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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
4章 不人気依頼担当冒険者
66/332

066 ノアルファール大森林完全攻略地図

 ポーションモンスターがアーシアに戻った日から二日後。

 朝の混雑のピークが過ぎたころに二人は冒険者ギルドへとやってきていた。

 

 いつも通りの位置に座っているエリナ職員にウェイトリーは声をかけた。

 

「おはようございます」

「おはようございます、ウェイトリーさん、マリーさん。本日はどのような用件でしょう?」

「地図出来ましたので持ってきました」

「! わかりました。ギルマスに話を通してきますので、少々お待ちください」


 そういって、エリナ職員は解体場の方へと足早に去っていき、ほどなくして戻ってきた。

 

「解体場の方でギルマスが話を聞くそうですので、ご同行お願いします」


 そうして慣れ親しんだ解体場へとやってきたところ、グラッツギルドマスターと数名の職員が解体台を綺麗に片付けて待っていた。

 

「よう符術師。また面白いものを持ってきてくれたそうだな?」

「ご要望にお応えしただけっすよ。別にただの地図なんで面白くもなんともないですし」

「いや、そいつは値千金の地図だからな。モノが間違いねぇならかなり面白いぞ」

「そうっすか? まぁ内容が正しいかどうかはそちらで確認してください」

「あんなヤベェところに確認人員なんぞそうホイホイ送れるかよ」

「ごもっとも」


 そう言いながらウェイトリーはカードにひと揃えにしまっていた地図を発動して取り出した。

 折りたたまれた状態の、複数枚の紙を錬金術で継ぎ目なくつなぎ合わせて描かれた大きな地図と、三十ページほどの小冊子が三冊。

 ウェイトリーは片付けられていた解体台の上に、畳まれた地図を丁寧に広げた。

 

 その地図には、まさしく冒険者に必要な森の全容ともいえるだけの情報が記されていた。

 詳細な地形が描かれた中に、これでもかというほど特徴になりそうな岩や崖、段差に高低差、大木、植物相、地面の状態、川の形に湖の位置などが、いっそ偏執的なまでに書き込まれている。

 そして、下に書かれた等間隔のメモリによって縮尺などが正確にわかり、またそれは現実の大森林と寸分の狂いがないように距離が克明に描かれている。

 森であることを考えればおよそほとんど木が埋めているわけだが、場所によってどういう木やどういう植物がどのように生えているかなどが、精緻な図として描かれていた。 

 そして、地図上に無数に書かれているそのままの数字と丸で囲まれた数字の二種類、さらにいくつかの色で引かれた緩やかに曲がりくねった複数の線であった。

 

 これこそが、ウェイトリーがEWO時代に攻略勢や上位プレイヤー、地図を必要とするプレイヤー達に投げつけていた『ウェイトリーマップ』であった。


 グラッツギルドマスター、エリナ職員、そして二名ほどの解体場職員は、その一種の執念すら感じるノアルファール大森林の全容を記した地図を食い入るように見つめていた。


 エリナ職員はやはり気になったのか、地図上の数字と、小冊子のことを聞いた。


「あの、ウェイトリーさん。この数字と冊子はなんでしょうか?」

「丸が付いてない方が魔物の生息域ですね。それから丸で囲ってある数字は薬効のある植物や希少な食用植物なんかが採取可能な場所ですね。

 あと色の違う線は比較的魔物遭遇が少ないルートや森を進むのに最適なルートなんかですね」


 それを聞いたとたん、グラッツギルドマスターは丸が書かれていない方の冊子を開き、エリナ職員は丸が書かれている方の冊子を開いて、地図と照らし合わせた。


 それから数分、誰も一言もしゃべらなかった。

 いやウェイトリーとマリーは普通に話す気はあったのだが、ギルド職員たちが全くそれどころじゃないと言わんばかりに二人を見もしなかった。


 そして、一通り見終わったのか、エリナ職員がウェイトリーへと話しかけた。

 

「これは、全てウェイトリーさんが?」

「冊子をまとめるのにはマリーさんの手を借りましたよ」

「あの、現地で調べたのは」

「それは自分ですね」

「これほどまでに調べるのにいったいどれほどの時間を……」

「三日か四日か。あぁ、でも前に住んでた頃に概要程度は調べてたんで……、んー、どうですかね。下調べ一週間、本調べ四日ってとこじゃないですかね?」


 本調べは現地に実際に現地に赴いた場所もあるが、複数のレイブンレイスからオールレンジスキャンを連発しての調査だったため、最初に森に来た頃にはできなかった調査であったのだ。

