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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
5章 ハンガーベイル渓谷の異変
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082 依頼終わりの報告と教育方針

 フルダイブ型VRMMORPG『エルダリアウィズオンライン』。

 そのゲームで『最強のデッドマスター』と呼ばれていたウェイトリーは、現実世界で死に、新たな現実となる異世界へと送られた。

 

 土砂降りの領都での不人気依頼消化生活。

 二人の少女のフィールドワーク。

 

 雨季にまつわる様々な不人気依頼を冒険者として時に討伐、時に採取、時に探索と多くこなし、そしてリーネリアのスーパー魔法剣士育成計画も驚くべき進捗を見せた。

  

 育成計画の合間に、なくなりそうでなくならない不人気依頼を片付け、ギルドへと報告に戻ったところから、今回の話をはじめよう。

 




++++++++++++++++





 ウェイトリーが夏空に少女たちの成長を重ねて思いを馳せた日から一週間。八月の第二週頃。

 六等級の魔物魚納品依頼のついでに、九等級の不人気依頼である土ウサギの調達依頼を片付け、それの報告へとギルドへと戻り、それらを報告した。

 手順も慣れたもので、解体場へと向かって査定と納品を済ませて、依頼表をおなじみのエリナ職員へと渡した。

 

「はい、確かに確認しました。お疲れ様です。毎度不人気依頼をこなしていただいてありがとうございます」

「お気になさらず。……とはいえ、できれば六等級の実績になる依頼をやりたいものではあるんですがね」

「普通か人気の依頼となりますと、それなりに競争率がありますからね。ご紹介できなくはないですが、朝の張り出しに参加していただくのが一番なんですよね」

「うーん、それはちょっとなぁ……」

「私たちは重役出勤冒険者ですからねー」

「五、六等級の冒険者は、レドアではそれなりに層が厚いので、中級冒険者帯では競争率が高い方なんです」


 相変わらずのナメた冒険者ライフを送っている二人に、やや苦笑いをしながらエリナ職員はそう告げた。


「いっそ大森林関係の依頼なんかは無いんですか?」

「大森林の依頼となると平均で四等級依頼ですね」

「それは上級冒険者の領分だってことですか」

「あの地図を書き上げたウェイトリーさんなら依頼自体は簡単にこなせるとは思いますが、規則がありますので、六等級の実績にはできませんね」

「ままならいもんですね」

「コツコツとこなしていただくしかないですね」

「これはこの辺りが現状の限界かな」

「ですねー。ハンガーベイル渓谷へはこっそり侵入ルートですね」

「……一応、ギルドとしても実力を把握してはいますので、評価が低下するようなことにはならないとだけは言っておきます」

「聞きましたか主さま。ということは大手を振っていけますね」

「あの、一応こっそりしていただけると助かります」

「ダメだってさ」


 そんなやり取りを終えて、数日に一回は顔を出す旨を告げてから二人はギルドを後にした。

 

 

 家へと戻り、夕食を済ませてから、ハーブティーで一息ついていたところ、マリーが今後の予定について口を開いた。

 

「主さま、明日から何日か、二人の為の魔導書関係で集中した作業が必要なので、二人のところへは主さまだけで行ってもらえませんか?」

「かまわないけど、魔導書の集中作業って?」

「ちょっと本気も本気で真面目に魔導書を作ろうと思いまして。内容自体は概ねまとまってきたのでそろそろ魔導書事体を用意しておく必要があるんですよ」

「……それ、世に出していいヤツ?」

「いいやつですよ。本人と許可した人にしか見れないようにするので」

「いやあの、他に読める人がいないからどんなもの用意してもオッケーって意味じゃないんだけど」

「ここまでやったなら、もはや手加減するのは無粋かと考えました」

「まぁ……、あの二人なら悪用することもされることも無い、か」

「それと特別なポーションも用意してあげようと考えているんですが、それには主さまの協力も必要ですので、その時になったらお願いします」

「俺が? また大森林にでも行けと?」

「いえ、ちょっと魔力やスキルを使ってもらう必要があるので」

「あー、んん? まぁわかったよ」

「大森林には行ってほしいですけどね?」

「……いや、まぁ。あと一回くらいは行こうかとは思ってるけど、また今度な」


 件のマンティスハンター系不死者にいろいろとお礼の品を持っていく予定を考えていたのと、今後の予定は大森林からどんどん離れていく形になるので、もう一度くらいは足を運んでおこうという思惑があった。

