ある、のだな……」

「地底の底での録画で、あまり強い光源を焚くわけには行かなかったので、やや見ずらいとは思いますが、姿の確認自体は十分可能なはずです」

「確認、しよう」


 そう答えつつ、渡された録画の魔道具を再生し、周囲にいる騎士たちとその内容を確認し、ルドルファス氏と騎士たちはその異様に息を飲んだ。

 皆一様に表情が陰るが、ここでパニックを起こしたり絶望に膝を折るということがないのは、ベンゲル辺境伯領が誇る騎士たちなのかもしれない。


 そんな状況の中、ルドルファス氏には聞かねばならないことがあった。

 

「して、貴殿。……本当にこれに仕掛けるのか?」

「はい」


 ウェイトリーは気負った風もなく自然体で、その問いに即答した。


「どのように仕掛けるつもりなのだ?」

「本日調べたところによると、睡眠時はかなり無防備のようであったので、明日も同じく寝ているというのなら、そこを仕掛けます。

 氷属性に対して非常に脆弱のようでしたので、洞窟全体を凍てつかせる魔術によって一気に洞窟内を凍らせ、出入口を塞いで凍死させる予定です」

「見たところかなりの広さのようだが、その全域を凍結させられるのか?」

「はい。直接的な氷結魔術による攻撃などはともかく、周辺の環境を一変させるような魔術は私の得意分野でもありますので」

「そうか。もしそれがうまくいくのであれば、大きな戦闘にもならずに片付きそうではあるな」

「凍死であれば、素材に無駄な傷も付きませんしね。辺境伯領としても大いに潤うでしょう」

「……私が同行することは可能か?」

「あー、そうですね……。こちらの指示に従っていただけて、かつ大人数でなければ」

「どの程度なら可能だ?」

「ルドルファス様を含め三人ほどであれば、こちらも対処可能かと」

「ことは辺境伯領の命運を左右する可能性もある。その条件で同行したい」

「わかりました。最善を尽くします」

「明日はいつ頃出る?」

「今日と同じくらいの時間にと考えています。今日の状況とできるだけ同じに整えたいので」

「了解した。では明朝九時に出るとしよう」

「わかりました」


 それで話を終わりにして、ウェイトリーたちは割り当てられている陣幕へと案内され、そこで休息を取った。

 

 事前にマリーが用意していた夕食を取り、明日の詳しい作戦を話し合っていた。

 

「結局『凍結氷原』で行くんですか?」

「そうしようと思ってる。言うてトカゲだから急激に温度が下がった空間では動きも鈍るだろうし、『凍結氷原』の凍傷スリップダメはかなり馬鹿にならんからな。

 あのサイズでも一時間で抵抗力をなくして、二時間もすれば凍死体の出来上がりだ」

「じゃあその一時間の稼ぎ方が重要ですね」

「ぐっすり寝てるなら、そのまま起きない可能性も考えられるんだけどな」

「起きずに終わると思いますか?」

「今日と同じなら割と行けるんじゃないかと思ってる。無理だった場合は通路に山ほど『崩れた城壁』を詰め込んで、最悪、天井を落盤させる」

「あとで掘るの大変そうですね」

「まぁな。でも鉱石採取も一緒にできるし、それならそれでもかまわない。どうせアンデッドは疲労しないしな」

「ブラックデッドマスターここに極まれりですね。でもあの穴を掘ったのがあの地竜だとするならそれでも厳しいかもしれませんよ?」

「うーん、それは確かにそうか。それなら通路を塞がずに『凍結氷原』の中で俺が回避に徹するってのもあるが。どんどん動きが鈍くなるだろうし、余裕だろ。

 最悪いつでも姿をくらませられるだろうし」

「やっぱり後の手間もあるかもしれませんが、『凍結氷原』の効果を内包するグレイスホワイトを呼んだ方が無難じゃないですか?」

「オーバーアンデッドって割と言うことを聞かんからなぁ。台無しにされるのだけはごめんなんだよなぁ。

 グレイスホワイトは他二体と比べれば多少はマシっちゃマシだけど、“ヤンデレ激重凍らせ厨”だからエンジンかかったらもう空洞全面凍結で、地竜を取り出すのにめちゃくちゃ骨が折れることになるからなぁ」

「全然無難じゃないですね」

「安全確実に勝てるという点ではド安定だとは思うけどね」


 その後も考えられる案や、戦闘方法、作戦などを話し合って、時に脱線してどうでもいい話を続け、やはり『凍結氷原』で決着をつけるのがいいという結論に落ち着いた。

 ウェイトリーはその為のデッキ編成を考えることにして、マリーは今手持ちにある素材を使ってより眠りを深くする揮発性ポーションを作るために錬金鍋をかき混ぜていた。

 

