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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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057 おいしい薬草も立派な薬草!

 辺境伯邸での話し合いから一週間。

 マリーはいつものようにアーシアの元にやってきていた。

 

「つまりこの成分抽出を行うことで、植物やいろいろな素材から必要な効果だけを抜くことができるんですよ」

「なるほどー、じゃあこれで苦い薬草でも苦くないようにポーションが作れるわけですね」

「そうです。それに薬効だけを抽出すれば相性の悪い素材ともかけ合わせやすくなりますしね。

 火の魔石を使ったら薬草は枯れたことから、薬草と火の魔石は何となく相性が悪いというのはわかると思いますが、この方法で薬効だけを抜き取れば火の魔石と合わせるのも問題ないでしょうね」

「んー? でもその例えって何に使うんですか?」

「そうですねー。例えば火をつけて使うタイプの薬品ですね。お香や虫避けであったり、煙を吸ってゆっくりと体を癒すものであったりですね。

 実用で言えば虫避けや獣避け用途が一番多いと思いますが、災害や魔物被害でたくさんの人がけがをしているようなときにポーションを大量に用意するよりもお香に回復効果を乗せたものを焚くのは有効ですね。

 もちろん、即効性や効果を重視するなら液体ポーションを飲ませるなりかけるなりする方がいいですが」

「なるほどー。危なそうな人はポーション飲ませて、怪我はしてるけどそんなに焦らなくてもいい人が多いところに使うんですねー。使い分けですか」

「ですね。そういう時に燃やすものですので火の魔石の方が有効であったりします」

「よくわかりました!」

「成分抽出は毒性と薬効が混合しているような植物を使うときに、いい効果だけをちゃんと抜くのにも使いますね。

 これは抽出が甘く毒性が混じると危ないのでちゃんとできるようになりましょう」

「はい!」


 あぁ、とマリーが何かを思い出したように練習法を口にした。


「そういう意味では実験で作った激ニガ薬草を使えば、苦みと薬効の切り分けがちゃんとできているかが簡単にわかるので便利ですね。激ニガを飲んでも死にはしませんし」

「えっ、でもそれ、失敗したら口の中が激ニガになるんじゃ……」

「それは抽出が甘いアーシアちゃんが悪いんですよ。激ニガな思いをしたくなければちゃんと覚えることです。

 さぁ激ニガ薬草で練習しましょうかアーシアちゃん」

「やだぁぁぁ」

「ヤダはなしですよ」


 ほらほらとマリーが促せばアーシアは渋々といったように光の魔石を使ったプランターから薬草を摘み取った。

 このプランターがどの程度収穫したら効果がなくなるかの実験も兼ねているため、成分抽出の練習は仮にちゃんとできるようになったとしても続くことであろう。

 

 ちなみにだが、今ウェイトリーはこの場にはいない。

 そして街にもいない。

 

 ウェイトリーは大森林弾丸ツアーの真っ最中であった。

 しかし新たに負けたわけではなく、これはベルルーガ商会の負け分であった。

 というのも、辺境伯邸から帰ったその翌日、商業ギルドの支部長が夜逃げを計り姿をくらましたのだ。

 それにより商業ギルドは大混乱、資金なども持ち逃げしたことから領から指名手配された。

 数日後あっけなく逮捕され、今は牢獄の中であった。

 この事態の展開の速さでどうやって賭けを決めるかを決めあぐねていたためノーゲームとなったのだ。

 故にウェイトリーは弾丸ツアーに出ることになったのであった。

 

 補足として、ベルルーガ商会は四日ほど前より営業を停止していた。

 幽霊騒ぎで客が誰も寄り付かなくなり、従業員も幽霊を恐れて軒並み辞職、噂を聞いてこれまで取引のあった店舗や商会からも取引を停止された。

 そしてダメ押しとなったのが、辺境伯家からの取引停止、いや取引終了であった。

 ベルルーガ商会は辺境伯家に非常に高値でリーネリア嬢の為の薬品を売っていた。それがかなりの大きな収入になっていたのだが、リーネリア嬢は一週間前に完全に完治したため、もはや薬品は必要なくなったのだ。

 ベンゲル辺境伯は『貴殿から購入した薬のおかげで無事娘は回復した。ありがとう。ではまた入用なときに声をかけることもあるかもしれん』と心にもないことを言ってバッサリと関係を打ち切ったのであった。

