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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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045 幽霊系冒険者と試験の話

「はい、確認しました。二品とも優良品ですね」

「あの森、なかなかいい植生の森ですね。依頼品以外にもいろいろ取れて大満足でした」

「そうですね。この辺りではかなり有力な採取場所です。ヒナ草が少ないのが痛いところではありますが、それほど強力な魔物も居らず、初級相当の冒険者の皆さんもよく通われていますよ」

「あぁ、見かけましたよ。頑張ってましたね」

「なにか話されたりしたんですか?」

「いや、なにも。あっちがこっちに気づかなかったので、こっちも特に話しかけずにって感じですね」

「そうですか。では冒険者証をお預かりします」


 採取の成果を報告し、報酬の受け取りとギルドカードに依頼完了の処理をしてもらう。

 

「そういえば、なにか魔物を倒されたりはしなかったんですか?」

「んー、魔物にも気づかれませんでしたね。だから特には」

「魔物にも? そうですか。探索と偵察と採取が得意と書かれていたのは本当だったんですね。

 あの墓地で呼んでいたスケルトンを見て、戦闘の方が得意なのだと思っていました」

「どちらかと言われれば探索の方が得意というだけで、戦闘も別に不得意ではないですよ」

「そのようですね」

「じゃぁ俺はこれで。多分明日も依頼をやりに来ると思うのでよろしくお願いします」

「はい。ではまたお越しください」


 簡単な挨拶を終えて、ウェイトリーはギルドから去っていった。

 

 それからしばらくして、ギルドに三人の年若い冒険者たちがやってきた。

 その冒険者たちは、服がところどころ破れており、何か激しい戦闘にでもあったのかという風体ではあるが、目立った怪我はしていないようであった。

 唯一、杖を持つ冒険者が足の辺りに血の跡があったが、それも綺麗に治っており、適切な治療がなされたのがうかがえた。

 

 その冒険者たちはエリナ職員がいる受付とは違う受付のなじみの受付職員へと話しかけ、森であったことを分かる範囲でできるだけ説明していた。

 話を聞いていた受付職員は何を言われているのかイマイチわからなかったが、もしかすると森で異変があったのではないかとの危惧し、冒険者たちには気取られないようにしつつ、ギルドの方で調べてみるので今日はゆっくりと休むようにと言い聞かせ、冒険者たちを帰らせた。

 

 そして受付職員が話しかけたのはエリナ職員であった。


「エリナ先輩、ちょっといいですか?」

「どうしました?」

「実は、私がよく担当する冒険者の子たちが、森でゴブリンに囲まれて危ない目に遭ったというんですが、どういうわけか、冒険者たちを囲んでいたゴブリンが急に倒れたと思ったら、すべてのゴブリンが額に穴を開けて死んだそうなんです。

 それから、これはちょっと眉唾なんですが、魔術師の冒険者の子が結構大きな怪我で足を負傷して動けなかったらしいのですが、ゴブリンが倒れたと思ったら瞬く間に足が治ったそうなんです。

 ……コレ、どうしたらいいですかね?」

「その冒険者たちは、ほかに誰か見ていないんですか? 今日はあの森にその冒険者たちを除いて少なくとも五組は入っていたはずですが」

「誰も見てないし会ってないそうです。一応周りの足跡や痕跡なんかもわかる限りは調べたらしいのですが、何もなかったそうです」

「……ゴブリンの額に空いた穴というのは、何かが刺さっていたんですか?」

「いえ、それも何もなかったそうです。ただぽっかりと穴が開いて、そこから血が流れていたそうです」


 エリナ職員からすれば、間違いなくウェイトリーだと確信していたのだが、後輩の受付職員はなにか不気味なことが起こっているんじゃないかと、ありもしないことを口にした。

 

