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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
5章 ハンガーベイル渓谷の異変
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090 原因の調査

 翌日。

 朝からのレイブンレイスによる航空偵察を終えたウェイトリーは、昨日討伐されたスパイクアルミラージとファングウルフの処理に関する解体や運搬などの指揮を執っているルドルファス氏の元へと訪れた。

 キリの良いところまで終わらせてから話を聞くと言われ、ブロック携行食と水を片手に待つこと十分ほどした頃に、おおよその作業指示を終えたルドルファス氏が指揮所のテントへと戻ってきた。

 

「待たせた」

「いえ、お構いなく」

「それで? 何かわかったか?」

「率直に申し上げますと、今回のスパイクアルミラージのスタンピードの直接の原因は、アースドラゴン、地竜にあると思われます」

「地竜? ハンガーベイルのか?」

「おそらくは。自分はそこそこ大森林を調べているのですが、地竜がいるのを見たのは初めてですね。

 この後、改めて大森林に行って調査をするつもりですが、地竜が大森林浅層に現れたために、生存競争の結果、スパイクアルミラージの生息圏が縮小して、結果として今回の事件になったのではないかと推測しています」

「そう、か。考えられるのは渓谷で何かあったかというところだが、なにか心当たりはあるか?」

「ん? 辺境伯閣下からハンガーベイル渓谷の話はお聞きになっておられませんか?」

「なんの話だ?」

「いえ、もし閣下がお話になっておられないのであれば私からは申し上げていいものかわかりかねますので、必要であれば閣下に改めてお聞きください」

「急を要する事体か?」

「どう、でしょうかね。今回のことを見ればそうなのかもしれませんが、仮に今すぐに大本の原因を取り除いたとして、自体が終息に向かうかと言われると、そのようなことはないのではないかと考えます」


 ウェイトリーは何が原因で地竜が大森林にやってきているのかは知らないが、修正点を今すぐ修復できたとしても、そこから生じた原因、大森林の中規模修正点を例に挙げるのであれば、シカの王のような存在がいるのなら、修復事体に事態を収拾する効果は無いと考えていた。

 しかしながら、大筋を知らないルドルファス氏としてはわかるわけもない話であった。


「……なんとも要領を得んな」

「私自身としては話すのもかまわないのですが、如何せん閣下を無碍には出来ませんのでご容赦を」

「一度父上と話した方がよさそうだな。だがこれだけは聞いておきたいのだが、今日明日にも渓谷にて異変が起こり、今度は地竜が暴走を起こすというようなことはないのか?」

「この後の大森林での調査にもよりますが、おそらくはないと思われます。

 大森林に地竜がいるところを見る限り、移動するとしてもベンゲル辺境伯領内への移動ではなく同じく大森林へ向かうと思います。

 それから地竜が改めて集まって暴走するということもまずないと思われます。

 もしそうなるのであれば、スパイクアルミラージより前にアースドラゴンがあふれていて然るべきかと思いますので。

 あくまで今の段階で解かる範囲では、ですが」

「わかった。貴殿の調査はどの程度かかる?」

「そうですね……。この後出発して、日が暮れる頃には終えて戻っているとは思います」

「そうか。では私は一度近くの町まで戻って冒険者ギルドで通信の魔道具で父上に話を聞いてこよう」

「通信……? なるほど。それができるのであればそれがよいかと思われます」


 ウェイトリーはそんなものまであるのか、と街並みの見た目に見合わない技術発展に困惑したが、さりとて魔法があるのであればそう言うこともあるかと思い気にしないことにした。


「よし。では調査、よろしく頼む」

「心得ました。では失礼させていただきます」


 別れの挨拶を済ませ、一度野営地へと戻ったウェイトリーは、大森林への調査に行ってくるとマリーに伝えた後、そのままの足でふらっと大森林へと向かった。



 ノアルファール大森林へと分け入ったウェトリーは、のんびりとした歩調を改め、フードをかぶり、草木をすり抜けるようにしながら、素早く、真っすぐに補足済みの地竜の元へと向かった。

 大森林入りからおよそ三十分で、最初の地竜の元へとたどり着いた。

 地竜は全長およそ七メートルで、姿かたちは頑丈で屈強な刺々しいトカゲと言った風貌である。

 体表は赤茶色をしており、深い緑が生い茂り、黒っぽい樹木が立ち並ぶノアルファール大森林ではやや浮いていると言えるだろう。

 

 ウェイトリーはその地竜の行動を観察すべく、自然体のままその地竜の動向を窺った。

 のそりのそりと周囲を徘徊する地竜は、時折大森林の魔物と出会っては、にらみ合いの末、相手が逃げるのであれば追わず、向かってくるのであれば頑丈な身体とフィジカルを駆使して戦い、時には土魔法と思われる岩塊や岩槍を飛ばして倒し、それを捕食していた。