 現在、商会に残っているのはほんの数名の幹部級の従業員と商会長のみで、取引相手もないでは、営業停止は至極当然の結果であった。

 マリーとしては、よくぞそこまで持ちこたえてくれました、あとは潔く店を畳んで田舎にでも帰ってくださいね、お疲れさまでした! といった気分であった。

 


 作ったものをが苦過ぎて吹き出し、また作っては吹き出しを繰り返し、昼にも差し掛かった頃。

 アーシアの家の前に一台の馬車が停まった。

 そして出てきたのは、護衛を数名引き連れたリーネリア嬢であった。

 

「アーシアちゃん、来たー」

「り、リーネちゃん、こんにちは……」

「どうしたの?」

「ニガクテ……」

「苦い?」

「ポーションの練習ですよリーネリアちゃん」

「マリーさんもごきげんよう」

「はい、ごきげんよう。リーネリアちゃんも来たことですし、一度休憩にしますか」

「わーい……」

「大丈夫……?」

「だいじょうぶ……」


 リーネリア嬢の回復は、まさしく劇的であった。

 ウェイトリーの想定では、体力的にまだあまり出歩けるほどではないと思っていたのだが、リーネリア嬢は内臓機能を強化することできるのがあまりにもすごかった。

 回復したその日からいろいろなものをよく食べ、それを強化した消化器系で効率よく吸収し、全身をほどほどに強化しつつ、領主邸内や庭先などを歩き回った。

 ベンゲル辺境伯はうれしいし楽しいのはわかるが、ウェイトリーがいった注意事項が気になっていたのだが、みるみるうちに血色のいい肌つやで健康そのものになっていく娘の姿を見て、止めることなどできなかった。

 というか、今まで何もさせてやれなかった影響か、ベンゲル辺境伯はかなり娘に甘々だった。


 そうして三日ほど前に、初めてアーシアの家に訪ねてきてから、毎日遊びに来ていた。

 遠くではないとはいえ街の外に出ているのだが、いいのだろうか、とウェイトリーもマリーもやや心配したが、あまり気にしないことにしていた。


 今日は何をしていたのか、どんなことをしていたのかなどを聞きながら、そのポーションを自分も飲んでみたいと言い出したリーネリア嬢は護衛の騎士に止められつつも、飲むことをやめなかった。

 しかして、その結果は。

 貴族令嬢の尊厳は保ちつつも、涙目であった。

 

「ね? 飲めたものじゃないでしょ? 頑張ってるんだけどなかなかねー」

「あの、これって毎回飲まないといけないの?」

「ダメですよリーネリアちゃん。こういうのは体でちゃんと覚えないと。それに作ったものを飲まずに捨てるというのは、薬草にも失礼ですし」

「あの……、そうかもしれませんが、流石にこの味は……」

「いやーマリー先生の言うことは正しいんだよねー。私も薬草を無駄にするのはちょっとなーって思うし」

「そうなんだ。頑張ってるんだねアーシアちゃん」

「アーシアちゃんは頑張ってますよー。さて、それじゃ再開しますか。

 次こそは成功しないとアーシアちゃんもリーネリアちゃんも苦い思いをすることになりますよ」

「え」


 リーネリア嬢はフリーズした。

 それをニコニコと見つつ魔女は宣う。


「アーシアちゃんのお友達のリーネリアちゃんは、アーシアちゃんだけ苦い思いをするのは嫌ですよね?」

「え、え」

「マリー先生、流石にリーネちゃんを人質にとるのはズルいですよ……」

「そう思うなら成功しないといけませんね。まぁ一緒に苦い思いをするのも友情かもしれませんが」


 自分が一体何に巻き込まれたのかを正しく理解したリーネリア嬢は必死にアーシアに呼びかけた。


「あ、アーシアちゃん、お願いだから成功して!」

「急にプレッシャーがすごい!?」


 その後、二回ほど苦い思い出を作り、三度目で大幅な改善があり、四度目ではほぼ苦みを感じないものが出来上がっていた。

 今日一日ではものならないだろうと思っていたマリーはもうコツを掴んだセンスの良さと、友情パワーってすごいなぁ、とニコニコとしていた。


「アーシアちゃんがおいしい薬草にこだわってる理由がよくわかったよ」

「やっぱり薬草だっておいしくないとね!」


 雨季近づく、さわやかな六月の風が吹き抜ける薬草畑を前に少女たちの楽し気な声が響いていた。




++++++++++++++++





 同日、ギルドにて。

 エリナ職員は手にそれなりの量になる書類を抱えてギルドマスター室に来ていた。

 内容はギルドマスターの決済や承認が必要なものや、様々な報告書であったが、多くの内容を占めるのが、これからやってくる雨季に発生が予想される様々な依頼や、それに付随する注意事項などであった。

