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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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056 半年の理由

 応接室に戻り、ちょっと涙ぐんでいたアーシアが興奮したように声を上げた。


「ウェイトリーさんってめっちゃすごかったんですね!」

「まぁ、そうなのかもな」

「あれは私にもできないんですよね。生属性と死属性の極致魔術」

「多分今回のは生属性だけでもなんとかなったんじゃないか?」

「ですかね。それよりリーネリアちゃんですか。あの子すごいですね」

「そうだな。なんというか、魔法的才能の塊って感じだったな」

「そうなのか?」

「正直に言うと、リーネリア嬢はもうとっくの昔に死んでてもおかしくない身体っすよ」

「そうだったのか!? 聞いていた話では生きるだけなら命に別状はないと聞いていたが」

「彼女が弱かったのは心臓と肺。それを身体強化魔術で補っていたからこそ今の今まで生きていたって感じっすね。

 それをずっと続けているのがもうすごい。ここまで生きてこれたなら、そりゃこれから先も同じようにして生きていくでしょうよ」

「そうだったのか……。全く知らなかったな。俺も結構会ってたんだがな」

「まぁ、もう何もしてなくても普通に暮らしていけますけどね」

「よくよく考えたらお前、マジでとんでもないことしたんじゃないか? なんだあの魔力量」

「めちゃめちゃぐるぐる渦巻いてましたよね! あれでポーション作ったらどうなっちゃうんだろ」

「あれでポーションを作ったら下手したら死んだ人間が生き返るくらいのポーションができますよ」

「えぇぇ!?」

「冗談、だよな?」

「マジのマジで大マジです」


 アーシアは、すげー! とテンションが最高潮となり、グラッツギルドマスターは、聞かなきゃよかったと後悔した。


「まぁ俺にその技術はないですけどね」

「それを聞いて心底安心したよ」

「それより、これからじゃないですかねリーネリアちゃん」

「なんか問題あんのか?」

「問題あるというか、今まで魔力で体を補強して生きてきたんですよ? 身体強化魔法のスペシャリストです。

 しかもレイブンレイスの魔力を見て、主さまとのつながりを認識できるほどの魔力視です。逸材なんてものじゃありませんよ」

「それってどうすごいんだ?」

「そうっすねぇ……。訓練すれば片手でギルマスを街の端から端まで放り投げられるくらいの出力を丸一日中常時維持できるって言えば多少はすごさは伝わりますか?」

「本気で言ってんのか、それ」

「っすよ。脚力に変えれば大森林まで行って帰ってくるのに一日いらないんじゃないっすかね?」

「問題は貴族のお嬢様にそんなことをさせられるかという話ですねぇ」

「何がすごいって、多分あれ教えられてできるようになったって感じじゃなさそうなんだよな」

「自分のセンスでですか。まぁ身体強化はそういうところがありますからね」

「生きるために身に着けたんだろうけど、それって直観的に身体のどこでも適応できそうですごいよな。内臓系の強化ができるんなら酒とか毒物なんかにも強いだろうし」

「血筋がいいからなのか、魔力の総量も多そうですしねぇ。

 これが才能って奴ですかねぇ。なんとうらやましい」

「まったくだよ」


 片や普通の農家の娘の魔女、片や魔法なんぞ存在しない世界の人間。

 同い年くらいの少女が褒められているのを見て、自分はどうなのかと気になったアーシアは素直にそれを聞いてみた。


「私はどうなんですか?」

「アーシアちゃんの魔法素養は普通より少しいい方だと思いますけど、おばあ様に受けた教育のおかげで普通よりは随分いいですね。

 でもアーシアちゃんの錬金術のセンスの良さは本物ですよ。それは私が保証します」

「やったー!」


 普通よりいいと言われたことよりも、錬金術のセンスが本物と言われたことがうれしかったのか、これまた素直に喜ぶアーシアであった。


「んでギルマス。この話はギルマスからベンゲル辺境伯に伝えてくださいね。将来に関わる話になると思うので俺らがするのはちょっと込み入りすぎてると思うんで」

「あー、まぁわかった」

「言うだけだったら俺らからいってもいいんですけどね。なんかいろいろ考えることもあるでしょうし、素性のわからんヤツに相談すんのも変でしょ」

「まぁここまでやったんなら別にその辺り気にせんと思うけどな」

「でも俺らができるアドバイスなんてスーパー強い魔法剣士になれますよ、みたいなもんっすよ?」

「……俺から話しておく」


 友の病弱だった娘が急にスーパー魔法剣士を目指し始めたら、友の精神がおかしくなるやもしれんと、ちゃんと自分から話そうとグラッツギルドマスターは心に決めるのであった。