 もし次があるなら、下調べの時点でオールレンジスキャンを放つので、もっと早い時間で済むことになるだろう。


 何でもないように言うウェイトリーを、一体何を言ってるんだコイツは、という表情で見つめるエリナ職員。

 もはや何度か見た光景に、マリーは心の中で、これでやらかしまた一つ追加ですね、と微笑んでいた。


「あー、符術師。ちょっといろいろ聞きたいことがある」

「なんすか?」

「お前、ここの書かれてる魔物、どの程度倒したんだ? なんかどういう攻撃をするかとか、どういう動きをするかとか、どこが弱点かとか書かれてるんだが……」

「あぁ、そこまで入念な調査ってほどじゃないですよ。アンデッドでひと当てしてどんな感じかをまとめただけなんで、反復調査とかはしてないっすよ。

 あとどの程度倒したかで言えば、載ってる分の八割程度は倒したと思いますよ。倒したのはできるだけ全部カード化して来たんでいつでも出せますし」

「マジか」

「マジっす」

「ぎ、ギルマス! 俺、このスティンガーデスマンティス見たいっす!」

「いや待て! フレイムアーマードベアが黒い焔を纏ってたってヤツのが気になるだろ!」


 ギルマスと同じく食い入るように魔物リストを見ていた解体場職員二人が声を上げた。

 ウェイトリーは端末を操作してその二体のカードを取り出して二人に渡した。

 うぉぉぉ! と憧れのキラカードが当たった子供のような喜び方をして早速発動しようとする職員二人をグラッツギルドマスターは寸でのところで止めた。


「おい待てお前ら! まだ出すな! リストと状況、それから地図のもろもろ確かめてからにしろ」


 今にも発動させそうな職員二人にかかりきりになっているグラッツギルドマスターをよそに、ウェイトリーは大森林で討伐して来た魔物のカードを全て取り出し、地図の上の該当する数字の上にそのカードを並べていった。

 その作業を見ていたエリナ職員は、なまじ精緻なイラストとなっている資材カードが大森林の地図の上に並べられていくにつれて、ノアルファール大森林という場所の危険度がより如実に、まるで実体を持ったかのように感じられて、今まで自分があの大森林という場所の表層しか理解できていなかったのだと感じさせられた。

 

 それがとても重要なことに思えたエリナ職員は、やいのやいのと言い争っているギルド男性職員たちに声をかけた。

 

「ギルマス、それからお二人も。これを見てください」

 

 そういって声を掛けられた職員たちは、様子が変わった地図に再び釘付けとなった。

 

「あの、ウェイトリーさん。倒したと仰られましたが、どの魔物が、どのように危険だったかなどを御聞かせ願えませんか」

「あぁはい。まぁーそうですね。じゃあ浅層から。

 主に目立つのはキリングボア、ファングウルフの群れ、ブリッツムースなんでしょうけど、やっぱファングウルフの群れが厄介ですかね。

 こいつらは普通なら群れる魔物じゃな無いらしいんですが、生存競争の為ですかね? 群れで、しかも基本的に夜に襲撃を仕掛けてくるんですよね。

 もし大森林の浅層で数日過ごすなら、昼に眠る方がいいですね」

「大森林で寝るヤツなんていねぇよ」

「そっすかね?」

「もしそんなヤツがいたら、そいつは多分自殺志願者だよ」

「まぁ概ね間違ってないっすね」

 

 ウェイトリーは、言うて野営地抜けない魔物がいくら群れたところで何とも思わないが、夜間の採取の時になかなかの索敵力を見せてくるのが面倒くさいんだよな、程度にしか思っていなかったので次に進むことにした。

 

「んで次が中域。なかなかバラエティー豊かですけど、一番のおすすめはワンバイトガーパイクですね」

「ワンバイトガーパイクですか? 確か水生の魚類系の魔物だったと思いますが」

「水がいいからですかね? 塩焼きにするだけでめっちゃウマイですよ」

「は?」

「主さま、当然確保して来たんですよね?」

「何回か食われかけながら頑張ったぞ。かなりの数を確保してる」

「今日はそれを焼いて食べましょう」

「調理は任せた」

「いや、あの。危険度や厄介さの話をお聞きしたいのですが」

「ガーパイクは水辺の水深があるところに近づかなければ大丈夫ですよ」

「いえガーパイクではなく」

「他の魔物ですか? んー、なんかゲリラ兵みたいなオーガがいたんですけど、なかなかあれはギョっとしましたね」

「オーガですか?」

「オーガ種って力こそパワーみたいな感じで戦う魔物だと思ってましたし、図鑑にもそう書かれてましたが、体に木や草を括りつけて、さらに泥なんかを塗ってカモフラージュしてジッと待ち構えて、通りがかったアーマードベアの脳天を一撃で貫いてましたよ。

