067 緊急依頼「河川氾濫の対応」
ボリュームたっぷりの冒険者ギルドメシをまもなく食べ終わろうかといった時に、ギルドにウェイトリーたちも見知った冒険者の一党がが入ってきた。
二人の七等級昇格試験の相手役を務めた『黒鉄の盾』の者たちであった。
彼らは受付にて依頼表を渡し、報酬を受け取るとそのままウェイトリー達のいる併設された食事場の方へと歩いてきて、二人に気づいて声をかけた。
「おや、ここで食事をしているのは珍しいな」
「お久しぶりです、ディル先輩」
「その節はお世話になりました」
二人が挨拶するとディル冒険者は相席いいか? と確認を取った後、ウェイトリーが頷いたのを見てパーティで座った。
「ディル先輩一行は依頼上がりですか?」
「ああ。馴染みの行商人の護衛で今しがた戻ったところだ。二人も依頼上がりか?」
「あー、まぁなんですかねぇ? ちょっと森の地図を提出することになりまして、それを出しに来たあとといった感じです」
「森の地図?」
「自分、偵察とか探索が得意なもので、そういうことを頼まれることがぼちぼちあるんです。その一環でといった感じです」
「偵察と探索……? あれほどのスケルトンを呼ぶのにか?」
「あの時呼んだナイトスケルトンみたいな純粋な戦闘アンデッドは、実は割合で言うと少ないんですよ。偵察特化の動物系アンデッドとか、生産関係のアンデッドとかがそれなりに多いんです。
まぁいないわけじゃないんで、他にももっとゴリゴリの戦闘アンデッドもいるんですけど」
「相変わらず末恐ろしいな……」
ディル冒険者は苦い顔をしながら、注文した食事と軽いエールと口に運んだ。
地図の話はどこまで話していいのかわからないため、それとなく話を変えるべくウェイトリーは別の話を振った。
「ディル先輩たちは主に護衛を受けているって聞きましたけど、護衛って結構儲かるんですか?」
「そうだな……。まぁ相手にもよるが、稼ぎは悪くないな。運が良ければ戦闘らしい戦闘もなく報酬がもらえるのも悪くはない。
俺たちは魔物相手ももちろんするが、対人戦闘の方が得意だからな。依頼主は気が気じゃないだろうが、盗賊を返り討ちにして得られる褒賞もいい」
「このあたりにも盗賊って出るんですか? 魔物からの護衛かと思ってました」
「この辺り、というか辺境伯領ではまずいないな。ベンゲル辺境伯領の騎士に追い回されるのも魔物の餌になるのもごめんなんだろう。
遭遇率が高いのは王都に向かう道中の男爵領や子爵領だな。
それと、魔物の生息域がほとんどない伯爵領もたまに出てくるといった感じだ」
「なるほど。秋ごろには王都に行こうと思ってるんで、気を付けた方がいいですね」
「二人だけで徒歩で行くなら、盗賊にカモだと思われるから気を付けた方がいいだろうな。……言っても君たちならなんの問題もないだろうが。
だが、特に道中で立ち寄る予定がないなら、王都直行馬車に乗るのが安心だな」
「いざ行くときに参考にさせてもらいます」
それから、マリーや他のパーティメンバーを交えつつ、今まで行った場所で食べたうまかった料理の話や、こういう感じの護衛依頼主はやめた方がいいといった話、魔物料理の話、最近他のどの場所よりも安くて質のいいポーションが買えるのがものすごく助かるといった話や、折り紙の作り方を教えてほしいとの話など。
ほどほどに退屈しない時間を過ごしている。
そんな時であった。
ギルドの入り口に軽装の騎士鎧をまとった領兵が慌ただしく入ってきて、受付へと向かった。
領兵は、急いでいても高圧的な態度はとらず、丁寧な口調でギルドマスターへの取次を願い出ていた。
対応するのはもちろん我らがエリナ職員。
慌てた様子もなく、速やかに受付を出て、領兵を伴って解体場の方へと向かって行った。
そんな光景を遠巻きにぼんやり見ていた一同は、顔を見合わせて呟いた。
「なにかあったみたいですね」
「そのようだな。領兵が来たとなれば領主案件か。報酬と危険度が釣り合った依頼といったところだな。慌てようを見るにおそらく飛び切りの厄介事だぞ」
「規模の大きい依頼ですかね?」
「どうだろうな……。もしそうなら今は時間帯も、時期も悪いな。この時期は冒険者は大体休んでいるからな」
「現に、今も自分らしかいませんしね。ディル先輩は、緊急の依頼なんかが出たら受ける感じですか?」
「モノにもよるが、役に立てるようなら受けるのもやぶさかではない。命の危険が大きいようならパーティで相談だ。そっちは?」
「多分受けること思います」
「金にでも困っているのか?」
「いやー金にはそんなに。それよりもしがらみってやつですかね。
不人気依頼ばっかりやってきたせいで、そういう案件はなんとなく受けてしまうというかなんというか」
「ちゃんと考えた方がいいと思うぞ」
至極まともなことを言うディル冒険者に、まったくだな、と思うウェイトリーであった。
しかし、ウェイトリーとしても、もしかしてカエルか? などとちょっと思うこともあるのは事実であった。
見張っている限りではカエル案件ではなさそうではあるのだが。
それから数分して、領兵が出てきて、足早にギルドを出ていった。
それに続くようにして、エリナ職員、そしてグラッツギルドマスターも出てきて、こちらを一瞥したのち、向かってきた。
「いるのは、『黒鉄の盾』と符術師んとこだけか?」
「厄介事ですか」
「そんなとこだな。領主から緊急依頼が入ってきた。説明するから受けるか決めてくれ」
