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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
4章 不人気依頼担当冒険者
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059 最近仕事してなくね?

 流石に一日ではものになりそうにない技術であるということが分かり気合いを入れなおしたアーシアと、緻密な魔力操作で身体強化魔術をしっかりと使いこなしていたため難なくクリエイトウォーターを成功させたが、水の温度調整で躓いたリーネリア嬢。

 そんな二人に本日の終わりを告げ、一同は解散となった。

 

 習慣になりつつある屋台広場での夕食の一品を買って二人は家に戻ってきていた。

 お手伝いポルターガイストのメアリーと共に手早く夕食を作り終えたマリーが食卓に着いて、それに倣ってソファーでぼんやりとしていたウェイトリーも席に着いた。

 

 白米に味噌汁、それから屋台で買った土ウサギの串焼き、大根の煮物といった夕食を綺麗に平らげ、食後のお茶を飲みながら、ウェイトリーはボソリと呟いた。

 

「最近、俺ら冒険者家業全くしてなくね?」

「ですねー。ポーションの納品はしてますけど」

「気づいたんだけど、七等級に上がってから一回も依頼を受けてない気がする」

「もはやそれひと月前ですね」

「アーシアとポーション周りでなんやかんやとやっていたり、大森林に行ってたりでマジで依頼やってないな。もはや俺は幽霊冒険者だよ」

「主さまは本当に幽霊みたいなところありますからね。足音しませんし足跡も付きませんし気づいたらいるし」

「比喩のつもりが直喩になってしまった」

「なんなら一回死んでますしね」

「確かに」


 女子高生をかばってバスに撥ねられた男、ウェイトリーである。


「そろそろエリナさんに忘れられてるかもしれんな、俺」

「そう言えば主さま、エリナさんになにか言ったんですか? なんか身の安全に十分気を付けるようにとか主さまを信用しすぎないようにとかと遠回しに言われましたよ。

 エリナさんが主さまに対して微妙に好感度下がってるような感じしましたけど」

「あー。まぁー、日本人的倫理観との相違だな。この世界の人間から見ればどうにも甘っちょろいことを言っているように見えるらしい」

「いつそんな話を?」

「七等級の昇格試験って対人戦だったろ? あれって人間相手にちゃんと戦えるか、もっと言えば盗賊やら野盗やらをちゃんと殺せるかみたいな話なんだってさ。

 だから試験前にちょっとな」

「なるほど。まーそれは仕方ないですね。主さまが人を殺すのは違うと思いますし」

「俺もヤだしな」

「主さまはそれでいいと思います」


 そう言うマリーの言葉には、しょうがないとか意気地がないとかそういった感情は伺えず、そうするのが自然で正しいとでも言うかのような理解と納得があった。

 

「私はてっきり主さまの終わってる部分をエリナさんが知ってしまったのかと」

「お、終わってないし! もしそう思われたのならその方がダメージデカいわ」

「大したことがない話で安心しましたよ」

「まぁでも、エリナさんの前ではあんまりふざけないようにはしてるよ、最近。

 ……いや最近会ってないわけだけど」

 

 仮にどのように思われていたとしても自分の考えを変えるつもりはないウェイトリーは、特に気にした風でもなく次の話題へと移った。


「そういや、中級ポーションの納品ってやってないわけ? ひと月経ってるわけだしもしかしたらそれだけで六等級に上がれるんじゃないか?」

「それがですねー、中級あんまり売れてないらしいです。

 最初の方はしっかり出たみたいで、保険に持ってる冒険者も多くいるみたいなんですが、下級ポーションの効果が高いおかげで中級まで使うような怪我をする冒険者が少ないみたいで、再購入者が振るわないみたいなんですよねー。

 品質低下無効なので、劣化したから取り換えで納品してほしいみたいなことにもなってなくてですねー。中級ポーションの納品依頼取り下げられてる状態なんですよねー」

「よく作りすぎたんだよポーション」

「普通に作ればあの品質になるんですからしょうがないじゃないですか」

「錬金術マウント」

「いやいやただの事実ですよ。それともいつも通りに普通に作れば当然のようにああなるポーションを、わざと低品質になるようにレシピを考えて作ればよかったですか? あまりにもナンセンスですよ」

