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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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042 正しいレシピ

「さて、今のがレシピを何も気にせずに本当にテキトーに作ったポーションです」

「教えてくださいよレシピ……」

「それは今からです。ですがアーシアちゃん。今アーシアちゃんはほとんど自分でやったやり方でも、ものはともかくちゃんとポーションが作れたということはわかりましたか?」

「えっ? それは、そうですね……」

「つまり知識はないけど錬金術は出来た状態です。ならあとは知識をつければいいんですよ。簡単だと思いませんか?」

「言われてみればそうかも……」

「では次も材料は同じです。ですが私の言うとおりにやってみてください」

「はい!」

「まずは同じように鍋に水を張って火を入れてください。これはいっしょです」

「わかりました」


 先ほどと変わらず水を入れて加熱版のスイッチを入れる。

 

「次に薬草なんですが、今のままでは均一化が難しいので、できるだけ細かく切りましょう。ぐちゃぐちゃにならない程度にみじん切りにしてください」

「はい」


 ここからは先ほどと違い、薬草をできるだけ細かく刻んでいった。

 刻み具合を確認して、それで問題ないとしてマリーは次の指示を出した。

 

「では、次に魔石ですね。これはさっきよりも可能な限り細かく砂粒くらいに砕いてすりつぶしてください」

「了解です!」


 ちゃんとした指示にやる気が出てきたのか、ハキハキとした返事を返し、親の仇かのように魔石をすりつぶし始めた。

 いやこの場合は自分の仇かもしれないが。

 十分にすりつぶされたのを見てそれにオーケーをだし、次の工程に移る。

 

「じゃあまずは鍋に薬草だけを入れてかき混ぜでください。こぼれない程度に素早くでお願いします」


 言われたとおりに刻んだ薬草を投入して、水が溢れたりこぼれたりしないギリギリの速さで鍋をかき回していく。

 そうすると、同じように薬草の色が出て緑色になるが、薬草特有の臭いが先ほどよりもマシなように感じた。

 それを三分ほど行ったところで次の指示が出る。


「じゃあ魔石入れましょうか」

「……でもこれ入れるとマズくなるんじゃ」

「入れないとまともなポーションにならないので」

「はい……」


 あの強烈な味を思い出したのか、かなりいやそうな顔で魔石粉末を鍋へと投入した。


「じゃああとは、同じくらい速度で十分ほどですね。結構辛いと思いますが、頑張ってください」

「が、がんばります!」


 それから十分、ちゃんと休まずに鍋をかき回し続けたところで、鍋を覗いたマリーがポーションが完成したことを告げた。

 それを聞いて、額に汗を浮かべながらかき混ぜていた手を止めて、加熱版のスイッチを切った。

 

 流石に疲れたのか、そのまま座り込んだアーシアをよそに、マリーは出来上がったものをフラスコにとって、それを回すように振りながら確認して、一つ頷いた。

 そのまま試験管にポーションを注いで、フラスコの方をウェイトリーへと渡して関係結果を紙に書いてほしいと言ってきた。

 

「さぁアーシアちゃん。お疲れのところにポーションですよ」

「いやあの、ちょっとそれは……」

「いいからいいから。飲んでみてください」


 渡された試験管を手に、先ほどの味を思い出し絶望したような顔をするアーシアをニコニコとした顔で見るマリーさんは、なんだが極悪な魔女に見えてきたウェイトリーだが、渡されたフラスコを眺めれ見れば、その意味がよく分かった。

 

 勇気を振り絞り、決死の覚悟とも思える勢いで試験管をあおったアーシアは、強烈な青臭さと苦さとえぐさを覚悟したが、それらは舌先に少し感じた程度で、終ぞやってくることはなかった。

 あれ? という幻を見たかのような顔で、再度そのポーションを口にするが、同じく不味くはなかった。

 そこにウェイトリーが鑑定結果の紙を持ってきてアーシアに渡した。


――――――――――――――――――――――――――

 下級ポーション+3 品質4 UC


 [HP回復:小+3]


 詳細

 薬効の薄い薬草から作られたポーション

 均一化がやや不十分なため 薬草の繊維などが若干残っている

 本来の薬草の味が良いため 味はそれほど悪くない

――――――――――――――――――――――――――


 その紙を食い入るように眺めるアーシアは、あれだけでここまで違うのかという思いでいっぱいだった。

 そして、この効果が本当ならば、このポーションは普通に売り物になるレベルのものであるというのも理解できたのだ。


「錬金術ってこんな感じ、というのはわかっていただけましたか?」


 ニコニコというマリーにアーシアは、闇の中で光を見つけたようなキラキラとした顔でマリーに言った。


「錬金術ってすごい!」

「そうでしょうそうでしょう」

「もっと作れますか!?」

「今のアーシアちゃんなら混ぜる体力がある限りは大丈夫でしょう。次はちょっとしたアレンジもしてみましょう」


 そして続いたレシピは、薬草と一緒にハーブや果物を入れて風味をつけてみたり、魔石の量を調節して効能を上げられないか試してみたり、最後には実家で育てているジャガイモを入れてみたりと、鍋を混ぜ疲れてクタクタになるまでやっていた。

