073 怪情報
魔道具に不備があるわけではないがこれでは困るとマリーは話を続ける。
「ですが、今回の場合ですと、ちょっと正確な適性を判別出来ませんので、私が直接計りましょう。
リーネちゃん。私の両手をそれぞれ握ってもらってもいいですか?」
そういってマリーは両の手をそれぞれ開いてリーネリア嬢の方へと向けた。
「わかりました。これでよろしいでしょうか」
「いいですよ。では多少ヒリヒリしたりくすぐったかったりするかもしれませんが、一分ほどじっとしていてください」
マリーの手がちゃんと握られたのを確認して、マリーは自身の魔力を操作して、リーネリア嬢の魔力の精査を開始した。
言われた通り、何となくむず痒いのか、くすぐったいのか、リーネリア嬢は微妙ににやけそうになる口元を必死に取り繕って平静を保った。
時間が一分と少し経った程度で、マリーは頷いてリーネリア嬢のゆっくり手を離した
「はいはい。完全にわかりましたよ。あんまりな数値に直接見た私の方がびっくりしましたけど」
「私は、そんなに適性がありませんでしたか?」
「えー、リーネちゃんの適性は、風属性が一で風の亜属性である雷属性であれば三、次に水属性が一で水の亜属性である氷が同じく三。
そして極めつけが、生属性が五で、無属性ではない生属性での身体強化魔術に使われる身体属性が十二でした」
「は? 十二? あり得るのかそんなこと」
「十を超える人を見るのはずいぶんと久しぶりですね」
あまりにあんまりなことを言うマリーに思わずウェイトリーは素の口調でツッコんだ。
「常人で持ち得るのは今のところ三人しか見たことありませんね」
「知らんぞそんな話。そんなヤツいたのか」
「一人はイルフリーナ先輩で一人はケイちゃんですよ」
「マジかよ。納得だけどマジかよ。ってことは火属性と死属性か」
「最後の一人は“姫様”ですね。こちらは生と死の両方です」
「……めちゃくちゃ納得した。あ、ごめん、続けて」
今明かされるウェイトリーも知らなかったEWO情報にオタク心が動いてしまったが、今自分がどこにいるかを思い出し、先を促した。
「それぞれ説明しますね。
まずは主さまが驚いた生属性の身体属性。
先ほど、無属性の身体強化魔術とおっしゃられていましたが、リーネちゃんの使っている身体強化魔術は無属性のものではなく生属性の亜属性である身体属性です。
身体属性での身体強化の方が無属性のそれよりも出力や汎用性、そして持続性と魔力効率が段違いに優れています。
長年、すぐに死んでもおかしくないほどの身体を支えてきたんですからそれはご理解いただけるかと思います」
「十二とは、それほどすごいものなのでしょうか」
リーネリア嬢に問われたマリーは、苦笑しながら説明する。
「えー、なんと言いましょうか……。いないわけではないのでこの表現は適切ではないのですが、人間の領域は越えてると言えます。
私、一度魔法神様とやり合ったことがあるのですが、その魔法神様が全ての属性に適性十二を持ってましたから、言ってしまえば神様レベルですね。あくまで私たちのいた場所の話ですが」
「か、神様レベル……」
「まぁ言っても特化した部分で十二なので、生属性が十二の魔法神様は回復魔術も身体強化魔術も使いこなしますが、リーネちゃんはその中で身体強化魔術のみになるので、完全に神様レベルというわけではありませんけどね」
「あの、そのようなことがあるのでしょか」
「例えばですけど、この魔道具に身体属性の適性を測ることのできる同じような魔石がついていたのなら、多分砕け散ります。どう考えてもキャパオーバーなので」
「きゃ、キャパオーバー……」
「そりゃどれだけ身体を悪くしても生きてこられたわけです。
リーネちゃんは事故に遭ったり誰かか何かに殺されない限り、とっても長生きできますよ。
下手したら自分が生んだ子どもより長生きします」
「あはは……」
言われたことがびっくり仰天過ぎて苦笑いを浮かべることしかできていなかった。
ちなみに、いきなり飛び出した、お前の娘神レベル、という情報の大きさのスケールが分からずベンゲル辺境伯はポカンとしている。
「次に、風の亜属性の雷ですね。これは摂理を理解して理合を学べばちゃんと有用な魔法として使用できるようになります。
風もそうですが、雷は非常に汎用性の高い属性で、その攻撃の速さや麻痺などを引き起こすことから戦闘面でも非常に優れますし、うまく応用すれば、生きている生物の探知などにも使えます。
