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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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046 薬草の検証結果

 薬草の検証準備の日から七日後。

 ついにアーシアの楽しい薬草試食会の日がやってきた。

 

 揃ってプランターの前へとやってきたが、実を言えばほぼ全員が毎日に近いレベルでプランターを見ているため、どのようになっているかは知っていた。


 まず初めに、火と風の魔石を加えたプランターの苗は枯れてしまっていた。

 枯れ方の違いなども確かめてみたが、どちらも魔力の質が合わなかったため、枯れてしまったという結果が見て取れた。

 アーシアが言うには、火の方が枯れ始めるのが早く、風はそれよりもゆっくりと枯れていったという違いがあったのだという。

 

 次にパッと見の変化が大きいのが、闇、土、草の三つであった。

 土と草は、なんというか、プランターをはみ出さんレベルで生い茂っていた。

 特に土のプランターの方が顕著で、葉は青々として色つやがよく、より太陽の光を浴びようと大きく広がって育っていた。

 草も近いものであるが、土よりはややおとなしいといった具合であった。

 顕著な変化というのであれば闇もそうであった。

 形こそ変わっていないが別の植物なのではないかと思えるような色に、緑色ではなく葉も茎も真っ白になっていた。

 一見不健康か病気のようにも見えるのだが、色が白くなっているだけで薬草の健康状態としては問題ないようであった。


 そして残りの無、光、水、木、水草のそれぞれの属性は、見た目に変化は見られなかった。


「主さま、食べると害がありそうなものはありますか?」

「俺が見た限りはないな」

「私が見た限りでもないので、食べても問題なさそうですね」

「ウェイトリーさん、味はどうですか!?」

「味は……、まぁ、食べてみたらいいんじゃないか?」

「教えてくださいよぉ!!」

「じゃあ採取して試食しましょう。これも学びですよアーシアちゃん」


 渋々といった感じにアーシアはプランターの薬草の採取を始めた。

 流石は薬草栽培を手掛けているだけあってその手つきは手慣れたもので、八つのプランターから次が生えてくるのに問題ない程度に収穫した。

 その間、机と水を用意したウェイトリーは、机の上にメモ用紙と筆記具も用意しておいた。


 属性ごとに分けられたざるの上に薬草が並び、それぞれが席に着いた。


「じゃあアーシアちゃん。食べた感想を属性ごとにメモしていきましょう」

「はぁい」

「しょうがないので私達も一緒に食べますから、ちゃんと味わってください」

「ホントですか?」

「マジで言ってんの?」

「そりゃマジですよ主さま。研究者は何事も体験してこそですよ」

「俺研究者じゃないし、不味いってわかってるのは遠慮したいんだが……」

「不味いってわかってる……」

「一蓮托生、呉越同舟、死なばもろともですよ主さま」

「死なばもろとも!?!?」

「毒を食らわば皿までってことか」

「毒ぅ!?!?」

「ほんといいリアクションするな君は」

「さぁアーシアちゃん、まずはどれから行きますか?」

「えぇ……、それじゃぁ……」


 そういってアーシアが選んだのは無属性のものであった。


「無属性ですか。なぜこれを選んだんですか?」

「絶対不味いってわかってるから……」

「ほうほう。まずは知っているものからというわけですね。では行ってみましょう」


 三者三様のそれぞれ薬草をそのまま口に含み、それを噛みしめた。

 それは苦く、えぐく、正直に言って金輪際未来永劫二度と口にしたいと思うものではなかった。

 

 口から吐き捨て一気に水をあおるアーシアに、冷や汗を流しながら口に入れたものを飲み込むマリー、そして真顔を虚無顔に変え辛うじて飲みこむウェイトリーといった様相であった。

 

