080 魔物討伐とフウシベ採取
リーネリア嬢との話をそれで終わりにして、最後の目的植物を探すべく行程を再開した。
しかし、フウシベはどこに生えているという情報がややあいまいで、複数の目撃箇所がある。
とりあえず近い場所からと、最初の目撃ポイントへとたどり着き、役割分担を行いつつ、アーシアがフウシベを探したが、そこでは発見には至らなかった。
見つからないので、次のポイントへと進もうということになり、移動を始めようとした折、リーネリア嬢はこちらへと向かってくる生物を複数感知した。
「アーシアちゃん、なんか来るよ」
「えぇ!? ま、魔物?」
「多分ね。膝位の大きさだから、ホーンラビットかグリーンドッグだと思う。準備して」
「りょ、了解!」
アーシアはやや緊張しつつ示された方向へ視線を巡らせ、リーネリア嬢は慣れた手つきで右手に氷の剣をすらりと生み出し、左手には同じく氷のナイフを生み出して構えを取った。
現れたのは三体のホーンラビットであった。
そのウサギたちは、こちらを確認してそのまま止まることなく真っすぐに向かってくる。
しかし、目視での確認が済み次第、リーネリア嬢は向かって左手側にいるウサギに向かって、ナイフを投げつけた。
「アーシアちゃん、右にストーンアローをお願い」
「わかった!」
緊張から固まっていたアーシアにリーネリア嬢は明確な指示を出し、それにしたがってアーシアは右のウサギへとストーンアローを放った。
ナイフ、石矢共に命中し、動かなくなった二体をよそに、真っすぐに向かってくる中央に位置したウサギが前衛に立つリーネリア嬢へととびかかった。
だがそれを、何の躊躇もなく、氷の剣にて一刀のもと切り捨てた。
「終わり、ですね。もういないみたい」
「お、おぉ……」
「大丈夫?」
「り、リーネちゃんすごいね……」
「集中してたからかな?」
「頼りになるー!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!」
「でもちゃんと気を付けて、気を抜かないように行こうね」
「そうだね!」
緊張は何だったのかというほどに嬉しそうに喜ぶアーシアに、リーネリア嬢はややたじろぎ、照れくさそうに先を促した。
今の光景を見ていたウェイトリーとマリーは、目くばせを行って、ウェイトリーが小さく頷いたのを見て、マリーは一本のポーションの口を開けて、そのままポーチのベルトに差し込んだ。
実を言えば、ここに来るまで、全く魔物に遭遇しなかったのは、リーネリア嬢のサーチ範囲に入る前に放たれたスカルピアサーにて近づく前に対象の命を刈り取っていたからであった。
まずは採取、そして、それがある程度ひと段落ついたら魔物と戦わせるというプランニングの元、このフィールドワークは企画されていた。
そして、今マリーが口を開いたままベルトに差し込んだのは、ほんの少しばかり魔物を引き寄せる薬品であった。
事前に試した結果では、殺到するほどではないが、体感で二割ほど向かってくる数が増える。
それに加えて、ウェイトリーはもう事前に処理するつもりがないので、実質は急に数が増えたかのように感じるかもしれない。
危なければ助けるつもりだがそれまでは動くつもりはほぼない。
護衛騎士たちにも可能な限りリーネリア嬢の指示で動くようにお願いしているので、騎士たちの力を借りるにしてもどこまでできるかはリーネリア嬢とアーシアの裁量次第といったところだろう。
「ウェイトリーさん、このウサギって依頼のヤツですよね?」
「そうだぞ」
「籠に入れても大丈夫ですか?」
「いや籠には入らんぞ」
「これ植物しか入らないんですか?」
「そうだな」
「え、じゃあどうしようこのウサギ。かばんに入れるのは……ちょっとヤダなぁ」
ポーションや他の道具なんかを入れているかばんに、今まさに血が流れている生き物の死体を入れるのはちょっと……、というウェイトリーにも覚えがある理由で渋るアーシアだった。
まぁ拡張バックパックは別に一緒に入れたところで他のものに血が付いたり、臭いが移ったりするというこはないのだが。
