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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
5章 ハンガーベイル渓谷の異変
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088 その頃の野営地メンバー

 少し時は遡り、スパイクアルミラージとの戦闘が激化している中、アーシアとマリーとギルド職員がいる『野営地』も相応の現場と化していた。

 とはいえここまでウサギが押しかけているわけではなく、物資を求める冒険者や少数の騎士が詰めかけていた。

 

「次のポーションできました!」


 濃縮されたポーションの濃度をストレートへと戻して、瓶に詰めつつ、テーブルではすぐに飲むために来ているものにはコップで直接飲ませていた。

 とはいえ、そういう冒険者はそれほど多くはなく、おおよそは数本持って行っては戦いの最中で使うということものがほとんどであった。

 想定よりも早い瓶の消費に何となくだが数が足りなくなるのではないかという感覚を野営地メンバーは感じていた。


「アーシアちゃん。瓶の用意は出来ますか?」

「ポーションで結構大変なんですけど!?」

「合間で作ってください」

「マリー先生がパパっとやってくださいよぉ!」

「いえいえ、ちょっと私は別にやることがありますので、しばらくお願いします」


 そういっていそいそとカードを取り出して発動し、出てきた黒いインゴット数本を錬成盤の上に置いて作業を始めた。


「今いる作業ですかそれ!?」

「瓶詰めを楽に行える装置を作ろうかと思いましたがいりませんでしたか?」

「よろしくお願いしますぅ!」

「アーシアちゃんも瓶づくりよろしくお願いしますね」

「や、やりますよもぉ!」


 なお、マリーは錬成盤での作業を行いつつ、鍋の方も操作してポーションを作っているため、アーシアは何も文句は言えなかった。

 破れかぶれにアーシアは錬成盤へと手を伸ばした。

 ギルドの二人も忙しくはあるのだがアーシア・マリー程ではなく、二人の会話に耳を傾けていて、いや流石にそれは無理があるのでは? という至極真っ当な感想を抱いていたのだが、ちらりと目をアーシアの方へとやってみれば、右手で鍋を適度にかき混ぜながら、もう片方の手で錬成盤にて過不足ないシンプルで普通なポーション瓶をどんどんと作っているのを見て目を疑った。

 もはや何を見せられているのかわからないギルド組であったが、マリーはこの程度は十分に出来るだけのポテンシャルも実力もあると信用していた。

 そしてアーシアはその信用を裏切ることなくその実力をいかんなく発揮した。

 そもそも、濃縮も昇華も必要ない下級ポーションを作る程度など、今のアーシアなら鍋を見る必要も、なんなら触れる必要すらなく作業が可能であるのだから、この程度は出来て当然とも言えた。

 ……本人のハチャメチャになっている頭の中の脳内キャパシティはともかく。


 薄めていない高品質かつプラス十のポーションは冒険者たちが普段使っているものよりも効果が高く、またもはや飲みなれた美味しいポーションを作っているのが、まだ年端も行かぬ少女であるというのはこの時初めて冒険者たちに認知された。

 

「アーシアちゃん。こっちの作業は大体終わったので、ポーション瓶を作るのを代わってあげますよ」

「ほ、ホントですか?」

「中級ポーションはギルドから在庫を持ち込んでいるようなので、緊急事態用の上級ポーションを用意してもらえますか?」

「上級ですか? 素材は」

「薬草とリミナ草でお願いします。数はとりあえず五十本ほどで」

「了解です!」

「ただ、条件を付けますよ。高品質でプラスは無しで作ってください。おそらくプラス十までつけるのは素材の無駄が多いので」

「効果量調整ですね、わかりました!」

「瓶詰めもこちらでやるので、できた端からどんどんください」

「はい!」


 マリーはつい先ほど完成したポーション瓶一つがすっぽり収まる四角い穴が五×五の形で並んだケースに液体を入れておくタンクが付属しているような形の謎の物体の、二十五ある四角い穴にポーション瓶をセットしていった。

 そして横に付属しているタンクに先ほど自分が作っていたポーションと思われる液体を鍋から注ぎ、タンクの横に備え付けられている小さな魔法陣のようなものに手を当てて魔力を流した。

 すると、その謎の魔道具モドキが稼働して、タンクからホースも管も付いていないにもかかわらず、二十五あるポーション瓶すべてに、同時にタンク内のポーションが注入された。


「まぁまぁですね」


 ポーション瓶に栓しながら、そんなことを言ってのけるマリーにアーシアもギルド職員も愕然とした視線を向けたが、凄まじい魔道具が片手間で作られたことをギルド職員は見なかったことにして、アーシアは文句をぶーたれた。

 

「そんな便利な魔道具があるならもっと早く作ってくださいよ!」

「楽ばかり覚えるのは感心しませんよアーシアちゃん」

「マリー先生がそれを言いますか!?」

「ほらほら、上級ポーションは失敗しないでくださいね」

「し、失敗なんてしませんよ!」

「なら瓶も作れそうですか?」

「やっぱり集中して作ります!」


 口調こそ動揺しているが、マリーはアーシアの魔力操作が淀みなく流動しているのを見て、ホントに才能あるのなぁこの子、としみじみ思っていた。

 思考を戻してマリーは、今しがた二度目の瓶詰めが終わった五十本のポーションをギルドの二人に差し出した。


「あの、これも一緒に売っておいてください。名前は『エナジーポーション』です。

 回復効果は下級ポーションの高品質プラス十と同等で、スタミナ回復効果と空腹回復効果があります。あとは肉体の活性効果もあるので戦闘にも役に立つと思います。

 今回限定百本の特別ポーションですよ」

「えぇっと……、すごい効果ですね……。価格はどうしましょうか」

「下級と中級の間くらいの値段でお願いします」

「わかりました」


 色が素材に使ったチョコレート味のブロック携行食と同じ色をした茶色い透き通った液体は、なんとなく飲むのに躊躇をもたらすものなのだが、味も効果もマリークオリティである。

