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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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043 基礎練習と薬草検証準備

「なにしてんの?」


 アーシアが決意してから二日後。

 ウェイトリーは町で所要があったため午前は別行動し、マリーはアーシアのところに教育に来ていた。

 所要を済ませ、昼食になりそうなものを屋台で買いこんできたウェイトリーが見たものは、自分の目の前に出した水の球を、ゆっくりとだがぐるぐると回しているアーシアの姿であった。

 

「主さま。用事は終わったのですか?」

「あぁ。まぁほどほどにな。飯買ってきたよ」

「そろそろお昼ですね。アーシアちゃん、そろそろ休憩にしましょう」


 それを聞いたアーシアは水の球を薬草畑から離れた場所に流して、とぼとぼとやってきた。

 

「でなにしてたの?」

「均一化の基礎練習ですね。液体を使った魔力操作をするのが第一歩ですね」

「なるほどね? でもあれって鍋の中で回ってんの魔力だけだよな?」

「液体のように巡らせるイメージを固めるためですね。最初から魔力だけで回すと、よほどセンスが良くないと綺麗に回せないんですよ」

「へぇーそういうもんか」

「まぁこれはこれでやり過ぎれば、魔力だけを回せなくなって困ることもあるんですが、それは修正が効く方ですからね。いびつな回し方で慣れてしまう方が修正が難しいんですよ。

 いびつに回せば均一化にムラが出ますし、扱う魔力量によっては鍋が壊れますからね。

 頑丈な錬金釜なんかで無理やりやる錬金術師もいますが、普通に効率が悪いので」

「そういうのは三流だと」

「二流であろうが三流であろうが錬金術は究極的には作りたいものが作れればいいので、それができるのであればいいんですけどね。

 ですがあまり言うつもりはありませんけど、基礎が疎かな以上そう言わざるを得ないでしょうね」

「手厳しいな。でもポーション作りながらでもできるんじゃないのか? 実際に鍋の中でまわした方が結果が見えやすくてよさそうにも思うけど」

「薬草がもうないんですよね」

「あぁそういう」

「それと、主さまの言うことも一理ありますが、あの鍋の中だけで回す練習を積むと、鍋のサイズを変えたり、錬金釜に変えた時に調整が難しくなるので、なんだかんだ言って今のままの方が効率がいいんですよ」

「いろいろ考えてるのねー。流石は赤点請負人」

「いまさらですけど赤点請負人ってあんまりいいあだ名じゃないですよね。

 私が赤点取ってるみたいです」

「それは俺に言われてもな。でもわからんでもない」


 こちらにやってきたアーシアは何の話だろうかと聞いていたが、それを見たウェイトリーが先日言ったことを確認することにした。

 

「そういや少女よ。錬金術をやることを親に報告したのか?」

「え? あぁはい、しましたよ」

「親は何だって?」

「タダで教えてもらえるんなら好きにしていいって言ってました。

 元々から私がおばあちゃんから継いだ薬草畑をやっていたので、それがよくなって稼げるようになるならおばあちゃんも喜ぶだろうって。

 お金も、無理のない範囲なら出してくれるって言ってました」

「なんと理解のある親だ」

「農家の親御さんにしては珍しいですね。大体は家業の畑手伝いに駆り出されるものですが」

「もちろん忙しい時はちゃんと手伝いますよ? でもお父さんもおばあちゃんに薬草畑は大事って言われてたからじゃないかな?」

「なるほどなぁ」

「まぁお金のことは心配しなくていいですよ。アーシアちゃんが自分でポーションを作って稼いだお金でやりくりすればいいんですから」

「か、稼げますかね?」

「この間作った、魔石を増やして効能を上げたものであれば冒険者ギルドで買い取ってもらえると思いますよ。

 あれなら納品依頼としてこなせば二十本で四万から四万五千ドラグといったくらいじゃないでしょうか」

「それって稼げてるんですか?」

「あの魔石八個の奴だろ? それならアーシアの薬草が十本で六百ドラグだが、これは自分で栽培するから実質ゼロで、魔石が……、八個くらいだと十か十五グラムくらいか? それならおよそ百五十ドラグくらいだな。

