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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
4章 不人気依頼担当冒険者
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064 アジサイ園

 朝一の倉庫の依頼、前日のもろもろの処理、そして新規依頼の受領を済ませた二人はエリナ職員と挨拶を交わしてギルドを後にした。


 徒歩で一日なら、ボーンタイラントでおよそ三十分ほどの距離になる。

 日をまたぐ必要もないし、昼食もカエル討伐の野営用に作ったものが残っているため、二人はそのままの足で西門を出て、街道を進み、人通りも気配もないところで道を外れてボーンタイラントを呼び出し、乗り込んだ。

 先行させたレイブンレイスの偵察により、既に美しいアジサイが咲き乱れる花園の場所は判明していた。

 村に寄ることなく、その場所に直行し目視する光景は、カエルの時とは天と地ほどのさがある絶景であった。

 

 おおよそ半径五百メートルほどの範囲に色とりどりの花が咲き、大地をカラフルな色でおおいつくしていた。

 青や紫の花弁のものが主で、中には赤っぽいものや黄色っぽいものが混じり、アクセントを添えるように少数の白い色をしたアジサイが一面に広がり、雨に煙る光景すら幻想的な空間を演出する。

 しかし、それほどまでに美しいにも関わらず、生物の気配は一切せず、誰もこの場所を知らないのではないかと言うほどに一切荒らされた形跡はなかった。

 それこそが、ここが死へと誘う花園である何よりの証明にも思えた。


「近づくのは論外かもしれないが、これだけ綺麗なら観光地になってもおかしくないんじゃないか?」

「この景色は一度は目にするべきかもしれません。観光資源というならこの時期にしか見られないのもある意味ポイント高いですね。

 もちろん一番の問題もこの時期だということ思いますが」

「やっぱ雨はダメか。この辺りには魔物も寄り付かないみたいだし、よさそうだけどな」

「あの花の毒性もその美しさも主さまお得意のあのフィールドセット並ですからね。厄介さでは劣ると思いますけど」

「『死人花園』か。使うと絶対止められるんだけどな、あれ」

「止めない方がどうかしてますよ。あんなの嬉々として使うのは状態異常無効のデッドマスターくらいです」


 今はまだ持っていないが、よく使っていたため近いうちには欲しいなと、ウェイトリーが考えているカードの話をしながら、二人はアジサイ園へと向かっていった。

 

 離れて見ていても美しかったが、近くによってもまた美しい。

 ホント、これが触ってもヤバイ毒じゃなけりゃなぁ、と思いながら、ウェイトリーはメインデッキからカードをニ枚抜いて、発動した。

 

「来てくれ『農家スケルトン』」


 呼ばれたスケルトンは今まで呼ばれたスケルトンとは違う、変わり種であった。

 オーバーオールにシャツ、麦わら帽子に鍬を持った白骨死体。

 それが『農家スケルトン』であった。


 ウェイトリーは戦闘職ではない『農家スケルトン』や、商会と商業ギルドの脅しに使った『ウェイトレイス』『商人レイス』などのアンデッドを職業アンデッドと括って、重宝していた。

 これはレイブンレイスなどの偵察特化したキャラクターに対し、生産や採取などに高い適正がある、デッドマスタークラスの特徴の一つであった。


「農家スケルトン、ちょっとばかし植物採取に付き合ってくれ。『オールレンジスキャン』」


 指示を伝達しつつ、反則級の周辺調査スキルを発動して、アジサイの選別を行っていけば、一分にも満たない時間で『アミゲネイ』の位置が判明する。

 数は十分以上に存在し、全体から見れば、およそ三割程度はアミゲネイのようだ。

 直径にして一キロの範囲に咲く花の約三割が換金率が非常に高い花であるのに、誰もやってこないのだから、この花のヤバさがよくわかるというものであった。

 当然ながら、その花園に整備された小路などはなく、三割のほとんどを占めるアミゲネイは中心の方に存在しているようだ。

 

