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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
4章 不人気依頼担当冒険者
58/332

058 やりたいこと

 フルダイブ型VRMMORPG『エルダリアウィズオンライン』。

 そのゲームで『最強のデッドマスター』と呼ばれていたウェイトリーは、現実世界で死に、新たな現実となる異世界へと送られた。

 

 最強ポーションクラフター育成計画。

 この世の春と自業自得のポーション騒動。

 

 アーシアの畑の相談から始まったポーションクラフター育成計画はマリーの講義の結果、順調な進捗を見せ、その後のウェイトリーの丸く収まる提案によって領都に重くのしかかっていたポーション不足の憂いは解消された。

  

 ウェイトリーが大森林から戻り、本格的な雨季を迎え雨の続く領都レドアから、今回の話をはじめよう。

 




++++++++++++++++





 アーシアが成分抽出を覚えてから一週間。六月の真ん中頃。

 雨が降りしきる昼前に、一同は薬草畑の傍に建つ、今や錬金術の工房兼講義室となっている小屋に集まり、マリーの講義に耳を傾けていた。

 

「概ね通常製作に必要な技術はちゃんと覚えられたと思うので、そろそろ濃縮と過濃縮を教えていきますね。

 今は私とアーシアちゃんでそれなりの数を冒険者ギルドに卸してますが、ゆくゆくはほぼアーシアちゃん一人でポーションを収めていく必要がありますからね。

 濃縮と過濃縮を使えないと瓶詰めだけで一日が終わっちゃいますので」

「ついにこれが作れるようになるんですね!」

 

 アーシアは初めて錬金術を教えてもらった日の最後、マリーが作った濃縮十倍の下級ポーションが入れられた綺麗な小瓶を掲げながら元気に言った。

 

「ですね。細かい技術や裏技的なテクニックなどはまだまだありますが、大きな基礎技術でいえばこれが最後になります」

「あの、でもまだ下級ポーションしか作ってないんですけど、それはどうなんですか?」

「中級や上級といった差はどこまでいってもレシピだけなんですよ。なので素材さえ揃えれば今からでも中級も上級も作れますよ」

「そうなんですか!?」

「はい。アーシアちゃんは私の錬金術と恐ろしく相性がいいので、作るだけならもう簡単でしょうね。

 素材も先日主さまが自分から取ってきてくださったので十分ありますし、濃縮の授業が終わって、お昼を食べたあとにでも作ってみましょう」

「善意で取りに行ったみたいな脚色はやめろ」

「主さま、今授業中ですよ。私語厳禁です」

「チクショウ……」

 

 大森林弾丸ツアーはなかなかの大冒険であった。

 今は語るべくもないが、なんでこの領で大森林があれだけ恐れられているのかというのを十分知ることができる旅であったのは間違いないかった。

 

 なお、上級ポーションのポーションの素材に適した素材である水生植物のリミナ草も湖に群生していたため、十分に採取して来たのだが、ウェイトリーはいくらかを植え替えられるようにして持ち帰っていた。

 それを確認がてら赴いた、街の近くにある集合墓地の浄化した池にコッソリ植え替えたのは誰にも言ってない。

 ちゃんと育つか、それから繁殖していくかは未知数だが、パッと見た感じではそれほど悪いことにはならないんじゃないだろうかとは思っていた。

 というか、池の水がとんでもないものになっていることにウェイトリーはやっと気づいたところであった。

 知られたら怒られはしないだろうが、やらかし云々と言われるかもしれぬと黙っていることにしていた。

 なんかあったらヤバイよな、という意思の元、レイブンレイスに定期的に墓地も観測対象に指定していた。

 

 ……これはまだ先の話になるが。

 この男は、育ったらラッキーだよね、くらいの感じでそれを植えたが、それがまたとんでもないことになるとは露ほども思っていなかった。

 

「話を戻しますが、濃縮・過濃縮はこれまでの技術と比べるとかなり難しいので、気合いを入れてくださいね」

「わかりました、マリー先生!」

 