 お前のどこがオーガなんだよって感じの、オーガでしたね」

「思ったよりヤバイ情報が出てきてるんだが……」


 グラッツギルドマスターが頭を抱えた。


「生きるための進化の側面なんですかね? 多分中域だとあれが一番厄介だと思いますよ。

 他はめちゃくちゃ硬くてフィジカルが強いか、めちゃくちゃ早くて魔法が強いかみたいな感じなんで、まぁそんなもんだよねって感じですね」

「十分問題だよ」

「いやいや。本当に問題なのは奥地のヤツらですよ。

 というかホントは中域から奥地の広い範囲にいるバカでかいアンコウみたいなヤツがホントに厄介なんですよ」

「アンコウ? また魚ですか? 味の話はあとでお伺いしますが」

「いやうまかったのはそうなんですけど、陸生のアンコウみたいなやつで、大口開けて地面に潜ってて、その上を何かが通ったら、こう……、トラばさみってあるじゃないですか? あれが閉じるみたいに口を閉じて丸のみにするんですよ。

 しかもその口の上あたりに、ウサギに似た小動物っぽい疑似餌みたいな舌を動かして魔物を誘うんですよ。しかもそれが弱ってるウサギみたいに見えるんです。かなり悪質ですよアイツ。

 あれが奥地寄りの中域からいるもんで、魔物たちはホントに大変だなって思いましたよ」

「聞いたことのない魔物ですね」

「冒険者家業も解体場職員もそこそこ長いが、俺も知らんぞそんな魔物」

「自分も図鑑に載ってなかったんで名前とかはわからなかったんすよね。

 だから特徴をそのまま取った名前でリストには書いてあるんで、もし正確な名前が分かったら書き換えておいてください」

 

 大口アンコウの名前は『ベアトラップランドアングラー』となっていた。

 それからひと息空けてから、やや真剣な口調にウェイトリーは変えた。

 

「でも奥地で一番気をつけなきゃならいなのは、赤い花の生えた樹木精ですね。コイツの射程圏内に入るのは、本当にやめた方がいい」

「こいつか。リストだとどれだ?」


 グラッツギルドマスターが地図上に置かれたカードを指さしながら聞いた。


「一応花がダリアに似てたのと、その特徴から『スナイパーダリア』としてるヤツっすね。

 コイツの射程は木の生い茂る森の中でおよそ百五十メートルから二百メートルで、その半径の中に入って、射線が通る場所ならまず間違いなく撃ち抜かれますし、場合によっては木一本程度なら貫通してきます。

 しかも頭とか胸なんかの人体的急所や、足などの移動系の部位を優先的に狙ってくるので、めちゃくちゃ危険です。

 もしどうしても倒す必要があるなら、生半可な兜や鎧ではおそらく普通に貫通されると思うので、かなりいい装備で身を固めるか、強力な結界を纏う魔法なんかが使えるか、二百メートル以上先から攻撃できる手段を用意したほうがいいですね」

「どうやってその距離でこちらを感知するんだ?」

「音や視界じゃないのは確かっすね。魔力的な探査か樹木精の特性として木を使った探知かといった感じだと思うっす」

「この、円の範囲がそうですか?」

「そうです。コイツ等は基本的に同じ場所からほどほどにしか動かないので、射程範囲の最外縁から三百メートルの位置で円を引いてます。この範囲外ならよほどのことが無い限りは撃たれないと思います」

「なぁおい……。グランドタートルの上にそのスナイパーダリアが乗ってる場合があるって書いてあるんだが……」

「その場合は何が起こったかわからないまま死ぬしかないかもしれないっすね」

「なんでお前は生きてるんだ……?」

「なかなか面白いジョークっすねギルマス」


 大森林に生息するグランドタートルはその背に幾本かの木を生やしていることがあり、それがスナイパーダリアの場合が非常に多い。大森林グランドタートルはスナイパーダリアと共生関係にあるのだ。

 

 グラッツギルドマスターの、ジョークじゃないんだが? という顔をウェイトリーはスルーして、話を続ける。

 

「今話しただけだと、大森林ってもうなんもいいことないじゃんって思うかもしれませんが、薬効植物の宝庫でホントにいいものがそろってますよ。

 それから、どこに書くか迷って、一応ルートリストの一番後ろの方に情報をまとめたんですけど、大森林には住人がいます」

「なに!?」

 