 できたものはこんなものであった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 下級ポーション+3 品質4 UC


 [HP回復:小+3][目覚まし]


 詳細

 薬効の薄い薬草から作られたポーション

 均一化がやや不十分なため 薬草の繊維などが若干残っている

 ほんのりとミントの風味があり さわやかな味わい

――――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――――

 下級ポーション+3 品質5 UC


 [HP回復:小+3]


 詳細

 薬効の薄い薬草から作られたポーション

 均一化がやや不十分なため 薬草の繊維などが若干残っている

 ほんのりとリンゴの風味があり やや甘く飲みやすい

――――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――――

 下級ポーション+5 品質4 UC


 [HP回復:小+5]


 詳細

 薬効の薄い薬草から作られたポーション

 均一化がやや不十分なため 薬草の繊維などが若干残っている

 本来の薬草の味が良いため 味はそれほど悪くないが

 効果向上に比例して苦みとえぐみが増している

――――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――――

 下級ポーション+2 品質5 UC


 [HP回復:小+3][スタミナ回復:微小]


 詳細

 薬効の薄い薬草から作られたポーション

 均一化がやや不十分なため 薬草やジャガイモの繊維などが若干残っている

 空腹が少し紛れ スタミナがやや回復する

――――――――――――――――――――――――――


 

 マリーは逐一、どうすればよさそうかなどをアーシアと話し合い、ウェイトリーは鑑定結果を紙に書く仕事に徹した。


 流石にもうクタクタで疲れていたアーシアに、マリーが最後の一回分の薬草を用意して言った。

 

「ここまではまぁ多少違う部分はありますが、所謂普通の錬金術です」

「普通、ですか?」

「なので最後に、アーシアちゃんが目指してもらう『私の錬金術』をお見せしますね?」


 そういってマリーは、指を一振りして鍋の水を満たし、加熱版の火を入れた。

 そして、薬草を五、六センチ大に刻み、魔石を適当な荒さに砕いた。

 薬草を鍋に投入してかき混ぜ棒を適当に回しながら教えていない技術を口にした。


「もう主さまの鑑定結果で何度か見ていると思いますが、これが均一化です」


 そういってゆっくりと鍋をかき混ぜながらも、鍋の中にはマリーの魔力が渦巻いて、鍋の中を巡っていく。

 それにより、薬草は早々に形が崩れ、溶けだし、魔力水に混ざり合った。

 それまでにかかった時間はずいぶんと短く、アーシアが三分ほどかき混ぜていたのに対して、三十秒ほどだっただろうか。

 

 それを確認して魔石をその鍋へと流し込み、また鍋をゆっくりとかき混ぜる。

 だが、鍋の中は先ほどよりも渦巻く魔力が増し、その速度も速くなっていた。

 

「そしてこれが濃縮です」

 

 ウェイトリーからすれば見慣れたものであったが、アーシアはそれが何が起こっているのか分からなかった。

 だが、わからないなりにもアーシアは魔力がぐるぐる渦を巻いているといのをちゃんと理解できていた。なにせ、自分があれだけ気合いを入れて混ぜ続けたのだから、そのようになっているというのは直観的に解ったのである。


 水かさはぐんぐんと減っていき、気づけば、鍋の底に残っていたのはフラスコ一杯分のポーションであった。


 出来上がったものをフラスコに取り、アーシアに渡す。

 アーシアにはそれが具体的にどれほど違うのかはわからなかったが、それでも、深く濃い色の透き通った深緑色をしたポーションが、まるで宝物のように美しく見えたのであった。

 

 それを見たウェイトリーはメモ紙に鑑定結果を書き出した。

 

――――――――――――――――――――――――――

 下級濃縮10倍ポーション+10 品質10 R


 [HP回復:小+10][品質低下無効]


 詳細

 下級効果のポーションで換算して10倍の濃度を持つポーション

 これを綺麗な水で10倍で薄めることにより

 濃縮状態ではない上記効果を持つポーションに変化する

 また魔力水で薄める場合 同じ効果のまま15倍まで薄めることが可能

 さらに綺麗な水で15倍 魔力水で20倍に薄めることで

 付属効果は同じで回復効果を+5まで落とすことができる

 これ以上に薄める場合 付属効果は失われ回復効果が大幅に低下する


 補足として

 薄めずに飲んでも下級ポーションの10倍の効果はなく 回復量は同量である

――――――――――――――――――――――――――


「まぁ薬草栽培とか畑の改造も一緒にやることになるだろうから、すぐには難しいだろうしけど、今日のアーシアを見てるとこれくらいはできるようになると思うぞ」


 そういって鑑定結果をアーシアへと渡せば、信じられないものを見たと言わんばかりの顔でメモとマリーの顔を交互に見ていた。

 

「そのポーションはアーシアちゃんにあげます。見本にでもしてください」


 やがてこれが本当なのだと、じっくりと理解が及べば、今度は真剣な表情になってアーシアは宣言した。


「私、錬金術がんばります!」


 こうして、イモ農家の少女が一人、錬金術の魅力に取り憑かれたのであった。

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