077 集合場所は冒険者ギルド
三日後、朝。混雑を過ぎたギルドにて。
集合場所をこの時間、この場所と定めて、ウェイトリーとマリーは少しばかり早い時間からギルドの食事場にて集合を待っていた。
「そういえば、森で何を採取するかなどの目的は決めてませんでしたけど、主さまは何か決めてましたか? 私としてはこの時期にちょうどいい薬効植物類を考えていましたが」
「それでいいと思うけど、それは集まってからエリナさんに話を聞こうと思ってる」
「この時期に出ている採取依頼を受けるということですか?」
「そのつもりだ。もちろん現地で有用そうなものがあれば効果とかを説明しながら採取方法と一緒に教えるつもりだが、依頼が出てるってことは需要があるってことだからな。
世間の需要を知っておくのは錬金術師として重要だろう。
リーネ嬢にはあんまり関係ないかもしれないが」
「だからギルド集合だったんですね。私はてっきり二人に冒険者登録をさせるのかと」
「しても別に悪くは無いと思うがな。でもここで集合にした一番の理由はさっきした話とエリナさんに顔つなぎを作っておくことだと思ってる」
「あの、そういうことは事前に伺えればこちらも大変助かるのですが」
ジト目顔でウェイトリーとマリーのところへとやってきて苦言を呈するエリナ職員にウェイトリーは、内心で、やべやべ、と思いつつも普通に挨拶した。
「おはようございます、エリナさん」
「おはようございますウェイトリーさん、マリーさん。受付に来られず食事場へと向かうので何事かと思って聞きに来てみれば、聞きに来て正解でしたね」
「いえいえ、採取物の需要なんかをお伺いして、そのついでにご紹介できればと思っただけなんで、それほど大層な話ではなかったつもりなんですが」
「そうなんですか? それで、顔つなぎとは、どなたなんですか? アーシアさんとはもうそれなりに見知っていますが」
「今日のは、っと、来たみたいなのですね」
入り口に、アーシアと仲良さそうに話しながら入ってくるリーネリア嬢とそのお付きの護衛騎士二人が現われ、ウェイトリーを見止めたアーシアが食事場の方へと向かって歩いてきた。
「おはよーございます、ウェイトリーさん、マリー先生。それからえっと、エリナさん」
「おはよーさん」
「おはようございますアーシアちゃん。昨日はよく眠れましたか?」
「普通に寝れました」
「イヤイヤ言っていた割には案外図太いですね」
「自分でもそう思います」
「リーネ嬢もおはよう。そっちは大丈夫か?」
「ワクワクでなかなか寝付けませんでしたが、寝るときは肉体回復の強化をかけたまま寝るので身体の方は万全です」
「それすごすぎるんだよなぁ……」
「身体強化を寝てる間も問題なく発動し続けるってよほどの使い手じゃないと難しいんですけどねー。
出来なければ命が危なかったことを考えれば出来て当然と言えばそうなんでしょうけど」
「十二はよほどの使い手に収まるのか?」
「十二は適正ですからね。活かせるかどうかは使い手の腕次第ですよ。まー使えているわけですが」
「あの、ウェイトリーさん、こちらの方は?」
「あぁ、今回顔つなぎをしておこうと思ったリーネリア嬢です。領主の娘さんですね」
「領主様の娘……」
エリナ職員は一瞬気の遠くなる気がしたが、職員の矜持で持ちこたえた。
「なる、ほど。領主様からの魔法の指導依頼を受けていらっしゃいましたね。その関係でしょうか?」
「そうです。それで、これから南東の森でアーシアに植物採取の実地研修とリーネ嬢に魔物の討伐を経験させるべく集まったというわけです。
それに関して、現在はどういった植物に需要があるのかや、森の状況、変わったことや気になる情報などがあれば、それはエリナさんに聞くのが一番だと思いまして、こういう場を作っておこうと思ったわけです」
「……事前に伺っておきたかったですね」
やや圧のある笑顔でウェイトリーを見るエリナ職員にウェイトリーは微妙に押されながらも開き直った。