 実技を伴いつつ講義が続く中、小屋の扉が小さくノックされた。

 

 近づく馬車に見知った気配にいつもと同じような時間にと、ウェイトリーは誰が来たのかはわかっていたので、ゆっくりと立ち上がって、その人物を迎え入れた。

 

「こんにちは、リーネリア嬢」

「ごきげんよう、ウェイトリー様」

「中へどうぞ。といっても、自分の家ではありませんが」

「ありがとうございます」

「雨は大丈夫でしたか?」

「はい。ですがお庭を歩けなくてがっかりです」

「もうずいぶんと血色もよくなられましたね。健康的で何よりです」

「それはウェイトリー様のお陰ですよ」

「いえ、自分は治しただけですよ。その後の回復はリーネリア嬢自身のものです」

「ありがとうございます」

 

 リーネリア嬢は真剣に鍋に向かうアーシアに目を向けつつ、ウェイトリーが腰かけていたテーブルわきのいくつかある椅子に腰を下ろしつつ、ウェイトリーに問いかけた。

 

「今日はずいぶんと真剣そうですね」

「ええ。基礎技術の最後らしく、相応に難しい技術だそうですよ」

「なるほど……。

 こう、毎日見ていると、私もなにかやってみたい気持ちになるのですが、如何せん、自分に何ができるのか、向いているのかというのはどうにか知ることができないものでしょうか」

「辺境伯閣下とはなにかお話をされなかったのですか?」

「お父様は私のしたいようにとおっしゃってくださるのです。今までなにもさせてやれなかったからと。

 それ自体はとてもうれしく、幸せなことなのですが……」

「何もやってこれなかったからこそ、いざ何でもできるようになってしまうと何から手を付けていいかわからない、と」

「はい」

「なるほど」


 ふむ、とウェイトリーは少し考えを巡らせた。

 

「リーネリア嬢は何か興味があったり気になること、やってみたいことを、もし身分や性別、年齢に関係なくできるとすれば、なにか思いつくことは在りませんか?」

「……はしたないというのはわかっているのですが、ずっとほとんど動けない生活をしていた反動か、今は身体を動かすのがとても楽しいと感じています」

「程度には依るとは思いますが、運動をすることがはしたないということはないと思いますよ?」

「あの、……なんと言いますか、駆けまわってみたり、飛んだり跳ねたりをしてみたいという感じでしょうか」

「あー、まぁ、貴族令嬢としてははしたないのかもしれませんね」

「そうですよね……」

「でも別にそれも悪くはないとは思いますがね」

「そうでしょうか?」

「辺境伯閣下はこの領地の守護者でもあり、有事の際は自らが前に立って騎士を指揮するという武勇も有名ですから、そのご令嬢であるリーネリア嬢も運動や武術を修めるというのはおかしなことではないと思いますよ」


 護衛として同伴している二人の騎士からジロりと見られたような気もするが、ウェイトリーは気づいていないふりをして続ける。


「もちろん、ご自身で騎士を率い魔物との戦いに挑めと言っているわけではないですよ?

 あくまでも武勇優れる辺境伯家の令嬢としての嗜みとして、例えば剣の腕が立つともなれば、それは自身にとっても辺境伯家にとっても良いことなのではないかと、私なんかは思いますが」

「なるほど……」

「幸い、リーネリア嬢は優れた資質をお持ちでもありますし、健康のための運動の一環として、護身術として剣術や体術などを学ぶのはよいかと思います」

「資質ですか?」

「ええ。リーネリア嬢は類稀なる身体強化魔術の使い手ですし、それは体の動かし方をよく理解しているということでもあります。

 そして緻密な身体強化魔術を使いこなせるのであれば、それなりに他の魔術も使えると思いますので、そういった方面に進むのもいいかと思います」

「それはとてもよいですね」

「まぁ、私なんぞは所詮は流浪の冒険者ですので、結局はそういった冒険者然としたアドバイスしかできませんので、正直に言えば偏った知識になると思います。

 いろいろなことを見聞きしてやりたいことを探すのが一番でしょうね。身体も健康そのものになって焦る必要はないのですから」


 その話を聞いていたリーネリア嬢は、しばし考えたあと、ややジト目をしたような表情で口を開いた。

 