 

「しかし、リーネの魔術関係は俺ではほとんど力になれんけど大丈夫か? アーシアの方はほっといてもいいって言う謎の安心感はあるが」

「現状は今使っている魔術の精度を高めることに注力するべきでしょうし問題ないと思います。仮に何か困ったことがあるようなら、翌日でも問題ない範囲だと思います」

「まぁそりゃそうか。今もかなり近接戦の訓練がメインだしな」

「あーそうそう。アーシアちゃんに普通の錬金術を教えてあげてくださいよ」

「あぁ、それがあったか。元位級錬金術師に教えるような内容じゃないんだけどなぁ……」

「元位級って面白い表現ですね。錬金術元位がそのスキルのレベル十で認定されるとしたらアーシアちゃんは二か三といったところでしょうか」

「そう聞くと低く感じるが、仮に『元位級錬金術』ってスキルがあるとすれば、いわゆる『錬金術』スキルの十レベルより高い位置にあるスキルとか、進化した上位スキルだと思うがな」

「主さまの錬金術スキルのレベルってどれくらいでしたかね?」

「九だよ。一般錬金術使いだ」

「エルダリア基準の九は十分高いんですけどね」

「まぁそれについては了解。やり方とか多少のレシピを教える程度でいいのか?」

「一応、鍋と釜の作り方と錬成盤の作り方なんかを教えてあげて欲しいんですよね」

「んー、芯に使えるミスリルはあるが、その他鉱物資源だの土素材が無いから釜はちょっとな」

「流石に土素材までは持ってませんか」

「採取場所がなぁ。山だの谷だのに行かないとな。ハンガーベイル渓谷で採取できればそのあとでだな」

「じゃあ、生活に便利そうな錬金アイテムなんかを教えておいてください。渡すレシピにそのあたりもまとめて載せておきますが、使い勝手のいいものをいくつかお願いします」

「じゃあまぁ、錬成盤でのポーションの作り方と、錬成炭だな。アレなら薪と灰が素材だし、単純に燃焼時間が長くなって煙がでなくなるから便利でいいだろ。

 あとは、錬成盤で簡易錬成をいくつか教えるか」

「簡易錬成はいいですね。乾燥や粉砕、抽出や結合なんかはかなり有効な技ですからね」

「とりあえずはそんなところか」


 明日以降の予定をある程度定めてから、その日の話し合いは終わった。





++++++++++++++++





 翌日。

 前日の話し合い通り一人でアーシアの小屋までやってきたウェイトリーは、数日はマリーが所用で来ることができない旨を二人に告げてから、それぞれの訓練に取り組むように促した。


 アーシアは依然として濃縮のさらに上位の技術である過濃縮を体得できておらず、未だ五十倍を限度としていた。

 ここ一週間でそれ以上の成果を上げられていないことを歯がゆく思っているようではあるが、停滞しているとは思えないほどその表情は明るい。

 日々、魔力の扱い方や濃縮に至るまでのプロセスなどを試行錯誤し、何とか現状を打開しようと日夜努力をして、それを純粋に楽しめているようだ。

 ウェイトリーは大丈夫だろうとは思ってはいるものの、一応は努力の方向性は間違ってないのかとマリーに聞いてみたが、出来ていない以上あっているとは言えないが、試行錯誤の仕方から察するにそう遠くないうちに問題なくこなせるようになるだろうとのことであった。 