人や生き物には生態電流というものすごく小さくて微弱な雷が流れていますからね、それを感じ取ることができる魔術を使えば、目を瞑っていても、相手が動き出すよりも早く相手の動きを理解することができます。
また、同じ理由で雷は身体強化との親和性もありますから、うまく使いこなせば、大森林まで往復しても数時間、なんてこともできるようになりますよ。
他にも特殊な磁場などを感じ取れたりする場合があるので、天変地異の前触れなんかをいち早く察知したりできます」
どんどん飛び出す怪情報。
「最後に、水の亜属性の氷ですね。同じく勉強次第でちゃんと使えるようになります。
汎用性という点では水に大きく劣りますが、とにかく殺傷性が高い属性ですね。
氷塊は物理的に非常に強力ですし、うまくすればその氷塊を任意の形に形成して武器などとして運用することができます。
またこの属性に精通すれば寒さに対して高い耐性を得ることができます。周辺一帯の温度を急激に下げる魔術を覚えることができれば、様々な戦闘シーンで役に立つでしょう。寒さはそれほどに凶悪な要素ですからね。
そしてここまで到達できるかは、それこそ生涯の努力を必要とするかもしれませんが、最終的には時間概念すら凍結させる魔術が存在します。時間系や空間系の魔法以外で時間概念に干渉するのは氷くらいのものでしょうね」
もう飛び出さないでくれ怪情報。
居合わせたベンゲル辺境伯、当人リーネリア嬢、巻き添えの執事風の男性が皆、唖然として、あ、とも、うとも言葉を発せなくなっている現場に、ウェイトリーは心の中で、これでマリーさんもやらかしカウント一だな、と考えていた。
「と、言った感じになりますが、どの属性を伸ばしていきますか?
私と主さまは何事もなければ九月終わりごろには王都方面へと出発する予定ですので、すべてを平たく伸ばしていくか、言ったようにどれかに特化して伸ばすなどの方針がありますが」
「ちょ、ちょっと待ってくれマリー殿。
私も武家の人間としてそれなりに魔法も使い、その知識も多少は持っているつもりだが、今のような話は聞いたこともない。
真実、なのか……?」
「全て真実です」
平然と言ってのけるマリーに唖然とした表情へと戻るベンゲル辺境伯。
しかし魔女は畳みかけるように告げる。
「摂理と理合が伴う魔術と、それらを伴わない魔術ではその威力も汎用性も、魔法本来の本質も大きく変わります。
有体に言えば、理の伴う魔法使いに、理の伴わない魔術師が、魔法の打ち合いで勝てる道理はありません。
私は今ちょっといろいろな制限を受けているせいで、本来の力をほとんど使えないのですが、それでも、理のない魔法が届くことはありませんからね」
ウェイトリーは知っている。
本気マリーに魔法が一切通じないことを。
本人は理のある魔術なら通じるみたいに言っているが、元位はそんなに安くはない。
元位に対しての必要最低限のラインは魔術の摂理と理合を理解すること。
その段階になって初めて魔術を行使することが許されるだけで、火元の魔女に火炎魔術が届くことはなく、死元の魔女相手に死霊術でアンデッドを呼ぶことはできない。
であるならば、七元の魔女には。
「ずいぶんと、大層な法螺を噴く冒険者がいるようだな」
そんな中で、この場の誰でもない声が響いた。
ドアの前に立ち、こちらをにらみつけるようにしているのは、金髪をかきあげ、整った顔立ちをした、どこかベンゲル辺境伯に似た出で立ちの少年であった。
マリーはそちらを見てニコニコとした顔をして答えた。
「法螺とは?」
「大切な妹の指導役として冒険者が雇われると聞いて、挨拶をとでも思ったが、なんだ今の話は。まるで聞いたこともない絵空事だ」
「そう、思いますか?」
「当然だ」
「では試してみましょう」
「なに?」
「魔術、それなりにお使いになるようにお見受けします。本当に法螺かどうか試してみてはいかがでしょう?」
「ケガをすることになるぞ」
「そりゃ私は格闘術や武器での戦闘にはあまり自信がないので、膂力の勝負に持ち込まれると怪我をするかもしれませんが―――」
そこで、ニコニコとした顔のまま、魔女は紡ぐ。
「もしかして、魔術で、ですか? とっても面白い冗談ですね」
「表へ出ろ。ペテンを弄したこと、後悔させてやる」