 そうして、話はどんどん逸れていき、ポーションに関する話やそれの値段の話、作物の成長具合の話、困っている不人気依頼の話、最近の街の話、商業ギルドで賭ける場合どのような判断にするかの話、最近の胃が痛い話は全部お前らのせいという話などなど、およそそんな話を三、四十分ほど続けていれば、応接室にベンゲル辺境伯と、寝巻から着替えたリーネリア嬢がやってきたのであった。


「ずいぶんと待たせてしまったか」


 そういって、穏やかな顔で声をかけてきたベンゲル辺境伯にウェイトリーはなんということはないと、答えを返す。


「いえ。水入らずを邪魔するのも忍びないので」

「ウェイトリー様、改めて、私の身体を治していただき、本当にありがとうございます」

「私からも改めて感謝を。ウェイトリー殿。私の娘を救ってくれてありがとう」

「その言葉を頂戴出来たことが、私も大変うれしく思います、閣下。

 そしてご回復おめでとうございます、リーネリア嬢」


 深々と頭を下げる二人に、ウェイトリーも立ち上がって胸に手を当て、頭を下げた。


 父娘がソファーに座るのを見て、ウェイトリーも座りなおし、言っておくべきことを伝えておくことにした。

 

「少しばかり注意があるので、そのお話をさせてください」

「なにか問題が?」

「いえ。リーネリア嬢はもう人として健常な状態にありますので、何も問題ありません。

 ですが、これまで多くの時間を室内で過ごし、運動などはされてこなかったと思いますので、身体は健常であっても基礎的な体力などはありませんので、まずは庭先などをゆっくりと散歩するといったような運動から始めてください。

 走り回っても大丈夫な身体になっていますが、体が慣れていないので病気などではなく普通に怪我などをしてしまいますのでご注意を」

「なるほど。道理だな」

「それから、食事などもこれまでは病人食のようなものをお召しになっていましたか?」

「そうですね。あまりものは多くは食べれず、麦がゆなどの消化の良いものを食べていました」

「これからは肉も野菜も魚も、なんでも自由に食べることができますが、何かに偏らずバランスよく、いろいろなものを食べるようにしてください。

 それから美味しく食べることができるようにはなっていますが、いきなりたくさんのものを食べますと、胃が受け付けず吐き戻す可能性もありますのでご注意を。

 それに、そういったことがなくても、あまり食べすぎますと、太ってしまってそれで体が億劫になるということもありますのでそれもお気を付けになった方が良いと思います」

「わかりました」

「あとはゆっくりと身体を慣らしていって、半年から一年ほど、ゆっくりとした運動と食事を続ければ、ご令嬢がそのようなことをすることはないかと存じますが、駆けまわり跳びまわり、よく食べよく眠れるようになると思います」

「了解した」

「注意いただくことは以上です。もし何かあれば半年程度はこの街におりますので冒険者ギルドを通じてでもご連絡ください」

「……貴殿にはなんと礼を言えばいいか。どうすればこの恩を返せるかと考えている」

「お気になさらず。職責、そして性分のようなものですので。アーシアのことをお願いできた事のお礼でもあります」

「そうは言うが、辺境伯家として何も返さないというのは問題なのだ」

「では、治療費として大金貨を一枚賜りたく存じます」

「その程度でいいのか?」

「はい。なんのしがらみもなくどこでも使える利便性。現金一括での支払いに勝るものは私にはありません」

「……わかった。貴殿がそういうのであればそのようにしよう。今持ってこさせる」


 そういうや、執事風の男性が部屋を出ていった。


 報酬の話を何となくかわされた気がしているベンゲル辺境伯は話を続ける。

 

