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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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050 件の人たちとポーションの問題点

 冒険者ギルドの前までやってきた一行は、普段は見慣れないものがギルドの前に停まっているのが目に付いた。

 それは妙に豪華な馬車であった。

 しかし、この領地を治める領主家の家紋も、他の貴族と思われる家紋もついてない、妙に豪華さだけがある馬車であった。

 もしかするとお忍びの貴族というのも考えられるのかもしれないが、これは単純に金を持っているが家紋などを持つような家ではないということなのではなかろうか。

 とすればありえそうなのは……、とウェイトリーが答えを想像していたところで、答えの方が冒険者ギルドの中から出てきた。


 中から出てきたのは着飾った二人の男とその従者だか秘書だかで、二人の男の内、片方はベルルーガ商会の商会長で、もう片方が商業ギルドの支部長であった。

 つまりは、二人が昨今さらされている問題のツートップ揃い踏みというわけである。


 従者といった装いの男が目ざとくこちらを見つけたのか、ベルルーガ商会長の耳元で何かをささやいて視線をよこした。

 すると、ベルルーガ商会長はウェイトリー達の下へずかずかと歩いてくれば、見下したような不遜な態度で、口を開いた。

 

「貴様らか。最近ポーションの市場を荒らしているという冒険者は」

「はぁ? ちょっと心当たりがないのですが、失礼ですがどちら様でしょう?」

 

 当然ウェイトリーは相手が誰だか知っているし、裏帳簿の場所も愛人の数も知っている相手ではあるが、そういうのは何も知らないという体を装うことにした。

 

「ふん。世間のことを知らんというのは困ったものだな」

 

 殊更馬鹿にしたようにニヤつくベルルーガ商会長に、内心では全く同じ言葉を返したくなり、顔がニヤけそうになるのを普段通りの真顔で、怪訝そうに首を傾げることで耐えた。

 

「おい貴様ら。今からでもポーションをベルルーガ商会に卸すというなら、此度の一件、これで終わりにしてやってもいいぞ?」

「此度の一件? 具体的には何のことをおっしゃっているので?」

「わからんか?」

「……商店で買い物ができない件でしょうか?」

「それは儂の口からは言えんなぁ!」

 

 心底愉快そうに、ニタニタ笑いを続けるベルルーガ商会長に、人生楽しそうだなぁ、とウェイトリーはなんだかほほえましいような気持ちになっていた。

 

「商会長殿、彼らにはもうポーションは作れますまいて。なにせ薬草を街で買うことはかなわず、採取しか方法はありますまい。

 だが、最近はそれもしていないご様子。そして極めつけはイモ農家の雑草売りの娘を連れているではありませんか!」


 あとから出てきた商業ギルドの支部長がベルルーガ商会長にそう言えば、商会長は傍にいる少女を一瞥し、フンッと鼻を鳴らした。

 

「どうやらずいぶん薬草の入手に困っているようだなぁ? 知っているぞ? どこにも薬草を買い取ってもらえず市場で薬草を売っていた娘だろう?

 おいしい薬草だなど宣っているようだが、おいしい薬草などただの雑草であるとなぜ気づかん」

「そんなことないです! 私の薬草でポー―――」

「アーシアちゃん、やめておきましょう」


 反論しようとしたアーシアの口をマリーがサッと抑えて、静かにさせると、それに気分をよくしたのかベルルーガ商会長と商業ギルド支部長はゲラゲラと笑いあった。


「そうだ。わきまえておればよいのだ。せいぜい父と同じくイモでも育てておればよいものを」

「領都付き農家のジャガイモであれば確かな値段で取引させていただきますぞ。少なくとも雑草よりは確実に」


 それだけ言い終われば、二人と従者の男は馬車に乗り込みギルド前から立ち去って行った。


 悔しそうに顔をしかめるアーシアとそれをなだめているマリー。

 そしてウェイトリーは真顔でありながら、妙に楽しそうな顔をしていた。


「主さま、もう少しそのルンルン気分を何とかしたほうがよろしいかと」

「いやすまん。いかにもこの世の春って感じで、幸せそうでなによりだなって思ってさ」

「ウェイトリーさんは悔しくなかったですか?」


 アーシアが信じられんと言わんばかりの顔でそう問えば、ウェイトリーは特に何もといった風に答えた。


「ん? 別に何とも?

