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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
5章 ハンガーベイル渓谷の異変
86/333

086 現地の様子は

 翌日。

 昨日の内に現場に最も近い場所にある今回の発端となったギルドのある町で一泊し、朝の早い時間に一行は現地へと向かった。

 場所は町から馬車で二時間ほどの位置にある大森林の東端に近い地域であった。


 現場には既に冒険者と領都の騎士たちが作った柵などで囲われた簡易な陣地が置かれており、スパイクアルミラージ大森林種との距離はおよそ一キロという位置であった。

 問題のウサギ集団は、単体の大きさが一メートルから一.五メートル程度で、濃いこげ茶の毛並みをしており、頭には鋭利な角、そして足にも大地をしっかりと蹴りつけるための鉤爪が備わっている。また、角ほどの脅威度ではないとはいえ発達した牙も注意が必要である。

 その様相も相まって、普段ウェイトリーが不人気依頼の消化として狩っている土ウサギとは比べ物にならないほど凶悪な顔をしている。

 単独であれば七等級クラスの魔物で、五から七体程度なら六等級といった扱いであり、現状はおよそ数にして四百から五百ほどの数がいると思われる。

 

「こりゃずいぶん集まったな」

「うぇ、ウェイトリーさん、あんな数どうするんですかね!?」

「まぁこっちもそれなりの数が集まってるだろうからどうとでもするだろうよ。

 あとアーシア。昨日説明したが、俺が結界効果のあるカードを使うから、その中にいれば、あのウサギが五百いようが千いようが突破されることはないから落ち着け」

「ほ、ホントに大丈夫なんですよね!?」

「大丈夫だ。俺はそれを使って大森林で何日も寝泊まりしてたからちゃんと効果は実証済みだ」

 

 その言葉に信じられないものを見たような顔をする護衛騎士二人と随伴したギルド職員二名をスルーしつつ、ウェイトリーは話を続ける。

 

「アーシアとマリーさんとギルドのお二人はその結界の中でポーションの製作やら取引やらをお願いします。といってもまずはリーネ嬢の兄さんを探して話を通しておいた方がいいか」

「お兄様ならおそらくあちらの天幕にいると思われます」

「そうみたいだな。行ってみよう」

 

 リーネリア嬢が指し示した天幕へと向かって行けば、向こうの方から気が付いたのか、騎士が数名やってきたので、リーネリア嬢が兄への取次ぎを頼んだ。

 取次ぎへと向かった騎士の話を聞いて、兄本人である辺境伯令息のルドルファス氏がリーネリア嬢の元へと駆け寄ってきた。

 

「リーネ! 一体どうしてこんなところに来たんだ」

「お兄様、私も辺境伯家の人間ですよ」

「それはそうだが、この場所が危険な場所であるということを理解しているのか?」

「もちろんです」

「ううむ、魔法も剣術も上達しているというのは聞いているが……」

「そんなことはとりあえず置いておいてください」

「いや、そんなことで済ませていい話ではないぞリーネ」

「ウェイトリーさん、お話をお願いします」

「あー、はぁ。えぇと、お久しぶりですルドルファス様、リーネリア嬢の教育係の一人をさせていただいておりますウェイトリーと申します」

「あ、あぁ。久しいな」

「此度は、冒険者としてギルドマスターの依頼を受けてこちらへと参らせていただいた次第でして、陣後方にてポーションなどの支援物資をギルド経由で通常より安価で支援させていただく依頼と、討伐への参加をさせていただきます。

 こちらが、その依頼表です」

「拝見する」


 ウェイトリーはギルドマスターが書いた依頼表をルドルファス氏に渡して、内容を伝えた。

 確認が終わった依頼表をウェイトリーへと返しながら、ルドルファス氏は気になっていたことを聞いた。

 

「なぜ妹を連れてきたのだ?」

「それは、リーネリア嬢たっての希望でしたので」

「教育役として却下することもできたのでは?」

「かもしれません。ですが、教育役としては、リーネリア嬢は、既に十数体程度のスパイクアルミラージでは傷一つ追うようなことがない実力を身に着けておられます。

 辺境伯領で起こりうる脅威を考えますと、確認できる限り脅威度が低い相手でのスタンピードの空気や感覚を感じられる機会は逃すべきではないと、教育役として判断しました。

 そして冒険者として活動しているパーティメンバーで領都指定錬金術師であるアーシアに現地でのポーション支援の依頼がありましたので、それに同行する形での参加となります」

「リーネの実力がそれほど? それは事実か?」

 

 ルドルファス氏がリーネリア嬢の護衛騎士の二人に問えば、二人は実力に間違いないはという答えを返した。

 その力強い返答にルドルファス氏は困惑した。

 

「そ、そうか。では、アーシア殿の護衛としてリーネは後方にいるのだな?」

「お兄様」

「ダメだぞ」

「お兄様」

「ダメだ」


 兄妹が無言の押し問答を始めたところでウェイトリーは話を進めることにした。

 

「ルドルファス様、とりあえずは私どもは後方にて結界効果のある陣を引いてポーション類の販売などを行いますので、怪我人が出るようであれば後方に来るよう通達をお願いします」

「ああ心得た。騎士にも集まっている冒険者にも伝えておく」

「よろしくお願いします。ではリーネ嬢、お兄様を困らせるのはやめて戻りましょう」

「ウェイトリーさん」

「今はとりあえず話を聞いてください」

「……わかりました」


 ルドルファス氏に挨拶を済ませて、後方の陣のすぐ近くでウェイトリーは『野営地』を最大範囲で発動させた。

 急に建てられたままのテントや組まれたかまど、それから積まれた薪束などが現れたことにマリー以外の同行メンバーは驚いたが、ウェイトリーは気にすることなく、結界の範囲などを説明してから、アーシアの小屋の外なんかでよく使っている大きなテーブルを二つ置いて椅子も何脚か取り出して並べた。