「そう言えば、貴殿は半年ほどはと言っていたが、なにかあるのか? 私としては貴殿らに是非辺境伯家のお抱えになってもらえれば、これ以上はないと考えているが」

「ありがたきお言葉に大変恐縮ですが、申し訳ございません。その話は受けるわけにはいきません」

「何か目的があるのか? それか、もうどこかに仕えているとか?」

「私は今のところ、生涯どなたにも仕える気はありません。そういったことよりも、ふらふらとしていられる気楽な身分を望んでおります。

 そして、それはともかくとして、果たさねばならぬ目的がありますので」

「その目的は伺ってもよいものか?」

「ええ。領都近郊の墓地の話はギルドマスター殿からお聞きなられましたか?」

「あぁ、聞いている。なんでも、大地枯れを起こす可能性があるものだと聞いたが」

「こちらの墓地にあったものが規模で言えば最も小さいものですね。そしてノアルファール大森林にあったものが中規模のものでした。それがブリッツムース大量繁殖の原因となっていました」

「ブリッツムースの大量繁殖? まて、その話が本当ならいずれそれらが溢れる可能性があるのではないか?」

「いえ、大丈夫でしょう。大森林は領都に来る前に既に修復しましたし、ブリッツムースも、およそ百から百二十程度は処理して来たので問題ないかと思います」

「グラッツ、この話は聞いていなかったが」

「俺も今初めて聞いた。だが、コイツがギルドに来た時に最初にギルドに売ったのが、黒森産のブリッツムース約三十頭だ。おそらく間違いはねぇ」

「私共はそれを修正点と呼んでおりまして、私共の目的は世界各地に点在する全ての修正点の修復です。なので一所にとどまってはいられないのです」

「その修正点を修復しなければ、どういう影響があるのだ?」

「場所によりまちまちです。

 大森林は植物の異常活性化によって支えられた食物でのブリッツムースの大量繁殖。

 こちらの墓地は無念や怨念に力が与えられ亡霊と化しやすくなっていたというのが直接的な影響ですが、世界的に見れば、各地に大地枯れが起こり、後に全ての大地が枯れ、最終的には、所謂世界の破滅といったところでしょうか」

