049 ポーション完成!
魔石を大量購入した日から一週間後。そしてアーシアが錬金術を習い始めてからおよそ三週間が経過した。
ウェイトリーは時たま調べもので外すことはありつつも同席し、マリーは錬金術の講義に励み、アーシアはそれを熱心に受講した。
そして今。
アーシアはいつにもない真剣な表情で自身の小屋の中にある錬金鍋を慎重かつ丁寧にかき混ぜていた。
最初のころのような速度を持って、とにかく素早く混ぜる必要はなくなっていた。
あれは混ぜる速度によって均一化を促すための行為であり、まだ甘く完璧とはいえないが、曲がりなりにも自身の魔力の流動によって均一化を行うことができるようになったため、今求められるのはその均一化の精度と、それを阻害せず補助する程度に鍋をかき混ぜることであった。
続く丁寧かつ慎重に仕上げられたポーションがついに完成を見ることになる。
それはアーシアにとっての一つ目の到達点として十分な品であった。
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下級ポーション+5 品質10 UC
[HP回復:小+5][品質低下無効]
詳細
薬効の薄い薬草から作られたポーション
しかし効果は申し分なく 品質が低下することもない
本来の薬草の味が良いため 飲み口がやさしい
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「できました」
「主さま」
「あぁ」
マリーはその出来を既に見て取っていたが、ここ数日ほぼ鑑定結果印刷マシーンと化していたウェイトリーによる評価はアーシアに取って欠かせないものになっていた。
ウェイトリーが慣れた手つきで鑑定結果を書き出し、そのメモをアーシアに渡した。
鑑定結果を見て、アーシアは呆然として、本当にこんなものができたのであろうかと、確かな手ごたえや実感を持てないため、鑑定結果を信じられずにいた。
「アーシアちゃん」
「はい」
「よく、頑張りました。これはもう自信をもって販売できる品ですよ」
「ほんとう、ですか?」
「何よりもアーシアちゃんの地道な努力のおかげですよ。
ホントのことを言えばひと月ふた月でものになるだろうとは思っていたましたが、まだ三週間ほどですか、ここまでセンスがいいとは思いませんでしたよ」
微笑みつつも真剣に言うマリーの言葉に、アーシアはやっと自分が申し分ない品を作ることができたという実感を得ることができた。
そしてそれは、いまだ短いアーシアの人生の中で、何よりもうれしい瞬間となった。
この先の人生にそういったうれしい瞬間や幸せな瞬間というのを多く体験するかもしれないが、それでも、アーシアはきっとこの日のこの瞬間を絶対忘れることはないと、そう思った。
「さぁ、アーシアちゃん。作ったものを瓶に詰めて、次を作りましょう!
これが偶然ではなく自身の技術として狙って作れるようになってこその錬金術師ですよ」
「わかりました!」
楽しそうに瓶詰めを行い、できたものをテーブルに並べていくアーシアを見つつ、その並べられたポーションを見ていたウェイトリーは、先ほどマリーの言った言葉を思い返していた。
マリーは先ほど、自信をもって販売できる品、とこのポーションを評価したが、それは個人の感想であるし、間違いではないといえば間違いではない。
だが世間からの評価で言えば実は違う。
というのも、これは、世間一般からすれば『自信をもって販売できる品』程度のものではなく、『非常に高品質な良質のポーション』といって差し支えないのである。
一般的なただ普通に売れるだけのポーションというのは上昇補正なし、品質五、副次効果なしの下級ポーションである。
まかり間違っても品質が十でプラスが五もあり、あまつさえ保管の仕方で効能が落ちるのが普通なのに品質低下無効がついているなどというものが、一般品なわけがないのだ。
そんな代物を、錬金術を始めてまだ三週間ほどといった、齢にして十三の少女が作り上げるというのは、どう考えても驚嘆に値する。
アーシアの薬草に対する強い情熱、努力をちゃんと行える勤勉さ、教えられたことをちゃんと理解できる知能、生活魔法程度とは言っても苦も無く魔力を操ることができる能力、そして錬金術のセンスの良さ。
これはそのすべてが正しくかみ合った結果であったのであろう。