 マリーは残りの五十本を作る作業に戻るのであった。

 

 

 ファングウルフの急襲が知らせられ、それにより多くの冒険者が手痛いダメージを受けて、騎士たちにも被害が出た。

 しかしながら何とかそれを退け、無事に討伐が終了したまではよかったが、野営地メンバーはむしろここからが本番であった。

 

 ウサギよりも大きな傷を負った冒険者や騎士が押しかけ、初級と中級の在庫が捌け、致命傷ならずも動けないほどの怪我を負った冒険者なども多数出て、上級ポーションもそれなりの数が出ることとなった。

 それに対応すべくアーシアはなんと鍋二台体制でのポーション製作に当たっていた。

 マリーは怪我の酷い相手にポーションを処方したり、ポーションを混ぜたシチューを作っていた。

 

 そんなところにリーネリア嬢と護衛騎士二人は戻ってきた。

 リーネリア嬢も護衛騎士の二人も流石に疲れたのか、野営地に戻るなり座り込んで体を休めていた。

 それに合わせるようにウェイトリーものんびりと戻ってきた。ナイトスケルトンは混乱を避けるために既に引き上げ済みであった。

 

「忙しそうだな」

「こっちは今が本番といったところですね。守備はいかがでしたか?」

「まぁ上々ってところだろう」

「それはそれは」

「……ってかアーシア鍋二つでポーション作ってんのか、あれ?」

「ですよ」

「あの薬草少女も大概だな」

「もう一人のびっくり魔剣士令嬢はどうでしたか?」

「もう暴れに暴れてたよ。あとでしっかり注意することはあるんだが、まぁ怪我らしい怪我もない大健闘で冒険者の士気向上にも寄与してるし、ファングウルフを複数討ち取ってるからな。

 大金星だろうよ」

「それはようございました」

「なんか手伝うか?」

「お疲れでは?」

「ふらついてただけだからな。それほどは」

「では、スープ用の皿をお願いできませんか?」

「木でいいか?」

「もちろん」

「手早く済ませるよ」

 

 ウェイトリーは荒れ果てた大森林中層で入手し、土砂ダム洪水の時に重しに使った丸太を一本取り出し、錬成盤の上に押して転がして乗せた。

 その錬成盤の上に乗った部分を、魔力のごり押しで形状変形し無理やり切断。

 それを何度か繰り返して八十センチほどの不格好な丸太を作り上げ、それを改めて錬成盤に乗せてから、今度は正確にお椀状の木皿へと加工していった。

 何度も使えるといったものではないが、表面は丁寧にやすり掛けされたかのようにつるつるで、木の臭いが若干気になるものの、十分に使用することができる皿が次々と量産された。


 さしあたって五十ほどの木皿を用意してマリーの元に届けたウェイトリーは、残った八十センチ丸太をそのまま錬成盤で錬成炭に加工して、それを森の採取伐採パックを大量購入したために持て余している『最高品質木こり斧』で適当な薪の形に割った。

 そろそろ日が暮れ始めるころ合いで、本日の野営に使うための薪であった。

 今から引き上げようとする冒険者も若干名いるようだが、ほとんどはここで一泊を過ごして行くものが大半であった。

 それはいまだ警戒態勢を維持している騎士たちも同様であった。

 もちろんウェイトリーも目的からしてまだここを離れるわけにはいかない。


 野営の為の準備を進める中、すぐ近くの本陣からルドルファス氏の声が響いてきた。

 

「冒険者の皆、今回の討伐は一応の終結となった。

 諸君らの奮闘でスパイクアルミラージの脅威を退け、続いたファングウルフの襲撃も凌いだ。

 これは誇るべき戦果である。

 そして死者もなくこの戦果を得られたことを領主に代わり深く感謝する。

 未だ警戒は続けるが、今はこの勝利を喜ぼう。皆、ありがとう!」

 

 その堂に行った演説に冒険者たちは沸き立ち喝采を持って迎えた。

 

「それから、陣後方にて冒険者ギルドが開いている臨時補給所での支払いは辺境伯家が持つので、怪我を負ったものは可能な限りポーションを受け取ってくれ。

 今回消費した物資の補充も行ってくれてかまわないが、そのあたりは節度を持ってもらえると助かる。

 私からは以上だ」

 

 そうしてルドルファス氏の演説は終了した。

 

「流石は辺境伯からこの場を任されてるだけはあるなぁ。できた兄ちゃんだなルドルファス氏」

 

 演説の感想にそんな独り言をつぶやいて、錬成炭を必要な分だけ用意し割り終えたウェイトリーは、野営地中央のかまどにてそれに火を付けて野営の準備を続けつつ、マリーの要請でポーションの瓶詰め作業に当たった。

 しかしながら、ブラックフォレストミスリルで作られた非常識なポーション瓶詰めマシーンを目にして、楽なのを喜べばいいのか、めちゃくちゃなものを作ったことに困惑すればいいのか、ほとほと困り果てるのであった。

 

 なお、作業はめっちゃ楽だったので、作ったことを素直に喜んだのは言うまでもない。

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