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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
4章 不人気依頼担当冒険者
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070 グラスウルフと特別なミスリル

 街を出て人気のない場所にてもはや見慣れたボーンタイラントを召喚して上に乗り、見知ったアジサイ園へ。

 花はまだ咲いているが、散り始めているものも多く、見ごろのちょうど終わりといった時期なのだろう。

 

「主さま、この際次の生育に影響のない範囲でちょっと多めにとっておきましょう。このまま時期が終わってドクダミ部分がなくなってしまうのはただただもったいないです」

「それもそうか。でもどの程度影響があるか、完全には判別つかんからなぁ。まぁしかし、中心部の群生地からはそれなりに採取しても大丈夫だろ」

「私は外縁部のハネメドレンジアを採取するので主さまは中心部のアミゲネイをお願いします」

「そうだな。農家スケルトンを一人貸すよ」

「あとナイフも貸してください」

「あいあい」

 

 そうしてウェイトリーは中心部へと分け入りまだ花の残っているアミゲネイを十二分に採取し、マリーもハネメドレンジアを大量収穫していた。

 二人してかなりの量を収穫したが、アジサイ園から見れば大した量ではなかった。

 

 テキパキと採取を終え、アジサイ園から離れたところで、入念なクリーニングとピュリファイドを行い体を綺麗にしてから、件の村の方へと向かった。

 既に村の位置はレイブンレイスにて把握済みであり、ターゲットであるグラスウルフの群れの位置も把握していた。

 

 人目のない場所でボーンタイラントから降りて、それをカードへと戻してから、歩いて村へとやってきた。

 グラスウルフを警戒してか、畜舎の付近には何人もの若い男性が、木槍などで武装して巡回していた。

 その近くにいる手ごろな若者に声をかけ、グラスウルフの討伐にやってきた冒険者であることを告げて、依頼者の元への案内を頼んだ。

 警備にあたっていた若者は、少し安心したような顔になって快くその村の村長の元へと案内してくれた。

 

 依頼主である村長へと依頼表を渡して、こと詳細を聞いてみれば、ギルドで説明を受けて依頼表に表記されていること以上の内容はなかった。

 しいて言えば、どれくらいの時間に襲撃が来ることが多いかや、どの程度の規模かの推定程度であった。

 ウェイトリーがこの村の周辺一帯で発見しているグラスウルフの群れの個体数よりも多いと村側は考えているみたいなので、一応はもう少し捜索範囲を広げて見るつもりであった。

 

 話しの終わりには、雨季が空けて、周辺の草原にて放牧したいにも関わらず、このような状況が続けば家畜にとっても大きなストレスとなり、産業に大きな影響が出かねないため、早めに対処してほしいという懇願で締めくくられた。

 

 ウェイトリーは任せてほしいと村長に挨拶してから、村を出て、オオカミの潜んでいる草原へと歩き出した。

 

「主さま、私はポーションの準備をしていますね」

「了解。逃げられる可能性があるからハネメドレンジアは俺が戻るまで出さないでくれ」

「心得ました。風魔石の合成と刻印なども必要になるので、そちらの準備を終わらせておきます」

 

 その言葉に頷いて、村からほどほどに離れたその場に『野営地』と『簡易工房』を発動し、マリーを残して、ウェイトリーはフードをかぶり、静かに駆けだした。

 

 村の家畜を狩場にしているためか、それほど離れてはおらず、しかし村からすぐに見つかるような場所ではない絶妙な距離で、草の高さが腰ほどに生い茂る場所に、グラスウルフはいた。

 体毛は草に紛れる同色に限りなく近い緑色で、非常に見つけ辛いが、オールレンジスキャンや感知・気配察知などのスキルのおかげで、周囲にいる全てのグラスウルフの位置を正確に把握できていた。

 数は三十二。

 全てが向かってくるならともかく、逃げようとするならば一人で根絶するには難しい数である。

 

 そこで、速度と遠距離攻撃に優れるレイス系のカードをまとめて呼び出すことにした。

 

「『レイス』『ソーサラーレイス』『マジシャンゴースト』」

 

 呼びかけたそれらを各三体ずつ呼び出した。

 レイスは人型ですらない、白い布をかぶった霊魂のような見た目をした半透明の幽霊で、ソーサラーレイスは、その白い布を黒いローブ風にして短杖を手に持った幽霊である。

 しかし、マジシャンゴーストは、足こそないがちゃんと人の形をしており、その服装はキッチリとした魔術師部隊を思わせる整ったものである。そしてその服に施されている紋章や意匠はナイトスケルトンの鎧に施されているものに酷似する。

 そしてフードで顔は隠れて見えないが、体型からそれが男性であることもうかがえる。

 だが、他の二人は体型が違ったり、そもそも一人は女性のようであった。

 この辺りのマジシャンゴーストの見た目のバリエーションは、ナイトスケルトンにはない特徴である。

 厳密に言えばないわけではないのだが、なにせ骨だけではなかなか性別や個体差は判別がつかない。

 そして同じ括りの中にいるヘビーナイトゾンビには男性しか存在しない。

 