 あれで大体ポーション五本分くらいか。なら一回五本分で原価が百五十ドラグと考えれてそれが四回で六百ドラグだ。

 それに使い捨てのポーション瓶が一本百ドラグでニ十本の二千ドラグ。

 依頼一回分の単純原価が二千六百あたりか。これがもし四万ドラグで売れれば三万七千四百ドラグの儲けってところか」

「え? すごいじゃないですか!?」

「普通なら薬草の分の値段が乗って、一回分におよそ八百から九百ドラグ程度乗るはずだから、三千五百前後は下がるな。その分は得だな。まぁ自分で薬草を育ててる分の労力がかかってるが」

「それにこれは多分もっと詰めていける部分も多くありますしね。

 それはポーションの品質をあげることであったり、瓶の大量まとめ買いで安く売ってもらったり、薬草事体の質を上げることであったり、先日見せた濃縮ポーションで提出するであったりです」

「うわぁーお金たくさんですね!!」


 アーシアは正しくお金に目がくらんでいた。

 が、ハッとしたように表情が戻り、何かを考え始めた。


「どうしたんだ?」

「でも、あの魔石多めのポーションは味がちょっと」

「前から思ってたけど味のこだわりがすごいな君は」

「いやだって苦くてえぐいお薬ヤですよ。私はそこにはこだわりたいんです!」

「まぁ……、そこは君の努力次第だな少女よ」

「前から思ってたんですけど、ウェイトリーさんってなんで君とか少女とかって呼ぶんですか?」

「気分」

「キブン……?」

「主さまの言動は気にしない方がいいですよ。

 それよりアーシアちゃん。今錬金術の道具は全てアーシアちゃんの小屋に設置して預けていますが、あれの代金もちゃんといただきますのでほどほどに稼ぎましょうね」

「え゛っ。あれってどれくらいするんですか……?」

「サービス特価の五万ドラグです」

「よかった……。それなら今でもギリギリ払えそうです……」

「そういえば、私が薬草を買った利益で払えちゃいますね。じゃあ十万にしますか」

「増えたぁ!? でもあんなにすごいものが十万ドラグでいいんですか?」

「あれはある意味主さまが作ったみたいなものなので、別にかまいませんよ」

「えぇ!? ウェイトリーさんが作ったんですか!?」

「すごかろ?」

「めっちゃすごい!!」


 特にウェイトリーとしては何もしてないし、威張ることなど何もないただの端末機能なのだが、面白いので自分がすごいということにしておくことにした。


「ちなみに原価は一万五千ドラグだぞ」

「すっごいボッタクられてる!?」

「アーシアちゃん。普通は原価でものを売らないので、妥当な範囲ですよ。

 アーシアちゃんのポーションも原価で買い取られたら作るだけ損じゃないですか。それなら薬草で売った方が百倍マシです」

「そう言われればそうですね!」

「そもそも、あの錬金術師セットは到底十万じゃ買えませんよ。すり鉢とかはともかく、鍋だけでも二十万くらいしてもおかしくないんです。

 加熱版も同じくらいしてもおかしくないですし、まな板みたいに使ってましたけど錬成盤も結構すごいんですよ」

「十万ドラグ安い!」

「単純だなぁ。まぁそれくらいの方がいいんだろうけどさ」

「まずはアーシアちゃんはポーションを作る練習をしながらできの良いものを売って、その利益で錬金セット一式を自分で買ってもらいます。

 親御さんに頼ってはだめですよ? 錬金術師の第一歩と考えてください」

「わかりました!」

「それから畑の改良もしなければいけませんね」

「薬草の質が上がればその分ポーションの質も上がるからな」

「高く売れるんですね!」

「それもありますけど、薬効が高まれば一度に必要な量を減らせる工夫ができるようになります。

 それに位の高いポーションを作るなら品質も大事ですし、他の材料もいりますからね。

 可能なら自分の畑で上級ポーションまで作れるのが理想ですね」

「上級ポーションって作れるんですか!?」

