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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
4章 不人気依頼担当冒険者
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065 ポーションモンスター

「わははははははっ!! 魔力がぐるぐるでたーのしー!!!」

「……あー、マリー博士、どうやら新しいモンスターが生まれているみたいですが、これは一体……?」

「助手くん、私にもわからない」


 翌日、アーシアの薬草畑脇の小屋もとい、アーシアのポーションアトリエもとい、ポーションモンスターの秘密実験室には、少女の狂ったような笑い声が響いていた。

 幸い母屋とは離れているし、今日も今日とて雨脚が強いおかげもあってこのモンスターの存在を知っているのはウェイトリーとマリーの二人だけであった。

 この光景が親御さんに見咎められた日には、どうなるかなど想像したくないな、とウェイトリーはじっとりと暑い室内で冷や汗をかいていた。


 アーシアの周囲にはこの数日で作られた無数の濃縮ポーションが所狭しと転がっておりおり、控えめに言って足の踏み場がない状態になっていて、はっきり言えばグチャグチャでとっ散らかっている。


 普段ならそこそこ几帳面に整理整頓を心がけているアーシアのこのハマりっぷりはちょっと恐ろしいものがあった。

 何が恐ろしいかといえば、これだけ狂気的にポーションを作り続けているのにちゃんと全て瓶詰めして置かれているという部分である。出来上がったポーションを大きな桶などに汲んで置いてある、などではないのだ。

 ニヤニヤけらけらわはははと声を声を上げながらも、一本一本丁寧に瓶詰めしている姿は、普通に怖い。


 だが、それだけの成果は出ているようであった。

 マリーがしていた二百倍濃縮の時に見せた魔力の加速にはまだまだ遠く及ばなくとも、常人では捉えるのは難しいのではないかという速度で魔力を流動させ、品質を上げ、効能を上げ、そしてそれをより小さい液量へと濃縮する。

 それが、教えられたとおりにちゃんと行われていた。


 それは既に、ウェイトリーが知る常識的な錬金術、錬金術師、ポーションクラフトの領域を超えていた。


 高笑いを上げながらポーションをそれはもう楽しそうに作り続けるアーシアを指さしながら、マリーになんとかしろという圧の籠った視線を送りつつ、ウェイトリーは散らばったポーションを丁寧に鑑定して効果や品質などに分類して整理する仕事に就いた。

 その視線を受けたマリーは、散らばったポーションの瓶に気を付けながら近づいて、アーシアが行っている作業が完了するのを見計らってから声をかけた。


「アーシアちゃん」

「わはははははは!!」

「アーシアちゃーん! 聞いてくださーい」

「あっ! マリー先生おはようございます! 出来ましたよ濃縮!」


 二人がいることに今まさに気づいたといった表情をするアーシアは、自身の最高の成果を提示しつつ、挨拶をした。


「おはようございますアーシアちゃん。できるようになったみたいですね」

「いやもうコレ楽しすぎます、魔力ぐるぐるーってしたら水がばーって減って、すごい綺麗なポーションになるんです!」

「どうどう、落ち着いてください。作っているところは見ていましたが大したものでしたね。

 アーシアちゃんはここ数日はずっとかかりっきりだったんですか?」

「そうですそうです! 雨季は薬草の水やりが無くて、草取りも雨季明けでいいですし、収穫だけなので時間があったんです!」

「なるほど。それじゃあ、アーシアちゃんがこの数日の中で作った中で一番よくできたポーションを見せてもらえませんか?」

「えっ? えーっと、どこかそのあたりに……。あっ! というか今作ってるこれが多分一番出来がいいですよ!」

「ですか。じゃあちょっと見せてもらいますね?」


 マリーはそのポーションを丸底フラスコに取り分け、顔の前に掲げ、揺すり回しながらそのポーションを確認した。

 そのポーションはマリーの目で見ても十分だと思える出来だったが、ふと一つ、気になることがあった。

 

「アーシアちゃん。作っていたのは下級ポーションですか?」

「え? そうですよ」

「じゃあこれは失敗ですね」

「えぇ!? なんでですか!?」

「だってこれ中級ポーションに化けちゃってますし。ほら色、青いじゃないですか」

「あれホントだ! でも、初級ポーションの素材しか使ってませんよ?」

「品質と効能を濃縮するときに高め過ぎましたね。そのせいで下級ポーション域を越えた回復力をもってしまったから青くなったんです」

「そんなことあるんですか!?」

「現になってますからね」

「じゃあそれをもっと濃縮すると上級ポーションにもなるんですか?」

「それがそうはならないんですよね。これだけでは薬効に限界があるのでどうしても赤まではいかないんですよ。だから何かしらの補助する素材か、効果の高い素材を混ぜる必要があるんです」

「あの、私、やってるときに試したんですけど、素材を増やすと濃縮するときぐるぐるするのが難しくなるんです」

「素材の効能の層が増せばその分制御が難しくなりますね。主さま、これの鑑定結果をお願いします」

「はいはい」


 整理整頓マシーンと化していたウェイトリーは鑑定結果印刷マシーンへと変形した。

 フラスコを渡したのち、マリーは話を続ける。


「濃縮していない状態のものを濃縮処理するとき、乗っている効果が多いと、そうですね……、感覚的に言えば、回している魔力がふらついたり、妙に重くたわんでいるように感じたりしませんか?」

「そうですそうです! そんな感じでした!