 元位級錬金術師は正しく成長していた。

 

 そしてリーネリア嬢もそれは同じで、日々の魔術の訓練と、それを交えた近接戦闘の訓練は正しく自身の技術として吸収されていっており、二日ほど前についにナイトスケルトンから模擬戦での勝利を飾ることとなった。

 今はそれを偶然にしないようにナイトスケルトンとの模擬戦を続けつつも、ヘビーナイトゾンビが扱う盾と槍を相手に様々な戦闘ケースを体験しているところであった。

 

 深い蒼を湛えた凍てつく剣を携え、盾と槍の隙を何とか突けまいかと白銀のまとめ髪の少女が駆け、それを冷静かつ的確に捉えつつも、決して有効打を許さない堅牢な立ち回りで相手取るヘビーナイトゾンビ。

 攻めきれないリーネリア嬢は、自身が知る最も洗練された剣術を用いてヘビーナイトゾンビに斬りかかるのだが、問題はヘビーナイトゾンビ側がその剣術を非常によく理解しているという点にもある。

 ナイトスケルトンから見て覚えた“王国剣術”は同じ王国に所属していたヘビーナイトゾンビには非常になじみ深い剣術であるのだ。

 ならばヘビーナイトゾンビが有利かと言われればそれがそういうわけでもない。

 というのも、より理解しているがゆえに、リーネリア嬢が扱うその剣術が警戒しなければならないレベルであるということを正しく理解しているのである。

 容易に攻撃に移れば、たちどころに態勢を崩されるように攻撃を流し払われる危険性が十分にあり得ると、数合打ち合えば簡単に理解できてしまったのだ。

 堅牢さゆえに攻め切れないリーネリア嬢と、その剣術を正しく使えていることが理解できるゆえに詰めきれないヘビーナイトゾンビという構図になっていた。

 

 牽制や誘い、つり出しのような攻撃を互いに繰り返しながら、互いに攻める隙を虎視眈々と狙う光景を見ながら、ウェイトリーはナイトスケルトンに声をかけた。

 

「こういう場合ってどう攻めるのが正しいんだ?」

「……。」

 

 声で返答することはかなわないが、意志の伝達による返答によれば、実力が拮抗している場合は“王国槍術”を崩すことは難しいのだという。

 攻めるよりも防御に重きを置く理念が“王国剣術”にも“王国槍術”にもあるため、特に防御において秀でる“王国槍術”を崩すのは相応に実力差が無いと難しいのだという。

 “王国剣術”で“王国槍術”を崩す場合は、槍術よりかは攻撃的な剣術における、いくつかの技、特に相手の防御を崩し、盾を払う技などを使えないと話にならないだろう、とのことであった。

 

「なるほどなぁ。とすれば……。リーネ嬢! 剣術だけで難しいなら他の手も使ってみるべきだ。大岩を叩き割った時のは剣じゃないだろう!」

 

 二人に聞こえるように声を張って伝えれば、リーネリア嬢は牽制を行い数歩下がったその流れから、剣を握る右手とは逆の左手に蒼い大槌を即座に作り出し、それをクルリと一回転しつつ遠心力をもって盾に思いっきり叩きつけた。

 さしものヘビーナイトゾンビもこれには大きく押され、やや体制を崩してしまう。

 それを待っていたと言わんばかりにリーネリア嬢は大槌を放棄して即座に斬りこんだ。

 

 これで決まったかとは思ったが、いくつか有効打になるかといったところであったがヘビーナイトゾンビもそこから驚異の粘りを見せ、押し切られる前に態勢を立て直して見せた。

 そして、仕切り直しとなる前に今度はヘビーナイトゾンビが切り返し、完全に詰め切ることのできなかったリーネリア嬢を盾を使ったシールドバッシュにて態勢を崩し、槍を突きつけることで決着となった。

 

「参りました」

「オオォ……」

 

