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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
4章 不人気依頼担当冒険者
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076 訓練の日々

 それから一週間。

 アーシアとリーネリア嬢の訓練は滞りなく続いていた。

 

 まずはアーシア。

 濃縮の試験が無事終わり、冒険者ギルドへの納品などを済ませ、最初の目的であったウェイトリーの用意した今使っている錬金道具一式を買いそろえた。

 これで正式に錬金鍋や加熱板、錬成盤やその他もろもろがアーシアの所有と相成った。

 試験で作ったものは『下級濃縮10倍ポーション+10 品質10』のもので、これは一本当たり三千ドラグ扱いとして納品し、それが一回三本の百連続成功分の三百本、つまり三千本分の納品であった。

 とても簡単な計算で九百万ドラグ、大金貨九枚の支払いでアーシアは気絶しかけたのはご愛敬であった。


 そこから、アーシアの属性適性を測り、攻撃魔術を覚えることになったのだが、なんとアーシアには水に七と土に六の適性があった。何とも農家の少女らしい属性である。

 マリーは最初から妙に生活水魔術が達者であると思っていたが、なるほど納得であるという結果であった。

 そのため、その二つを活かすべく、射出系の水魔術と土魔術を中心に教えることとなった。

 アーシアには戦闘をメインで行わせるつもりはなく、あくまで自衛やサポートの範囲での教育なので、最初から正確に狙った場所に射出系魔術を放てるように訓練した。


 逸脱した錬金術にずぶずぶに足を突っ込んでいるおかげか、魔力制御の技術がかなり卓越しているので、最低位の攻撃魔術である水魔術のアクアショットや土魔術のロックアローの威力や発射速度、弾速などがおかしなことになっており、何より命中精度には目を見張るものがあった。


 しかし、停止している場所に当てるのは寸分の狂いもない高精度なのだが、動いているものに命中させるのが苦手らしく、そのあたりの訓練を積んでいるところであった。

 

 早朝に薬草の世話を行い、朝と昼の間ほどの時間にポーション製作、そして昼を挟んで魔法訓練というスケジュールであった。

 

 

 次にリーネリア嬢。

 近接戦の訓練はどうやら問題なさそうであった。

 まずは護衛騎士たちの素振りなどを見様見真似でどの程度行えるかということを確かめてみたところ、護衛騎士たちの持つロングソードを護衛騎士たちと同じように、なんということもないように振ることが出来ていた。

 しかも、その型もなかなか堂に入ったものにも見える。

 本来、そんなことができるわけはないのだが、これも身体強化魔術の賜物であるらしい。

 日常的になにかの動作などを注意深く追う時に、視力や反射神経などを無意識に強化していたせいか、動きや動作を正確に認識できるようだ。

 筋力などにしてもそうで、大人が振るうロングソードを齢十二の少女が木の枝でも振るかのように振り回せるのはその恩恵が大きい。

 つまりは、多様な武器を使っていくうえで必要な要素は全て持っているということになる。

 現状はまだ体の動かし方を慣らしていく段階で、簡単な体術などを行っている程度ではあるのだが、大いに期待できる結果であった。


 魔術に関してはまずは雷からで、生体電流感知から始めることとなった。

 とはいえ、やろうと思っていきなり人や動物に流れる微細な電流を感知するなど不可能もいいところなので、最初に行われたのは、雷属性の魔石を教えられた魔術を使って探し当てる宝探しのようなものであった。

 リーネリア嬢には目隠しを行い(魔力を直視出来てしまうため)、魔術を行使して護衛騎士に魔石の位置を伝えるという方法で訓練を行った。

 それをどんどんと小さい魔石に変えていくことで精度を上げ、最終的には生物の生体電流を感知できるようにする腹積もりである。


 雷の訓練の後は氷、凍結武装の訓練も行う。

 こちらは護衛騎士の持つロングソードと同じものを作り上げることを最初の目標として、まだ作りの甘い氷の剣をウェイトリーの設置した『大岩』に叩きつけるという訓練であった。