 空腹時には逃げる魔物を追うのかもしれないが、大森林の浅層であれば、魔物の宝庫ともいえるため、それほど苦労することなく食べ物にありつけるのであろう。

 それからしばらく追跡を続けていれば、そのうちに徘徊をやめ、おもむろに頭を地面へと突き入れ、強靭な前足などを駆使して穴を掘り始めた。

 三十分ほど穴を掘ればある程度満足したのか、そこに潜りこむのだが、環境の違いか地質の違いか、イマイチ満足いくほどの穴ではないらしく、見ている感じではあまり快適ではなさそうであった。

 徘徊して、おもむろに穴を掘ったのは、ここだという場所をいまだに決めかねているためなのかもしれないな、とウェイトリーは感じた。

 

 その個体は満足とは言えずともその場所で休むようで、しばらく動きがなさそうだったので、次の個体の元へと向かうことにした。

 そして他の個体も概ね同じような行動パターンを取っているのが確認できた。

 ウェイトリーが確認している地竜は、全部で三十頭ほどで、大森林の大きさに対して決して多いという数ではない。

 ただ、戦闘力でいえば大森林における中層レベルであり、それが縄張りや生息域を無視して浅層で闊歩しているために今回のことが起こったのだろうとウェイトリーは結論付けた。

 しかし、恐るべきは大森林の魔物たち。

 等級でいえば上位ともいえる地竜に対して挑んだ浅層の魔物たちが全て敗北しているということも無く、一部の大森林種の魔物が数体の地竜を討ち取っていた。

 勝利したと思われるのは地竜の心臓あたりに太く大きい穴がぽっかり開いた傷からキリングボアと、周辺の焦げ跡と二本並んだ刺突痕からブリッツムースのものだろうと判断した。

 

 それらの死体を素材カードへと変えて生態調査は切り上げた。

 完全な生態調査や学術的な調査の結果としてはおざなりだろうが、他に暴走の原因になりそうなものが見当たらず、スパイクアルミラージ暴走の原因究明という点ではこの程度で問題ないだろうと判断した。

 また、直近でこの地竜の影響で大森林からまた魔物が溢れる可能性についても、高くはないと結論付けた。

 理由としては、一度大森林から追い出された勢力があったことである程度の余裕ができたこと、現状では影響が大きくなるほどの数の地竜が存在しないこと、地竜が完全なる上位存在ではなく返り討ちにあうこともあることの三点が理由であった。

 数体程度は大森林に適応し生き残る個体もいるだろうが、それはすぐに大きな影響を与えることはないだろう。

 

「一回か二回は直接当たっておくか」


 弱点や戦い方を探るべく、ウェイトリーは徘徊している無事な個体の元へと向かった。


 観察の結果、いくら防御を貫きどこにでも突き刺さるスカルピアサーとはいえ、ただ投げるだけでは生物の弱点たる頭部に致命打を与えるのは難しいと言えた。単純にナイフの長さ的に、表皮から脳まで刃が届かないのだ。

 しかし、それならそれでやり方もある。

 というか、以前にもシカの王に対して行った『浸透貫通』をまず試みてみることにした。

 

 さて。

 対象の地竜までの距離はおよそ百二十メートルほど。

 左手にスカルトマホーク、右手にスカルピアサー。

 いつぞやは空に浮かぶ月を眺めながら投げたものだが、今回は空から放物線を描く必要はなく、ほどほどに直線的に投げればよかった。

 とはいえ手順は変わらず、左手のスカルトマホークを投げた後に、すぐに右手のスカルピアサーも投げ放った。

 ほんの少しの山なり軌道をわずかの差で追いこしてスカルピアサーが脳天へと突き刺さり、コンマゼロ何秒といった差でスカルトマホークがスカルピアサーの柄尻へと叩きこまれ、結果、届かないはずの刃は深く浸透し、脳という生物的弱点へと到達した。

 そして、スカルピアサーの威力が上書きされたスカルトマホークの暴力的な威力が頭の中で炸裂し、甲高い骨と骨の衝突音を響かせただけで、声も上げずに地竜は絶命した。

 

 じっくり二分ほど待ち、確実なキルを確認したウェイトリーは地竜へと近づいて、その死体をカード化して端末へとしまった。

 

「ま、これで落とせるならそこまでの問題はないな。あとは通常接敵での能力を確認すればいいか」


 そう呟いて考えをまとめた後に、次の検証の餌食となるターゲットの元へと移動した。

 今回の編成は、ナイトスケルトン、ヘビーナイトゾンビ、マジシャンゴーストの“王国騎士”編成である。

 

 三人の騎士アンデットたちはヘビーナイトゾンビを先頭に地竜へと接近。

 およそ十五メートルといったところで地竜が反応し、地竜は警戒態勢へと入り、五メートルほどの位置で対象を確認したあと、変わらず近づく意思を見せたヘビーナイトゾンビに対して咆哮し、三人に向かって巨体に見合わぬ素早さで突進を仕掛けた。

 体格差から容易く吹き飛ばされるかと思いきや、衝撃の瞬間に地竜の横面へ構える盾を斜めから叩きつけるように当てて、地竜の頭部を滑るように受け流し、がら空きとなっている脇腹へと鋭く槍を突き入れた。