「マッズ!!!」

「食えたもんじゃねぇ」

「……なにか口直しを用意しましょう」


 マリーは大量の食材が詰まっている資材カードのポーチからリンゴのカードを取り出して発動し、数個のリンゴを手早く剥いてカットし皿を用意してテーブルへと並べた。

 アーシアはそれを飛びつくようにして頬張り、ウェイトリーもゆっくりと手を伸ばし口へと運んだ。

 マリーもリンゴを口にしながら、アーシアへと問いかけた。


「どう思います、アーシアちゃん」

「薬草へのぼーとくだと思います」

「難しい言葉を知ってるな少女よ」

「あの味を知ると、そう言いたくなる気持ちもわかりますね。他に気づいたことはありませんか?」

「……昔、おばあちゃんが魔法で出した水で育ててた薬草も苦くてえぐかったけど、それよりもキツかった気がする」

「なるほどなるほど」

「まぁ、今の薬草を便宜上数値化するなら、苦さとえぐさがプラス四で薬効はプラス三ってところだな。薬草事体の品質でいえば四といったところだな」


 それを聞いたアーシアは味の感想と自分の考えと共に、今聞いた内容をメモに記録した。


「アーシアちゃん。仮にこの薬草を使うならどう使うべきと思いますか?」

「乾燥させて火口にするのがいいと思います」

「燃やそうとするな」


 遠回しな焼却処分にツッコミを入れば、これまた間髪入れずアーシアが答える。


「いやだってコレ食べ物じゃないですもん」

「であれば口に入れないものにするのはどうですか?」

「口に入れない? あぁーヨモギで作った塗り薬みたいにですか?」

「そうです。あれはヨモギと小麦粉と魔力水を使いましたが、それにこの薬草を使えば、より回復効果が高まりますよ。あとはアロエなども使えば体に塗るものとしてはかなりいいでしょうね」

「確かに口に入れなければ使えるかも……。でも、沁みませんか?」

「それは工夫次第でしょうねぇ」

「うーん。あっ、畑の土に混ぜる用にするのはどうですか?」

「それもいいかもしれませんね。苦みやえぐみは腐葉土に混ぜてしまえば問題ないでしょうし」

「使いようが無いわけでもないんですね、これ」

「まぁそりゃそうだけど、結局今言ったすべては味も良くて効能が高い理想的な薬草があればオーケーなわけだから、なんかしらの理由でもないとわざわざ育てるほどではないな」

「しいてメリットをあげるのであれば、無属性魔石が最も安いという部分でしょうか。

 あとは無属性魔石を使うとこうなるという知見が得られたというくらいですかね」

「意味あるんですか? これ」

「意味があるかないかは未来のアーシアちゃんしか知りえないことですね」

「ま、意味の有無はこの際置いておいて、次いこうや」

「あんまりいきたくない……」

「さぁさぁ選んでください、アーシアちゃん」

「この際だから言っておくが、味が酷そうなのはあと一つしかないから安心していいぞ」

「ひどいネタバレですね主さま」

「ちょっとかわいそうになってきた」

「でも一つはあるんですね……。じゃぁ……、なんかめちゃくちゃ元気になってた土にします」


 そういって各々は土属性で育てた薬草を手に取ってそれぞれ口に入れた。

 何かしらの味の変化に身構えていたアーシアは、それが自分が育てている薬草と何ら変わらぬ味であることを感じて、何となく手ごたえを感じた。


「味は普段通りな気がします。さっきのが酷かったので美味しく感じるくらいです」

「ですねー。改めてアーシアちゃんの薬草はおいしくいただけると実感しました」

「これは結構いいんじゃないですか!?」

「残念なお知らせだ。この薬草は味も薬効も変化なしだ」

「え? あんなに元気いっぱいに育ったのに?」

「むしろ効果はそれだけだな」

「……いいんでしょうか?」

「元気のない薬草に与えるといいかもしれませんね」

「なるほど!」

「あとはアレだな、例えばだが、味にも薬効にも変化がなくて、植物を元気にしたいだけなら使えるかもな。

 普通の花とか野菜とか」

「おお! ジャガイモの収穫量上がりますかね!?」

「薬草に効果があるのは薬草が魔力を吸収する性質があるからですし、普通のジャガイモは魔力を吸収する性質はないと思うので効果があるかは実験してみないとわかりませんね」

「あー確かにそうですねー」

「でもアーシア、効かんと決まったわけじゃないし、試してみる価値はあるかもな」

「ですね!」


 楽しそうに返事をして、今の内容をメモにまとめたアーシアが顔を上げれば、ちょっとだけ真剣な顔をして言った。


「……なんとなくですけど、マリー先生がいろいろ試した方がいいって言ってた意味が解ってきたかもしれません」

「何となくでもわかってもらえれば十分ですよ」

「知識は力だ。いくら持っていても重くはならんし、持っていれば役に立つことがある。

 なーんの役にも立たん知識ももちろんあるけどな」

「なんか次が気になってきました! 次はこれにしましょう!」


 そういってアーシアが手に取ったのは光属性のものであった。

 

 意気揚々と口に入れるアーシアに続いてマリーとウェイトリーも口に入れる。

 が……。


「ニッガっ!!!」

「舌が馬鹿になっちまうよ」

「この苦さはある意味毒ですね……」


 舌をえぐるような強烈な苦みに再び口から吐き捨てたアーシアは勢いよく水とリンゴに手を伸ばすのであった。



 すべての薬草の試食を終えて、最終結果から見ればその効果は一目瞭然であった。

 木属性魔石に土属性魔石を混合させた草属性と呼んでいた魔石が圧倒的に優れていた。

 