渋っているアーシアに、リーネリアは受け取ったバックパックにしまっていた別の革袋を取り出してアーシアに声をかけた。
「アーシアちゃん、私魔法袋を家から借りてきたからこれに入れよ」
「おぉ! 流石リーネちゃん、そうしようそうしよう!」
「魔法袋に時間遅延によっては先に血抜きしておいた方がいいぞ」
「四分の一遅延と聞いていますが、これだとどうでしょう?」
「あー、それなら、血抜きしておいた方が無難だな」
「えーっと、血抜きはどうすれば?」
「あっ私出来るからやるよ。こうね、首筋にグサっと入れてさかさまにするんだよ」
そう言ってアーシアは採取用に持っていたナイフをグサっとしてから足の方から持ち上げた。
「おぉ、まぁまぁ重いねこれ」
「そうするんだね。えっとじゃああっちは私がやるね」
「リーネちゃんが二つにしちゃったのは納品できなさそうだね」
「失敗したね。次は首を狙ってみる」
「できるならその方がいいかもね!」
「でも、よくこんなこと知ってたね」
「……農家はウサギと日常的に戦ってるからね」
「そ、そうなんだ」
なんとも殺伐とした会話であるが、これが異世界スタンダードなのかなぁ、とウェイトリーは心中複雑な気持ちになった。
ウェイトリーはシカを始めて解体するときになかなか思うことがあったものだが、そういうのは無いんだな、と感心すればいいのかそういう日常が普通なことを嘆けばいいのかわからないなぁ、とも思っていた。
「アーシア、リーネ嬢、二人は警戒をしなきゃならんだろうから、血抜きに気を取られ過ぎないようにな」
「わかりました」
「なんなら騎士のお二人にもそのくらいは手伝ってもらうといい」
「そう、ですね。すいません、お願いできますか?」
リーネリア嬢のお願いに、護衛騎士の二人は笑顔で頷いて、ウサギの血抜きを請け負ってくれた。
しばらくして血抜きしたホーンラビットを魔法袋にしまい、次のポイントへ。
しかし、その道中、ゴブリン四体、グリーンドッグ三体、ホーンラビット二体、ゴブリン二体、ハイドスネーク一体と立て続けに戦うことになった。
ゴブリン四体に関しては注意されていたのもあり、アーシアの動きが固かったが、瞬く間にリーネリア嬢が二体の首を刎ねたのを見て、リーネリア嬢から一番離れた位置にいるものへ石矢を放って撃破。
その間に、最後の一体の首をリーネリア嬢を刎ねたことで容易く終了。
そこからはアーシアも緊張がほぐれてきたのか、ぎこちなく滞るということは減り、リーネリア嬢に合わせるように魔物を処理していった。
しかし、なんと言っても目を見張るのは鮮やかな剣閃を持って首を刎ねて回るリーネリア嬢であった。
これにはウェイトリーとマリーは呆れたように、護衛騎士の二人はハトが豆鉄砲を喰らったかのような顔をして見ていた。
とてもではないが数か月前まで死ぬ瀬戸際で生きていた少女とは思えない動きっぷりであった。
「命名、白の首狩り姫」
「あまりにもそのままですし、女の子にそのあだ名はどうかと思いますよ」
「マリーさんもあまりにもそのままって言っちゃってるじゃん」
「だって事実は否定できませんし。それをそのまま形容するかは別ですが」
二度目のホーンラビットの内一体は綺麗に首が刎ね飛ばされ大変血抜きが楽であった。
短いながら昼食休憩をはさみつつ、なかなか多くの魔物を退けながらたどり着いた二つ目のポイント。
今度はリーネリア嬢も加わって捜索したが、数本発見できただけで、依頼の納品数には届かなかった。
「これ、全然見つからないね」
「そうだね。なんだか魔物を狩ってる方が楽だなって思っちゃった」
「どうしよう、私も同じこと思ってる……。植物採取に来たはずなんだけどなぁ……」
ちなみにだが、アーシア・リーネリア嬢の両名が見逃し通り過ぎたものをウェイトリーはしっかり回収しており、既に納品規定にして二件分ほど確保しているのだが、そのことは黙っておきつつ、少しアドバイスすることにした。
「見つけたヤツがどういうところに生えてたかとか、どういう風に生えてたかを考えてみたら、もう少し見つかりやすいと思うぞ?」
「どういうところ?」
「あの辺りだよね?」