 だって俺たちは町の薬屋で薬草は買ったことがないし、ここ一週間商店で買い物できてなくともなんら困ってないし、それにアーシアの薬草でアーシアが作ったポーションが今から冒険者ギルドに卸されるのに、あんなに愉快に商売のチャンスを逃していくのが、商会のトップと商業ギルドのトップってのがなんか笑っちゃって。

 あの二人、逃がした魚がとてつもなく大きいってのにいつ気づくのかなと思うと、できるだけ長く幸せを噛みしめていて欲しいなって思うわけよ」

「あれ!? なんか性格が悪いこと考えてませんか!?」

「何を言うんだ君は。これほど人の幸せを心から願っているというのに」


 やや大げさに宣うウェイトリーをアーシアは完全に胡散臭そうに見ていた。


「……それホントですか?」

「ホントホント、デッドマスターうそつかない。

 さ、そろそろ冒険者が帰ってきて混雑する時間帯に差し掛かるだろうから、さっさとギルドで手続きしようや」


 誤魔化すようにギルドへ促すウェイトリーをアーシアは終始胡散臭そうにしつつも、同じく楽しそうにしているマリーにも促され、ギルドへと入っていった。


 話を通すべきはこの人をおいてほかにないと、いつもの位置に座っているエリナ職員に話しかけた。


「こんにちは」

「ようこそウェイトリーさん、マリーさん。それにアーシアさんも。本日はどういったご用件でしょう」

「ちょっとポーションに関する要件でお時間いただけないかと伺った次第でして」

「ポーションですか? 解りました。ちょうど先ほどの件もありますし、ギルマスも今は空いていると思うので応接室でお待ちください」


 話しが早く、速やかに応接室への案内を行ってからエリナ職員はギルドマスターを呼びに行き、そう時間を置かずして揃って応接室へと入ってきた。


 疲れたような顔をしているギルドマスターはやや乱暴にソファーへと腰をおろした。


「ポーションの話があるって聞いたが、今度はなんのやらかしだ?」

「別にやらかしてないっすよ。あー、いや、世間的にはやらかしかもしれねーっすけど」

「やらかしじゃねぇか。……そういやお前ら、ギルドかギルド前で誰かにあったか?」

「誰か? いやーどうでしょう? 芸人の一座なら見ましたけど」

「芸人? そんなのいたのか?」

「ええまぁ」

「まぁいい。なんもなかったならかまわねぇ。んで、何をやったんだ?」

「まずは、これを見てもらえますか?」


 そういって、ウェイトリーはプランターを一つ取り出して、そこに詰められているポーションを取り出してギルドマスターに渡した。

 渡されたそれをギルドマスターはじっくりと眺めた後、エリナ職員に回した。

 エリナ職員もそれを揺らしたりしつつ眺めてみるが、特に今販売している品とそう違いがあるようには見えなかった。

 

「これがどうしたんだ?」

「マリーさん。ポーションのことは任せるよ」

「はい。なんとこちらのポーション、ここにいるアーシアちゃんが自分で育てた薬草で自分で作ったポーションなんです」

「なんだと? そりゃ本当か?」


 そういってアーシアの方へとギルドマスターが視線を向けると、アーシアはビクっと驚いたように体を強張らせたが、ゆっくりと静かに頷いた。

 それを見届けたギルドマスターはプランターの中を確認して、何本かをランダムに抜き取ってエリナ職員に渡した。

 

「エリナ、鑑定に掛けてみてくれ」

「わかりました。このポーション、少しお預かりします」


 そういって数本のポーションを抱えて、足早に立ち去ったエリナ職員を見送りつつ、ギルドマスターは話を続けた。

 

