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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
5章 ハンガーベイル渓谷の異変
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091 対策会議

 調査の日から三日後。ギルドの混雑が落ち着いた朝頃。

 ウェイトリーとマリーは冒険者ギルドの会議室へと来ていた。

 

 領都に帰ってきた翌日に、ギルドに今回の依頼の完了を報告してそれに対する報酬を受け取った。

 アーシア・リーネリア嬢の二人も報酬を受け取ったのだが、アーシアの受け取った報酬がまぁまぁ大きいもので、加えて普段よりも安い値段で売ったとはいえ、ポーションの売却益も転がり込み、多少混乱していた。

 

 そんな二人に前日のうちに通常の訓練メニューを言い渡し、二人はギルドの会議室で時間を待っていた。

 

「早く来過ぎたんかね」

「そんなことは無いと思いますけど。単純に私たちが暇なだけで、ギルマスさんも領主さんも忙しいというだけだと思いますよ」

「なるほどな」

「羨ましいと言やぁいいのか、働けと言やぁいいのかわからんな、お前らは」

 

 そんなことを言いながら、噂をすれば影とグラッツギルドマスターがエリナ職員と共にやってきた。

 

「一仕事終えた後なんすから俺らが暇でも別にいいじゃないっすか」

「まあそうだな。お前が持ってきた話が無視できる話なら俺ももうちっと楽だったんだがな」

「じゃあ知らんふりしとけばいいんじゃないっすか?」

「俺もそうしてぇよ」

「馬鹿なことを言うなグラッツ」


 そういって今度はベンゲル辺境伯が入室して来た。こちらはルドルファス氏を伴っている。

 ルドルファス氏は、まだ騎士たちの指揮が残っているはずだが、結構お疲れの様相を見て取るに、それなりの強行軍でこの場に参加していると見える。

 ウェイトリーとマリーは、わぁ皆忙しそー、とやや他人事のように見ていた。


「怖い領主様に見張られてて知らんふりするわけにもいかねぇってわけだ」

「ギルマスも大変っすね」

「他人事みたいに言うな符術師」

「いや他人事っすもん」

「お前、言うに事欠いてそりゃねぇだろうよ」

「ギルマス、皆さまお揃いのようですので、始めてはいかがでしょうか」


 エリナ職員がベンゲル辺境伯とルドルファス氏が席に着いたのを確認してグラッツギルドマスターに会議の開始を促し、頭を切り替えて会議の開始を宣言した。


「そうだな。じゃあ始めるか。まずは符術師、報告では聞いてるが、一応どういう状況かをもっぺん説明してもらえるか」

「うっす。じゃあ―――」


 ウェイトリーは、調査の内容をできるだけ細かく説明し、自身の所見や予測などを話した。

 報告の内容と相違なく、グラッツギルドマスターとしてもおそらくは急に事態が動くということはないだろうという意見には賛成であった。

 ベンゲル辺境伯にしても、信用に足る意見であるとして同意し、議論を次に進めた。

 

「ウェイトリー殿。今回のことは貴殿の言う修正点の影響であると考えられるか?」

「領都の図書館で過去の記録なんかや新聞を調べたのですが、過去地竜がハンガーベイル渓谷より進出してきたことは、知られている限りでは大規模にはなかったようなので、原因として上げるなら、おそらく間違いないかと思います」