 ジャガイモを入れて試したときはなんか思ったより魔力が行き過ぎて鍋を擦っちゃって、なんか当たった場所が赤くなって慌ててゆっくりに戻したんです」

「賢明な判断でしたね。大きく破裂したりはしないはずですが、もしそのまま擦ったりを続ければ鍋に穴が開いてましたよ」

「それからは下級ポーションの素材だけで試すようにしてました」

「上級ポーションは素材にもよりますが、所謂薬草であるヒナ草に加えて、二種から三種は入れた状態で作ることになりますからね。

 これで効能上昇と濃縮を行うなら、どれだけ効果を乗せてもちゃんと魔力を操作できるようになる必要があります」

「すっごい大変そう。でもおもしろそう!」

「何回か鍋を壊すかもしれませんね。まーちょっと突出した錬金術師はみんな壊してますから壊せばいいんですけどね」

「な、鍋は壊したくないです……。せっかく初めて買った自分の錬金鍋ですし……」

「そのうち普通の錬金術を主さま教えてもらってください。錬金鍋や、錬金釜の作り方も教えてくれますよ。自分の為の自分にあった錬金鍋や錬金釜を用意するのは結構大事ですからね」

「えっ!? ウェイトリーさんって錬金術使えたんですか!?」

「君らに比べたらぺーぺーだけどな」


 印刷マシーンは鑑定結果をマリーに渡しながら苦笑して言った。


 アーシアが作った、下級ポーションから昇華させた中級ポーションはこのようなものであった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 中級濃縮2.3倍ポーション+10 品質10 R


 [HP回復:中+10][品質低下無効]


 詳細

 中級効果のポーションで換算して2.3倍の濃度を持つポーション

 これを綺麗な水で2.3倍で薄めることにより

 濃縮状態ではない上記効果を持つポーションに変化する

 また魔力水で薄める場合 同じ効果のまま3.45倍まで薄めることが可能


 補足として

 薄めずに飲んでも下級ポーションの2.3倍の効果はなく 回復量は同量である

――――――――――――――――――――――――――


 鑑定結果を受け取ったマリーは、およそこの程度だろうという予測が、より正確な鑑定によって確信が持てたことで、ちょうどいい教材になるなと、アーシアにその鑑定結果を渡した。


「やはりこのポーションは失敗でしたね」

「えっと、何がダメなんでしょう? 一応一番いい中級ポーションにはなってますよね? そりゃ何も他に効果ないですけど。味もいいはずですし」

「味はアーシア印の薬草ですからね。でもやはり失敗ですよ。どうして失敗だと思いますか?」

「うーん……」


 鑑定結果の紙を見つめて、うーん、と考え込んでしまったアーシアを見ながら、ウェイトリーは手ごろそうなポーションを探して、目に付きやすいところに並べた。

 

 しばらく考え込んでいたアーシアは、何かを思いついたのか顔を上げた。

 