「ポーションを作れる新人を育てているという話は聞いていたが、もうものになったのか?」

「今日で大体三週間ほどでしょうか。アーシアちゃんはかなり筋がいいですね。

 まだまだ教えることがあるとはいえ、ギルドで主に販売している品質は十分に満たせるものを作れるようになりましたね」

「こっちでも鑑定結果を見るが、これはどれくらいのもんなんだ?」

「アーシアちゃん、鑑定結果のメモは持っていますよね?」

「これです!」


 懐にしまっていたメモを広げてギルドマスターに差し出すと、それを丁寧に受け取ったギルドマスターがメモに目を通し、眉をひそめた。


「……俺ぁはもしかしてまた担がれてるのか?」

「人聞きが悪いですね。一度も担いだことはないですよ」

「しかし、これがホントでここにあるのを全部、そこのお嬢ちゃんが作ったってのか?」

「あぁ、そのプランターあと三つありますよ。四つ目は十五本程度なんで、今回は全部で八十本っすね」

「……ちょっと全部出してみろ」

「うっす」


 応接用のテーブルにはやや手狭だったため、ウェイトリーは床にポーションプランターを並べた。

 ギルドマスターはそれをそれぞれランダムに抜き取って他のものと比べてみたが、なんら違いがあるようには見えなかった。

 

「ところでなんでプランターに詰めてるんだ?」

「アーシアが農家なもんで」

「農家の娘ってのは聞いてたような気がするが」

「ウチはイモ農家ですね!」

「なんだアントンの娘か」

「そうですそうです。お父さんを知ってるんですか?」

「まぁな。領都付き農家の各家代表とは全員領都会合で顔見知りだ。

 てこたぁ……、ああそういうことか。なんで農家の娘が薬草を育ててるのか合点がいった」


 グラッツギルドマスターは、しばし何かをぼんやりと思い出すようにした後、確認を終えて、ソファーに戻った。

 それからそれほど間を置かずしてエリナ職員が戻ってきて、数本全ての鑑定結果が書かれた紙をギルドマスターに差し出した。

 それを、先ほどのメモと見比べて、どれとも相違がないことの確認が取れて、一つため息を付いた。

 

「何をどうしたら、薬効の薄い薬草からこんなたまげたポーションができるのか甚だ疑問ではあるが、こいつは十分に品質基準を満たしている。というか満たしすぎだな」

「何か問題がありますかね?」

「そりゃぁ問題あるだろうよ嬢ちゃん。なにせ、これなら普通は四千ドラグ程度で仕入れて五、六千ドラグで売るくらいの品だぞ?」

「あー失敗しましたね。私が安く売り過ぎましたか」

「そういうこった」


 現状マリーが卸しているポーションは効果プラス十、品質十、品質低下無効、その時々によって違う何らかの副次効果があるもの二百本分を、一本三千ドラグ扱いで卸している。そしてギルドは効力をプラス五にして四百本分にしてギルドショップで販売している。

 ギルドショップでの販売価格は二千八百ドラグ。ものに対して破格の安さだが、一本当たりの仕入れ値が実質千五百と瓶代なので十分に採算が出ている状態だ。

 

 しかしこれが問題であった。

 本来なら、アーシアのポーションは四千ドラグで卸すのが妥当なラインとした場合、売値は五千ドラグより高めで売るのが当然になってしまう。

 つまり同じ効果なのに、販売価格がほぼ倍になるということである。

 それでは冒険者たちも暴動ものというものであろう。

 まぁ実のところ、それ以前は品質も効能も低いものが今よりも断然高く、なんならそもそも在庫不足で買えないという状況であったのに比べれば、ただの一般的な相場で売られるだけマシというものではあるはずなのだが。


 こうなってしまうと、アーシアか、ギルドか、冒険者かのいずれか誰かが割を食う羽目になってしまう。

 しいて言えば、一番被害が無い、というかほぼないと言えるのがアーシアなのだが、ギルドマスターとしては、街に住み街で薬草を育て街で錬金術をやってくれるものを安く買い叩くような真似はしたくないのだ。

 なにせ、この領は大森林の魔物の食い止めるために置かれた辺境伯領。

 ポーションの自活、自給自足は悲願と言ってもいい。

 ただ一人で薬草の品質が伴わない環境でそれを叶え、ポーションに変えることのできる稀有なものを冷遇などしたくはないのだ。

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