「そもそも、修正点とは具体的にどのようなものなのだ?」

「具体的、と言われるとやや弱いのですが、私が見る限りは大地のエネルギーが噴き出す穴のように見えています」

「エネルギーが噴き出す穴?」

「はい。例を挙げるなら湧き水などを思い浮かべていただければ多少はイメージしやすいかと思います。

 大地のエネルギー、それが何と呼ばれるものなのかはわかりませんが、そのエネルギーがあることで作物が育ち、清浄な空気が流れ、綺麗な水が流れゆくものらしいです」

「その修復点事体は危険なものなのか?」

「いえ、おそらくは触れようとしても触れることができないと思います。

 穴とは言いましたが、実際に地面に穴が開いてるわけではなく、目に見えない魔力のようなものがその場所からあふれているのだとお考え下さい」

「魔力か」

「ええ。仮に穴の上で生活していても直ちに影響はないと思います。

 むしろ、もしかするとそのエネルギーによって身体が強くなったり、魔力が高まったりといういい効果が見込めるかもしれません」

「なるほどなぁ。言うところに言やぁ、血眼になってその場所を探しそうだ」

「……それは、人の話だけということはないのだな?」

「おっしゃる通りです。自分は、おそらくそのエネルギーに強く影響を受けたであろう個体をいまだに所持しています」

「マジか。ここで出せる大きさか?」

「多少テーブルを移動させれば出すだけは」

「わかった。ちょっとどかすの手伝え。見せてみろ」

「うっす」


 そういってグラッツギルドマスターと協力してテーブルを少し脇へとどかしてからその場にシカの王を出した。

 

「コイツは……。ブリッツムース、か? 見事な個体だな。いや、こりゃもうただのブリッツムースを超えてるな。上位種、サンダームースか。

 しかしサンダームースにしても相当立派な個体だぞ。早々お目にかかれるもんじゃねぇな」

「凄まじい魔物だな……」


 妙に興奮したように見分を始めたグラッツギルドマスターに続いて、ベンゲル辺境伯とルドルファス氏も見分に加わった。


「なぁ符術師、コイツはどんな攻撃をしてきたんだ? 俺の見たところだとかなりの魔法を使いこなす個体と見たが」

「いやぁ、わかんねぇっす」

「なんでだ?」

「寝てるところを奇襲して即死させたんで、何もさせなかったんっすよ」

「この脳天ぶち抜いてる傷か。というかこれ以外に傷がねぇな。お前のナイフは一体どんな威力が出るんだよ」

「まぁあのナイフだけだとたかが知れてますよ。威力でいえば、そこそこ出来のいい投擲用ナイフとそう変わらないはずっす。

 魔法で作ったナイフなんでどこにでも刺さるっていうメリットと、刺さってから三秒間麻痺させる効果はありますけど」

「お前、コイツは売らないのか?」

「あーまぁ、別に売ってもいいっすよ。こいつはかなり“リソース”の影響を受けてるんで一応残しておいただけなんで」

「リソース?」

「さっき言ってたエネルギーの話です。この話を聞いた推定神らしき知り合いがそう呼んでたんですよ」

「前も聞いたが、なんなんだよその推定神らしき知り合いってのは」

「本人が『私は神です』みたいに言ってたんですけど、そんなこと言われて信用できます?」

「無理だな」

「っすよね? まぁその人から修正点の修復を気が向いたらやってくれと言われて、その修正点を見るためのアイテムも渡されたんですけどね」

「めちゃくちゃうさんくせぇ」

「俺もそう思うんすけど、まぁその人が本当に神かどうかはともかくとして、とても楽しい思い出をもらった恩があって、信用できる人だったんで話を聞いたって感じっす。

 ともかく、そのエネルギーはもう抜けてるみたいなんで、売るのはかまわないっすよ。あーただ、ハンティングトロフィーとして、捻じれた三本角のうちの一本だけ持ってたいっす」

「おう、任せとけ。ロイド、もういいか?」

「ん? あぁかまわない」

「じゃあ符術師、またカードに戻してくれ」

「うっす」


 ウェイトリーはシカの王をカードに戻して流れでグラッツギルドマスターに渡し、テーブルを元の位置に戻すのを手伝ってから再び席に着いた。

 

「とまぁ、ちょっと話が脱線しましたが、おそらく元は普通のブリッツムースか、上位種のサンダームースだった個体がアレになるくらいのパワーを持った場所が修正点ってやつなんです」

「今のを見る限り、ハンガーベイルでも強靭な魔物が生まれている可能性があるということか」

「可能性の中では一番高いと思います。ですが、領都近郊の墓地の例を考えると、環境が悪化する変化を修正点が与えた結果、居心地が悪くなって大森林へと地竜が逃げてきたというのも考えられます」