「まぁそれはそう」

「ところで、そんなに急いで等級をあげる必要が、なにかあるんですか?」

「んー、まぁ全くないわけではないけど、ないな」

「全くないわけでもない理由は?」

「等級が高いと危険地域への侵入が合法的に認められる」

「あー、確かになくはない理由ですね」

「だろ? まぁないならコッソリ勝手に入るだけだから別にどうでもいいといえばどうでもいいんだけどな。

 一応急ぎの理由としてはハンガーベイル渓谷の等級的難易度が五とか四とかだからってのも理由の一つ」


 ハンガーベイル渓谷は、ウェイトリー達が初めてこの世界に来た時にいたシカの王国があったノアルファール大森林の東端にある複数の谷が交差する高原地帯で、そこには主に土属性に属する魔物が生息し、特に地竜と呼ばれる大きなトカゲのような魔物が幅を利かせている場所であるという。

 そこに、このベンゲル辺境伯領最後の中規模修正点が存在していた。


「なるほど。仮に七月の頭くらいに六等級に昇給できれば、八月で五、九月で四ですね。九月の中頃には間に合いますね。

 なるほどなるほど。さいきょーのけいさんしきですね」

「まぁできるわけはないんだがな。

 七等級の昇格に必要な達成依頼数が四十件で、以降も同じ程度とすれば三十日毎日一件片付けて、その内十日は二件やる日を作って最低ライン、そこからギルドの評価のボーダーが乗るわけだから、普通の方法じゃとてもではないがひと月では上がれん」

「その等級にもなれば、数十件分一気にみたいな依頼もないでしょうし、普通に無理ですね。辛うじて七等級が三十日昇格ができた可能性はありましたが」

「真面目な話、四等級は試験もあることを考えれば戯言の類として、五等級も果たして可能なのかってのはある。

 ハンガーベイル渓谷の最低ラインのチケットは五等級だろうし」

「依頼を見ないことには何とも言えませんね。

 数十件はともかくとして、例えば通常のブリッツムースの討伐が六等級らしいので、八等級のゴブリン五匹で一件みたいにブリッツムース数体で一件みたいな依頼があるとして、なおかつ似たようなレベルの魔物の討伐依頼が複数あれば達成件数ボーダー稼ぎ自体は可能かもしれませんね」

「常設のゴブリン討伐の評価って低いらしいぞ。というか急ぎとか対象指定討伐じゃなければ討伐系の依頼ってそもそも評価が低いらしい。

 素材の売り上げと達成報酬はもらえるし、やることがわかりやすいからやる冒険者は多いらしいが」

「だとすると件数をこなしても結局評価ボーダーで足を取られますね」


 うーむ、と二人して息をついた。


「五等級は無理かもな」

「下手をすれば六等級も怪しいですよ。そもそも七等級依頼って現地に赴くのに一日二日程度かかる依頼もザラみたいですし。

 まぁ距離に関しては主さまが本気出して走ればある程度何とかなるかもしれませんが」

「気合い入れて走れば大森林の湖まで一日で行けたからなぁ……。

 もちろん直線距離かつ正確な地図があったからだけども。でもしんどいから普通にやりたくねぇ」

「それって実際どれくらいの速度なんですか?」

「んー、地図上だけで見た概算で言えば、たぶん時速百五十キロ前後じゃないか? 特急電車くらいだと思う」

「特急電車くらいの速度で走るって言われるとなんか笑っちゃいますね」

「とんだびっくり人間になっちまったよ」

「そりゃ敏捷性五百二十もあるんですからそうなりますよ。戦闘時の瞬間速度なんかはもっと早いわけですし。

 でも現代日本的な価値観ならびっくり人間ですけど、エルダリア基準なら別にそれくらいの人はそこそこいましたけどね」

「人に見られたら新手の魔物か都市伝説にでもなりそうだな」

「ターボネクロマンサーですね」

「ターボじじいと言われなかったところにマリーさんの優しさを感じた」

「私は優しですねからね」

「その優しさが今日の晩飯の大根くらい沁みわたるわー」

「そうでしょうとも」


 胸を張ってドヤ顔を披露するマリーにいつも通りの真顔、或いはぼーっとしたような顔で適当な拍手を送るウェイトリーであった。

 

