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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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040 ブレイクスルー

「しかしだな。直径二十センチって、そんなデカイ魔石あるか? シカの魔石が五、六センチってとこだったが」

「まぁなかなかないでしょうね」

「結局ダメやんけ」

「そんな主さまに魔石研究のブレイクスルーをお見せしましょう」


 そういってマリーは右掌を広げて、その上に魔力を渦巻かせた。

 その総量としては生活魔法程度のもので、属性は火であった。

 マッチファイアでも発動するのかとその様子を眺めていれば、その魔力が魔術として結実することはなく、そのまま掌の上で渦巻かせたまま、その渦を少しずつ小さくしていった。

 そしてそれが五分ほど続いた頃に、その渦の中には小さな爪の先ほどの赤い結晶が生まれ、それを確認してマリーは魔力の行使をやめた。

 

 そしてその小さな赤い結晶をウェイトリーに差し出しながら言った。

 

「これが魔石研究のブレイクスルーです」


 その結晶を受け取り、じっくりと観察したウェイトリーにはそれが、サイズこそ小さいが非常に高純度かつ高密度の火の魔石であることを確認した。


「……やりやがったな」

「大体からして、ほどけるならその魔力はどこにいったんだって話だったんですよ。

 なんのことはない無害な属性魔力として空気中に霧散するだけでした。

 それなら私でも用意できますし、空気中にある程度満ちてるんですよ。

 そして、ほどけるのであれば結ぶことも不可能じゃないはずです。現に魔物はそれを体内で結んでいるんですから。

 なら空気中の魔力と私の魔力を調整して結べば、どんな魔石も自由自在ですね?」

「これ絶対人に言ったら不味いよな?」

「断言します。百パー不味いです」

「なら黙ってよう」

「ですね」


 少し考え込んだウェイトリーは話を整理するべくできることを確かめることにした。


「……んで? これどこまで大きくできるんだ?」

「理論上はどこまでも大きくできますよ。途中でやめても再開できますし形も結構自由自在です」

「なるほど? こりゃぁ魔石屋でご入用になることはもうなさそうだな」

「いえ、そんなことはありませんよ。

 全部自分で作るよりあるものをバラしてまとめた方が断然楽で早いですから。火属性魔石ならまとめて買ってきて錬金鍋でぐるぐるーってしてまとめた方が断然楽ですよ。

 まぁ高純度かつ高密度の魔石は自分で用意できるので、お店でいいものを買う必要は一切なくなりましたが。

 むしろ作った魔石を魔石屋に持って行って安い魔石を買い占めるのが―――」

「やめろやめろ!」

「まぁしませんよそんなこと。単純に面倒ですし。

 何はともあれ、手段を問わないのであればこの方法で適した魔力の魔石を作って刻印すれば万事解決ですね」

「そう……だな」

「まだ何か気になることが? この魔石を使うのに抵抗が?」

「いやそれは別に。誰も作れるなんて思わんだろうから乱発しなきゃ一品ものでごまかせるだろうし」

「ならなんですか?」


 イマイチ歯切れの悪いウェイトリーにマリーは何が気にかかるかと問いかける。

 しばらく黙って考え込んだウェイトリーは考えがまとまったのかそれを話す。

 

「なぁマリーさんや」

「なんですか」

「いっそのこと、アーシアをこの街の住民中最強のポーションクラフターに改造しないか?」

「はい?」

「商人連中の話って、元を質せばこの街がポーションを得ずらい状況なのが原因なんだろ?

 だった現地の人間で作れる人を用意するのが一番の解決策になるはずだ」

「それはそうですね。自活できないから他所から買う必要があるわけですし。

 でもそれならちゃんとしたポーションの仕入れルートを確率するでも解決しそうですが。どこだって何かしらの物資で似たようなことをしてるわけですし」

「商業ギルドが怪しいのもある」

「うーむ。でも何が来ても大概は自分で対応できる私達ならともかく、アーシアちゃんがポーションを作れるようになったら面倒ごとがそっちに行きませんか?