「なんにしても、調査の必要があるな。仮に対処不可能な個体が生まれていたとして、対処が難しいとしてもそれがハンガーベイル渓谷の中から出てこないのであれば、大森林と同程度に危険な地域というだけで、問題はないからな」

「父上、問題はそれが外に出てくる場合では」

「そうだ。それを知るためにも調査の必要がある」

「危険地域の調査は主さまの十八番ですね」

「まぁそろそろ調べる時期かなとは思っていたけども」

「頼めるか、ウェイトリー殿」

「もちろんです閣下。そもそも私が発端の話ですので、何もなくとも調査させていただきます」

「助かる。……そうだな。ルドルフ。学園に戻る時期が遅れるのは問題ないか?」

「……授業や実技も問題ありませんが」

「今の警戒の指揮を別のものに当たらせる。一日の休日を取った後、ハンガーベイル渓谷最寄りの町を経由して渓谷入り口付近に陣を張り、そこの指揮を任せる。できるか?」

「お任せを、父上」

「ウェイトリー殿。おそらく現地へ行って陣を用意するのに五日程度の時間が必要だが、貴殿はどうする?」

「では、私はこのまま領都から眷属を飛ばし、三日ほど航空偵察をして、五日目には現地に赴けるようにしておきます」

「了解した」


 今後の予定を決め、ギルドの対応や辺境伯家との連携などを詰めて、会議で決まるべき内容は定まった。

 そんな、もう話すことはないかといった空気の中、グラッツギルドマスターは口を開いた。

 

「符術師。仮の話だが」

「なんすか?」

「さっきのシカみてえに地竜が強力な個体になってらよぉ、……お前、何とかなるか?」

「さぁどうっすかね。相手を見てみない事にはなんとも言えませんけど、まぁー、今現在の手札ではどうにもならないかもしれないっすね」

「お前にも無理なもんってあったんだな。安心したぜ」

「安心するところではないぞグラッツ」

「コイツぁ、言えば何でもできるって言いそうでこえぇ時あんだよ」

「あくまで今現在の“手札”ではどうにもならないかもしれないってだけで、一切手がないとは言ってないっすよ?」

「お前、そういうとこだぞ」

「でも、そうっすねぇ……。これでもドラゴン狩りには一家言あるんで、相手がアースドラゴン系統なら割と今のままでも何とかなるかもしれないっすよ」

「……なんでドラゴン狩りに一家言あるんだよ。なんの一家だよなんの。あ? ルドルフの坊主、顔色悪いがどうした?」

「聞くなグラッツ。知らない方が幸せだ」


 疲れからではない明らかにいっぱいいっぱいの顔をしているルドルファス氏を見て不思議そうに尋ねるグラッツギルドマスターに、苦い顔をしながら目頭を抑えるベンゲル辺境伯。

 その様子を見て、何となく事の次第を察したグラッツギルドマスター。

 

「お前ら、またなんかやったのか」

「あれはマリーさんが悪い」

「ちゃんと周辺地域への配慮はしましたよ」

「そもそも周辺への配慮がいるようなことをするんじゃねぇ」

「何言ってるんですかギルマスさん。ちょっと霧に光を当てて幻影を作った程度のことですよ」

「……それがどうしたら周辺への配慮が必要な事態になるんだ」

「知りたいですか?」

「……。さぁあて、俺は仕事に戻るか。符術師、シカの解体は今日中にやっとくから明日か明後日にでも料金と角を受け取りにこい」

「うっす」


 何も答えなかったグラッツギルドマスターはとても健全な判断であった。



 なおエリナ職員は、言われた内容から、以前アーシアに聞いた、マリーが幻影を使った劇を見せてくれたという話を思い出して、話の流れからドラゴンを作ったんだろうなぁ、と察する名探偵ぶりを見せていたが、グラッツギルドマスターの精神を慮り、何も言わなかったのであった。

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