そう言って二人が見たのは、木の陰になって少し日当たりが悪い場所であった。
「日陰ってことかな」
「んー、それとなんか地面が渇いてたような気がするかも。いや砂利っぽかったのかな?」
「砂利っぽい?」
「多分生えてる場所は日陰で水はけがいい場所なのかも」
「なるほどー。じゃあどういう風にって、なんだろう。アーシアちゃんわかる?」
「どうかなぁ。……あれかな。なんかちょっと背の高い雑草の低い位置に紛れるように生えてた感じしない?」
「言われてみればそうかも」
「そういうところを探してみよう」
そういう部分に注目して探してみたところ、今までの発見し辛さが嘘のように見つかるようになった。
生育に適した場所が無数にあるというわけではないので、辛うじて依頼一件分の採取ができた程度であったが、なんとか規定数を集めることができた。
「ちゃんと集まったね!」
「流石に植物採取はアーシアちゃんだね」
「まぁね!」
嬉しそうに答えるアーシアに楽しそうに笑うリーネリア嬢。
「一応、目的のものは集まったけどどうしよっか?」
「もう少し魔物を倒しておきたいな。ゴブリンもグリーンドッグも依頼一件分に少しずつ足りないし。アーシアちゃんが大丈夫ならだけど」
「んー、いいよ!」
「じゃあちょっと魔物を探してみよう」
そうして森に分け入り、魔物の討伐に勤しんだ。
目的通りに魔物を狩れた、とはいかず、少しでよかったのにまだ少し数が超えてしまった、ウサギはいいのにウサギが増えた、犬を探してるのにゴブリンが来た、などイマイチ数合わせに苦労していた。
しばらくそんな戦闘を続けて、流石にこれではキリがないし端数が出ているのはしょうがないと諦めることにしたようであった。
もはやこの森での戦闘面で二人に憂うことはなく、どんどんとよくなっていく連携はなかなか心地の良いものであった。
採取にしても魔物との戦闘にしても初めてのフィールドワークは成功と言えるだろう。
その後二人は、気を抜かず、気を張りすぎずを心がけ、帰り道にも向かってくる魔物をバッタバッタとなぎ倒し、無事に森の外まで戻ってくることができた。
「よし。じゃあギルドに戻って依頼を報告したら今日のフィールドワークは終わりだ」
「わーい!」
「流石にちょっと疲れましたね」
「リーネちゃんはずっと警戒してましたからね。電流探知もなかなか使えていましたよ」
「たくさんのいろいろな生き物や魔物がいる場所だと、難しい部分もありましたけど、いい練習になりますね。……それであの、少し気になったことがあるんですが」
「なんですか?」
「ウェイトリーさんって、ほとんど気配を感じないんですけど」
「あー主さまは初めからいなかったかのように気配を消しますからね。今日はまだあった方だと思いますけど、感じ取れたならなかなかの腕前になってますよ」
「正直、一番訓練になったのはウェイトリーさんの気配を探ることだったと思います……」
「ちょいちょい一団から離れて採取にも行ってましたからね。気づきましたか?」
「ぜ、全然わからなかった……」
「今回は完全に気配を断っていたわけではないので、いずれわかるようになると思いますよ」
「一つ、お伺いしたいのですが、……ウェイトリーさんって生きてますよね」
「さぁどうでしょう? 死んでるかもしれませんよ?」
「え、えぇ……」
「ウェイトリーさんって死んでたんですか!?」
「実は俺、幽霊なんだ」
「幽霊!?」
「おぉ、哀れな薬草少女よ、幽霊謹製の採取カゴは今なら手袋付きでなんとお値段二十万ドラグ、二十万ドラグでのご提供です」
「の、呪われてたりしませんよね!?」
「なんと今なら採取した作物の品質が上がる呪い付き」
「やっぱり呪われてるじゃないですか!? 正体表しましたね悪い魔術師!」
「……品質が上がるならいいんじゃないかなアーシアちゃん」
「馬鹿なこと言ってないで帰りますよ」
この後無事にギルドへと戻り、エリナ職員へと本日の成果を報告し、二人は報酬を受け取っていた。
二人にとって、それはさしたる額ではなかったが。
初めての冒険で得た報酬は、金額以上の価値があるように思えたのであった。