「なんにしても、エリナさんに聞くのが一番そうですね」

「NOと言わないギルド職員の任せるのがまぁ丸いな」


 明日の朝、ギルドに出向いてエリナ職員に条件に合ったいい依頼はないかと聞こうということで話がまとまり、今後の予定をどうしていくかという話に移っていった。

 

 アーシアの方は基礎技術の最後をしっかりと練習するフェイズに入っているため数日開けての確認でも問題はないが、新しく生活魔術の授業を受講することになったリーネリア嬢に対してどうするかという話が主な議題であった。


「なんか、明日ギルドに行ってそのまま依頼に行くつもりではあったけど、リーネ嬢は今日が初授業で、翌日に授業が無いってのはちょっと悪い気はするな。依頼は俺一人でいこうか?」

「うーん、そうですねー。正直、ポーションの納品だけでここまで上がってきた私としては流石に主さまに同行したいと思っているのですが」

「なら依頼は明後日か、その次くらいにするか」

「よろしいんですか?」

「別にいいでしょ。急いでも難しいそうってのが分かったんだからゆっくりやれば。

 それよか生徒にちゃんと授業する方が有意義でしょ」

「それはそうかもしれませんが、正直なところ、リーネちゃんなら相性的に難しいという生活魔術を除けば、教科書を読んでいるだけでも覚えられそうなんですよね。

 魔術を全く使ったことのない子に教えるならある程度付きっ切りになる必要もあると思いますが」

「なら紅茶とかハーブティーの淹れ方も一緒に教えてやればいいんじゃないか? スーパー魔法剣士ルートよりも魔術を使った茶道をやってる貴族令嬢の方が数倍エレガントな気がするが」

「いや主さま。私もただの庶民なので、貴族的なお茶の作法や淹れ方なんて知りませんよ。

 まだお抹茶の作法と淹れ方の方が分かるくらいです。高校の時茶道部だったので」

「抹茶て。もう使う機会無いだろうなぁ……。

 いやどうすればお茶は美味しくなるのかとか美味しく淹れられるのかとかを教えるのでいいんじゃないか?

 というかむしろ魔女っぽいお茶の淹れ方とかのがカッコイイかもしれんぞ?

 こう……、キネシスでポットとかカップをふわふわさせながらお湯を魔術で出して指先一つでお茶を注ぐんだよ」


 そうウェイトリーが面白がって言えば、目の前に置いてあったポットとカップが浮かび上がり、ついでにお湯を入れてあるやかんも浮かび上がって空中で踊るようにハーブティーのおかわりが注がれた。

 メアリーの魔女っぽい淹れ方にウェイトリーが、いいじゃんいいじゃん、と手を叩いて囃し立てるが、マリーは呆れたようにその光景を見つめていた。


「そんな馬鹿な事教えたら辺境伯に怒られますよ」

「そんときゃリーネ嬢に頼んで『パパのためにお紅茶入れてあげたかったの』って言わせれば完璧よ」

「なんと悪辣な。でも辺境伯は大層喜びそうですねそれ」


 その辺境伯の姿が容易に想像できた二人は、やや渋い、いや申し訳ないような顔になった。

 

「なんかちょっと申し訳なくなったからやめよう」

「ですね。これもリーネちゃんにどうしたいかを聞いた方がいいかもしれませんね」

「なんなら教科書作ってやればいいんじゃないか? なんかアーシアのためにもレシピ本みたいなの作ってるんでしょ?」

「生活魔法の教科書くらいならそんなに時間もかからないですからそれがいいかもしれませんね」

「んじゃまぁ冒険者ギルドに行くのは明後日ってことにして、明日リーネ嬢が特別にやりたいことがあるって言うならまた考える方針で」

「そうしますか。では早速私は生活魔法の教科書、というか小冊子ですね、を作ります」

「言った手前、俺もなんか手伝うよ」

「では、書き終わったもののスペルチェックと冊子にまとめるのをお願いします」

「そりゃ得意分野だ」


 二人は、翌日から使うための教材の準備を粛々とこなしていくのであった。

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