「そりゃ作れますよ」


 アーシアにとってあまりのすごさに、そんなの作っちゃったらどうなっちゃうんだろう? という考えで、アーシアは思考がどこかに飛び去ってしまった。

 ちょっとの間戻ってきそうにないのでウェイトリーは単純な疑問をマリーにぶつけた。


「上級の素材を畑で育てるのはかなり難しいんじゃないか?」

「その辺りはあくまでできたらの理想ですね。でも大量栽培は難しくてもプランターなどでの極小規模な栽培であれば何とかなる思いますよ。

 まぁ技術と経験がものを言う領域ですけどね。私はそこら辺の代替素材でなんとかしちゃうので楽なんですけどね」

「ナチュラルマウント」

「でもアーシアちゃんにもある程度は物性と薬効を覚えさせて代用ポーション製作や工夫と応用も覚えてもらいたいと思っていますけどね」

「それかアレだな。そこら辺の代用素材で育てやすいのを見つけて、それで上級ポーション用のレシピを固めるか、だな」

「それもいいかもしれませんが、決まり一辺倒の錬金術師は面白くありませんよ」

「面白さで言われてもなぁ……」


 術式元位錬金術師は格が違ったというわけだ。

 

 しばらくしてアーシアが上級ポーション御殿を立てる妄想から帰って来たのを見計らって、微妙に忘れかけていた昼食を取ることにした。



「今日はどの属性魔石が一番薬草に相性がいいのかを検証しましょう」

「わー!」


 昼食も終わり、本日の予定を発表したマリーにアーシアは元気よく反応した。

 反応はしてみたが、アーシアはイマイチ意味を理解していなかった。


「それでマリー先生、それってなんですか?」

「良く聞いてくれましたアーシアちゃん。前に薬草の薬効を高めるには魔力を与えるのが一番いいという話をしたのは覚えてますか?」

「覚えてますけど、魔力を与えるとマズくなりますよね?」

「そうですね。でも薬草は普通は魔力を吸った方がいいものになるんです。

 ということは薬草が好む魔力があるはずなんですよ」

「なるほどー。でもどうやって調べるんですか?」

「今回は十種類の魔石を用意してきました。これを使って検証してみましょう!」

「おー!」

「んで? 具体的にはどうやって検証するんだ?」

「それはですね―――」


 検証の仕方はこうであった。

 まず十種類を分けて育てられるように個別のプランターを用意する。

 そのプランターにそれぞれの魔石を砕いて混ぜ込んだ土を使う。

 そしてそこに薬草の株を植え替えて数日様子を見るといったものであった。

 用意された魔石は、無属性、火、風、光、闇、土、水、土と水の昇華属性の木、木属性に土の魔石を複合した仮称草属性、木属性に水の魔石を複合した仮称水草属性、の十属性である。

 今回の検証では魔石のままで使用した場合の効果を調べることとなる。


 本命は木か草属性だが、ついでだから他の属性も調べてしまおうという魂胆らしい。


「十のプランターってなると、なかなかの労力じゃないか?」

「頑張りましょう」

「マリー先生! そんなにプランターないです!」

「主さま、街へ行って買ってきたください。この際多めに二十とか三十くらいお願いします」

「マジで言ってんの? 先に言っといてよぉ……」


 そう愚痴りながらもウェイトリーはめんどくさそうに小走りで街へと戻っていった。


「ウェイトリーさん結構すぐ行ってくれるんですね」

「主さまはあれで、あんまりそういうのに頓着しないんですよ。というか“おつかい”慣れしてるといいますか」

「おつかい?」


 ゲーマーは誰しも、“どこどこであれを取ってこい”“あれを何個もってこい”といったクエストを少なからずこなしているものである。

 特にウェイトリーはマリーの個別イベントである『墓守術師マリーのおつかい』イベントを百回以上やっているし、それ以外のデッドマスター系のクエストやクラス外のものも、いっそ馬鹿みたいな数のクエストをやっている。

