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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
5章 ハンガーベイル渓谷の異変
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094 大洞窟の底

 ほどなくして、円形台地の近くにある大洞窟へとたどり着いた。

 道中、地竜を二体、ロッククラブを一体、ハンターホークを一体仕留め、渓谷の植物類の採取も順調であった。

 本当は横穴、おそらくは地竜の掘ったねぐらなどに露出している鉱脈が散見されているのでそれらの採掘や、良質な土素材や岩素材、石材なんかの採取採鉱もやりたいところではあったのだが、そのあたりはもろもろ終わった後にすべきだろうと、目標を優先した。

 

「多分、スキルで気づかれることはないとは思うが、慎重に行こうか」

「わかりました」

 

 ゴーストキャットを二体呼び出して先行させつつ、ウェイトリー達は大洞窟へと入っていった。

 緩やかに下る道中には、魔物の姿は全くと言っていいほどおらず、あるのは露出した鉱脈のみであった。

 そして、どうやらそれは魔力的に変質した金属類が多く見受けられ、一部、宝石の原石と思われるものも散見された。

 岩肌を撫でながら、それを確認したウェイトリーはその鉱石の名前を口にした。

 

「魔鉄、だな。なかなか質がよさそうだ。この辺りは純度が少し低いみたいだが」

「ですがなかなかの数ですね。それに、宝石は結構大ぶりなものもありますよ。土属性の相が強いからか、内包してる属性は土属性が多いですね。

 土と相性のいいトパーズなんかはいいですけど、サファイアやルビーはちょっと相性的にイマイチですね。一度属性抜きをしてから魔力を込めなおさないと属性相性が干渉して使いづらいです」

「普通に宝石として売ったり、眺めて楽しむという選択肢はないのか」

「えっ、仮に装飾品にするにしてもいい素材を無エンチャ無刻印で放置するんですか?」

「世間的にはそれでも十分ステータスだと思うが」

「そんなのいりませんよ。服でおしゃれをすることはあっても宝石をゴテゴテつける趣味はありませんし、無エンチャ無刻印のアクセサリーをつける意味もわかりませんし」

「聞いた俺が馬鹿だったよ」

「でも大きい宝石の原石もいい素材になりますし、何か効果を付与する土台にはもちろんもってこいなのでもろもろが終わったら採取しましょう」

「それはクソデカ地竜を倒した後だな。少なくとも明日以降だ」


 壁に露出する鉱脈から手を放して洞窟を改めて進み始めた。


「このまま行って倒せばいいじゃないですか」

「それはちょっとな。ドラゴン狩りは得意だが、死にながら検証できるわけでもないからな」

「まー安全は大事ですね。他人を生き返らせることは出来ても、主さまは死にますからね」

「リスポンできるならこのまま殴りこむけどな。いやそれにしてもちょっとデッキが弱いか」

「確実に討ち取るのであれば何かしらまた引く必要がありますよね」

「いろいろ選択肢はあるが、素材を活かす倒し方となると、結局物理的かつ高威力が望ましいな」

「大きさ的にも餓者武者髑髏がよさそうですね」

「餓者武者髑髏を使うなら洞窟の外に出てくるのを待つ必要があるな。いや、中でも問題ないか。かなり天井も高かったような気がするな。

 ただ餓者武者髑髏は刀の切れ味が若干気になるが。大きさ的に首を落とせるサイズ感だが、どちらかといえば鉈みたいな印象があるからなぁ。首を落とすまでに結構体がボロボロになるかも」

「ちょっともったいないですねそれ。まー私としてはお肉と血と内臓がおよそ無事なら皮そこまでですが」

「三十メートルのドラゴンの皮だからな。ドラゴンスケイルの鎧何着分になるかはわからんけど、とれる量は多いに越したことはないな」

「いっそのこと、主さまが“刃”を抜くのが一番なのでは? 防御無効の直接攻撃ですし、首も一撃ですよ」

「あー“刃”かぁ。いや、無理だろ。あれ攻撃力だすのにどんだけCCいると思ってるんだ。

 ある程度大規模戦か長期戦じゃないと火力が出ないし、そのためだけにキャラクターを出しては送りを繰り返すのはナンセンス極まりないな」

「『死槍刺』で脳天を貫く」

「一撃必殺だと思うけど、肉が瘴気で汚染されるぞ」

「うーむ。どれもことごとく却下ですね」

「わかってて却下されること言ってないか?」

「餓者武者髑髏は悪くないと思ったんですけど」

「まぁ実際、悪くはないよ。でももっと適任者がいるし、正直あえてそれを言うのを避けてるだろ」

「レギオールさんに貫いてもらう」

「あのさぁ」

「もちろんわかってますとも。主さまと一緒にいた時間が長い分、私もかなり共に戦ってますし。

 最初から答えを言うのは遊び心が足りないと思いませんか?」

「わからんではない。が、時間切れだ。

 そろそろ底に着いたみたいだぞ」

 