「マジシャンゴースト、レイスとソーサラーレイスを一体ずつ率いて、包囲を頼む。俺が仕掛けて可能な限り倒すが、逃げ出そうとしたら攻撃して一匹も逃がさないように頼む」

 

 その指示を受けて、マジシャンゴーストたちは胸に手を当ててから頷いて、それぞれの組へと分かれグラスウルフの包囲を開始した。

 その包囲が完了したのを確認して、ウェイトリーはスカルピアサーを矢継ぎ早に投げ放っていった。

 

 十、十五、二十にかかろうかというところで、グラスウルフたちは恐慌状態に陥って方々へと散り散りに逃げ始めた。

 それを合図にしたかのように、各所で魔法が発動し、グラスウルフたちを貫いていく。

 ウェイトリーも負けじとスカルピアサーを投げ放ち、命からがらマジシャンゴーストの包囲網を抜けた三十二体目の側頭部をスカルピアサーで射抜いて、この場は収まった。

 

「いやー、危なかった。これ以下ならいいだろうけど、もしこれより多いか同じくらいならマリーさんに寝かせるポーションでも作ってもらおう。逃げられたら元も子もないし」

 

 周囲に集まってきたマジシャンゴーストたちをねぎらいながら、今日はもう一回頼むかもしれないと告げてからカードに戻し、スケルトンを呼び出して、グラスウルフたちの回収を頼んだ。

 集まってきたグラスウルフを適当な数にまとめて、資材カードへと変えてから、ウェイトリーは野営地へと戻った。

 

「終わりましたか」

「危なかったけど何とかね」

「苦戦する相手ですか?」

「いや、一匹に包囲網を抜かれかけてね。危うく逃げられるところだった」

「あー。依頼は根絶でしたね。昏睡ポーション使いますか?」

「数によっては頼む」

「じゃあそっちも用意しておきますね」


 そういって待ってましたと言わんばかりにハネメドレンジアを幾本か取り出し、花をむしって鍋に入れ、葉をちぎっては鍋に入れ、最後に茎をざく切りにして鍋に入れた。

 それを鍋の中で煮て、魔力を渦巻かせつつ、しばらくするとやや水かさが減って、青紫色をした美しい結晶を鍋の中から取り出した。

 

「なにそれ?」

「抽出した毒素ですよ。数本分濃縮されてますから、なかなかの毒物ですよ」

「めちゃくちゃ危険物」

「何かに使えるかもしれませんので、資材カードにしておいてください」

「これ素手で触っても大丈夫なの?」

「状態異常効かないでしょ」

「そうだけど、俺ら以外もよ。もしマズそうなら紙にでも包んでからしまうけど」

「大丈夫ですよ。水につけたり割って口に入れたりしない限りは問題ありません」

「問題なさそうだけど、一応紙で包んでおくか」

「あとグラスウルフの血がいくらか欲しいんですけど」

「ちょっと待ってくれ。コイツをカードにしてから血抜きでもするよ」


 ウェイトリーは手早く毒物結晶をカードにしてから、五体一セットの中で、余った二体のものを取り出して、首筋にナイフを入れてから流れる血をフラスコで受け止めた。

 それが十分に集まってからマリーに渡した。

 

「ほれ」

「ありがとうございます。あとほどほどにおいしいらしいグラスウルフを食べてみたいので、そのまま解体してくださいよ」

「注文の多い魔女だなぁ」

「それが終わったら塩を揉みこんでくださいね」

「知らんうちに『野営地』が『山猫軒』になってたか」


 ウェイトリーはもう一頭の血抜きを行いつつ一頭目の血抜きがテキトーに終わるのを待って、勉強と練習を重ね、スキルレベル相応に解体できるようになった腕を披露しつつ、マリーはポーション作りを続け、ハネメドレンジア汁の中にグラスウルフの血を混ぜながら魔力を流動、最後にピンポン玉ほどの魔法陣を内包する緑色の石をポイっと鍋に放り込み、さらに魔力を加速させた。


 ほどなくして完成したポーションは「マリーさん特製 フレグランスポーション ハネメドレンジアの香り 魔物用」であった。

 ウェイトリーが嗅いでみたところ、確かにあのアジサイ園で嗅いだような香りがして、別に臭いと感じたりはしない華やかな香りなのだが、マリー曰く、魔物、特にグラスウルフにはこの香りが非常に危険かつ刺激臭に感じるらしく、よほどのことがなければ近づこうとはしないはずだ、とのこと。