「え、エリナさんであれば今言った内容なら問題ない範疇だと思うのですが……」
「相手が辺境伯令嬢でなければ私もあまりとやかく言いませんよ?」
「い、一応、表面上は貴族相手でも対等に接すると聞いた気が……」
「それは貴族出身の冒険者の場合です」
「あ、あぁーなる、ほどー。それは、失礼しまし、た」
「主さまが押されてるのは珍しいですねー」
「ほっといていいんですか?」
「これは主さまが悪いと思いますよ」
マリーとアーシアが、珍しいのみれたねー、みたいなテンションで話していると、件の辺境伯令嬢が口を開いた。
「あの、エリナさん、とおっしゃいましたか?」
声を掛けられたエリナ職員はウェイトリーを詰めるのをやめて、咳ばらいを一つして、姿勢を正し、模範的なギルド職員としての礼を取りながら挨拶した。
「初めまして、辺境伯令嬢、リーネリア様。私は冒険者ギルド、レドア支部受付課にて部門長をさせていただいております、エリナと申します」
「お初にお目にかかります。急な来訪、申し訳ありません」
「いえ、冒険者ギルドは関わる全ての人に開かれていますので何も問題ありません」
結局、事前連絡などなしに完璧な対応を見せるエリナ職員にウェイトリーは、やっぱ大丈夫じゃん、と内心ではは思いつつ、それよりも気になったことを呟いた。
「……エリナさんって受付課の部門長だったんだな」
「知りませんでしたね。私はてっきり副ギルドマスターとかなのかと思ってました」
「副ギルマスは他にいるぞ」
「私見たことないと思うんですが」
「七等級試験の時にギルマスとディル先輩のほかにもう一人表定員いただろ? あの人がそうだよ」
「へー、そうだったんですね。じゃあアミゲネイの鑑定の時にお世話になった人ですね」
「鑑定課の部門長らしいよ」
ウェイトリーとマリーが割とどうでもいい雑談に興じ始めたところで、エリナ職員はウェイトリーに話を戻そうと、本日の予定に関することを切り出した。
「では、そろそろ本日のご予定をお伺いします」
「それはウェイトリーさんから。でもその前にお願いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ギルドに関することでしたら何なりとお申し付けください」
「私、冒険者に登録したいのですが、それは可能でしょうか?」
「はぁ」「は?」「え?」「ほ?」
前から、エリナ職員、ウェイトリー、マリー、そしてアーシアであった。
エリナ職員は努めて冷静にギルド規則に乗っ取った内容を口にする。
「冒険者は本年度中に十三歳以上になるのであれば基本どなたでも登録可能ですが、失礼ですがお歳は」
「今年の九月で十三になります」
「であれば、ギルドとしては問題はありませんが……。リーネリア様、このことは領主様には」
「昨日話しました。ずいぶんと反対されましたが、ちゃんと説得してきました。こちらに許可の旨を記したものも用意しています」
「拝見させていただきます」
その内容に目を通したエリナ職員は確かに冒険者に登録することを許可する旨が書かれており、書かれた署名も押された印も辺境伯のものであることを確認した。
ただ、なんとか、なにとぞ、どうか、みたいな表現が散見される部分に領主の葛藤を見たエリナ職員であった。
ここまで用意されているのであればエリナ職員としても断る理由は何もなかった。
「わかりました。では、本日の件に関するお話を伺う前に、登録作業を行ってしまいましょう。受付までお願いします」
「はい。アーシアちゃんも一緒に登録しよー」
「はーい、ってえぇ!? しないよ!?」
「一緒にしようよー」
「いやだって、私冒険者仕事をするつもりはないし……」
「でも森に入るんだったら冒険者になっておいた方がいいんじゃないかな?」
「えー……、いやぁ?」
「エリナさんはどう思いますか?」