 槍を地に突き立て、リーネリア嬢へと手を差し伸べ引き起こしてから、ヘビーナイトゾンビは右手を握りそれを胸に当ててから一礼し、それに合わせるようにリーネリア嬢も頭を下げた。

 

「盾からの強打で態勢を崩されるのは想定していませんでした。あの技や他の技についていくつかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「オオォ……」

 

 頷いて答えるヘビーナイトゾンビにあれやこれやと聞いては、同じように作り上げた氷の槍と盾で動きを再現して、合っているか、動きが出来ているかなどを聞きながら、その技術について学んでいくリーネリア嬢であった。


 その真っすぐさや意識の高さにウェイトリーは感心しつつも、傍らにいるナイトスケルトンに話しかけた。

 

「おそらくそのうち、リーネ嬢が“王国槍術”を使って、お前さんと戦うって言い出しそうだな」

「……。」


 おそらくは違いないだろうと、ナイトスケルトンとしても思っているらしい。


「まだまだ教えられることは多そうだな」

「……。」


 全くもってすごいお嬢さんだ、とはナイトスケルトンの談であった。

 それには全面的に同意だな、とウェイトリーは苦笑した。


 なお、ここにはリーネリア嬢の護衛を務める、もはや顔なじみの騎士が二人いるのだが、二人の内心は最近少しばかり変化していた。

 今までは護衛対象である辺境伯令嬢が怪我をしてしまわないか、無理をしていないかとはらはらしていたのだが、最近では『あれ? これそう遠くないうちに自分たちよりも護衛対象の方が強くなってしまうのでは?』という危惧であった。

 

 そしてその内心の変化を何となくな察していたウェイトリーは。

 

「よし、リーネ嬢。今度は護衛の二人と模擬戦をやってみてくれ。いろいろな相手と戦うことが戦術を増やすうえで一番手っ取り早いからな」

「わかりました」


 その言葉に、一瞬ぎょっとした二人ではあったが、まだまだ護衛対象に負けるわけにはいくまいと気合いを入れなおし、一人ずつ模擬戦へと臨んだ。

 

 流石は精強と言われるベンゲル辺境伯領の騎士にして、辺境伯令嬢の護衛というべきか、その二人はちゃんと強く、冒険者でいえば六等級はもちろん、五等級、或い四等級にも届くかという実力であると言えた。

 だが、リーネリア嬢は“王国剣術”にてそれに必死に喰らいつき、重なる攻撃を丁寧に、正確に受け流していく。

 最終的には負けこそしなかったが護衛騎士の二人は態勢を崩されヒヤリとするシーンを何度か経験することなった。

 

「リーネ嬢。マリーさんが言うには、アンデッド相手にはなかなか難しいが、生きている相手なら雷の探知魔術を合わせて使えば、相手の動きをより正確に見切れるようになるはずらしいぞ。

 試してみてくれないか?」

「探知魔術、ですか。それは集中力が必要ですね……」

「戦いながらだとまだ難しいか?」

「かもしれません。ですが、試してみます」

 

 そうして、何度か模擬戦を繰り返したところ。

 剣術の精度がやや甘くなったりはしているのだが、動きの正確さや見切りの精度がわずかに向上していた。

 

「確かに、動きがよく見えるようになった気がします。まだ魔術の方の精度がよくないのでこれからかもしれませんが」

「こっちから見てる分にも精度が上がっているように見えたよ。まぁその分剣術がやや疎かになっていたみたいだけど」

「まだ、どちらも十全に行うのは難しいです……」

「まぁ身体に覚えさせて自然と動けるようになるには反復あるのみだからな。これからだな」

「魔術の練習にも力を入れた方がよさそうですね」

「無理しない程度にな。さて、今日の模擬戦はこんなところにしておいて、アーシアを呼んで、射撃訓練をするか」

「わかりました」

 

 そういって一息入れてから、アーシアを伴って射撃訓練へと移っていくのであった。

 以降、五章終了までは二日に一回のペースで更新していきます。

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