ウェイトリーは、今水を差す必要はないか、とこれがおよそ一般品よりも相当優れたものであることは後で伝えることにした。
別に伝えて悪いことでもないが、それに胡坐をかくようになっても面白くはない。
いずれはちゃんと教えようと心にとどめ置きつつも、楽しそうに錬金術に取り組むアーシアを、腰かけたテーブルの椅子からのんびりと眺めていた。
朝からやっていたポーションの作業は、昼食をはさんでおやつ時を過ぎても続いた。
しかしながら、いくら生活魔法程度とはいえ、休憩しつつとはいえ、ずっと続けているには流石に魔力が持たなかったようで、次を作ろうと準備をしようとしたアーシアをマリーが止めた。
「アーシアちゃん。流石に今日はもう無理ですね」
「ど、どうしてですか?」
「アーシアちゃん、もう魔力が怪しいですよ。
水を満たすのは問題なくとも、均一化の途中で出力が落ちると思います。均一化が甘いポーションがどうなるかはわかりますよね?」
「マズいポーションに仕上げるのは薬草に対するぼーとくです!」
「そうですよ。素材に対して失礼ですからね。自分の限界を見て錬金術は行いましょうね。
ただ、アーシアちゃんはこれからまだ魔力が伸びると思うので、これを続けていれば、下手をすれば一日中でもポーションを作って入れるほどにはなると思いますがね」
「一日中!? ホントですか!」
「なんでうれしそうなんだ」
「だってだって、こんなに楽しいことを一日中ですよ!?」
「いいところで飽きろ。楽しいことは悪いことじゃないが体を壊すぞ」
「それに薬草の世話もあるじゃないですか」
「そうでした! 最強の薬草を育てる夢がかなってませんからね!」
「あとな? 見てもらったら解ると思うが、もうテーブルの上がポーションだらけだぞ」
「流石に売りに行かないと邪魔ですね」
それほど大きくはないテーブルにはいつぞやに買ったプランターが置かれており、その中に大量のポーションがキッチリと整理されて並べられていた。
鑑定結果印刷マシーンがやや暇を持て余して、テーブルに直に置いておいただけではぶつかって落ちかねないほどの量になってきた辺りから、危なっかしいと使っていないプランターに詰め始めたのだ。
数としては、一つのプランターに二十五本ずつで、それが三つテーブルの上に置かれており、まだ十五本程度の四つ目のプランターがテーブルを非常に狭くしていた。
「アーシア、今からか、それか明日辺りにでも売りに行くか」
「おお! ついにですね!」
「冒険者になるわけじゃないから、売るのはどこでもいいっちゃいいが、この街だと今のところは冒険者ギルドに売る方が無難かな」
「そうなんですか? 街の薬屋さんに持っていくのかと思ってました」
「俺ら今、基本的に街の店は出禁なんだよ」
「え、なんで?」
「ポーションで荒稼ぎしてたらそれ関係の人たちに目を付けられちゃったんですよねー」
「えぇっ!? 私もこれからポーション売るんですけど!?」
「まぁ冒険者ギルドはちゃんと買い取ってくれるよ」
「冒険者じゃなくてもですか?」
「この際なっておいてもいいと思いますけどね。別にデメリットありませんし、所属が冒険者ギルドなら冒険者ギルドが後ろ盾になってくれそうですし。
あと、商会関係は近々……」
「なんですか?」
「いえなにも」
言葉が小さくなりアーシアは最後の方は聞き取れなかった。
「まぁそこはアーシアが選ぶといい。冒険者ギルドには下級ポーション納品の依頼があるから、それを通して納品すれば、ニ十本ごとに三千ドラグほど売却額とは別で報酬がつくから、多少お得だな」
「そうなんですね」
「でも冒険者ギルドに定期的に納品する契約なんかを結べれば、もっといい条件になるかもしれないから、その辺はもうちょっと実績を積んでから、親御さんとも相談しつつ決めた方がいいかもな」
「なんか真面目ですねウェイトリーさん」
「君は自分の将来にも関わるんだからもうちょっと真剣に考えてもいいと思うよ?」
「今は薬草と錬金術とお金のことで頭がいっぱいです!」
「お金のことも親御さんには報告しようね?」
「はーい。じゃあ今すぐ売りに行きましょう! 運んでくださいウェイトリーさん」
「アーシアちゃんも主さま使いがうまくなってきましたね」
「そんなところはうまくならんでいい」
プランターに詰め込んだポーションを資材カードへと変換して、意気揚々と進むアーシアを先頭に冒険者ギルドへと向かった。