 ウェイトリーはマリーと召喚したスケルトンを伴って、外側にある件の目標物の前までやってきた。


「これだな」 

 

 見分けが十分に出来ているウェイトリーは、特に周囲を気にすることなく花を丁寧にかき分けて、アミゲネイのドクダミ部分を開いた。

 アミゲネイ自体には毒がなく、ただの美しい花かつ強力な解毒用植物なので、完全に見分けられるのであれば何も問題はないのだ。

 まぁそもそも、ウェイトリーがまったく気にしていいないのはデッドマスタークラスのクラススキルにて毒の類を一切受け付けない為であるが。

 

 見つけたアミゲネイを農家スケルトンに見せながらウェイトリーは指示を続けた。

 

「このアジサイ園の中心の辺りにはこれと同じものが多く存在してるようだから、周辺の影響が最小になるように、……そうだな、一人十本ずつ採取してきてくれ。

 花の下のドクダミの茎部分の根元から採取する感じで」

 

 実際のアミゲネイを見つつ、ドクダミ茎の下あたりをナイフで切って見せれば、それを確認した農家スケルトンたちは一つ頷いたが、何か採取に使えそうな道具が欲しいとの要望を感じ取った。

 

 それを受けて、大森林にてシカの王国崩壊作戦の時に、木槍を作るのに使ったマチェットがちょうど二本余っているので、それを渡して送り出した。

 農家スケルトンたちはハネメドレンジアを的確に識別しながら、それらを最小限に切り開きながら中心に向かって消えていった。

 

 残ったウェイトリーとマリーは採取したアミゲネイを見ながら話し合っていた。

 

「これどう思う?」

「とてもいい素材ですね。私が加工すれば毒性不問深度十の回復と耐性のポーションがラクラク作れちゃいますよ」

「だろうな。俺でもぼちぼちの素材を合わせればマトモな深度十解毒ポーションと毒耐性ポーションを作れそうだわ」

「薬屋が無限に欲しがる素材とはどれほどのものかと思えばとんでもないですね。

 これならこの毒の花園から気合いと根性で採取するべきだと思いますけど」

「気合いって言っても最悪の場合、接触でも二、三パーくらいで死ぬからなぁ。

 それとさぁ、どうにもこれを使った解毒系の薬品って一般だとせいぜい深度五か六程度しか作れないみたいだぞ」

「そんな馬鹿な」

「それがそうみたいなんだよ。まぁ深度六ならほとんどの植物から調合された毒は無効化できそうではあるが」

「んー、そう言われるとあらゆる毒に効いてるといえば効いてるので問題なのかもしれませんね」

「まぁ完全に活かす技術がないにも関わらず深度六程度の解毒効果を持つ薬草って普通にとんでもないんだけどな」


 素材を直接見て感じたことを話し合っていれば、マリーが興味深そうに呟いた。


「これ育てられませんかね?」

「いやーどうなんだろうか。俺が調べた範疇では難しいみたいだぞ?

 このアミゲネイの株を持ち帰って植えても増えないみたいで、一度採取したら、枯れはしないけど花もドクダミ茎も生えてこないんだと」

「ウールネル植物図鑑ですね? 確かにその記述はありましたが、それって多分魔力的な要素が欠けてたんじゃないかと思うですよ」

「なるほど?」

「そもそもハネメドレンジアとケミギクイの魔力的混合種というのがわかっているのですから、同じ環境を再現すれば育てられるじゃないですか」

「それは近づくのすら危ない猛毒植物を近場で育てることになるだろ」

「何がダメなんですか?」

「普通にダメだろ」

「そのあたりは栽培方法の工夫や植え方などを調整して細心の注意を払えばいいと思いますが」

「まぁそういった努力を続ければ安全に決まった場所で採取できるかもしれないが、どちらにしてもこの時期にしか咲かないなら咲いてる場所からうまく採取する方法を考える方が建設的だと思うぞ」