 デッキの構築もおおよそ纏まり、いよいよ大金貨を一枚取り出して、それを端末に回収し、欲しいカードを手に入れるべくショップを開いた。

 

「これで『凍結氷原』を引けなかったらどうします?」

「それはめちゃくちゃ笑えない。俺、ルドルファス氏にドヤ顔で『自分、環境変化魔術得意なんで』って言っちゃったのに」

「出るまで引くことになりますね」

「いや、流石に出るとは思うぞ? いつぞやの冒険者捜索依頼の時も一発で最上位蘇生引けたし、幽霊屋敷と墓場で使った灰もベストマッチだったし」

「天墜滅焔雨というケースもあったと思いますけど」

「覚えにないカードだな? なんだそれ」


 記憶力がアピールポイントの一つであるウェイトリーが白々しいすっとぼけをかますのを見て、若干不安になってきたマリーであった。


「本当に大丈夫です?」

「大丈夫だって。こんなん欲しいカードを必ず手に入る確定ガチャ見たいなもんでしょ」

「うわ、今一番不安になりました」

「やめてよ」


 ウェイトリーは雑念を振り払いつつ、リンカーコールパックを引こうと端末のその項目をタップしようとした、その時であった。

 ウェイトリーはぴたりと指を止めた。

 その様に何かが起こったのを察したマリーはすぐにそれを聞いた。

 

「何かありましたか?」

「クソデカ地竜くん出てきたぞ」

「あの洞窟からですか?」

「あぁ。……それと気のせいかな。なんかこっちのほうに向かってきてるような気がする」

「まだ出てきたところですよね? 流石に考え過ぎでは?」

「だといいんだが……」


 しかしながら、ウェイトリーの予想は的中し、巨大地竜は真っすぐに道中の他の魔物を捕食しながらハンガーベイル渓谷の入り口に歩を進めていた。


 流石にこのまま悠長にしているわけにもいかず、ウェイトリーはすぐに立ち上がって、ルドルファス氏にこのことを伝えるべく動いた。

 すぐさまルドルファス氏のもとに通されたウェイトリーは事の次第を告げた。

 

「地竜が動いた?」

「はい。しかもこちら側に向かって前進中です」

「どの程度でここまで来る?」

「今の速度を維持したままであれば、およそ三十分から四十分ほどかと」

「何が原因だ? 思い当たるフシは?」

「修正点を修復した結果居心地が悪くなったというのは考えられますが、こちらに向かってくる理由は……。しいて言えば大森林でしょうか」

「なにか他にしたことがあるとかはないか?」

「調査用の魔術やスキルを使い、録画の魔道具を使った以外は何もしていません。もしそれが原因だとするならターゲットは私でしょうかね?」

「俺に聞かれてもな」

「まぁ、なんにしても状況は悪化しました。明日の作戦通りにやるのがベストではありましたが、致し方ありません」

「撤退するしかあるまいな」

「そうしてください。自分は渓谷入り口で対処します」

「は?」


 お前何言ってんの? と言わんばかりの顔でルドルファス氏はウェイトリーを見た。

 

「仮に大森林に行ったとしても、あそこには貴重な薬草も多くありますし、気のいい知り合いもいますし、いろいろと都合が悪い。かといってそれ以外の場所に行かれるのはもっと都合が悪い。

 であるならこの渓谷から出すわけには行きませんし、仕留めるしかないですね」

「気のいい知り合い? いや簡単に言うが貴殿、そのようなことが可能なはずは―――」

「可能かどうかはさておいて、必要ならやるまでです。ルドルファス様は撤退の準備を。私も迎え撃つ準備をしますので」

「貴殿、死ぬ気か!?」

「いえ、そんなつもりは全くないですよ。

 依然も言いましたが、あれはヴァルファードレドニクスに比べれば地を這うトカゲ程度のものです。

 であるのなら狩れない道理はありません」


 そう告げて、愕然とするルドルファス氏に軽く会釈してからウェイトリーは割り当てられた陣幕へと戻った。

 錬金鍋や他の荷物も片付け終えていたマリーが戻ってきたウェイトリーに声をかけた。

 

「どうでしたか?」

「まぁ混乱してたね」

「でしょうね。主さまはどうするんですか? もはや『凍結氷原』で簡単討伐とはいかないのでは?」


 ウェイトリーは少しばかり、諦めたようにつぶやいた。


「……まぁ、そろそろ呼ぶころ合いだったんだろうよ」

「本人も首を長くして待っていたんじゃないですか?」

「だとしたらうれしいんだけどな」

「彼はいつだって主さまが呼ぶ最強の剣ですから。きっとそうですよ」

「デッキを組み替えないとな」


 マリーが微笑みながらそう言い、ウェイトリーは苦笑しながら“王国最強の騎士”を呼ぶに相応しいデッキの構築を始めるのであった。

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