041 初めてのポーションクラフト
午前中にポーションを作り、それから冒険者ギルドへ行ってそれを納品して対価を受け取り、雑談程度でエリナ職員へと、ポーション関係の商会か商業ギルドかの男がポーションの出所を探っており、その件についてウェイトリー達に話を聞きに来たことを伝えておいた。
エリナ職員は、男の特徴などを詳しく聞いてギルドマスターへと報告しておくので何かあればまた相談してほしいと告げた。
二人は薬草の補充の関係で次の納品が可能になるであろう時期などを相談した後、挨拶を済ませてギルドを出た。
それから一度屋台広場で昼食を済ませた後、そのままの足でアーシアの家へと向かった。
昨日となんら変わらぬ風景の中、奥の畑にアーシアの姿を確認し、二人はアーシアへと声をかけた。
「精が出るなぁ少女よ」
「あっ! 死霊なんたら師のおにーさんに魔術師のおねーさん!」
「昨日ぶりですアーシアちゃん」
「なにかいい方法が思いついたんですか!?」
ワクワクといった風に期待のまなざしを向けるアーシアに、昨日の会議でまとめた提案をアーシアに話すことにした。
最初はワクワクと聞いていたアーシアだったが、急に自分がポーションに特化した錬金術師になってみないかという話へとなり、その話が終わるころにはハトが豆鉄砲を喰らったような顔になっていた。
「わ、私が錬金術師に……?」
「なる気はありませんか?」
「そのー、おばあちゃんに薬の作り方とか水の出し方とかは教えてもらったけど、錬金術なんてできるのかな……」
「できるかできないかで言えばできますよ。もちろん覚えることも勉強することもたくさんありますけど、素養に関しては十分あると見ています」
「その勉強って難しいんじゃ……」
「まぁものによりますね。どれもこれも簡単ではありませんね」
「私にできるのかな……」
不安げに考え込んでしまったアーシアにウェイトリーは何でもないように口を開いた。
「この際難しいとか覚えられるかとかは抜きにして、アーシアは錬金術って使ってみたいか?」
「それは使ってみたいです! だってだってなんだかおもしろそうだし、薬草をもっとよくできるんですよね?
それにその薬草を使ってポーションを作れば薬草のまま売るより稼げそうですし!」
「お金困ってるようには見えないけど」
「おさがりの服もお菓子の取り合いもしなくてよくなるからお金好きです!
それにおばぁちゃんがお金はいくらあっても困らないから稼げるときに稼げって言ってました!」
「ホントすげーばぁちゃんだな」
「ならアーシアちゃん。錬金術師になって稼ぎましょう。錬金術師は儲かりますよ。なにせ今日私は白金貨と同じ額を稼いできましたからね!」
「は、はっきんか……。白金貨ってなんドラグですか……?」
「一千万ドラグだな。今のアーシアの薬草で約三万三千本分。昨日買った分の薬草をあと……五十八回分だな」
「年月に換算すると、このままの薬草畑のおよそ四年分の薬草ですね」
「すごぉ……」
ニコニコしながら言うマリーを見て、ウェイトリーはなんかいたいけな少女をだまくらかして錬金術を覚えさせようとしてるような気がしてきて、ちょっといたたまれなくなってきていた。
錬金術師が皆、マリー程稼げるわけなんてないだろうから、嘘こそ言ってなくとも迂遠に勘違いさせて騙そうとしているように思えてならない。
いやしかし、マリーが教育した錬金術師なら結構稼ぐかもなぁ、とウェイトリーは思い直し、あまり気にしないようにした。
誓って悪事は、働いていない。
「まぁアーシアにやってみたいという意思があるなら、勉強の難しさはさておき挑戦してみるのはいいんじゃないか?
今回はこっちの事情もいくらかあるから道具なんかもこっちで用意するからさ」
「そう……ですね! むしろここで頷かないってのが一番もったいないですよね!」
「そうですよ。それにどうしても無理で諦めるのもそれはそれでかまいませんし」
「じゃあやります! やってみたいです!」
元気よくそう宣言するアーシアを見ながら、ウェイトリーは昨日の会議が無駄にならなくてよかったなぁ、としみじみと目を細めていた。
「では早速錬金術をやってみましょう!」
「え、今からですか? どこかに行くんですか?」
「主さま購入お願いできますか」
「あいよ」
マリーが普段使っているものは家に簡易工房を展開した状態で据え付けているので、アーシアが使う分として設備は必要であった。
無論、家に連れて行ってもいいといえばいいが、正直なところ、一万五千ドラグで買えてしまうのだから買った方が楽である。
もし最終的にアーシアが錬金術をやらないとしても、ウェイトリーも錬金術を使うことがあるので別に腐りはしないという判断の下、スターターパックの『初級錬金術パック』をウェイトリーは購入した。
「どこに出そうか」
「とりあえず目の前の地面でよろしいかと」
「まぁ別に机とかはなくてもいいか」
言われたとおりにまずはフィールドセット『簡易工房』を展開してから、フラスコセット、試験管セット、薬研、すり鉢とすりこ木、加熱版、初級錬成盤、錬金鍋大、ポーション瓶を全て展開した。
フィールドセット『簡易工房』は『野営地』に近い効果を持つカードで、その範囲内にある道具や物品をまとめて格納・展開できる生産者用のカードである。それに加えて成果物の品質や効能を多少向上させ、失敗率を下げるという効果がある。
アーシアは次々とものが出てきては設置されていく光景を終始あっけにとられた様子でポカンと見ていた。