 会心の一撃ではあったが、表皮が想像しているよりも硬く、思ったよりも槍が深く刺さらなかった。

 それを感触で察したヘビーナイトゾンビは、素早く思考を切り替え、槍を引いて、頭部を警戒しつつ、隙ができない程度に槍での攻撃を続行した。

 当然、そのままされるがままにされるまいと地竜はヘビーナイトゾンビへと向き合い嚙み砕かんとその口を開き、襲い掛かるが、そこへ鋭い氷の槍が飛来し、口の中を大きく傷つける。

 ヘビーナイトゾンビと地竜が接触する瞬間にヘビーナイトゾンビが逸れた方と同じ方向に合わせて動いていたマジシャンゾンビのアイスランスであった。

 これにはたまらず口を閉じ、身体をじたばたと暴れさせながら、同じ愚を犯さぬように、ヘビーナイトゾンビへと強靭な爪を振るい、叩き潰そうと試みるが、そうはさせぬと鮮やかな盾捌きにてそれを逸らし、少しずつ立ち位置をずらしながら、爪の攻撃をいなす。

 攻防の間を縫うようにマジシャンゾンビが大技を封じるように魔術にて牽制を行い流れを少しずつ整えていく。

 そして、その時は来る。

 攻撃が通じぬことに焦れた地竜が、咆哮と共に三本の岩の槍を生み出し放とうとした時、ヘビーナイトゾンビは加速して地竜へと肉薄。

 咆哮を黙らせるかのように盾を頭へと叩き落とし、押さえつける。

 今まさに放たれんとしていた岩槍には、マジシャンゴーストが対応し、素早く氷槍を放ち、射出方向を被害のない場所へと逸らす。

 結果として全ての岩槍が誰もいない場所へと放たれ、明確な被害はなし。

 そしてこの時、この瞬間に、地竜の意識の完全に外側にいたナイトスケルトンが駆け込み、大上段からの渾身の一刀を、盾を叩きつけられた無防備の首へと振り下ろした。

 この技はウェイトリーもよく知る技であり、名を『一閃断』という。

 いくつかある“王国剣技”の決め技の一つで最もポピュラーな技であった。

 何の搦め手もない正しく刀線刃筋を通したシンプルかつ強力な一撃だが、大振りで隙も大きいため、相手の態勢を完璧に崩した状態でなければまず決まらない技でもある。

 だが、今この状況は全ての条件が整っている。

 渾身の威力を持って叩きつけられた騎士剣は、硬質な表皮を断ち、一刀のもとに頭部を切断しせしめた。


「お疲れさん。昔よりも連携が良くなってるな。いや、生前に迫る連携って言った方がいいのか?」


 樹上から飛び降りて、今しがたの戦いを映像に記録していた一回記録の録画の魔道具をバックパックにしまいながらウェイトリーはアンデッド達に声をかけた。

 大きく頷くヘビーナイトゾンビに、肩を竦めるマジシャンゴースト、そして剣を鞘に戻しつつ軽く会釈するナイトスケルトンであった。

 

「大体確認したいことは確認できたよ。ありがとう」


 そういって召喚を解除し、ウェイトリーは今回の調査は終了とした。


 この後、全力でひとっ走りして、大森林奥部にてカマキリ狩りに興じているベルナベット氏にもらったカマキリ素材が高く売れたお礼と、その礼品として山ほどの酒を渡して、街で調べられる程度に調べた情報を話しつつ、ちょっとした世間話をして、その場を後にした。

 また行きと帰りとで薬効植物類も十分に採取することもできていたのであった。



 野営地に戻ったウェイトリーは調査の結果をルドルファス氏へと報告した。

 調査の結果に納得をもらい、ハンガーベイル渓谷での話を聞いてきたらしいルドルファス氏は、ベンゲル辺境伯が、ウェイトリーが領都に戻ってからグラッツギルドマスターを交えて一度会議をしたいという話を聞かされた。

 それを快く了承したウェイトリーは、そういえばなぜルドルファス氏は辺境伯から話を聞かされていなかったのかを聞いてみたところ、あまり大っぴらに言いまわる内容ではないというのが一つと、その情報に対する何かしらの証拠になりそうな事柄がまだ多くない事が一つ、地竜の活性が落ち着く時期には、夏季休暇期間を終えて王都にある学園にルドルファス氏は戻っている時期だということで、現状はまだ知らせる必要はないと思われていたらしい。

 

 ルドルファス氏ってこんなにしっかりしてるのにまだ学生なのか……、とウェイトリーは内心感心したやら、俺の学生時代はもっとちゃらんぽらんだったなぁ、と遠い目をしたりであった。

 

 まだ数日警戒を続ける騎士たちを残し、およそほとんどの冒険者が引き上げる明日に同じく引き上げる旨をルドルファス氏に伝えて、くれぐれもリーネリア嬢をよろしく頼むと言われつつ、ウェイトリーは野営地へと引き上げた。

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