「……なんか、新しい幽霊とかじゃないですよね? そりゃまだ新米の冒険者の確認能力ですけど、足跡も何も見つけられなかったっていうのも不気味ですし」

「……あの人なら足がないと言われても、いまさら驚かないかもしれませんね」

「え? なにか心当たりがあるんですか?」

「例の灰色コートと魔女帽子の二人組の、灰色コートの方ですよ」

「あぁあの! 間違いないんですか?」

「十中八九は。明日も来ると伺っていますので、本人に聞いてみましょう」

「お願いします。いやぁ、新しい幽霊とか魔物じゃなくてよかったですよ。

 もし、その冒険者さんが助けてくれていたのであればお礼を伝えておいてください」


 そういって自分の席に戻っていった後輩を見送り、自分の席へと向き直ったエリナ職員は、しばしの間、ウェイトリーのことを考えていた。

 

 態度はよく驕らず謙虚、いたって常識的で勤勉。

 表情はほとんどなく真顔、たまにする表情は苦笑が多いだろうか。そのくせ話せば何のことのない軽口をいうことも多く、マリーと話してるときは特にそうだ。

 能力はおそらく想像しているよりもはるか数段以上高く、ともすれば最上位冒険者にすら届く可能性。

 殺人に対する強い忌避感。ともすれば自身よりも他者の命を優先しかねない気配を感じる。

 しかし、誰よりも生と死に寄り添うというデッドマスターという未知の存在。所謂ネクロマンサーとは何かが大きく違う、倫理観、或いは生死観を持つ存在。

 甘くお人よしでふらふらとした昼行燈のように感じるその在り方が、されどブレて見えないのはその『デッドマスター』というものが心臓になってるように思えてならない。


 そこまで考えたエリナ職員は、今想像できるのはこの辺りが限界だろうと見切りをつけた。

 

 多く冒険者を見てきたその目をもってしても、まだ納得のいく評価を下せそうにはなかった。

 

 

 

 その日の夜、アーシアの下から帰ってきたマリーが作った夕食を食べ終え、ウェイトリーは試験の内容の話をした。

 

「試験はそういう感じですか。護衛でどこかまで行くのは今はちょっとよくないですね。

 アーシアちゃんの教育が始まったばかりといっても過言ではないですし、まだわからないことが多い状態で基礎練習だけを言い渡して数日間を開けるというのはあまりにもつまらないでしょうし」

「今が楽しい時期だろうしな。それに大概は素材が無駄になるだけで終わるだろうけど、錬金術道具をおきっぱにしてるのも気になるし」

「ですね。危険物を混ぜて妙なものができてしまわないとも限りませんからね」

「でもまぁ俺はどれでもいいよ。マリーさんが対人戦闘に自信がないなら三つ目を受けてもいいし」

「流石に主さまや、他のプレイヤー上位勢クラスと渡り合うのは、全力が出せないと難しいと思いますが、中級冒険者程度の実力であれば、問題はないかと」

「ま、だろうね。……本気のマリーさんは俺も無理かも」

「本気の主さまならそのようなことは全く無いと思いますよ」

「お世辞でもうれしいよ」

「そんなつもりはありませんが」

「まぁそれはいい。しかし生活魔法だけで勝つのは難しいんじゃないか? 無理ではないかもしれないけど」

「そうですね。無理ではないかもしれませんが、いかんせん生活魔法レベルだと魔法抵抗力が高い装備で簡単に弾かれますからね。

 殺す気で行くなら話は別ですが」

「そりゃいかんでしょ。ルール的にも倫理的にも」

「もちろん心得ていますよ。魔石も基本的に制限がなくなりましたし、この機会によさそうなポーションをいくらか作っておきますかね。

 いやー出力不足で足りない魔力を魔石で補えるのでかなり楽ですねぇ」

「そういうことになるかなと思って、毒草含めいろいろと拾ってきたよ。アーシアも基礎練ばっかりじゃ嫌だろうし、一般的な傷薬だの咳止め、胃腸薬を作れるようなもんとか、それらと組み合わせていろいろできそうな素材とかをもろもろ拾ってきたぞ」