 続いて『簡易工房』も『野営地』内に発動して、錬金術の設備を展開する。

 アーシアは見慣れた形の鍋と最近よく使うようになった錬成盤に瓶やフラスコといったものが一瞬で取り出されたのを見て、ここが仕事場かぁと何となく落ち着いた。


「アーシアはそこでポーションの作業を。マリーさんはフォローなんかを。

 ギルドのお二人はテーブルの方で販売業務なんかをお願いします」

 

 そう伝えると二人のギルド職員はテキパキと作業を開始し、魔法袋に入れていた商品なんかをテーブルの上に並べて、購入用の書類などの準備を始めた。

 

「あのウェイトリーさん、ポーション瓶があんまりないんですけど」

「素材はあるから錬成盤で作る。というか作れ」

「そっちも作るんですか!?」

「アーシアちゃん。今回は冒険者にコップで売ってその場で飲ませてもいいのでそれほどの数にはなりませんよ。

 あと、冒険者の持ってる瓶を可能なら捨てずに持ってきてもらいましょう」

「なるほど……」

「主さま、多分今回はかなり効果的に使えると思うので、ブロック携行食を二百ほど用意してもらえませんか?」

「売るのか?」

「それもいいですが、ポーションにして十秒チャージできるポーションを作ります」

「わかった」


 ウェイトリーは端末のショップメニューから『ブロック携行食と水 50CP』を言われた通りに二百セット購入して、バックパックから取り出した防水シートの上にブロック携行食のみを取り出した。

 

「あと錬金鍋があと二つか三つ欲しいです」

「鍋用意したら瓶も足りるんじゃないか?」

「かもしれませんね」


 鍋が含まれる初級錬金術セットにはポーション瓶十本が一枚でそれが十枚入っているため、一セットに付き百本ある。

 それを鍋の為に三セット買えば三百本となるため、よっぽどのことがなければ足りるはずであった。


 鍋を用意し、それを並べて、そのすぐ近くに白い大きなシーツを引いて、その上にポーションの製作に必要な素材をアーシアとマリーが手早く並べてポーションを作る準備は整った。

 アーシアはバラバラの濃度で濃縮されているポーションを、ウェイトリーに教わった方法でカードから取り出し、それも一緒に並べた。


「さ、アーシアちゃん。稼ぎ時ですよ」

「おー!」


 気合いを入れて、二人は作業を開始した。


 それを見ていたリーネリア嬢は、なんとなく不服そうな視線をウェイトリーに向けた。

 

「ウェイトリーさん」

「自分も今すぐウサギ狩りって雰囲気だがまぁ待てリーネ嬢。こういうのはタイミングだ。

 今はまだウサギに動きが無いし、冒険者も騎士も様子見の段階だ。こういう時に一人で仕掛けて状況を勝手に動かすのは、たとえ大戦果を上げたとしても後でめちゃくちゃ怒られる」

「では戦うなと?」

「そうは言ってない。タイミングだ。あの数が戦い始めたらどうせ乱戦になるからな。

 こっそり参戦してもバレはしないし、バレたところで止められはせんさ」

「なるほど」


 護衛騎士の二人がめちゃくちゃ渋い顔で、お前ウチのお嬢様に何を教えてくれとんじゃい、という視線をビシバシ投げかけてくるが、いつも通りの真顔、或いはぼーっとしたような顔でウェイトリーは受け流しつつ、リーネ嬢に注意を続ける。

 

「ただ、リーネ嬢ならある程度は大丈夫だろうが、多勢に無勢ってのもあり得るし、実戦では不測の事態ってのはいつでも起こりうるものだ。それに大体どんな状態でも俺が治せるとはいえ、下手に怪我させるのは受けてる依頼的にも不味いからな。

 護衛騎士の二人とは絶対に離れないように連携して戦うんだぞ。

 それとナイトスケルトンを呼ぶから一緒に戦うといい。実践ならば普段よりも学べることが多くあるはずだ」

「本当ですか!?」

「ヘビーナイトゾンビは移動力的に難しいだろうが、ナイトスケルトンなら問題ないし、“王国剣術”をおよそ会得しつつあるリーネ嬢なら、ナイトスケルトンとかなりいい連携が取れるはずだ」

「わかりました。とても楽しみです。

 ……ところでウェイトリーさん。以前から気になっていたのですが私が教えてもらっている“王国剣術”とは、この国の剣術、ではありませんよね?

 いったいなんという国の剣術なのですか?」

「今はもう存在しない、亡国の剣術だよ」

「名前は、無いのですか?」

「レミアクレータ王国剣術だ。亡国レミアクレータ。ナイトスケルトンたちが最後まで守り続けた国の名前だよ」

「最後まで、ですか。なぜ、その国は」

「世界の破滅と戦った結果の相打ちだ。偉大なる功績だよ」

「世界の破滅?」

「おとぎ話みたいなものだ。真に受けなくていい」


 そういってウェイトリーはそこで話を打ち切った。

 別に聞かれて困る話ではないが、どこまで言ってもこの世界には存在しない話である。

 突っ込まれた話を聞かれるとどんどん胡散臭い話になってしまうため、適当なところで打ち切っておくのが最善だと思ったのだ。

 リーネリア嬢は、なんとなくこれ以上は教えてくれないというのを察して、それ以上は聞かなかった。


「さ、まだもうしばらく状況は動かないだろうから、リーネ嬢もアーシアをなにかしら手伝ってやってくれ」

「わかりました」


 ウェイトリーは空に数羽のレイブンレイス達を放ち、しばしの凪の時間を待つのであった。

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