「そう、ですね……。もし、今後、領都南東の森で採取などを行うのであれば、冒険者になっていただいた方がギルドとしてはサポートしやすいのは確かですが、辺境伯領指定錬金術師という肩書もありますので護衛の斡旋という形でもサポートすることも可能です」
「ほらアーシアちゃん、なった方が得だって」
「あれ? 今そんな感じだったかなぁ?」
「アーシアちゃんアーシアちゃん」
「マリー先生も必要ないと思いますよね!?」
「アーシアちゃんがこの先、創薬錬金術師として大成するにはなっておいた方がいいですよ」
「えぇぇぇ!? でも私畑で育てるし……」
「ヒナ草だけでは限界がありますよ。そして新しい薬効植物を育てるにしてもそれに適した生育環境を知るにはある程度は現地に赴く必要もあります。
調査と検証が必要なのはアーシアちゃんも、もう理解してますよね?」
「うっ……。……はい、理解してます」
「今私たちがそうなんですけど、冒険者のランクは急いであげるのが難しいんです。それにアーシアちゃんならどうあがいても六等級までは上がれるはずなので、今登録しておいた方が絶対に得ですよ」
「わ、わかりました……」
マリーがほぼほぼポーションの納品のみで八等級になり、ポーションで対人戦闘試験を抜け、さらに今は取り下げられているとはいえ七等級には中級ポーションの納品依頼が存在する。
これらのことを考えれば時間さえかければ六等級までは確実に上がれるというのは道理であった。
「もちろん切った張ったの依頼をやれというわけではありません。ですが新たな薬効植物の採取に赴くにも多少は冒険者ランクを持っていた方が護衛なども頼みやすくなります。これはポーション作りに必要なことですよ」
「わかりました」
渋りつつも、最後にはちゃんと理解して頷いたアーシアにマリーはニッコリとほほ笑んだ。
ウェイトリーは、実を言えばアーシアに冒険者資格は必要ないと思っていたし、なんなら今でもそう思ってはいるのだが、リーネリア嬢に何となくだが暴走列車のような気配を感じていた。
清楚で可憐な見た目でそれに見合った態度ではあるが、その実、ちゃんと武家の娘である。
護衛の騎士も止めることはあるだろうが、友達というある程度の対等な立場でちゃんとブレーキになってくれそうなアーシアをリーネリア嬢につけておくのは案外悪いことじゃないのではないか、と思っていた。
また、実際マリーの言うことは正しく、ポーションクラフターに実地での採取は非常に有効だ。
仕入れた植物や素材で指定されたポーションを作る錬金術師を否定しないしそれも立派なものではあるが、アーシアが目指しているのはマリーであり、またアーシアが目指すべきもマリーなのである。
そしてそれに届きうるだけの可能性をアーシアは見せた。
ならば、同じくリーネリア嬢と共に冒険し採取できる場所が広がることで、錬金術師として知るべきことを大いに知ることができるはずだ。
そもそも錬金術の素材として有用なものはなにも植物だけではない。
鉱物にも、その地に湧く水にも、そして魔物にも有用なものはいくらでもある。
アーシアとリーネリアは二人で冒険者をさせた方が、お互いにとっていい恩恵があると考え、個人個人では冒険者になるのはどうかと考えるウェイトリーも、二人で冒険者になるなら止める必要がなかった。
「では受付にて登録を行いますのでこちらへどうぞ」
一連の話を流れが決着したのを見計らってエリナ職員は二人に声をかけた。
出された書類に、二人は考え込みつつ、時にはエリナ職員やウェイトリー、マリーに相談しつつ、その項目を埋めていった。
この後、十等級のスキップ審査にて、二人の能力が普通に九等級どころか八等級すら軽く超えていることにエリナ職員、そして合流したグラッツギルドマスターの両名が頭を抱えたが、まぁ弱くて危なっかしいよりは遥かにいいかと開き直っていた。
結局スーパー魔法剣士に育ててんじゃねぇかよ……、とギルマスに苦言を呈されたが、本人の意向なんだからしょうがないっすよ、とウェイトリーは知らん顔をした。