「……あの、ウェイトリー様」

「なんでしょうか」

「私としては、ウェイトリー様にはもっと砕けた話し方をしていただいて構わないですが。話し方が、硬いままなのは、どうしてですか?」

「いや、あの、それはそういうわけには……」

「マリーさんは普通に話してくださいますよ?」

「そう言われても……。リーネリア嬢も私のことを様付けで呼ぶじゃないですか」

「ではこれからウェイトリーさんとお呼びします」

「うーん、そうわけじゃないんですが……」

「お友達のところに遊びに来ているのに、私だけそういう話し方をされるのは、ちょっとさみしいです」

「……わかりましたよ。多少は、多少は崩して話しますよ」

「ではこれからはリーネとお呼びください」

「リーネ嬢」

「嬢もいりませんが」

「それは俺としても譲れない部分だから受け入れてほしいなぁ」

「主さまは人を呼ぶときはそんなものなので諦めておいた方がいいですよ、リーネちゃん」


 アーシアが一人で集中する時間に入ったためか、マリーもこちらへとやった来た。


「マリーさん、ごきげんよう」

「はい、ごきげんよう、リーネちゃん。ずいぶんと面白い話をしていましたね」

「面白い話ですか?」

「進路、というと大げさかもしれませんが、やりたいことの話ですよ」

「マリーさんはなんか思いつくか?」

「私はどこまで行っても魔法大好きなので、結局は魔術関係に行きついちゃいますねー」

「だろうね」

「魔術ですか。そちらも興味はあるんです」

「興味は最大の第一歩ですからね。覚えるのもいいともいますよ。なにも攻撃魔術というものではなく、生活に役立つ魔術は多いですからね。

 重い荷物を運ぶ身体強化、気になる汚れをちょちょいと消せるクリーニング、濡れた服や髪を乾かすウォームブロウ、それから美味しいお茶をすぐに用意できるボイルウォーター」


 そう言いながら、取り出したポットに指を二振りして、温かいお湯を入れ、普段から飲んでいるハーブティーを用意して、テーブルに並べた。


「ただ、リーネちゃんはこういったことはある程度使用人の方がやってくれると思うので、必要かと言われれば難しいところではありますが」

「まぁ、貴族同士の作法でお茶の腕前なんかもあるから無駄にはならんのじゃないか?」

「そういう時って魔術でお湯を出さないと思いますよ」

「そりゃそうか」

「でも、今のように、魔術でささっと温かいお茶を用意するのはちょっと憧れます。手慣れて洗練された感じがとてもかっこいいです」

「これくらいなら、それほど難しくはないですよ」

「実際そうなんだろうけど、マリーさんの難しくないはあんまり信用しない方がいいぞ」

「失礼な。リーネちゃんならこれくらいは簡単にできますよ」

「あの、私も、マリーさんに教えを乞うことはできますか?」

「かまいませんよ。生活魔術でよければいくらでも教えてあげます。

 ただ、攻撃系の魔術は辺境伯様にちゃんと確認を取ってくださいね」

「今のマリーさんじゃ攻撃魔術はマズいんじゃ?」

「教えるだけならどうとでも」

「それはそれは」

「ではそうですね。温かい飲み物を自分でも用意できるようになることを第一の目標として、クリエイトウォーター、ウォームウォーターやボイルウォーターから覚えていきましょうか」

「わかりました。よろしくお願いします、マリー先生」


 小屋に打ち付ける雨音をBGMに、アーシアの為のポーション講義と、リーネリア嬢のための生活魔法講義の声が続いていた。

 以降、四章終了までは二日に一回のペースで更新していきます。

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