063 六等級依頼「アミゲネイの採取」
翌日。
混雑を避けた朝の時間帯にギルドへとやってきて、生ごみ倉庫の清掃を済ませたあと、前日のC級品の買い取り金を受け取った。
前日に受け取った報酬と比べればそう大した額ではないが、それなりの金額ではあった。
それから、件の大森林関係のものは地図の開示が可能になってからまとめて話す方がいいだろうということになり、早々ギルドでの用事は終わってしまった。
じゃあどうするか、とウェイトリーとマリーが話し込むところに、エリナ職員はこんな提案を持ち掛けた。
「ウェイトリーさん、『アミゲネイ』はご存じですか?」
「『アジサイドクダミ』とか『ドクダミアジサイ』って言われてるやつですか?」
「そうです。知っておられるのであれば『ハネメドレンジア』も」
「『雨毒アジサイ』ですね」
「この時期に必ず依頼として出され、そう遠くない位置が目的地で報酬が非常にいいにも関わらず、六等級の中でもぶっちぎりで不人気依頼である『アミゲネイ』の採取に行ってもらうことはできませんか?」
「いいですよ」
ウェイトリーは特に気にした風もなく、二つ返事と言わんばかりに言葉を返した。
そのあまりにも軽い返答に、むしろ心配になったエリナ職員は、ちゃんと確認を取ることにした。
「あの、両植物をご存じなのであれば、採取が困難かつ危険であるのはご承知かと思われるのですが、それを確認させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ちゃんと知ってるかってことですか?」
「はい」
「えー、では僭越ながら。
まずは採取目標の『アミゲネイ』。
堅葉ドクダミの名でも知られる『ケミギクイ』と『ハネメドレンジア』の魔力的混合種。
効能は様々な毒性に有効な強力な解毒効果、解熱効果、水分代謝の改善、体内浄化作用などがある、雨季にだけ採取ができる貴重な薬草ですね。
アジサイの花の下の茎がドクダミのようになっているちょっとおかしな薬草ですが、その効果から薬屋なら誰でも無限に欲しいと言われるほどの薬草ですね」
そう知識を開示しつつ、一息ついてから次の植物の名を口にする。
「次に『ハネメドレンジア』
『アミゲネイ』の混合前の植物の一種ですが、非常に強い毒性があり通称『雨毒アジサイ』と呼ばれるこの時期に見ごろを迎える有毒植物ですね。
普通のアジサイよりも色が濃く大変美しい花を咲かせる植物ではありますが、その植物をひとたび口にすれば三日三晩は吐き気、発熱、めまいなどの食中毒症状に見舞われ、摂取量にもよりますが二割から三割程度は命を落とす危険性のある植物です。
また、花や葉には触れるだけでも痺れや腫れができ、それを続ければ吐き気や発熱などの症状に見舞われることがあり、直接食べるのに比べれば致死率は低いとはいえ、それでも百人にニ、三人は死ぬ可能性があります」
エリナ職員はその完璧に近い説明に感心したように耳を傾けている。
「そして、今回の『アミゲネイ』の採取は、葉や花をある程度はかき分けて見極めなければならず、同じ場所には混合種であるため多くの『ハネメドレンジア』も咲いているため、なんの対策もなしに採取を行えば、酷い吐き気と熱にうなされ、最悪の場合死に至る可能性があるというわけですね」
「お手本のような説明ですね。感服いたしました」
「それはどうも」
「それでその、そこまで理解した状態で採取は可能であると?」
「まぁそういうのの採取には慣れてるんで大丈夫ですよ。
そもそもアンデッドは吐き気もめまいも発熱もしませんからね。体が無いか腐っているか、それか骨しかない。今言ったどの症状とも無縁ですね」
「ウェイトリーさんのアンデッドは植物採取も可能なんですか?」
「それなりにできますよ。そういうのに強いアンデッドもいます」
「なんという利便性……」
感心すればいいのか、呆れればいいのか、もはやわからないと言わんばかりにそう呟いたエリナ職員は、それならばこの依頼を任せても問題ないだろうと依頼をお願いすることにした。
受注処理を進めるために依頼表を確認していると、ふと目に留まった項目がった。
普段ならば気にすることなはないはずだが、これを確認しないのは不義理になるのではないかと思い、エリナ職員は口を開いた。