 都合がいいので素振りの時のように正しい型で、岩を断つイメージで叩きつけることようにさせて、硬いものを斬る訓練ともした。

 もちろん全く切れる気配などなく、氷の剣が砕け散るというのを延々繰り返すこととなり、若干の涙目になっていたのが印象深い。

 

 早朝に魔術でお茶を入れる、アーシアの小屋にて幻影モドキの練習、昼を挟んで雷から氷という流れが一日のスケジュールとなっていた。

 

 

 そんなこんながあった一週間だったが、それぞれの努力の結果、アーシアはクレー射撃のような形で放たれる石板を四割程度撃ち落とせるようになり。

 リーネリア嬢はピンポン玉サイズの雷魔石なら九割、指先サイズほどなら四割程度の正答率になり、氷の剣は岩に多少切れ目を作り、砕けはするが数度叩きつけられる程度にまで成長していた。

 

 ウェイトリーたちはというと、教育に忙しくなってしまったマリーは毎日小屋へと訪れて講師を務めたが、ウェイトリーは二日ほど、おなじみの生ごみ倉庫の片付け依頼や魔物魚の納品依頼、失せ物探し依頼、小包の配達依頼などをこなしていた。

 魔物魚納品依頼以外が普通に六等級ではないので一番必要である達成実績を得られなかったのだが、どうにも正真正銘の不人気依頼であるらしく、エリナ職員に、お願いできませんか、と言われ、いいですよ、の二つ返事のお決まりの流れであった。

 

「二人とも、やること自体は慣れてきましたね」

「全然当たりませんけどね」

「全然砕け散りますけど」

 

 少しばかりやさぐれた返答をするアーシアとリーネリア嬢であったが、マリー先生はニコニコ顔のまま一切取り合わずに話を続ける。

 

「慣れてきたところでやることを追加しますよ」

「えぇ!?」

「アーシアちゃんには、そろそろ過濃縮、百倍濃縮を作ってもらいます」

「さ、三十倍までしかできてないのに……」

「リーネちゃんには、氷の剣で主さまと模擬戦をしてもらいます」

「そ、それは……大丈夫なのでしょうか」

「主さまのことなら気にしなくても大丈夫ですよ。魔法耐性がびっくりするほど高いので」

「気にしろ」

「それに、スケルトンやゾンビにお願いするのがいいとも思いますし、その方が魔物と相対するときの練習にもなると思いますし」

「な、なるほど」

「それに加えて、だいたい十日後くらいの天気のいい日を見計らって、街の南東にある森の素材採取に皆で行くつもりですので、そのためのフィールドワーク講習も受けてもらいます。

 その時に魔物との戦闘も体験してもらうつもりですので、気合いを入れて望んでください

 もちろん私たちも護衛騎士の皆さんにも同行しますが、森の中での方針はお二人にお任せしますので集中して取り組んでくださいね」

「いきなりすぎる!?」

「流石に難しいのでは……」

「行くと言ったら行きますよ」

「そんなぁぁぁぁ……」

「ハードワークだなぁ。頑張れ少女たち」


 いきなりのハードな遠足宣言に絶句する少女たちにのんびりとした口調でウェイトリーが口を挟む。


「森での採取のフィールドワーク講習は主さまがやってくださいね」

「えぇーマジかぁ」

「そりゃそうでしょ。主さまほど優れた採取人なんてなかなかいないんですから」

「採取人て。正直俺は隠密スキルごり押しみたいなもんだからあんまり人に教えられることはないんだがなぁ……。まぁしゃーねぇかぁ」

「あと、リーネちゃんに投擲の訓練とアーシアちゃんの射撃精度向上のアドバイスもお願いします」

「待て待て待て、俺もハードワークじゃないか?」

「私も講義に加えて二人の為の魔導書作りやレシピ作りなんかでかなりハードワークなんで飲み込んでください」

「おれのなまえはウェイトリー、ふりーのしゃちくさ」


 真顔のまま世の無常観を現しつつも、十日ほどという期限の間にどの程度教えられるかを考えれば、遊んでばかりもいられないか、と思いつつも、詰め込むよりもまずはポイントを絞って知っておくべきことを優先して教える方針にするかなぁ、と思いを巡らせていた。




 そしてさらに一週間後。

 