 それともそういう人間を複数作るんですか?」

「それなんだが、今しがたいい手札ができたおかげで、チャンスがあれば簡単に解決する方法がある」

「なるほど?」

「それにアーシアはかなりの適任者だ。自分で味が良くて質の良い薬草を作る努力をしているし、向上心もある。

 生活魔法とは名ばかりなほぼ水魔法を扱える程度の魔力もあるし、ポーション関係の錬金術師にするならなかなかいない人材だと思わないか?」

「確かに。知る範囲では最高の人材ですね」

「もちろんアーシアの意志次第ではあるけどな」

「街からしても私達からしても、いいことだと思いますが、どうしてまたそんなことを?」


 その話に理解を示すも、なぜそんなことを言い出したのかとマリーはウェイトリーに問いかける。


「理由はいくつかあるけど、一番は、アーシアの畑を俺たちが魔改造して、なんかわからんけど質のいい薬草が勝手に育つようになった。

 で終わるのはなんか不健全な気がしないか?」

「それは確かにそうですね。正直に言えば、薬草用の刻印魔石を一つ渡して終わりにするのはアーシアちゃんの努力を投げ捨てるような気がしないでもないですね。

 本人は多分喜ぶと思いますけど」

「そりゃさ、最初の改造プランなら全部アーシア主導で改良した結果、遠い先に成果が結びつくからいいが、これで解決して終わりってのは……。

 そうだな、うまくは言えんがアーシアのばぁちゃんの意志にも反するような気がする」

「だからこそ、ポーションの作り方を教えて、錬金術を教えて、自分が何を作っているのか、どうして畑の薬草の薬効が高まったのかというのを正しく理解させることが大事だと、そういうわけですね?」

「まだるっこしいと思うか?」

「いえ。大変主さまらしいと思います」


 優しく微笑んだマリーを見て、ウェイトリーは少なくなったハーブティーを飲み干して、目を瞑って椅子へとゆったりともたれかかった。

 

「それなら、刻印魔石はやめて、薬草栽培用ポーションの方を考えた方がいいかもしれませんね」

「薬草栽培用のポーションってのは?」

「その名のとおりですよ。アーシアちゃんの手の届く範囲のものであの畑に撒くのに最も適したポーションのレシピを考えるんですよ」

「ポーションって言うと何となく意味がふわっとしてしまうが、要は薬草の薬効を高めるための農薬を作るってことだな?」

「農薬、栽培用ポーションっていうよりその方が適切な呼び方ですね。実体は錬金術で作った魔法薬なのでポーションはポーションなんですが。

 いっそのこと薬草に限らずいろいろな植物に効くようなポーションのレシピなんかを一緒に考えておけば、いろいろとアーシアちゃんも捗るかもしれませんね」

「病気の予防に防虫、雑草の抑制、それから作物の栄養確保の辺りを押さえておけば農家さんは大助かりだな」

「まぁ流石に私は農業にはそれほど明るくないので完全網羅は出来ませんけどね。サンプルがあれば作れると思いますけど」

「それは作り方の道筋を示しておいて、必要になった時にアーシアが研究するべきだ。農家の娘の嗜みって奴だろうさ」

「農家の娘は大変ですね」

「……ん? マリーさん農家の娘さんじゃなかったか?」

「主さまは私のプロフィールに詳しすぎてちょっとキモいときありますよね」

「別に詳しいのはマリーさんに限った話じゃないけど」

「なおキモい」

「ひどすぎる」


 その後も二転三転と脱線を繰り返しながら具体的なプランやもろもろの対策、必要なもの、根回しがいりそうな関係各所、方針、指針、予定などを可能な限り詰めていった。

 ぶっちゃけて言えば、この段階で二人はアーシア改造計画が面白そうだからどこまでできるかやってみようぜ、のキャッキャとしたノリで大盛り上がりしていた。

 メモ紙がびっしりと埋まり、概ねの話す内容をまとめ終え、メアリーが二人のカップにハーブティーを注ぐのを見ながらウェイトリーはポツリと呟いた。

 

「まぁ。アーシアが嫌といえばそれで終わりなんだけどな。この計画」

「そこはなんとか説得してくださいよ」

「その説得はマリーさんがするのが筋ってもんじゃないか? 言うなれば弟子にするわけだし」

「いや私、弟子取りはちょっと。教えるのは構いませんが」

「なんで? 別にそれってそんな変わらんのでは?」

「学院時代に私は全ての師事を断られたので、私も弟子を取らないと心に誓ったのです」

「まぁーあの学院の中だと、自分より間違いなく優秀な弟子を取りたがるのはいないだろうな。

 権力構造が結構ドロドロだったって聞いたし」

「教師になるのはいいですけど、師匠にはなりたくないですね」

「まぁ好きにすればいいんじゃないですかね」

「もうちょっと興味持ってくださいよ」

「すまん、興味ない」


 ウェイトリーとしては、まぁ人それぞれスタンスはあるよね、くらいに思っていた。実を言えばマリーが師匠になりたくないのにはウェイトリーがかなり大きな原因なのだが、ウェイトリーはそれを知る由もなかった。



 長く続いた会議も終わり、その晩は予定していた通り、シカ肉の肉じゃがと白米に味噌汁という和食が並び、二人は大満足の夕食を終えたのであった。

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