「下級ポーションを作ろうとして中級ポーションを作ったからですか?」

「そうですね。それが一番の減点です。私はちゃんと教えましたよね?」

「えっと、狙ったものを狙ったように作れるようになりましょうって教わりました」

「ちゃんと覚えててくれてうれしいです。

 もちろん、これはものとしては悪くありませんが、作っていたのは下級ポーションであって中級ポーションではないんです。それはとても大事です」

「でも結局なにがダメなんですか? よくなってるならいいんじゃないですか?」

「自分や自分の周りの人しか使わないのであればいいかもしれませんが、中級ポーションは下級ポーションの三倍から五倍の値段がしますからね。買う人が困るんです。

 アーシアちゃんだってちょっとした切り傷に添え木をあてて包帯をぐるぐる巻きにはしないですよね?」

「あー、それはそうですね」

「それにポーションのように回復力などの良い効果が上がるだけならいいですけど、ものによっては効果が上がることによって毒のように作用するものもありますからね。

 例を挙げれば、熱を下げる解熱薬を作って効果が高まりすぎた結果、体温管理がうまくできなくなってしまい、かえって身体を悪くする、などですね。

 ちゃんと狙った効果のものを作れないのは問題です」

「なるほど」

「ですが、効能昇華は応用技術としていずれ教えるつもりで技術でしたので、その点はとても評価できることです。

 これでアーシアちゃんは下級ポーションの素材で中級ポーションを作ることができるようになったんですから、ちゃんと売れば相当儲けられますね?」

「ですね!」


 うおー! っと嬉しそうに声を上げるアーシアを制しながらマリーは続けた。


「でもアーシアちゃん。このポーションにはまだすごく困った問題がありますよ。なんだと思いますか?」

「えぇ? なんだろ……」


 またしても紙に目を落としてうーんと考え込むアーシア。

 だが、今回は考えても思いつかず、困ったように顔を上げた。

 ニコニコしたまま答えを教えてくれないマリーに怯み、片づけを続けるウェイトリーに救援を求めるべく視線を送ったが、ウェイトリーは我関せずと言わんばかりに整理を続けていた。

 救援要請が断たれ、もはやこれまでと降参を考えるアーシアであったが、ふと、テーブルの上におかれた三本のポーションが目に入った。

 そのポーションは、一本分満タンに入っているものが二本と、瓶の半分程度までしか入っていないポーションでった。

 それを見てアーシアはひらめいた。


「あっ」

「思いつきましたか?」

「数が数えにくい?」

「おっ、よくわかりましたね。厳密に言うと、二.三本という中途半端な数では買い取る側がとても困るというわけですね。

 二本分はいいとして、〇.三本分を値段に含めるか、それか含めない値段にするかで場合によってはもめかねませんし、仮にちゃんと二.三本分で買ってもらえたとして、薄めて瓶詰めする人が困りますよね。

 他にも端数分があるならある程度合わせることもできるかもしれませんが、それはものすごい面倒です。買い取る側はとても嫌でしょうね」

「なるほどー」

「だから整った数、二本や三本、五本といった濃縮率にしたいんです。もっといえば、十倍や百倍といった数としても数えやすい本数が理想的ですね」

「百倍って狙って出すの難しそう」

「そこは素材の量と水かさの量などで図ることもできますが、アーシアちゃんならそのうち、魔力を通して混ぜている感覚でどの程度の濃縮率かわかるようになりますよ」

「ホントですか!」

「保証します。アーシアちゃんは出来る子ですからね」

「やったー!」


 喜ぶアーシアを横目に、ウェイトリーは目に付くように並べたポーションも静かに片付けた。

 もはやおなじみのプランターに濃縮率一.一から一.九以下のモノのプランター、二.一から二.九以下のモノのプランターといった具合で十倍以下のモノをまとめていき、十倍以上のモノは、十一から十九以下、二十から二十九以下の二つに分けた。

 現状、それ以上の濃縮率のものは無いようであった。

 プランターの中は、片側からもう片側に掛けて濃度が濃くなるように入れられており、濃度の変わり目に几帳面に紙が一枚挟まれていた。

 今回のことや今後のことなどを交えたポーション講義を聞きながら整頓作業を続けていれば、足の踏み場が見当たらなかった小屋の中もいつもと同じ程度には整頓された空間に戻っていた。


 ウェイトリーは、ひと段落ついた、といった感じで小屋に来た時の定位置となっている椅子に腰を下した。


 それを確認したマリーが、整頓の終わったポーションを確認しながらアーシアへの講義を続ける。


「じゃあ主さまが整えてくれたポーションを見ていきましょう」

「はい」

「主さま、これはどういう感じに―――、ああなるほど、こういうところは几帳面ですよね」

「俺が終わってないとわかってもらえたか」

「いや終わってるのは事実かと」

「普通にショック」

「じゃあアーシアちゃん、紙に書いてありますが、このプランターが一倍以上二倍未満のものです」


 ウェイトリーはスルーされ、マリーは講義を続けた。


「あー、これこうしてみるともったいないですね。これギルドの人もすごい困りますね」

「これは多分最初の方ですし、私たちがいなかったのでどの程度濃縮できているかがわからなかったでしょうし仕方ないですよ」

「でもコレどうしようもないんじゃないですか?」

「これからも慣れるまでこういうのをたくさん作ることになるでしょうね」

「あーもったいない。薬草がもったいない!」

「というわけで、今日の実技は、これらをまとめて鍋に入れて、濃縮率を調整する方法にしましょう」

「流石マリー先生!」


 薬草に人一倍誠実なアーシアは薬草が無駄になることを嘆いたが、それを解決する方法が提示されたことで、一瞬でやる気を取り戻した。

 

「買い取る人もわかりやすいでしょうし、まずは十倍にキッチリ揃えられるようにしましょう」

「わかりました!」



 アーシアの楽し気な声とマリーの講義、そして雨音をBGMに、片付いたテーブルの上に描きかけ大きな地図を広げて、ウェイトリーも製図作業に没頭するのであった。

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