 ウェイトリーが暫定的に付けた数値を伴う結果は以下の通りであった。


――――――――――――――――――――――――――

無 品質4

苦み+4 えぐみ+4 薬効+3

めちゃくちゃ不味いが薬草としてほどほどに使えるレベル


火 品質なし

枯れた


風 品質なし

枯れた


光 品質5

苦み+5 えぐみは全く感じない 薬効+4

舌をえぐるほど苦いがえぐくはない 薬草として十分使える


闇 品質6

味の変化はなし 薬効+1 魔力+2

真っ白に変色して魔力をそのまま蓄えるようになった

薬草としては劣るが別の用途で使える可能性大


土 品質4

味の変化も効能の変化もほぼなし 

だがめちゃくちゃ元気に茂っている


水 品質5

苦み+1 えぐみ+1 さらに水っぽい味 薬効+2

水っぽい味がして何となく苦みとえぐみがマシに感じる

薬草としてはやや使いづらい


木 品質7

苦み+1 えぐみ+1 薬効+6

良質な薬草としてに完全に使用可能


草 品質8

苦みとえぐみが抑えめになり 風味が増しておいしい 薬効+6

生き生きとして薬草として完成系に近いもの 非常に良質な薬草


水草 品質7

苦みえぐみは変化なし さらに水っぽい味に 薬効+5

水分量が多くみずみずしい 味も悪くはないし薬草としても問題なく使える

水分量の多さを活用する方向でなら通常の薬草よりも相性よく使える可能性大

――――――――――――――――――――――――――


「こうして見てみると水草も悪くはないですね。もしかするとポーションにする用途ならこちらの方がいいのかもしれません」

「水っぽいってことは混ざりやすいってことですよね? なら均一化? がしやすいとかないですかね?」

「あると思いますよ。あとで試してみましょう」

「はい!」

「……なぁマリーさん、その水草属性の魔石を使えば、リミナ草がうまく育ったりしないかな?」

「リミナ草ですか。可能性はありそうですね。一般的には難しいとされているみたいですが」


 リミナ草は水中に生える回復効果の強い薬草で、水生植物なことや周辺環境に左右されるため栽培は難しいとされている。

 回復効果の効能の高さからさまざまな用途があるが、上級ポーションの材料としても問題ないレベルの薬草である。


「でも育てるだけなら可能かもしれませんが、味までこだわると難しいかもしれませんね。綺麗な水でないとそもそも育ちにくく、それを魔石で補ったとしても、水生植物は水質で味がかなり変わるので」

「よさそうだと思ったがそううまくは行かんか。水耕栽培器でもあればな」

「なんなんですか? リミナ草って」

「上級ポーションの素材にできる薬効の強い水草だよ」

「おぉ! 私のポーション御殿の話ですね!」

「そもそも論ですけど、ものがないので実験しようもないんですけどね」

「あるところに覚えはあるけどな」

「え? そんなところありましたか?」

「大森林の大きな湖だよ」

「そのあたりもちゃんと見てたんですね。取っておけばよかったじゃないですか」

「見つけた場所がちょい深くてな、濡れるのはごめんだったから」

「ちなみにこのあたりだとどこで栽培実験するつもりですか?」

「墓場の池」

「うわーいろいろと問題でそう」

「まぁ流石に不味いってのは俺にも解る」

「ウチのそこのため池じゃ育たないですか?」

「……無理、じゃないか?」

「育ったとしても味はお察しでしょうね」

「マリーさんの例のポーション投げ込んでみたら?」

「どちらにしても水が湧いてるわけではないので厳しいかと。上級ポーションの素材は別のを当たりましょう」


 行けそうで行けなさそうなポーション素材の話にひと段落を付けているうちに、アーシアは草魔石で育った薬草を口にくわえながら、うらやましそうにつぶやいた。


「私の畑全部がこれと同じくらいになったらいいのになぁ」

「すぐには無理ですが、そのうちアーシアちゃんに草魔石と同じような効果をもたらすポーションの作り方を教えてあげますよ」

「ホントですか!?」

「はい。ただ、土魔石と水魔石をそれなりに買う必要が出てくるので、普通のポーションをちゃんと作れるようになって、魔石のそれなりを支払えるくらいに稼げるようになってからですね。

 それまでは地道な努力で行くしかないですね」

「先は長そうだなぁ。楽しいからいいけど」


 そういって薬草をくわえてメモを整理するアーシアを見ながら、多分ひと月かふた月位先ですけどね、とマリーは内心でほほ笑んだ。


「さて。では味も調べ終わりましたし、アーシアちゃんのメモの整理が終わったら、この薬草を使ってポーションを作りましょう」

「今日は習った均一化を頑張ります!」


 薬草のざるを抱え、気合いを入れ奮起するアーシアに付いてマリーは錬金術道具が置かれている小屋へと向かって行った。

 ウェイトリーはしばし、屋外に出したテーブルの椅子に座って、携帯食をもそもそと食べて一息ついたあとに、テーブルとイスを片付けて同じく小屋へと続くのであった。

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