「というわけで、おさらいとして、森に入るなら絶対に覚えておかないといけない事を、アーシア、リーネで交互に答えてもらおうか」

「絶対に迷わないように目印になるようなものを適度に付ける!」

「魔物や動物、他の冒険者などの気配に注意を払い、気を抜かない」

「採取を行う時は十分に周りに注意して、一か所で集める分は今後の生育に問題ない程度にする!」

「自分の知らないものには決して手を出さず、口に入れない」

「もし迷ってしまったら、今回は身を隠して助けを待つ!」

「戦闘するときは必ず相手の戦力とこちらの戦力を考えて、こちらの戦力以下と判別できるものだけを相手にする」

「終わり!」

「よし、まぁいいだろう。採取の仕方や歩き方なんかは現地で教えるから、採取日の前日にはちゃんと寝て、行く前から疲れてるなんてことが無いようにな」


 本当のことを言えばもっと教えておくべきことはあるのかもしれないが、とりあえずの最低限を教え込めたことで、ウェイトリーは一応の決着とした。


 この一週間で、アーシアは過濃縮があまりうまくいっておらず、辛うじて四十倍に到達できたところでまたしても暗礁へと乗り上げた。

 だがこれに関してはマリーも、そしてウェイトリーもそのうち勝手にモンスター化するなりして勝手に解決するだろうとタカを括っていた。

 しかし、魔法の命中精度はクレー射撃風石板投げに対して七割程度まで精度を上げていた。

 詠唱から射出までの速度も問題ない程度で、南東の森で戦う魔術師としては十分であった。


 リーネリア嬢も電流感知は魔石なら十割、生物の感知もなんとか感じ取れるようになってきていた。まだ範囲も精度も問題があるため索敵に使えるというほどではないが、決して悪くない習得速度であった。

 そして、著しい成長を見せたのが凍結武装であった。

 岩を断つには技術が足りないので、剣での切断には至っていないのだが、その強度が大幅に向上し、岩に思いっきり叩きつける程度では砕けなくなっていた。

 そこで何を思ったのか、不格好ではあるが大きなハンマーを作り出し、それを身体強化全開で力いっぱい叩きつけたところ、哀れ『大岩』は砕け散ることとなったのであった。

 もちろん、ハンマーは健在。

 それをもって、森での運用には問題のない強度であるとして、合格となった。

 とはいえ、魔力で生み出した武器のみというのは、魔力の消費がかさばると使えなくなる可能性もあるため、今は鋼の短剣の訓練を護衛騎士たちと積んでいる。

 どうにも戦闘センスもいいらしく、なかなかの使いっぷりだ。

 

 そんなこんなで着々と第一回フィールドワークの準備は進んでいた。

 天気の具合や、それぞれの体調や家の事情など、何かしらの都合が悪くならない限りは三日後に南東の森に赴くことになる

 

「あそうだアーシアちゃん。森の中で使えるポーションや薬品のレシピをいくつか教えてあげますので、自分で考えて必要だと思うものを言ってください。

 そしたら、その製作に必要な素材を渡すので、森に行くまでの間に作っておくように」

「魔物除けと獣避けのポーションが欲しいです!」

「戦うことも目的の一つなので今回はそれは禁止です」

「い、一番間違いないと思ったのに……」

「それもそのうち教えてあげますよ。まぁ森の魔物相手に動揺せず戦えるようになったらですが」

「ろ、ロックアローで倒しますし!」

「難なくできるようになりましょうね」

「むううう」

 

 うなってみるが、ニコニコ顔のマリーには全く通用することはなかった。

 

 

 残りの三日、二人はそれぞれ自分なりの努力を重ね、アーシアは射撃訓練とポーションや薬品などの準備をしっかりと行い、リーネリア嬢は凍結武装と鋼の短剣を用いた双剣術を用いてウェイトリーのスケルトンと戦い、対魔物の感覚を養っていた。

 

 なお、何気に初めて見るウェイトリーの死霊術にアーシアはびっくり仰天し、ウェイトリーさんはやっぱり悪い魔術師だったんですね! と驚愕を示したが、ウェイトリーは一言、そうだよ、とだけ答えてアーシアをからかっていた。

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