「じゃあアーシアちゃん。早速やってみましょう」
「ここで見せてもらえるんですね!」
「アーシアちゃんがやるんですよ」
「えぇ!? いや私なにもしらないんだけど!」
「まぁまぁそこはちゃんと教えますから、言うとおりにやってみてください。今回使う材料は、アーシアちゃんの薬草十本と小さい無属性魔石五個です」
「それでポーションができるんですか?」
「できますよ。やってみましょう。じゃあまずはこの錬金鍋の半分くらいまで魔法で水を出してください」
「わ、わかりました」
加熱版の上に載った寸胴鍋のような錬金鍋にアーシアは生活水魔法で水を満たしていく。
言われたくらいの水かさになったところで水を出すのをやめ、マリーの指示の下、加熱版のスイッチを入れ、水を温め始めた。
「主さま、ナイフを貸してください」
腰に差している解体用のナイフを渡して、マリーはそれを使って薬草を適当な大きさに切るようにと指示を出した。
「適当? テキトーってどれくらいですか?」
「いいと思うように切ってみてください」
「えぇ!? そんなのわかんないよ……、よ、よし、じゃあこれくらいで」
アーシアはわからないながらも五、六センチ大のざく切りにしたようだ。
「はい。じゃあ今度はこのすり鉢とすりこ木でこの魔石を適当に砕いてください」
「また適当……。大丈夫なんですか?」
「それはやってみないとわからないですね。でも大丈夫大丈夫」
「えぇ……」
不安しかないといった風にアーシアは魔石を砕き始めた。
元からそれほどの大きさではない魔石を、荒い粉末程度に砕いたことで、一応こんなものかなといったように手を止めた。
「いいですね。じゃあ水が沸いてきているので、切った薬草と砕いた魔石を順番に入れましょう」
「えーっと、一緒に入れればいいんですか?」
「さぁどうでしょう?」
「なんで教えてくれないんですか……」
「挑戦が大事ですよアーシアちゃん」
ファイト! というように両手をグッと握って言うマリーに、もうどうにでもなれ―とアーシアは薬草も魔石もまとめて鍋へと放り込んだ。
そうすると、薬草の色が出てきたのか水は瞬く間に緑色へと変わり、薬草を煮た時特有の臭いが立ち込めた。
しかし、そこはアーシアの薬草のおかげか。臭いはするがそれほどキツイ臭いではなかったのは幸いだったかもしれない。
「じゃああとはお鍋をぐるぐるーっとかき混ぜてください。これはこぼれて火傷しないように注意してくださいね」
「はい!」
「普通の水より早めに水かさが減るので、減るのが止まったら完成です。それまでぐるぐるしてください。よさそうだなと思ったら火を止めてくださいね」
「わかりました!」
それから五分、十分とした頃に、水かさの減りが収まったようでアーシアは手を止めて、加熱版のスイッチを切った。
言われたことを言われたとおりにやっては見たものの、本当にこんなのでいいのだろうかと不安しかないアーシアは、どうしたものかなぁ、と伺うようにマリーへ声をかけた。
「あの、多分できたと思うんですけど……」
「はいはい。見てみましょう」
鍋の中には薄い緑色をした液体が、ポーション瓶にして十本分ほど出来上がっていた。
それをマリーがフラスコへと移して、じっくりと見た後、ウェイトリーへと差し出してきた。
「主さま、鑑定結果を紙に書いていただけますか?」
「あぁ、了解」
そのポーションの内容はこんなものであった。
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下級ポーション 品質1 C
[HP回復:小]
詳細
薬効の薄い薬草から作られた質の低いポーション
均一化が不十分なため 薬草の繊維などが残っている
低い薬効を無属性魔石で補ったため ひどい味がする
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「はいこれ」
内容を書き出したメモをマリーへと渡し、それを満足げに眺めたマリーはそれをアーシアへと見せた。
それを見たアーシアは、呆然とした顔でマリーの顔を見上げていた。
「じゃあアーシアちゃん。飲みましょうか。このポーション」
「え゛っ」
「大丈夫ですよ。不味いだけでちゃんとポーションですから」
「いやでも……」
「次があるので早めに飲みましょうね」
そういってフラスコの中身を一本の試験管に注ぎ、それをアーシアに渡した。フラスコに残ったものを鍋に戻して、鍋に残っているポーションを取り出した木桶に移し替えていた。
我関せずで鍋の準備をするマリーに見切りをつけ、涙目でウェイトリーを見るアーシアに目を閉じて静かに首を振って答え、諦めと虚無の顔となったアーシアは一思いに試験管のポーションを飲み干した。
「オエェェェ……」
「普通にかわいそう」
手を地面について、口を押えるアーシアに、ウェイトリーは携帯食ばかり食べるために残りがちな水をのボトルを開けてアーシアに渡す。
それを勢いよく飲み干した涙目のアーシアに同情の視線を送るウェイトリーであった。
「飲みましたね? じゃあ次行きますよアーシアちゃん」
「わたしれんきんじゅつむりかも……」
「何言ってるんですか。今のはお試しですよ。ここからが本番です」
「うぅ……」
そういって綺麗にした錬金鍋の方へと手招きするマリーに渋々といったように、向かうアーシアを見て、根性あるなぁ、とウェイトリーは人ごとのように見ていた。
次回更新は3月1日です。