「世界の破滅……?」

「修正点を放置すればそうなると聞いています。とはいっても、三百年か、四百年は先の話ですが。

 世界に六つある大規模修正点を一つでも修復すればその期間が延びるとも聞いているので、当座は目に見えた影響は少ないと思われます」

「その話は……、真実か……?」

「証拠は何もありませんが、少なくとも私共にとっては真実です」


 あんまりな話にベンゲル辺境伯は黙り込んでしまった。

 そんな折、リーネリア嬢が口を開いた。


「もしや、ウェイトリー様たちは、神々の使い、使徒であらせられるのですか?」


 そう聞かれたウェイトリーは、珍しく顔をしかめた。


「いえ……。そういった身分ではありません。ですが、そういった知り合いがいるのは確かです」

「神々に知り合い?」

「一般的に知られていない神ですが、一応、たぶん、神だと思います」


 急にものすごくあいまいな言い草になったウェイトリーに、ホントなのかそれといった顔をする面々。

 気を取り直して、ウェイトリーは話し始める。


「ですが、確かなことはあります。

 私共は『光聖教』『六神教』『龍神教』のこのどれも信仰していませんし、関りを持ったこともありません。

 この際はっきり言っておきますが、私は死霊符術師という死霊術を使う身分のものですので、特に『光聖教』『六神教』からすれば神敵に当たるでしょう」


 その宣言に驚いて目を見開くベンゲル辺境伯であったが、リーネリア嬢は特に気にした風ではなく、まぁそうでしょうねくらいの感覚であった。


「幽霊カラスさんが眷属であると仰っていましたものね」

「はい。私は生を尊び死を重んじるデッドマスター。生者の属性である『生』属性と、死者の属性である『死』属性の担い手です。

 そして、その二つの複合属性である『魂命』属性の使い手でもあります。

 リーネリア嬢を治癒した術は魂命魔術によるものですね」


 ウェイトリーはカードを一枚出してそれを呼べば、霊体の猫が現れて『にゃむ』と一言鳴いた。


「かわいい!」「まぁ、可愛らしい!」


 アーシアとリーネリア嬢がきゃっきゃとはしゃいだ。

 ゴーストキャットをアーシアの頭の上に乗せつつ話を続ける。


「なので、神々の使徒であるといったものではないですよ」

「そう、か」

「話を戻しますが、そういったわけで半年ほどすれば場所を移る必要があるのです」


 頭に乗せられたアーシアは、それをうらやましそうに見ているリーネリア嬢に気づき、そちらへと歩いて行って、二人ではしゃいでいた。

 ねこつよい。


 それをぼんやりと見ながら思考にふけっていたベンゲル辺境伯どうしたものかと思いつつ、聞けることは聞いてみることにした。


「その話は、私が他の誰かにしてもいい話か?」

「かまいませんよ。かましませんが……」

「ああわかっている。信じられるかどうかはわからないと言いたいのであろう?」

「はい。今まさにそうであるように」

「心得ている。しかし、なぜ半年なのだ? こちらの修正点は終わったのではないか?」

「森暮らしが長いせいで私共は少しばかり常識不足なもので、それを知る目的が一つ。

 同じくその影響で手持ちが全くなかったのが一つ。

 そして、最後の理由が、この辺境伯領に隣接する地域にもう一か所中規模修正点が残っているからが一つですね。

 最近はアーシアの教育という目的も加わりましたが」

「まだあるというのか……。場所はわかっているのか?」

「大森林の東端にある、確かハンガーベイル渓谷と呼ばれている地域ですね」

「『地竜の巣』か……。また厄介なところに」


 ベンゲル辺境伯は疲れたようにため息を吐いた。


「今は地竜が活性化していて少し時期が悪いようですし、調査もまだ何もできてないので、時期を待っているという感じですね」

「放置すれば、地竜が溢れる可能性はあるのか?」

「まだ何とも。何かしらの影響は出てると思いますが、急を要するかどうかもわかりません」

「どういったことが考えられる?」

「地竜の大繁殖による暴走、または非常に強力な個体の誕生辺りは考えられますね。

 他で言えば、何かしらの魔物勢力が急激に力を付け地竜を駆逐してしまうなどや、何かしらの環境変化で全く違う生態系になってしまうというのもあるかもしれません。

 もしかすると地中の見えない部分で魔法金属の鉱床が出来上がるといったいい変化の可能性もありますし、正直、何が起こってても不思議じゃないのでこれに関しては調べてみない事には何とも」

「グラッツ、最近そのあたりの報告はないか?」

「あのあたりはなかなかの危険地帯だからなぁ……。出向く冒険者はすくねぇ。

 だが、最寄りの街のギルドからは何も聞いてないところを見ると、大規模な変化はないと思えるがな」

「今のところは要警戒で様子見か」

「でも人里が遠いのであれば、ここにあった墓地ほど影響はないと思います」

「墓地はそんなに状況が悪かったのか?」

「人死にが出る一歩手前でしたね。被害者が出なかったのは幸いでした」

「……貴殿がいて本当によかったよ」

「墓地周りは私の管轄でもありますので。死者を正しく冥府に送るのも職責の一つです」


 ふむ、と一息置いて、ベンゲル辺境伯は話を戻した。


「して、貴殿はいつ頃仕掛ける予定だ?」

「状況が急を要さないのであれば、夏ごろから晩夏といったあたりに考えています。九月の頭から中頃ですね」

「ちょうど続いた暑さで動きが落ちてる頃だな。仕掛けるにはいい時期だな。相変わらずよく調べてるもんだ」


 グラッツギルドマスターが太鼓判を押した。


「よし、事は我が領の問題だ。必要ならこちらからも支援を出そう。何かあれば言ってくれ」

「ありがとうございます、閣下」



 こうして、ウェイトリー達は話をまとめ、報酬をもらい、辺境伯邸を後にするのであった。



 余談だが、ゴーストキャットの活躍により、アーシアとリーネリアはすっかり仲良くなっていた。

 今まで歳の近い相手と会う機会などなかったリーネリアからすれば、初めての年の近い女の子と遊んだ経験であり、よくも悪くもリーネリアが体の弱さで本格的な貴族的な教育を受けられなかったためアーシアもそれほど緊張しなかった。

 加えてアーシアが優しく裏表のない素直な性格もよかったのだろう。

 きっかけさえあれば仲良くなるのに時間はほとんど必要なかった。

 そしてゴーストキャットは非常にいい仕事をしたと言っていいだろう。

 ねこつよい。

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