 ウェイトリーが見据える先には巨大な大空洞が広がっており、光届かぬ地の底には、低いうめき声と空気が流れるようなヒュー、ヒューという音だけが響いていた。

 件の地竜は、その巨大空洞のほぼ中央にていまだにまどろみの中にあった。

 

「ここからは流石に雑談なしでいこう。とりあえずは何を置いても修正点だ」

「了解です」


 そういってウェイトリーは『浄化の銀鍵』を取り出し、それを手に持ち、地竜を迂回して回り込むように外周を回っていく。

 すると、地竜に隠れていて入り口からは見えていなかった、青や緑に加えて、黄色い光の粒が噴き出されている穴を発見する。

 位置は、入り口から地竜を挟んで、反対側の壁際と地竜の間といった場所であった。

 音も気配もなく、その穴に静かに近づいて、ウェイトリーは穴に銀鍵を差し込んだ。

 鍵を回せば、穴は強く光り、そしてすぐに何もなかったかのようにただの地面へと戻った。


 強い光で地竜が目を覚まさないかと若干ヒヤりとしたウェイトリーであったが、規則正しく続く寝息といびきに胸を撫でおろし、そのまま地竜に少しばかり近づいて、観察を始めた。

 

 見た目だけではわかることは少ないが、スキルの『調査』と『魔生物学』を用いてじっくり観察することでおおよその防御力やダメージの入りやすい部分や属性相性などがわかってくる。

 また、スキルレベルが戻ったことで再び使えるようになった複合・発展系スキルの『弱点看破』によって、より詳細な弱点箇所が明確な赤点となって認識することができ、また最も有効な属性が氷属性であることも判明した。


 これ以上の調査は実際の戦闘方法や使ってくる技や魔法といった部分になるため、現状の調査はこれで終了とし、ルドルファス氏への説明用にと一時的にマリーさんに光を灯してもらい、巨大地竜の姿を録画の魔道具に納めた。

 録画を終えたウェイトリーは光球を浮かべていたマリーに戻ることを伝え、入ってきた時と同じように静かにその大空洞から立ち去った。


 ウェイトリーとマリーは洞窟の来た道をそそくさと戻り、行きで調べることも調べ終えていたためスムーズに洞窟の外までやってきた。

 巨大空洞の外周でオールレンジスキャンを使って鉱物調査をしていた二匹のゴーストキャットももちろんいる。


「なんとかあの大空洞から出さないようにすれば、『凍結氷原』を使うだけで勝てるかもしれん」

「だったらもはやグレイスホワイトを呼んだ方が早くないですか?」

「絶対氷漬けにされて面倒なことになるぞ」

「お肉が傷まなくて万々歳ですね」

「その肉を取り出すのに多大な苦労が必要になるけどね」


 そう言いつつ、今度は忘れていなかったのでウェイトリーは端末を取り出して通知を確認した。

 三度目ともなれば修正点を修復で端末機能にアップデートが入るというのに流石に慣れたのだ。

 内容はこのようなものであった。


『中規模修正点の修復により、機能を開放・追加します。

 解放・追加される機能は以下の通り。

 

 解放・キャラクターユニット衣装/スキン変更機能

    キャラクターユニット衣装/スキンショップ

    

 追加・キャラクターユニット衣装/スキンラインナップ追加


 主にキャラクターユニット用の衣装とスキンを変更できる機能を追加します。

 衣装とスキンは端末ショップの『衣装/スキン』のタブより購入できます。

 

 機能解放特典として衣装/スキンショップ要望チケットを一枚配布させていただきます。


 EWSD管理運営者より』


「へー」

「私、今度こそ家電にチャレンジしてみるべきだと思うんですよ」

「まだ言ってたのかそれ」

「それか現代日本お菓子を買えるようにしましょう。主さまがブロック携行食食べてるのなんかズルいです」

「実質チョコレート菓子だからな。しかも健康にいい」

「もっとちゃんとしたチョコレート菓子も欲しいですね。ここは無難に板チョコみたいなのをお願いするか、それともチョコビスケットのようなものにするか。それかきのこ・たけのこ―――」