説明された内容はこのようなものであった。
曰く、カエルの生息する湖から流れ、領都の最寄りを流れる川に氾濫の兆しあり、という内容らしい。
ここ数日、もう一週間ほどになるだろう間降り続いている、例年にも類を見ない大雨で水かさが溢れ、川が増水。
そこから、川に掛かる石橋が崩れたことによって、橋脚があった場所を起点に土砂と瓦礫などが滞留し、小規模なダムのようになってしまっているらしい。
その上を水が流れてはいるのだが、そのダムが崩れれば大量の水と土砂が流されることになり、領都の浄水施設などに逆流して大惨事になりかねないとの状態らしい。
冒険者に要請が出されたのは、大惨事が起こる前の任意のタイミングでの魔法攻撃などによる小規模ダムの解消と、浄水施設への逆流を防ぐための防波堤や土嚢づくりへの協力要請だった。
本来なら辺境伯領の領兵はそういったことのプロフェッショナルと言ってもいい訓練がなされているのだが、今年の雨は各地で大小さまざまなトラブルを起こしており、それらの対応に負われ各地に散っている状態であり、急遽集めるには人員が不足しているとの状態なのだという。
ウェイトリーは、想像してたより大事じゃん、と思いつつ、件のダムの場所や浄水施設などを確認するためにレイブンレイス達に指示を出した。
ウェイトリーが指示と確認作業で黙っているため、ディル冒険者が口を開いた。
「ギルマス、その依頼は俺たちは土嚢づくりくらいしか役に立てない。それで問題ないなら参加する」
「頼む。報酬と評価は弾むからな。可能な限り早く東門から出た先にある浄水施設に向かってくれ」
それを聞いたディル冒険者たち『黒鉄の盾』一党はテキパキと準備を済ませて、ギルドから出ていった。
話を聞きつつも目を瞑ってダンマリを決め込んでいたウェイトリーは、川の状況や土嚢づくりの状況を見ながら、こりゃどう考えてもマンパワーが足りてないなと感じていた。
何となく何をしているかに想像がつくグラッツギルドマスターはやや気に掛けつつ、ウェイトリーに話しかける。
「あー、いいか?」
「いいっすよ」
「あれか? 見てるんだよな今」
「っすね。土嚢づくりの方は明らかに人手不足。この状態で必要な土嚢とかバリケードを組むなら、五時間か六時間かってとこですね。
それから、問題の土砂ダムの方は限界が、よくて四時間、早くて三時間ってとこですね。今でも大きな丸太でも流れてきて当たるところに当たれば結構危ないかもしれないっすね。
ただ、今すぐダムを壊せば、浄水施設がめちゃくちゃになる程度で済むかもしれないっす」
「それは普通に不味いんだが」
「いや、でもめちゃくちゃになってもで数日で復旧できる程度っすよ。少なくとも一切合切ぶっ壊れることはないと思います。
でも二時間経って、バリケードが間に合わなければ、浄水施設は建て直した方が早い結果になるかもしれませんね」
「めちゃくちゃ不味いってこともよく分かった。……それで? お前は壊せる手段はあるのか?」
「領主側は用意していないんすか?」
「あるかないかでいえばあるが、適切かどうかで言われれば五分らしいぞ。
下手に威力を上げ過ぎれば川の方に被害が及ぶことになって、雨季が開けた後の利水関係でこの川の水源に頼る村や街に二次的な被害出る可能性があるらしい。
だが、必要ならその方がまだマシらしいからその時は甘んじて五分に掛けるらしいが」
「川幅およそ十メートル、水深は通常なら深場で二メートルから二.三メートルほど。現状は大体どこでも二メートル前後で深いところは三メートルってとこっすかね」
これならダムの構造的急所をそれなりの威力でブチかませば問題ないかなと、その昔フレンドのウォーアーキテクトプレイヤーと一緒に水攻めを敢行したときのことを思い出しながら、試算を済ませた。
「多分行けると思いますよ」
「そうか! なら破壊は任せるぞ。タイミングはあっちからあるらしいが―――」
「いや、多分それは今のままでは間に合わないっすね。土嚢とバリケードを作るのに一時間、完成して退避を済ませたら可能な限り即時破壊が望ましいと思います」
「しかし人員はどうにもな……」
「ギルマスさん。人員はこの際どうとでもなるんですよ」
「アンデッドか? しかし一人二人呼べたところで―――」
「主さまならいますぐにでも二十人近くは呼びますよ」
「マジか」
「大工と農家を増員するか。海賊の馬鹿野郎ども戦闘以外では略奪くらいでしか役に立たんし、ここは普通にパワスケも増員だな」
ウェイトリーは端末から必要になるであろう人材をピックアップして複製し、デッキを組みなおしていく。
本来なら、コモンやアンコモンのキャラクターをそれぞれ十枚も入れてはまともに戦えないことになるし、倒されればリキャスト時間の間だけ無防備になるが、こういう戦闘以外でのマンパワー運用はデッドマスターの十八番であった。
伊達に疲労しないアンデッドにスコップ持たせて塹壕掘りをやっていないのである。
「ギルマスさんは現場での説明をお願いします。いきなり大量のアンデッドを呼んだら現場はめちゃくちゃになると思いますから」
「お、おう、了解した」
「よし準備できた」
ウェイトリーはいつも通りの真顔、或いはぼーっとしたような顔で、ふぅー、と長い溜息をついた後、何の気負いもないような声で呟いた。
「そんじゃまぁ行きますか」
「パパっと終わらせましょう」
そして一行は、まずは土嚢とバリケードの構築のため、浄水施設へと向かうのであった。