 急いでその情報を精査すべく、ルート情報が描かれた冊子を後ろからめくり、内容を確認したグラッツギルドマスターは、ものすごい心中複雑という顔をして、ゆっくりと顔を上げた。

 

「不死者って書いてあるんだが」

「いたんですよね。紆余曲折あって不死者になったんですけど、ベルナベット氏です」

「アンデッドの魔物ってことか?」

「いや理性的で会話もできる善良な人、というか死者です。もし大森林で迷ってベルナベット氏に会うことができれば、大森林の外まで無事に送ってもらえますよ」

「なんか結構無茶苦茶書いてあるんだが……。“マンティスハンター”?」

「ベルナベット氏はクルブラント王国の元騎士隊長だった人らしくて、なんでも国のお姫様の病気を治すための薬の材料を手にれるべく大森林に分け入った部隊の殿を務めた人らしいですよ。

 不死者になったばかりで記憶がまだおぼろげらしくて、何年前かは定かではないらしいですけど、二十年か三十年くらいは前じゃないかとのことでした。

 それで自身の直接の死因になったスティンガーデスマンティスとスラッシュデスマンティスを狩り続けているカマキリ狩りの達人ですね。

 使ってる武器もデスマンティスの鎌とか槍剣でしたよ」

「クルブラント王国は、大森林の向こう側って感じの国だな。そこの騎士の、不死者か」

「まぁ基本的に奥地でカマキリ狩りに勤しんでるみたいなんで、なかなか会うのは難しいと思いますけどね。

 あぁあと、胸に穴が開いていて首もないんでかなりショッキングな見た目をしてますよ」

「それでどう会話しろってんだ……」

「そりゃぁ、ジェスチャーとか筆談とかっすね。少なくともこっちが言ったことはちゃんと聞こえてるんで、『はい』か『いいえ』位の会話なら簡単に成立しますよ」

「そ、そうか……」

「まぁいきなり斬られることも無いと思いますけど、こちらが敵対的だったり、あんまりに礼儀に掛けるようだとバッサリ行かれても文句は言えないと思うんで、そのあたりはご注意を」

「安心しろ。普通にそんなのに出会ったら尻尾巻いて逃げる」

「すごいいい人なんすけどね」


 一通りの危険地帯や警戒情報などを説明したところで、話は以上となり、解体場職員たち待望の魔物披露会となった。

 先ほどの説明にもあった魔物に、待ち望んだ魔物などの登場に興奮を隠しきれない解体場職員二名に対し、最小の傷で狩られた魔物があまりにもその原型を残しているためにありありと大森林を感じるエリナ職員、そしてこんな魔物をしかもこの量をどこに捌けって言うんだよおいそれと出せねーよバカヤローという気分のグラッツギルドマスターであった。


「主さま、アンコウは売らないでおきましょうよ」

「心配しなくてもアンコウもガーパイクもそこそこまだ残してる」

「流石は私の主さまですね」

「あ、そうだギルマス。ベルナベット氏が山ほどあるからもってけと、カマキリの鎌と槍剣をそこそこの数もらってきてるんですけど、買い取ってもらえないっすか?」

「あー……。まあーそれはかなり売れ筋になるだろうから出しとけ」

「うっす。ベルナベット氏になんかお礼したほうがいいかもしれんなこれ」

「また行けばいいじゃないですか、主さまが」

「遠いんだよ。あと行かせようとするな。十分とってきただろ」

「やだなー。そのベルナベットさんにお礼を持っていくだけですよー」

「ちなみに、湖の底にいたクソデカホタテもかなりうまかったぞ」

「主さまは今すぐお礼に行くべきです」


 やや混沌とした状況が広がったが、何とか現状の収集はついた。

 ついたのだが、ものがものだけにすぐには価値を付けられないものが多いので、二、三週間から長くても一か月は待ってくれという話であった。

 ウェイトリーはこの時、何となくだが、シカの王は提出しないでおいた。特に意味があるわけではなくちょっとしたコレクション程度の意味しかないが、理由は本当に何となくであった。

 だが、地図は非常に価値が高いと思われるため、領主と相談しどれだけ低くても大金貨一枚は出せるだろうから数日から一週間程度待ってくれとの話だった。

 

 それなりの時間が経っていたため、そろそろ昼食にしたいということもあり、依頼をこなすなり、数日に一回程度適当に顔出すなりするということで、その場での話は切り上げることにした。

 

 二人は、解体場から出て、そのまま、ギルド併設の食事場へと向かいそこで昼食を取ることにした。

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