「温室などで一年を通してどんな植物も野菜も育てることができるんですから、何かしらの方法で通年採取が可能になるかもしれませんよ」

「そういうのの研究をするなら死んでも大丈夫な身体が必要だな」

「主さまが」

「やらん。そんなもん生涯をかけてやるくらいの研究だろ。薬草栽培レベル二をあまり舐めない方がいい」


 真面目な真顔で、程度の低いことを堂々と宣言するウェイトリーにジト目を送りつつ、マリーは話を続ける。

 

「うーん。であれば、アミゲネイの株を再び採取できるようにするのはどうでしょう?」

「それはどうだろうか。なんか思いつく方法でもあるのか?」

「雨の時期にしか咲かないのであれば、水の属性が強くなる時、というわけで水属性の薬草に最適な『水草属性』の魔石に植物栽培用の刻印を施して栽培してみるなんてどうでしょう」

「どうしよう。全然わからんけどもしかしたら行けるかもって思えてしまう」

「ちょうどいいですし、今採取したこの株、うまいこと持って帰りませんか?」

「ちょっとプランター出すわ」


 そう言うなり周囲のハネメドレンジアを適当に払い避けてからスコップを取り出し、採取済みのアミゲネイの株の根元を慎重に掘り返し、根を気づ付けないようにしながら土ごと掘り起こして、プランターへと移した。

 アミゲネイの株は人の背丈ほどの低木なので、長方形のプランターではかなり手狭で、持ち帰った後にもっと適切な鉢植えなどを用意する必要があるだろう。


「いっそ家の前に植えますか」

「大丈夫なヤツとはいえ悪名高い雨毒アジサイと同じ見た目の花を植えるのはマズそうだが。まぁ今は花ついてないけど。

 それにそのうち引っ越す予定だぞ」

「でしたね。じゃあやっぱり大きめの鉢植えを用意する必要がありますか。無事に育てばいいんですけどね」

「植物はかなり自然に左右されると思うから、難しいかもな。まぁ不可能とは言わんけどさ」

「何か糸口はありそうなんですよね。『水草属性』がダメだとしたら、もっと自然的な……、例えば『雨属性』みたいな魔力があってそれが必要なのかもしれません」

「“アメ属性”の魔石は棒付きにしよう」

「青系だと、ソーダとかブルーハワイでしょうか。ブルーベリー味かもしれませんが。

 ところでブルーハワイって結局なに味なんですか?」

「ハワイだしロコモコだろ」

「完全に別ものじゃないですか」



 くだらない話に興じていれば、指定した通りに各十本を携えた農家スケルトンたちが戻ってきたため、今回の採取は無事終わった。

 採取したアミゲネイをカード化して端末へと格納し、農家スケルトンたちをねぎらいつつカードへと戻し、近くでのんびりとした時間を過ごしていたタイラントを呼び戻し、見た目だけならたいそう美しいアジサイ園から街へと戻るのあった。


 街の付近まで戻り、ボーンタイラントから降りてカードへと返し、街までは徒歩。

 問題はないだろうと思われるが、葉や花びら、花粉などが他者に何かしら影響があってはいけないと、二人は体中に入念なクリーニングを行ってから街へと入った。

 早々に戻ってきて、依頼品を納品する旨を告げればエリナ職員はもはや驚くこともなく(いや内心ではちゃんと驚いているのだが)、悟りを開いたかのような穏やかな表情で依頼の処理を行った。

 

 納品したものがものだけに、植物の仕分けや見分を行う職員が緊張した面持ちで鑑定を行ったが何の問題もなく、その後、二重チェックの鑑定の魔道具でも品物、品質共に問題なしとのお墨付きをもらい、無事十本の納品が完了した。

 

 大森林の地図の仕上げや、アーシアの進捗確認などで、一日か二日程度は休むことを告げて、二人はギルドから出ていった。

 

 ギルドからの帰りに植木屋へと寄り、アミゲネイの株に使えそうな大き目の鉢植えを購入して、雨降りしきる街の中をいそいそと帰っていった。

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