 溶液を薄めて霧吹きなどに入れて、畜舎や周辺に二、三プッシュ吹きかければ、花の香りを微かに感じる程度で、およそひと月は効果が持続するという代物らしい。

 なお、飲んでも害はないが、吐き戻すほどマズいらしい。


「あっ」

「どしたの」

「霧吹きないですね」

「塗ったらダメなの?」

「かまいませんけど、それだと人によっては香りが鼻につくかもしれません。それに草原へと撒くのには向きませんね」

「んー。魔力伝導率がいい金属製のボトルがあれば、刻印術でなんとかなるか?」

「なりますけど、持ってるんですか?」

「実は特殊なミスリルを十トンほど持ってる」

「またまた。流石に冗談ですよね?」

「冗談だよ」

「え、なんでそんなものをそんなに持ってるんですか?」

「大森林にミスリルゴーレムがいたから倒して確保した」

「ギルドに提出したリストに書いてませんでしたよ?」

「他にいる感じもしなかったし、なんか『ブラックフォレストミスリル』とかっていう大森林の固有ミスリルらしくて、出したら大事になりそうだし、俺も保持してたかったから黙ってた」

「大森林固有のミスリル?」

「表面の完全魔法抵抗と反射、金属内側の超高魔力導電率、黒い銀色で、すごい頑丈」

「性質調整は?」

「できるな。というかやった。インゴット一本出すよ」


 そういってウェイトリーは五キロの重さで調整したミスリルインゴットを取り出した。

 それを受け取って食い入るように見つめたマリーはというと。


「これ全部売ったら領都まるまる買えませんかね?」

「かもなー。流石に怖くて出せないよ」

「そう言いつつ私たち特大光魔石出しましたけどね」

「思えばあれも領都を丸まる買えるくらいの値段かもな。いやそれ以上か?」

「流石に私も空気中の魔力からミスリルは作れませんからね。これをしれっと黙っていたのはあまりにもファインプレーですね。

 魔法抵抗も指向性調節で一方向のみにしてしまえますし、魔法を完全に無効化する盾とか鎧とか作れちゃいますよ。

 他にもこれで錬金鍋を作ればド下手くそに魔力を回して鍋肌擦っても鍋壊れませんし、導電キャパが凄まじいので、やりたい放題ですよ」

「この素材だと相応の土・粘土系素材と混ぜて釜にした方がいいと思うけど」

「持ち運ばないのであればそうでしょうね。もし工房を持っているならぜひ欲しい錬金釜ですよそれは。ミスリル混合最上級錬金釜は錬金術師の憧れですからね」

「まぁぶっちゃけると、魔力導電率が高い金属素材を錬金術が使える人間が手放すわけがない。こんなん、錬成盤あればどんな形にでもできる粘土じゃん。

 しかも終われば硬さが戻るんだし最高だよ」

「惜しむらくは主さまが鍛冶スキルを持っていない事ですね。今からでも一から覚えませんか?」

「そうなんだよなぁ。こっちでも生えるんかなスキル。一でも持ってれば伸ばすのは行けると思うんだが。

 まぁ鍛冶スキルは武器や防具にするときの補正みたいなもんだから、一応金属加工だけあればなんとかなるだろ。無理ならちょっと勉強してみる」

「魔剣打てますよ魔剣」

「使う予定ねー。俺これでそのうちタンブラー作ろうと思ってたもん」

「なんとも庶民的な使い方ですね。ミスリルの無駄遣いですよ」

「でもよくない? タンブラー。これなら温度調節自由自在のタンブラーがカンタンに作れるぞ」

「欲しいか欲しくないかでいえばものすごく欲しいですね」

「だろ? っていけねいけね。大幅に話が脱線した。さっさとボトルに加工して次の村に行かないとな」

「そうでしたね。あまりにも夢が広がる素材が出てきたものですから依頼なんてどうでもよくなるところでしたよ」


 当初の目的を思い出した二人は、ウェイトリーが錬成盤を使ってマリーの指示した通りのボトルを作り、出来上がったそれにマリーが旅館の鍵に付いてる樹脂のような掌に収まるほどの棒状四角柱に『適量噴霧』を刻印した魔石をボトルに設けられたケースに収め、ボトル自体にも刻印を施したことで、めちゃくちゃな素材でめちゃくちゃな構造をした機能自体はごくごく普通の霧吹きが完成した。



 その後、狩ったオオカミ全てを村長に見せて討伐の証として示し、オオカミを半分ほど譲った。

 ギルドではそれほど高値での買い取りになるものではないらしく、普通の食肉程度の価値なのだそうで、それほど数が必要ではなかったためである。

 だが、それは大層喜ばれて感謝された。

 それから、魔物除けのポーションの効果を説明しそれを使わせてもらえないかと話を持ち掛けて、半信半疑ではあったようだが、また被害にあってはかなわんからと、効果を期待して使う許可をもらい、畜舎と周辺の草原にほどほどに使って回った。

 

 依頼表に依頼完了のサインをもらい、ウェイトリーたちは次の村へ。

 

 次の村でも同じような対応を行い、同じように狩る、とする前にフレグランスポーションをお互いの体から浄化済み。

 ではいざ狩ろうと思ったのだが、同じ方法では難しい数であったのでマリーの昏睡ポーションを使い、群れの処理を行った。

 前の村と同じく、半数を村に収めて、フレグランスポーションを使い、夕暮れが訪れるよりも随分早くにその日の仕事を終えたのであった。

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