「火種になるチョコ菓子はやめよう。せめてポッキーかトッポにしてくれ」

「うーむ悩ましい。そういえば先ほど服の話をしましたし、服を何とかできないか考えてみるべきかもしれませんね。私、辺境伯さんのところに行くとき困りましたし」

「あぁそれ正解」

「はい?」

「今回はキャラクターユニット用の衣装とスキンの変更機能の追加とその衣装/スキン用のショップの開店だとさ」

「なんと助かる神アップデート」

「俺には関係ない機能だからマリーさん好きにしていいよ。衣装/スキンショップ要望チケットも一枚来てるし」

「そもそも元々のショップにはどんなのがあるんですか?」

「そこで『野営地』張って確認するか」


 大洞窟からやや離れた場所に『野営地』を展開し、テーブルを置いてからウェイトリーは端末を見やすいようにテーブルに置いた。

 並ぶラインナップは所持しているキャラクターごとに別々に分かれており、一キャラクターにつきだいたいん三種類ほどの衣装かスキンが販売されていた。

 三種類とはいっても、たとえばコモンのスケルトンであれば、骨のカラーチェンジのバリエーションが三色であったり、ゾンビであれば、おどろおどろしい見た目になるものと逆にものすごく簡略化されたホラー皆無な見た目になるものなどであった。

 概ねゾンビ、スケルトンはそのような傾向で追加されていた。レイスもおよそ近しい。

 しかし、レアのキャラクターユニットは結構差異がある。

 職業アンデッドはカラバリやホラーテイストの強弱に加え、衣装の綺麗さやカラー違いやデザイン違いなどがカスタム可能な状態で設定されていた。

 これはナイトスケルトンなどの王国騎士系ユニットも同じである。

 さらにスーパーレアクラスになると、アンデッドラッズはカラバリ、ホラーテイストバリエ-ションに加えそもそもハムスターに変更が可能になっていたりするし、ゴーストキャットも同じくカラーバリエーションとやたらと猫の種類が多く変更できる。

 そして我らが頼れる足であるボーンタイラントは、カラバリとテイストはもちろん骨に幾何学的なラインが入った未来的でスタイリッシュなデザインであったり、逆にひび割れなどが入っているが歴戦を感じさせる強そうで古風なデザインがあったりとどれもこれもカッコイイものであった。


 しかし、それよよりも明らかに贔屓されていたのはマリーであった。

 珍しい生きた人間のキャラクターユニットの為にカラーやテイストの変更こそないが、衣装が十以上ある。

 今のくたびれたローブの新品のようなデザインのものから、おしゃれな正統派魔女といったものがデザイン違いで三点、それから裕福な町娘的な日常的な衣装が三点、そして現代日本的な洗練されたカジュアルな洋服が三点と、他にもこまごまと魔女帽子やら手袋やらスカーフやらと小物もそれなりにあった。


 概ね満足のいく衣装/スキン変更に唯一問題があるとすれば、どれもこれも最低金額が十万CPからであることであった。

 というかマリーの衣装はそのほとんどが三十万から五十万CP以上であった。

 

 ファッションにそれほど明るくはなく、今も『灰色賢者』一式をほぼずっと着ているし、日本時代も服は妹に選んでもらっていたウェイトリーは、それを見て、うわぁ、という気持ちになった。

 

「どれだけ控えめに言っても神アプデですねこれは」

「もう好きに買ってくれ。ここで休憩してる間はしばらく端末は貸しておくよ」

「主さま、ショップ要望チケットも使っていいですか?」

「好きにしていいよ。あーCPのチャージ自体はしておかないとな」

「じゃあ好きに買いたいんでこれをお願いします」

「あの、どんだけ買うつもりなんだ?」


 出されたのは白金貨であった。


「とりあえずは買えるものは全部買うつもりですけど、カラー変更もできるみたいなので何着か買おうと思ってます」

「そう、か。まぁ、ごゆっくり」

 

 言われたとおりに白金貨を回収してからマリーに端末を渡した。

 

「じゃあ私は服を買って実際に着て確かめてみるので、覗かないでくださいね」

「はいはい。着るのはいいけど、戻るときは今の服に着替えるんだぞ」

「そのあたりは心得ていますよ」

 

 そういってマリーは楽し気にテントへと入って行った。

 いつも通りブロック携行食を、と思ったところで端末を渡したことに気が付いて、手持無沙汰に椅子に深く持たれて目を閉じた。

 

「まぁ、ショッピングに連れ歩かれるよりはマシかな」

 

 今度からバックパックにもブロック携行食をある程度詰めておこうと考えながら、図書館で記憶した本の内容をさらうことに時間を充てるウェイトリーであった。

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