 

「ギルマス、失礼します。それぞれの書類をお持ちしました」

「おお助かる、こっちにくれ」


 その衰えぬ筋骨隆々とした体格からはなかなか想像できないほど理知的に手早く書類仕事をこなすグラッツギルドマスターを見つつ、手が届き邪魔にならない位置に書類を置いた。

 

「なんか俺が聞くことはあるか?」

「いえ、概ね今のところは平和ですね」

「お騒がせ二人組はどうした?」

「アーシアさんの教育が忙しいのか、最近はいらっしゃいませんね」

「いいことなのか、またなんかやらかしてんのか判断つかんのが困りもんだなそりゃ」

「影響が大きいことは否定しませんが、悪い事態になったことが無いのはいいこととは思いますが」

「そうだな。他にはあるか?」

「そうですね。注意しておくこととしては、やはり雨季の対応になるかと思います」

「ほとんど冒険者が活動休止するからギルドとしては暇な時期ではあるんだがな」

「とはいえ依頼がなくなるわけではありませんからね。それに不測の事態が起こりやすい時期でもあります」

「場合によっちゃ、多少赤字が出るかもしれんが、この時期にギルドの食事の値段を調整してもいいかもな。休止してる冒険者をギルドに常駐させられればなんかあった時に対応の幅が広がるかもしれん」

「いい手かもしれませんね。ですが、今から行うのは少々難しいかもしれません」

「そうだな。今年の状況を見て必要そうなら来年以降に考えるか」

「わかりました」

「ホント言えぁ、その必要性なしって判断になるくらい、なんもないのが万々歳ってなもんだがな」

「それはその通りですね」

「しかし現実はそうはいかんからなぁ。常駐は無理でも、それなりの冒険者に連絡がつくようにはしておいてくれ」

「了解しました」


 これから訪れる雨季を前に、ギルド職員たちが可能な範囲の対策を、まだ青空の広がる空を見ながら考えていた。





 デッドマスターが賭けの清算に植物採取パシリの憂き目にあっている中。

 分厚く暗い雲の兆しが領都へと迫り、その後に続く暑い季節がやってくる。

 

 そのお話は、また次の機会に。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 終了時点でのステータス



 PLv:101


 HP:3936   STR:226   MAG:786

 MP:5454   VIT:251   AGI:522

 SP:1009   INT:681   DEX:322



 探索系

 鑑定10 調査10 感知10 気配察知10 追跡10 遠見10 製図10 罠解除10 鍵開け8

 植物採取10 伐採9 鉱物採取10 発掘10 解体10 神秘採取8 野営9 環境同化10


 知識系

 鑑識10 薬草学9→10 解体術10 解剖学7→8(10) 医学2 鉱物学9(10) 

 魔生物学8→9(10) 地質学5→6(8) 考古学4→5(10) 人類学4→6(7) 天文学6

 宮廷儀礼4→5(7) 術式魔法学(EW)3 魔道力学(EW)2 精霊学1 冥府の戒律10


 生産系

 土木工事9 建築2 錬金術9 薬草栽培2 罠製作2 木工2 金属加工1 細工1


 補助系

 投擲10 剣術2 体術7 気配遮断10 行動予測10 水泳6


 複合・発展系

 オールレンジスキャン (弱点看破) (弱点特効) 天地一心(!)


 異世界スキル

 異世界適応10 異世界言語理解5 資材カード化5 魔力視5 修復者の瞳10 

 クラス特性:死者への権限10 クラス特性:術理解明5

 これで三章は終了です。

 次回更新は十日ほどお時間をいただき、24年4月11日/0時を予定しています。

 そこから四章終了まで二日に一度の更新、月跨ぎは30日なので滞りなく二日更新になります。

 

 個人的に三章は書いていた中では結構面白いんじゃないか? という思いで書いていましたので読んでいただけた皆様にもそう思っていただけたら幸いです。

 24年3月7日に総PV2000を超えてニヤニヤ、更新を行っている現在3月16日にユニークアクセスが892人という、見てくれた人累計1000人の二つ目の大台が見えてきてソワソワという日々を送っております。

 ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

 

 これからも楽しんで読んでいただき、かつ評価やブックマーク等をいただけるよう、鋭意努力していきたいと思います。

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