「すみません。一つ確認させてください」
「なんですか?」
「依頼者がこの街の薬屋なのですが、よろしいでしょうか?」
「ん? なんか問題あるんですか?」
「いえ、例の商会の関係で店舗の利用などができなかったなどのことがあったと聞いていますし、それに……、なんといいますか。現状一番確執がありそうなのが件の薬屋なのではないかと思うのですが」
「あーなるほど。俺にはないけどマリーさんはどう?」
「むしろポーション関係でこっちが悪いことをしたと思うことはあっても、私たちに確執はありませんね。経済制裁も商業ギルドがらみだと魔石屋さんから聞いていますし。
ですが、相手がどう思っているかや態度によっては敵対はなくとも仲良くはできないかと」
「まぁそうだな。この依頼ってギルドに納品してその後相手さんに渡される感じですか?」
「そうですね」
「それなら俺ら会うこともないし、いいんじゃない?」
「ですねー。ついでに採取した『アミゲネイ』で高品質・長時間の状態異常耐性ポーションでも作っておけば、これからは不人気依頼にもならないんじゃないですか?」
「それはやめた方がいいと思うぞ。たぶんいろいろな意味でやらかすことになると思う」
「カエルでやらかして、大森林関係でもやらかし露呈した人が言うと重みがありますね」
「いや大森林はマリーさんが行けっていうからだろ。俺は賭けの負けを真っ当に果たしただけじゃん」
「ちなみにちゃんとした理由なんかもあるんですか?」
「やらかしは割とちゃんとした理由だろ……。
まぁ、仮にポーションで対策できたとして、高く売れるわけだし誰も彼もが行って採り尽くすようなことになったら今後なかなか取れなくなるだろうし、中にはポーションで自分には効かなくなってるわけだから『ハネメドレンジア』も一緒に持ち帰ってくる輩も出るだろうからな。
ある程度見分けができて良識があるヤツがいかないと普通に危ないよ」
「ぐうの音でないほどの正論ですね」
「私も正しいかと思います」
マリーの納得と、エリナ職員の実感の籠った理解があった。
しかしマリーも思いつくことがあったのか、別のプランを提示した。
「状態異常耐性ポーションを同じように売ると問題かもしれませんが、この依頼を受ける探索者をギルド側が今回のようにお願いする形で選定して、その冒険者に渡すようにするならいい塩梅じゃないですか?」
「それなら悪くないんじゃないか? まぁポーション分は報酬とかからの兼ね合いになるだろうけど」
「そのプランであれば。ギルドとして売り出すのではなく非常時の備えとして状態異常耐性ポーションを持っておけるというのも価値が高いですね」
現実的なプランでそれぞれが納得できるものであった。
「まぁことポーション関係なら、アーシアが有効に使うだろうから、採取法と見分け方、それからそれの状態異常耐性ポーションのレシピを教えておけば、必要な時に必要な量を取りに行くだろ。
それが冒険者を雇ってか行かせるか、領主に護衛を借りて行かせるかはわからんけど」
「確かにアーシアちゃんには仕込んでおいた方がいいかもしれませんね。
というかアーシアちゃん自身にもそろそろ最低限の現地での薬草採取知識なども教えておかねばなりませんね。本人が行かなかったとしてもそういう知識などは必要でしょうし。
ちょうどいい森も近くにあるわけですし」
「フィールドワークも大事だな。しかしその辺は雨季が明けてからだ。
っと、話が逸れてましたね。冒険者ギルドが依頼人に受け渡すなら問題ないので、受けさせてください」
「了解しました。では採取地は西門から出た街道を北西方向に進み徒歩で一日ほどに位置にある村から、西へ数時間ほどの位置にありますので、詳しい位置については村で聞いてみてください。
採取数は三本以上で、採取できた量で追加の報酬があります。ですが、最大でも十本程度でお願いします」
「わかりました。期限などは?」
「採取が可能なのであればいつでも問題ないとなっていますが、依頼の内容から見ても雨季が終わって数日までにというところですね」
「了解です。まぁその距離なら今日明日ってところだと思います」
「はい。よろしくお願いします」