 そういったクエスト消化根性が染みついているため、この手のお願いは割とすぐ聞いてくれるのである。

 もちろん、ウェイトリーの性根がお願いを聞いてくれやすいというのももちろんあるのだが。


「今の間にプランターに使うための土を用意しておきたいのですが、それはどうですか?」

「それなら十分ありますよ!」

「じゃあプランターを置く場所なども決めておきましょう」



 三十分ほどして戻ってきたウェイトリーは、目当てのものを二十ほど買ってきていた。

 街の植木屋で扱っているプランターがそれだけしかなったのである。

 

「主さま、こちらにお願いします」

「あいよ」


 小屋の近くで、アーシアが元からやっていたプランター検証のすぐ近くに木製のプランターをだし、それを並べていく。

 並べておいてどれがどれか分からなくならないように、木炭でそれぞれのプランターに使う属性を書き込んだ。


 その文字を見て、アーシアはうーん、と首を捻っていた。


「マリー先生。無属性の魔石は別にしなくてもいいんじゃないかな? それに、火の魔石とかも相性悪そうに思うんですけど」

「でしょうね」

「でしょうねって……。ならやめた方がいいんじゃないですか? お金持ったいないと思いますけど。

 あと光の魔石とか闇の魔石はすごいもったいない気がします」

「いえいえ、アーシアちゃん。これは必要ですよ。確かに無属性の魔石を与えれば苦くなったりえぐくなったりするって言うのはわかってますけど、どれくらいでどの程度味が変わるのかや、実際に苦みが強いのかえぐみが強いのかというのを知るのも大事です」

「えぇー、そうかなぁ」

「それに、他の魔石との検証の差を調べるのにもいりますしね。

 例えば風の魔石と比べて苦みは薄いとかえぐみはマシとなったらそれは十分な検証結果になりますよ」

「そうなんですか? とてもそうは思えないんですけど」

「こういう知識の積み重ねは後々効いてくるものですから。具体例を上げるのは難しいですが、基礎研究は大事です」

「火の魔石もですか?」

「例えば火の魔石を撒いた場合、薬草が枯れてしまった、となったりすれば、いい成果じゃないですか」

「枯れたら意味ないじゃないですか!?」

「逆に考えてください。枯らす時に使えるかもしれませんし、そういう魔力は避けるべきというのが分かるじゃないですか」

「そんなことあるかな?」

「わかりません。でも知らないよりは知っていた方がいいと思いますよ。

 それにもしかしたら火の魔石を撒いた薬草は甘くなるかもしれませんよ?」

「ええ? そんなことあるかなぁ?」

「わからないから調べるんですよ」

「火の魔石だったらイメージ的に辛くなりそうだけどな」

「かもしれませんね」

「苦くてえぐくて辛い薬草って何に使うんですか……」

「苦くてえぐくならないで辛くなるなら、香辛料の代わりに使えるかもしれませんよ?」

「あー、それはいいかも」

「それに、錬金術には苦みとえぐみだけを除く方法もあるので、何かしら味が変わるなら儲けものですよ」

「なるほどー。そう言われたら意味ある気がしてきました」

「でしょう? じゃあ魔石を砕いて土に混ぜてプランターに移しましょう」


 その号令の下、それぞれに役割を分担して作業をこなしていった。



 作業が終わったのは陽も傾いた夕暮れ時であったが、それぞれのプランターにはアーシアの薬草がしっかりと植わり、それらに水をやれば本日の作業は終了となった。

 これらが十分に魔力を吸うには一週間といったところだろうか。


「なんか楽しみになってきました」

「そうですね」

「だなぁ。まぁ食べるのはアーシアに任せるから頑張れ」

「え゛っ」

「俺はシカ人間だから食べなくても味が分かるからな」

「まだ言ってるんですかそれ」

「ウェイトリーさんも食べるべきです!」

「不味いってわかってる薬草はやだよ」

「私は食べるんだからウェイトリーさんも食べるべきです」

「自分で食べるつもりなのは評価高いですね」

「マリー先生も食べるできです!」

「普通にいやです」

「私だけはやだぁぁぁぁぁぁ!」


 夕暮れに照らされたプランターを前にアーシアの悲痛な声とウェイトリーの平坦な声とマリーの楽しそうな声が響いていた。

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