 そういってウェイトリーはカード化していた森の採取カゴを発動して、マリーの前へと置いた。

 どれどれ、といったように内容を確認するマリーはそのバラエティーの豊富さとチョイスの良さ、それから当然のように優れた品質と状態の良さに大層喜んだ。


「流石は主さまです! いやー持つべきものは採取能力ガチつよの主さまですね!」

「今日は採取依頼だったからな。ついでもあったが森の確認もしておきたかったからちょうどよかったよ」

「おっ? おお! これってトマミブにケミギクイじゃないですか。ちょうどほしいと思ってたところなんですよ!」

「そうなの?」

「これを組み合わせれば魔石を調整するのに使えそうだなと考えていたところだったんですよ」

「……あんまり悪さするなよ」

「悪さはしてませんよ。おや、随分とイセチヨモギがありますね。アーシアちゃんの練習にはこれを使いますか」

「それが今日の採取対象だったんだけど、もうびっくりするぐらい山盛り生えてたからな。

 不人気依頼らしいんだが、あんだけ生えてりゃ結構簡単だと思うんだが」


 不人気の理由までは聞かなかったためウェイトリーは知らなかったが、森の南側の群生地は、街から最も遠く、魔物密度が相応に高いのだ。

 中級冒険者なら難なくたどり着けるだろうが、新人や初級冒険者だとやや辛い位置であるため、人気がなかった。

 地形の不利に左右されず、魔物に全く感知されないウェイトリーがそれを知る由はなかった。


「あぁそうだ忘れてた。なんかに使えるかと思って、森に生えてた質のいい薬草をプランターに植え替えて持ってきたぞ。

 土も森のものを使ったからある程度は持つと思う」

「おおー、なんという気配り。そういうところがおつかいマスターのなせる業ですね」

「誰がおつかいマスターだ、誰が」


 机の上に三枚の薬草プランターの資材カードを並べながらウェイトリーはツッコんだ。

 一通りの内容を確認して大満足といった表情のマリーは、それらを資材カードに変えてほしい旨を伝えつつ、ウェイトリーの明日の予定を聞いた。


「主さまは明日はどうされるんですか?」

「明日も依頼に行くつもりだが、なんかあったか?」

「いえ特には。ですが、何かを作るのであれば詳しく内容を確認できる方がアーシアちゃんもやる気が出るかと思ったので」

「あぁそうか。それなら明後日以降はいっしょに行くよ。明日はエリナさんに依頼に行くから何かお願いしますって言っちゃったし」

「わかりました」

「というかさ、別にマリーさんも鑑定は使えるんじゃ?」

「なんというか、主さまと私ではどうにもその質が違うと言いますか。

 厳密にはわからないんですけど、知識系のスキルの差や、もしかするとゲームのUIに慣れている影響なのかもしれません。

 私が使う鑑定だと、主さまが書き起こしたようには見えないんですよ」

「なるほどなぁ。ちなみにどんな風に見えてるわけ?」

「例えばポーションならポーション自体の効果や効果量、それに品質もわかりますね。どのような素材がどの程度の品質でどのような方法で作られたかがわかります。

 素材の方になると、どういった効能があるかやそれの運用方法や相性関係なんかが概ねわかるといった感じです」

「結構違うもんだな。ゲーム風の書き方は多分慣れとかの問題だが、内容の差はおそらく実際にそれを自分で運用することが多いからかもな。

 錬金術元位とかの影響なのかもしれん」

「正直、主さまの表記方法はゲーム由来の書かれ方なので、元から人に見せるための表記法ですからね。

 誰かに見せるのであれば主さまの方が適していると思います」

「とか何とか言ってるけど、実は書き出すのがめんどくさいとかいう理由じゃないよな?」

「いやそんなことはありませんよ」

「ちなみに俺はそこそこめんどくさいと思ってる」

「諦めてください」

「主使いが荒いぞ」

「使い勝手がいいのが悪いんですよ」

「ひどい言い草だよまったく……」


 文句を言いつつも、粛々と採取物のカード化に取り掛かるウェイトリーを見ながら、そういうところなんですよねぇ、とマリーはしみじみとその光景を眺めていた。

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